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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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第十五話:回復術士は結界を血界に変えてみる

 コロシアムにて故郷の人々の処刑が行われる。
 処刑が行われる寸前に襲撃をして人々を救うのだが、いくつか問題がある。

 まず、護衛の兵士を突破しないといけない。こちらは問題ない。【剣聖】クラスの実力者がいない限りは一蹴できる。
 そして、もう一つはコロシアムの罠を突破する必要があるということ。
 コロシアムは魔物同士の戦いすら見世物にする関係上、観客が安心して観戦できるようにリングに仕掛けがされている。

 その仕掛けは二つ。
 一つは二か所しかない門が分厚く重い鉄の壁に閉ざされてしまうこと。

 もう一つは二種の魔術結界が同時に張れること。
 ドーム状に内側から出られないような防御結界が張られ脱出を困難にする。
 あれを無理やりぶち抜けるには、【砲】の勇者や【術】の勇者クラスの火力がいる。
 厄介なことに、二種目の結界はもっとうっとうしい。
 弱体化の呪術に近い結界で、リング内の生物から魔力と体力を吸い上げ続ける。さらには吸い上げた魔力で結界の強度を増し続けるという悪夢のような結界だ。さらにいえば、専用の首飾りをしていれば結界の弱体化から逃れられるので護衛の兵士どもは弱体化しないままだ。

「閉じ込められたあげく、体力と魔力を吸い上げられ、敵さんには影響がない。俺でもどうしようもなく殺されただろうな。何も知らなければ」

 俺は薄く笑う。
 深夜、コロシアムに忍び込んでいた。仕掛けをするためだ。
 結界が厄介なものならあらかじめ手を加えて無力化しておけばなんの問題もない。
 むしろ、結界を利用してやることもできる。
 考え事をしていたせいか、見張りに姿をさらしてしまった。

「貴様、何も」

 コロシアムの見張りが声をあげる。だが、最後まで言葉を言い終えることなく喉を抑えて全身を痙攣させ始めた。
 俺が喉に針を投げたのだ。
 即効性の神経毒。無用な殺生を避けるために一時的にしびれるだけで殺傷力はない。
 見張りの頸動脈を締め上げ意識を飛ばす。

「【回復ヒール】」

回復ヒール】の力で記憶を読み取る。
 見張りの配置や交代の時間。それに……。

「なるほど、そこにあるのか」

 俺はにやりと笑う。
 今回の目的は結界を弄ることだが、ここの結界を弄れるかは怪しい。できる、できないは半々といったところか。
 それほどまでにここに仕掛けられている結界は規格外の代物だ。
 だからこそ、保険として結界の弱体化を免れることができる首飾りを盗んでおく必要がある。
 首飾りの隠し場所は読み取れた。
 俺は気絶した見張りを物陰に隠して速やかに首飾りの在処を目指す。

 ◇

 首飾りが保管されているのはコロシアムの南東にある宝物庫だ。もうすぐ到着する。
 注意が必要だ。
 ここから先は一度たりとも戦闘をしてはいけない。

 宝物庫の前で争いがあったら何かが盗まれているのではないかと疑われてしまう。俺が首飾りを手に入れているという情報は敵に渡したくない。
 定期的に宝物庫の中身の精査はするだろうがそっちの対策はちゃんとある。
 俺のポケットを叩く。よし、落としてはいないな。
 ちなみに俺の今のステータスは潜入に特化されている。

--------------------------------------------------
種族:人間
名前:ケアル
クラス:回復術士・勇者
レベル:38
ステータス:
 MP:67/67
 物理攻撃:129
 物理防御:107
 魔力攻撃:59
 魔力抵抗:36
 速度:119

レベル上限:∞
素質値:
 MP:40
 物理攻撃:162
 物理防御:133
 魔力攻撃:70
 魔力抵抗:40
 速度:150
 合計素質値:595

技能:
・回復魔法Lv2
・神剣Lv4
・見切りLv4
・錬金魔術Lv4
・気配遮断Lv3
・探索Lv3

スキル:
・MP回復率向上Lv2:回復術士スキル、MP回復率に二割の情報補正
・治癒能力向上Lv2:回復術士スキル、回復魔法にプラス補正
・経験値上昇:勇者専用スキル、自身及び、パーティの取得経験値二倍
・レベル上限突破(自):勇者専用スキル、レベル上限の解放
・レベル上限突破(他):勇者専用スキル、魔力を込めた体液を与えることで、低確率で他者のレベル上限+1
-------------------------------------------------- 

 俺は他人の技能を【模倣ヒール】できるが、最大で五つまでしかセットできない欠点がある。
 今回は、いつも愛用している超高速移動技術である【縮地】。極限の集中力を発揮し体感時間を操る【明鏡止水】の二つを解除し、代わりに隠密行動時に役立つ【気配遮断】。そして鍵開けや罠感知など、探索者スカウトとして必要なスキルが一通り強化される【探索】をセットしている。
 気配を消しながら、なんとか宝物庫にたどり付き、錬金魔術で手持ちの金属を溶かして鍵穴に流し込み固めて即席のカギを作り上げる。
 魔術的な罠が仕掛けられていたので慎重に無力化した。

「やっとたどり着いたか」

 宝物庫に入り、厄除けの首飾りを探す。
 赤いルビーのような宝石をあしらった銀の首飾り。
 懐かしい。一度目の世界では王女フレアに嫌がらせとして無理やり戦わされたことがある。
 その頃の俺は薬漬けの廃人で、ろくに動けない状態なので、魔物をけしかけられて大観衆の前で一方的にいたぶられて殺されかけた。
 当時のフレアと【剣】の勇者のブレイドいわく。弱くて使えない俺を教育してくださったらしい。ああ、思い出すとむかついてきた。 

 ひどい経験だったが、おかげでコロシアムの結界の存在と厄除けの首輪飾りのことを知ることができたのだ。そのことは感謝しよう。
 宝物庫から厄除けの首飾りを回収し、代わりに錬金魔術で作った偽物を置いておく。
 高度な魔術知識がなければ見抜けないだろう。
 さあ、保険は用意した。本番に行こうか。

 ◇

 結界というのは二つの要素で成り立つ。一つは動力源の確保。二つ目は陣による術式の設計。
 驚いたことにコロシアムの魔力源は観客だった。

 観客席すべてに魔力収集機能がついている。
 人間はみんな無意識に微量の魔力を漏らしている。その微量な魔力も観客すべての魔力を寄せ集めればバカにできない。

「とんでもないな。こんなこと可能なのか」

 俺が驚いたのは、そんなことは今の技術では不可能だからだ。
 空気中の魔力の利用は軍でも研究されている。人間が常に漏らす微量の魔力だけでなく、戦場では魔術を発動するときに変換しきれなかったロスが無色の魔力として漂う。
 規模の多い戦いほど、魔力が異様なほど満ちている。もし攻撃魔法に転換できれば勇者クラスの魔術が発動できる。
 だが、それを為したという話は聞かない。

「このコロシアム自体が遺産だからな」

 遺産。それはこの時代の技術では再現できない進歩しすぎた技術の総称。
 この街は遺産であるコロシアムを目当てに人が集まりだしたことで栄えていった。

 無数の人間の技術、知識、経験。それらを持っている俺が手を出せないかもしれないと考えたのは、これらがオーパーツであり人間が制御できる代物ではないからだ。
 エコー代わりに俺の魔力を結界に流し、結界の術式を確認する。
 動力に使われる魔力収集技術は弄りようがない。なら結界を構築する術式の部分はどうか。
 自分の口角が吊り上がるのを感じる。

「なるほど、こっちは人の手による後付けか。魔力吸収と結界の動力への転嫁部分はさすがに弄れないが、それ以外は後から付け足されている。人間に作れるものなら……」

 脳裏に浮かぶ、このコロシアムの術式は俺が理解できるフォーマットで作られた既知の技術。

「俺に弄れない道理はないな」

 思考を全力で回転され、術式を解析。さらに俺の必要とする機能を想定し最終的な完成形をイメージ。問題点の抽出、改善点。再精査。
 よし、設計はできた。さあ、作業に入ろうか。

 術式に俺専用のバックドアを設置。物理的にも魔術的にも結界を弄っていく。
 三十分もしないうちに、この結界に秘密の機能が追加された。

 俺の合図一つで、この結界は別の顔を見せてくれるだろう。
 楽しみだ。
 俺を閉じ込めて無力化しようと、必勝の確信をもってやつらは結界を発動させる。
 その結果、自分たちが地獄に落ちるのだ。
 どんな間抜けな姿をさらしてくれるだろう。
 必勝を信じて油断しきって次の瞬間に絶望する。そういう人間を見るのは何より楽しい。

「さて、帰ろうか」

 目的が済んだからには速やかに撤退だ。
 俺は術式を弄ったことを気づかれないように細工をして、誰にも気づかれないままコロシアムを後にした。
 狩人を気取った豚どもを血祭にするための罠をしっかりと用意した。もうここに用はない
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