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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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第十二話:回復術士は騎士たちのダンスを眺める

 俺の故郷をめちゃくちゃにして、アンナさんを苦しめ殺した報いを与えないといけない。
 そのために、近衛騎士隊長を呼び出すための策を動かしていた。

 具体的には、敵前逃亡した兵士のふりをして、情報提供を引き換えに見逃してくれという連絡をしている。
 それも、人気のない場所で少人数での会合だ。
 俺が用意した情報は近衛騎士隊長にとって見逃せるようなものではない。絶対にかかるだろう。
 なにせ、あいつを俺の姿に【改良ヒール】したときに記憶を覗いたが、奴は王女フレアに主従を超えた感情をいだいていた。

 あれは、恋なんて綺麗なものではない。もっとどす黒い感情だ。醜い独占欲と支配欲。フレアに仕えていながら、彼女を組み伏せ蹂躙することをあの男は願っていた。あいつにとっては願ってもないチャンスが来たようなものだ。

 俺が指定した場所は貧困区の中にある酒場だった。
 雑多なこの場所ならいざというときに逃げやすい。

 店の入り口を俺は見張っていた。そこにこの場には似つかわしくない身なりのいい男たちが入っていく。
 約束通り五人で来たようだ。
 一応、この場に溶け込むような恰好で来ていて、一目で騎士とわかるような間抜けは晒していないが、歩き方一つ、身にまとう雰囲気で見抜くことができる。

 念のため数分その場で待機してから店の中に入る。
 包帯で顔をぐるぐるに巻いた男のところに向かう。
 その途中で店の裏扉の位置を確認した。この店を選んだのはいざというときに逃げやすいのも大きな理由の一つだ。
 席につくと、正面にいた包帯の男が口を開いた。

「おまえが、ムルタか。それでおまえが言う魔術士がとある貴人はいったい誰だ」

 その声はいやというほど聞きなれた声。
 なぜなら、その声はかつての俺の声だ。
 包帯の男が近衛騎士隊長だ。包帯の隙間から爛れた肌が見える。

 なるほど、よほど俺の顔が気に入らず自分で焼いたのかもしれない。
 もしくは、【癒】の勇者だと思われいてた間に拷問でも受けている可能性もある。
 すぐにでも殺したいという気持ちをおさえる。簡単に殺しては復讐にならない。アンナさんが受けた苦しみを味わってもらわないと……がまんだ、がまん。よし、俺は冷静だ。
 さて、お芝居の開始だ。王国の兵士ムルタらしく振舞おうじゃないか。

「まっ、まずは、俺、いや私が約束通り情報を提供すれば俺は王国に戻れることを約束してください」

 一応、そういう取引に偽装しているのでそれらしい発言をする。
 情報を提供する代わりに敵前逃亡を許してもらうと言うのが、ムルタの目的なのだ。

「ああ、いいぜ。情報が正しいものであれば俺の権限で敵前逃亡の件は握りつぶす」

 近衛騎士隊長は自信満々にそう言い切った。
 この言葉でわかるのは、この男がそれなりの権限が与えられているようだ。敵前逃亡の罪は重い。それを部隊長の一存で覆すのは本来は難しい。

「ほっ、良かった。なら話させていただきます。手紙に書かせていただいたとある貴人というのは、王女フレア様です。若干見た目は変わってはいますが、私にはわかります。間違いなく王女フレア様でした」
「なぜ、それがわかった」

 意外と用心深いな。
 何も考えずに食いついてくると思ったのに。
 まあ、いい。適当な理由がいくつか浮かぶ。

「かつて、魔物たちの大進行のときにフレア様と共に戦ったことがあります。見間違えるはずもあれません。あれはフレア様の魔法です。それと、私は敵前逃亡をしたわけじゃないです。フレア様と思われる魔法を見て、近くにいるはずのフレア様を探していたのです。信じてください」

 必死に、俺は言葉を紡ぐ。見苦しい言い訳をしたほうがそれらしく見えるという考えの元だ。

「ほう、それで」
「かなり離れた位置にいた魔術士の少女を見つけました。姿かたちは変わっていても、美しい声、あの優しい空気、王女様だと改めて思ったのです。あとをつけて王女様のラナリッタにおける居場所を突き止めています」

 近衛騎士隊長がにやりと笑った。
 表情のほとんどが隠れているが、目端がだらしなく垂れている。

「でかした! すぐに、その女の居場所に案内しろ。敵前逃亡を見逃すどころか昇進させてやる」
「あっ、ありがとうございます」

 もうフレアを手に入れたつもりなのか、近衛騎士隊長が下卑た笑みを浮かべた。 
 やはりか、あの顔なら王女フレアを城に大人しく返すつもりはないだろう。
 この機会に囲ん己のものにしようとでも考えている。

 記憶を知っていたからこそ、やつがそうするのは予想できていた。だからこそ、この手を使っている。
 ついてきたのは全員、やつの息がかかった連中だ。あいつはきっと、何も言わなくても自分が王女を手に入れたことを隠すために秘密裡にことを運んだだろう。
 つまりは、他の騎士や兵士たちに今日の情報は漏れていない。欲に駆られた人間ほど扱いやすいものはないな。

「では、こちらに」

 俺は内心の喜びを隠して、近衛騎士隊長一行を案内する。
 俺が案内するのは……。

 ◇

 俺が案内したのは貧困街にある潰れた宿屋の一室だ。

「となりの部屋にフレア様と思わしき人物がいます」
「こんなぼろやにいるのか。あのフレア様が?」

 こいつらを本物の王女フレア……フレイアがいる宿に連れていくなんてありえない。
 フレイアは俺の所有物ものだ。くれてやるものか。
 一応、腐っても精鋭部隊の近衛騎士たち。ここに来るまで警戒は怠っていない。周囲を警戒し不意打ちを警戒してた。

「おそらく、手持ちの金がないのでしょう。男と二人で住んでいます。言うまでもありませんが、男は氷狼族の村で暴れた剣士です。男のほうは昼間は外に稼ぎに出てまして、日が暮れるまで帰ってきません」
「そうか、そいつは都合がいいな」

 その男はここにいるんだけどね。
 そこは伏せる。
 壁が薄く、隣の部屋から生活音が聞こえる。
 もちろん、本当に誰かがいるわけじゃない。俺の魔術とからくりで生活感を偽装しているだけだ。

「今だと、王女フレア一人です。踏み込むなら今ですよ」
「そうだな、さっそく行くとすっか。王女フレア様を”お救い”する」

 そんな心にもないことを言って、近衛騎士隊長を始めとした一行はとなりの部屋に押し込んでいった。
 そして、部屋の隅々まで徹底的に誰かいないかと探し回る。

「おい、おまえ、誰もいない……ぐっ、なんだ、これは」

 隣の部屋に入り込み家探しをしていた騎士様五人は、突如膝をつき苦しみだす。
 そこに、俺は遅れて入っていく。もう、これで連中を恐れる必要はない。

「やれやれ、やっと薬が効いたか。うすのろどもには薬のまわりも遅いと見える」

 この部屋には無臭の麻痺毒の香を焚いていた。
 この日のために、麻痺毒をもつ魔物を狩り、毒素を抽出し調合しておいたとっておきだ。
 人間に耐えられる毒ではない。俺は抗体をもっているため問題ないが、この男たちはたまったものではないだろう。

「きっ、貴様、いったいなんのつもりだ。フレア様は、フレア様はどこにいる!?」
「ぷっ、あははははは、まだ、フレアがここにいると思ってんのか。鈍いにもほどがあるだろ。ああ、騎士様方、まだ気づかないんですか。……おまえらは嵌められたんだよ。間抜けだよなぁ。俺が姿形を変えられるって知ってただろうに、ちょっと危機感が足らないんじゃないかな」

 俺は笑い声をあげ、【改良ヒール】を行う。
 あえて、【癒】の勇者ケアルの姿を晒した。

「貴様、きさまはああああああああ」
「お久しぶり。レナード近衛騎士隊長」
「殺すぅぅぅ、殺してやる。ケアル、貴様のせいで、俺は俺はああああああ」

 麻痺のせいで身動きがとれず、怒声をあげるが迫力もなにもあったものではない。
 とはいえ、さすがは近衛騎士隊長。ほかの連中が指一本動かせない中、膝をつくにとどまっている。

「あひゃひゃひゃひゃ、おまえらがあんまりあっさり騙されるもんだから笑いをこらえるのに必死だったぜ」
「こっ、殺してやる」
「ん? どうやって? その麻痺毒に犯された体で? 逆に俺のほうは」

 ナイフを取り出し、首筋にあてる。

「ナイフをちょっと引くだけでお前を殺せる」

 レナード騎士隊長が目を見開く。
 明確な死の予感。その恐怖の前に彼の怒りが消えていく。

「とはいえ、おまえを殺しはしないがな」
「俺に取引を持ち掛ける気か。いいだろう。俺を見逃せばこの街に【癒】の勇者はいなかったと虚偽の報告を」

 ほう、意外と頭が回る。
 生き残るために恥も外聞も捨てて、そんな提案をしてくるなんて。

「虚偽の報告? そんなものは必要ないさ。俺はおまえらに見つかるほど間抜けじゃない。ここでおまえらを始末すればそれで済む」
「まっ、待て、金なら」
「残念なことにそっちにも困っていない。……俺が望むのはおまえらの恐怖と絶望と苦痛だ。アンナさんの敵をとらせてもらう」
「アンナ?」

 そうだろうな。いちいち名前を覚えてないだろう。 
 だが、それでいい。こいつが口にするたびにあの人の名が汚れる。

 俺は無言で、一歩を動けないやつの部下たちに空洞の針を使った器具で血液に直接とある薬を流し込む。
 血液に薬を流すというやり方は、ジオラル王国の賢者が思いついた画期的な手法だ。薬学の革命と言っていいだろう。俺はこの針を突いた道具を注射となずけることにしてた。

 流し込んだ薬は剣聖に使った媚薬を強化し、さらに筋力増強剤と、興奮剤、体力向上効果をもつ成分を加え、魔術付与エンチャントで強化したもの。

 これを使えば、性欲が異常に増し、疲れを知覚できなくなり、さらには極度の興奮状態になる。いわば理性を失った獣になる。
 薬が効き始めると、まだ麻痺毒が聞いて身動きがとれないが兵士たちの股間はやばいぐらいに張り詰めていたい。

 もぞもぞ動くだけでズボンの股間が濡れている。
 すでに目は正気のものではなく、獣欲に満ちていた。

 こいつらは今から最高の快楽を味わうだろう。その代償はこいつらの人間性。
 こんな濃度の薬を投与されれば、確実に廃人になる。死ぬまで最高の快楽を味わいながら腰を振り続けるだろう。

「貴様は部下に何をした」
「元気になるお薬をね。俺は思うんだ。他人にひどいことができるのは、他人の痛みがわからないからだって」

 優しく諭すように近衛騎士隊長に話しかける。

「そうだよね。おまえたちは常に加害者だ。弱い人たちの嘆きも恐怖も悲しみも知らない。か弱い女性が、むりやり組み伏せられるのがどれぐらい怖くて辛いかを知ってればひどいことはできないと思うんだ」

 それは口で言ってもわからない。なら体で理解してもらうしかない。
 もっとも、俺の代わりに牢獄に入ってもらって、自分たちがどれだけひどいことをしていたか気付くチャンスを与えてやったというのに、逆恨みして俺の村を襲うようなバカだから望みは薄いだろう。
 素直に反省して心を入れ替えてくれれば、こんな目に合わずに済んだのだ。バカな奴だ。そのバカさのツケを払ってもらおう。

「貴様、何を言っている、いったい何をするつもりだ」
「俺はおまえに弱者の痛みと恐怖を思い知ってもらおうと思う。【改良ヒール】」

 俺の姿だった。近衛騎士隊長がか弱い美少女にかわる。
 その服をびりびりに破き、白い肌が晒される。
 美少女の姿になった近衛騎士隊長が茫然としている。

 そんな彼女に、投薬。もちろん、他の騎士に使った特製の媚薬じゃない。気持ちよくなってしまったら復讐にならない。 
 弱いが効果時間が長い筋弛緩剤だ。これで見た目通りのか弱い美少女だ。そして強力な気付け薬。気絶なんて許してやらない。
 さきほど、別の薬を投薬した騎士たちがこちらに気付いた。
 異常に性欲を高められ、理性を失った騎士たちが獣じみた目で、か弱い美少女になった近衛騎士隊長を見る。

 ……とはいえ、俺の【改良ヒール】では性別変換まではできない。ちゃんと男のあれはついてるし、女のあれはない。

「おっ、女ぁぁぁぁぁ」
「おかす、オカスぅぅぅ」
「お〇〇こ、お〇〇こぉぉぉぉぉ」
「ワオオオオオオォォン」

 良かった。気に入ってもらえたようだ。好みじゃなければ【改良ヒール】し直すところだ。あれがついているし、あれがないのは心配だったが、性欲に狂った獣どもはそんなこと気にしないらしい。
 まあ、穴があればなんでもいいんだろう。

「まっ、まさかおまえ、おまえは」
「うん、実際に無理やり騎士たちに犯されてみたら、被害者の気持ちがわかると思うんだ。そろそろ麻痺毒のほうが抜けるころだね。実はさっき他の連中に投与した薬はね、麻痺毒を打ち消す効果もあったんだ」

 その言葉を放って数分後。
 麻痺毒で動けなかった連中が立ち上がる。ついでにもう一つのほうもすさまじい勢いで立ち上がっていた。

「たすけ、たすけてくれえええ、なっ、なんでもする。お願いだ。頼む」
「あなたは、そういった女性に今まで何をしてきました?」
「きっ、貴様には血も涙もないのか!?」

 必死だ。まあ、男に襲われるのは恐怖だろう。俺も良く知っている。

「血と涙? あったね、そういったものも」
「なら!」

 近衛騎士隊長は目を輝かせた。助かるとでも思ったのだろうか? なら、勘違いをただそう。

「おまえのせいで全部流れて空っぽだ」

 近衛騎士隊長の顔が絶望に染まる。そして騎士の一人が近衛騎士隊長のほっそりとした腕を掴んだ。

「やっ、やめろ、貴様ら。俺は、近衛騎士隊長レナード、俺、俺に手を出したら」

 必死の懇願も獣たちには届かない。
 こいつらは人間じゃない。ただの獣だ。獣には身分なんて関係ない。
 本来の姿に戻してやったのだ。さあ、らしいことをしてもらう。

「ぐぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 近衛騎士隊長が悲鳴をあげる。
 俺は冷めた目でそれを見る。他の連中も次々群がってくる。
 さて、思う存分蹂躙してもらおう。

 俺は傍観者だ。やつが苦しむ姿を見ているだけ。見た目だけ美少女でも混ざるつもりはない。そもそも、あの男に触りたくもない。ばっちいなあ。

 そして、俺は冷めた目で、獣に貪られる近衛騎士隊長を見続けていた。
 思ったよりも騎士たちの薬が強すぎたようだ。激しすぎる。あれではすぐに死んでしまう。俺が投薬したせいで気絶すら許されない。瞳孔が開ききっていた。一応まだ呼吸している。

 半日もたつと美少女の姿になった近衛騎士隊長はいろいろなものにまみれて、うつろな目でぴくりともしなくなった。
 それでも、獣たちは餌に貪るのをやめない。
 その数時間後、近衛騎士隊長のレナードは動けなくなった。窒息死だ。ああ、たぶん喉に詰まったのだろう。
 いい加減飽きてきたので俺は欠伸をしながら部屋をでる。

 あの騎士たちは死ぬまでああしているだろう。
 お似合いの末路だ。

 俺は潰れた宿屋にたっぷりと油を撒いて、錬金魔術で火をつけた。
 死体を犯し続けている連中も始末しないと。
 焼かれて死ぬか、犯し疲れて死ぬか。
 やつらはどっちだろうか? まあ、どうでもいい。

「見てくれましたかアンナさん。アンナさんが感じた絶望をあいつらにも与えてやりました。少しは喜んでくれましたか?」

 天国のアンナさんに向かって祈る。
 どうか、安らかに眠ってくれますようにと。
 そして、もう一つの案件も片付けよう。近衛騎士隊長がトップだっただろうが、トップが抜けたからと言って、俺の村の人たちの処刑は中止されない。
 そこで、この国そのものに痛みを与えてやるのだ。
 空を見上げた。今日は月が綺麗だった。
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