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第十四話:回復術士は笑顔を引きつらせる
「もう、朝か」
宿屋の一室で目を覚ました。
隣には氷狼族のセツナと元王女フレアで今は俺の従者となっているフレイアがいる。
彼女たちの頭を順番に撫でる。セツナのさらさらの白い髪も、フレイアの桃色のふわふわした髪も撫でていると楽しい。
昨日のことを思い出していた。
俺の故郷を滅ぼした張本人である近衛騎士隊長のレナード。
奴を教育してやった。
あいつは人の痛みを知らないから他人にひどいことをできる。そんな奴を憐れんで痛みを教えてやった。これで今までの行いを悔い改め、真人間として生まれ変わるだろう……来世では。
それにしても、気持ちよかったな。すっきりした。
宿に帰ってきても昂りを抑えきれずにセツナとフレイアを押し倒した。いつもよりも燃えた。
やっぱり、ストレスも性欲も溜めては駄目だ。溜まれば吐き出さないといけない。
今日もいい天気だ。うん、体も心も軽い。
「ケアルガ様、おはようございます」
「おはようフレイア」
フレイアも目を覚ましたようだ。眠そうに目をこすっている。布団がめくれ形がよく豊かな乳房が目に入ったので顔を埋める。
「きゃっ、ケアルガ様、朝からいきなり」
「今は甘えたい気分だ。しばらくこうさせてくれ」
フレイアはいい体を持っている。こういう母性に甘えるのもたまには悪くない。
しばらくフレイアの胸の温かさと柔らかさ、匂いを楽しむ。
下半身に温かい感触があった。
下半身は布団をかけたままだ。布団をめくるといつの間にかセツナが潜り込んでいた。
「朝のご奉仕をやる。ケアルガ様、今日も元気」
セツナが上目遣いに見て、顔を赤くしながら短くそう告げる。
フレイアへの対抗意識からかいつもより張り切っている。
濃さが重要になるので、レベル上限を高めるためには朝にするのは効率的だ。
セツナが奉仕を始める。
「だいぶ上達したな」
「ん。ケアルガ様に喜んで欲しい」
これはセツナの日課だ。教え込んだ甲斐があった。最近ではこれがないとぱっちりと目が覚めない。
朝から二人を可愛がってやった。今日も新たな一日が始まる。
◇
今日も食堂を使わずに朝食を部屋に運び込んでもらっていた。
それだけでなく、来客がいた。
「なんで、あなたがいるのですか?」
フレイアが若干顔を引きつらせながら問いかける。
「情報を持ってきたのよ」
朝の日課を終わらせたあと、剣聖クレハがやってきていた。見事な銀色の髪を風になびかせる姿が様になっている。
「それはケアルガ様……ごほんっ、ケアル様に関係があることですか」
フレイアは少し不機嫌だ。どうもクレハのことをよく思っていない。
セツナのほうは、割り切っている。彼女は自分”も”可愛がってもらえればそれでいいが、フレイアには俺を独占しようという気持ちが見え隠れする。
「ええ、重要な情報よ。それと、ケアルと言い直す必要もないし、あなたをフレイアと呼ぶことにしたわ」
「ありがたいですね。今の私はフレイアですから」
これは俺が二人きりのときにクレハにお願いしたことだ。
王女フレアであることは、誰にも知られるわけにはいかない。普段からフレイアとして振る舞ってもらわないといけない。さらに言えば、剣聖であるクレハが目上に対する態度をとれば何事かと周りに見られる。
という理由で、フレイアと呼び名を安定させ、なおかつ友達のような対応をとるようにお願いしていた。
「それで話を戻すわね。近衛騎士隊長のレナードが配下を四人連れて出ていったきり戻ってこないのよ。今、兵士たちが必死に探しているけど見つからないわ」
やはり、その件か。
もちろん知っている。なにせ俺がその元凶なのだから。
「俺がやった。少しでも情報が欲しかったから情報提供者の振りをして近づいて始末した」
「どうして?」
「私怨が半分だ。真実を知ったフレアを殺そうとしたあげく、俺の故郷を滅ぼしたんだ。恨んで当然だとは思わないか?」
「もう半分は?」
「口封じ。あいつはフレアが生きていることを疑っていた。そんなやつを生かしておくわけにはいかない。加えて、もしかしたらあいつが死ぬことで処刑が取りやめになる可能性もほんのわずかだが存在する」
それらしい言葉を並べる。
完全な嘘ではない。今言ったことも脳裏の片隅にはあった。本心を言うとあいつが憎くて、憎くてしょうがない。あの人を殺したあいつが生きていることが許せなかった。だから、殺した。あとはおまけだ。
「……納得したわ。でも、後ろの半分は無駄に終わったわね」
「それがお前の持ってきた情報か」
「ええ、処刑の日が決まったの。五日後にこの街のコロシアムを使って処刑が行われるわ。三日後にはそのことが街中に周知されるわね。あなたをおびき出すために」
コロシアムか。
あそこは奴隷同士や奴隷と魔物、あるいは魔物同士を戦わせる様を鑑賞する娯楽施設。
勝敗を賭けるギャンブルも行われていて、血と熱狂が味わえる。
あそこなら、処刑場には向いている。大量の観客を動員できるうえ、魔物をリングから逃さないように幾重にも仕掛けがある。魔物同士の戦いを客が安全に見るためのものだが、魔術的な結界と機械的な罠。その両方ともかなりの水準にある。
もし、リングで殺される村人たちを助けようとすれば、魔物対策の罠と結界が発動し、閉じ込められてなぶり殺しにされるだろう。
「いい情報だ。早く知れたおかげで対策を打ちやすい」
「あなた、本気で村人たちを救うつもりなの? 自殺行為よ。せめて救うにしてもコロシアムではなく、輸送中を狙うべきだわ」
たしかにそうだろう。
リングから魔獣が逃げないような罠を仕掛けているうえ、兵士たちが多数警備についているところを狙うなんて正気じゃない。
ただ村人たちを救うだけなら輸送中を狙ったほうが安全で確実だ。
「それだと意味がない。今回のイベントは王国の闇を糾弾するために使う」
コロシアムでの見せしめ。
大勢の人間を向うがわざわざ集めてくれるんだ。それを利用しない手はない。
「正気じゃないわ。死ぬのが怖くないの?」
「怖いよ。死ぬのは怖いに決まっている。だいたい、俺が捕らわれてたかが死ぬだけで済むわけがないだろう」
あいつらの残虐さはこの身をもって知っている。
殺されるだけなんて、そこまで楽天的ではない。
「なら、どうして危険を冒そうとするの」
「この国を正すためにそれが必要だからだ。俺とフレアはこの国の闇と戦うために城を出て、ケアルガとフレイアになった。誰かが動かないと、この国は悲劇を生み出し続ける。第二、第三の氷狼族や俺の村が生まれる。それを防ぐためなら命をかける意味がある」
ああ、駄目だ。笑いをこらえるのが限界に近い。
俺の本音を言えば、王国は俺を不快にさせたからやつらが嫌がることをする。それだけの話。
俺には正義感なんてこれっぽちもない。むかつくから殴る、気に入らないから殺す、犯したいから犯す。
二度目の世界は、ただ気持ちよくなる。それだけだ。
失敗したら、また魔王を倒してやり直せばいい。俺は俺の気持ちいい世界を得るためだけに存在している。
「そこまで考えていたのね。なら、反対はしない。私も協力するわ」
「ありがたい、引き続き情報をもらえないか」
「それだけでいいの? 私も戦うわよ」
「その必要はないよ」
「遠慮をしないで、私はあなたの正義に共感しているの」
「クレハ、勘違いをしているな。遠慮じゃない。必要ないんだ。文字通り」
「コロシアムのリングでの処刑を止めるなんて無理よ。あのリングがどれだけ凶悪なものか知っているの?」
あいつらがコロシアムを選んだ瞬間、ずいぶんと難易度は下がっていた。
幾重もの仕掛けにまもられたコロシアムのリング。
そこを安全だと思っている。
「ああ、よく知っているよ。俺を信じてくれ。俺はできないことはしない。所詮、リングの仕掛けも人が作ったものだよ。”説得”は容易い。五日も事前準備の時間があれば、俺の味方になるさ」
からくりと魔術による守り。
そういうものの説得は得意だ。それに、俺ならではアレンジも加えよう。
俺を仕留める罠だと思っているもの、それらが自分たちを襲うなんてことは夢にも思っていないだろう。
「わかったわ。ケアルガがそう言うのなら信じるわ。また、情報を持ってくるわね」
クレハが微笑し、立ち上がる。
俺もたちあがり彼女を抱き寄せ、ディープキスをした。
「俺のためにありがとう。クレハ。助かるよ」
「……私は正義のためにやってるのよ」
クレハが顔を赤くする。彼女の体があつい。
本当に扱いやすいやつだ。
自分が、王国を裏切っている自覚があるのだろうか?
「それと、一つ言い忘れたことがあるわ。留学からノルン姫が帰ってきたの」
何気なく放ったクレハの言葉。その言葉を聞いた瞬間、鳥肌がたった。
あの女が帰ってきた?
アレが?
もっとも狂った王族が、このタイミングで。
「フレイア、どうしたのかしら?」
「なっ、なんでもありません、急に、寒くなって」
フレイアは俺以上の反応を見せている。
奥歯をがたがたとならして、自分の体を抱きしめて小さくなる。
記憶を消しているはずなのに、この反応。完全にトラウマになっている。
「二人ともおかしな反応ね。明るくて可愛らしいお人よ。彼女も狂った王国から解放してあげたいわね」
「そう、だな」
顔が引きつる。
アレを解放? 冗談だろう。アレはそんな可愛らしいものじゃない。闇よりも深い闇だ。規格外の狂人。
芽を摘んでおくか。リスクを冒してでも今のうちに殺しておく必要があるかもしれない。
いや、止めておこう。この世界で俺を害さない限りは復讐しない。それは俺の美学だ。
「今度こそ、本当にさよなら。ケアルガ、私を頼りたくなったら言ってね」
「心強いよ」
その言葉を最後にクレハが消えていく。
……ノルン姫か。本当に嫌なことを思い出させる。
もし、復讐の対象になれば最優先で手を打とう。もし、今回の世界で俺を殺せるとしたら奴しかいないだろう。
さて、それよりも今は目先のことを考えよう。
コロシアムに忍び込んで、すべての仕掛けを俺の味方に調教してやる。
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