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第十一話:回復術士は動き出す
王国兵から話を聞き出したあと、俺は宿屋に戻っていた。
気持ち悪い。
今回のことは俺が甘かった。村が襲われることを想定しておくべきだった。
王国が自国民に手を出すことはないと思った。ましてやその村から犯罪者が出ただけなのだ。
……そんな考えはは言い訳にすらならない。ただの甘さだ。悔やんでも悔やみきれない。
だから、ただできることだけをする。痛みには痛みで報いるのだ。
部屋に戻るなりベッドに横になる。そして作戦を立てていく。
モルレットには、この街にいる敵のリーダーである近衛騎士隊長に合わせてもらうように手配をしてもらっている。
簡単に言えば、司法取引だ。重要な情報を渡す代わりに敵前逃亡を見逃してほしいと言うものだ。
もちろん、モルレット本人にそれを伝言させれば彼が裏切り者の片棒を担いでいるように見えてしまうのであくまで彼宛の手紙が届いたふうに見せかける。
「ケアルガ様、ごはん持ってきた」
「セツナはいつも気が利くな」
セツナが夕食をもってきてくれた。
宿に戻ってくるなら、フレイアとセツナは食事に誘ってくれた。
さきほど酒場で済ませてきて不要だと言って断った。
たぶん、セツナは夕食を持ってきたのはここに来る口実がほしかったからだろう。
彼女が心配するぐらい、俺は感情を表に出してしまっている。
「ケアルガ様、怒ってる」
「……外で情報を集めてきた。俺の村はもうなくなっていることがわかった。今、クレハが調べてくれているのとは別の筋からのものだけど信ぴょう性は高い」
「そう。ケアルガ様が怒るのもあたりまえ」
セツナが、ベッドに入ってくる。
そして俺の腕に抱き着いてくる。
もう、夜と言っていい時間。いつもならセツナを可愛がってやる。
だけど、そんな気にはなれなかった。
「悪いが、今日は抱いてやる気分じゃない。レベル上限はあげてやれない」
俺の言葉を聞いてもセツナは離れない。
それは、だだをこねているわけではない。その証拠にセツナの抱擁は優しかった。
「抱かなくてもいい。ただ、落ち込んだとき、誰かの体温を感じると楽になる。だから、セツナはこうしてる。うっとおしくなったら言って。出ていくから」
そう言われて、自分がどれだけ追い詰められているか気付いた。
視界が狭くなっている。怒りが制御しきれていない。
復讐をするために頭を回転させるのはいい。だが、冷静な頭で知恵をしぼって油断なく行わないと待つのは破滅だ。
激情を抑え込んで、ありとあらゆることを想定し最善の行動をとって初めて復讐を達成できる。そんなわかりきったことを忘れていた。
自分の復讐なら、それが出来てしっかりと我慢できていたのに。
「ありがとう。セツナのおかげで、落ち着いてきた」
セツナの体を抱きしめる。
彼女の小さな体は俺の腕の中にすっぽり収まる。
彼女の言う通り、人の体温を感じると気持ちが落ち着いてくる。
復讐を果たすための燃料になる怒りは忘れない。だが、冷静になるだけの余裕は必要だ。それをセツナのおかげで取り戻した。
「ん。ケアルガ様はセツナの村を守ってくれた。殺された氷狼族の恨み晴らしてくれた。だから、今度はセツナがケアルガ様を助けるばん。セツナはケアルガ様のためならなんでもする」
この子は、いい子だ。
なんで、こんなことをいまさら気付いたんだろう。
愛おしい。
俺の中で、この子をいとおしく思う気持ちと。大事な人を殺された激情が同時に膨れ上がる。
気が狂いそうだ。
「セツナ、気が変わった。今からおまえを犯す」
「わかった」
「今日は優しくしてやれない」
乱暴に犯したい気分だ。
気を使ってやることなんてできない。そうしないと壊れそうだ。感情を吐き出したい。この小さく美しい少女にこの胸のうちを叩きつけたい。
体勢を入れ替え、セツナを組み伏せる形になる。
「いい、ケアルガ様の好きにして。セツナはケアルガ様の所有物だから」
そんな俺に向かってセツナは微笑み、受け入れることを示すために両手を広げた。
そこが我慢の限界だった。
そうして、一晩中、セツナを蹂躙した。
どこまでも激しく獣のように。
すべてが終わったあと、頭は澄み切っていた。
冷静になった頭で、すべてを決める。自分が何をするべきか。
「ケアルガ様、泣いてる」
「俺が泣いている?」
言われて初めて、ほほに涙が伝っていることに気付いた。
ああ、そうか。
俺はただ怒っていただけじゃない。それ以上に悲くて寂しかった。
俺は小さなセツナの胸に顔を埋めて泣いた。血も涙も流しきったつもりだったが、まだ俺の中に涙が残っていた。
その涙を吐き出していく。
泣くのはこれで最後にしようと決める。ここですべてを流しきって人としての情を捨てるのだ。
◇
翌日、クレハがやってきた。
息を切らしている。
おそらく、情報を得てから寝る間も惜しんでやってきてくれたのだろう。
「ケアル、頼まれていたことがわかったわ。あなたの村だけど……もう手遅れよ」
「……そうか、わかった」
昨日の酒屋での言葉に裏付けがとれた。
実行人と兵士と貴族であるクレハの情報、疑う余地がない。
「あなたの村の人たちは、他の街や村であなたを呼び出すエサになっているというあなたの予想もあたりね。それに、あなたの村は邪教を信奉していると教会から発表されているわ。【癒】の勇者自身も、邪教徒で王国を滅ぼすために聖女に手を出したとお触れが回っているの」
「やってくれる」
邪教に堕ちた勇者が聖女に手を出したか。おとぎ話としては合格だ。
よく、そんな嘘を平然と言ったものだ。
この状況でもっとも王国にダメージを与えられる手は一つしかない。
それがもっとも生きる状況はあそこだ。
「クレハ、この街に【癒】の勇者ケアルが潜んでいると、近衛騎士隊長に情報を提供してくれないか。奴らがやろうとしている処刑、それをなんとしてもこの街でやらせたい」
どうせなら舞台は奴らに作らせる。
なぜなら、ここに必要な”役者”はそろっているのだから。
そう、舞台は俺の村の生き残りを処刑する場だ。そこで仕掛ける。
王国の威信に対する疑念をしっかりと刻み込んでやろう。
それとは別に、直接手を下した近衛騎士隊長には地獄を見てもらう。
せっかく、あれで俺の復讐を済ませてやったのに。
死にたいのなら、死なせてやる。たっぷりと苦しんでからだ。
◇
~近衛騎士隊長視点~
「まだか、まだ【癒】の勇者はみつらかねえのか」
中性的な容姿の可愛らしい少年が、似つかわしくない口調で怒鳴り声をあげていた。
彼の顔には包帯が巻かれていた。
そのような見た目ながら実年齢は三〇を超えるベテランの騎士だ。
「はっ、レナード様。街中の回復術士に鑑定紙を使用させておりますが、いまだ見つかりません」
「このっ、無能どもが! この街にやつは絶対いる。疼くんだよ。この傷がああああ」
彼はそう言って包帯を破る。
その下にはひどいやけどの跡があった。
彼は被害者だ。
【癒】の勇者が城から逃げるための囮にするために、彼の姿を【癒】の勇者そのものに変えた。
そのせいですべてを失った彼は、憎い男の顔でいることが許せなかった。
だから自ら顔を焼くことでその顔を別人のものにした。
火傷が痛むたびに彼の恨みは燃え上がる。
「どこだ、どこにいる。どうやって奴は隠れてる。どうやっておびき出す。【癒】の勇者は薄情なやつだ。あれだけ、やつの村の連中を見世物にしているのに巣穴から出てこねえ。くそっ、あの女を生かしておくべきだった。あいつに鳴かせれば、巣穴から出てきただろうに。くそつ!」
近衛騎士隊長は立ち上がり机を蹴り飛ばす。重い木の机が軽々と飛ぶ。
圧倒的な身体能力。彼は正確に難はあっても、実力は超一流だ。
彼らの元に一人の兵士が駆け寄ってきて口を開いた。
「剣聖様からの情報です。【癒】の勇者ケアルと思わしき人物を発見したが逃げられたと」
「なに!? なぜ、剣聖は奴だとわかった」
「面識があり容姿での判別だとのことです」
「おかしい、やつは姿を変えられる。そいつがわざわざ、前の姿で人前にでるか……罠か。なにを企んでいる」
そう、【癒】の勇者ケアルはその力で、近衛騎士隊長の容姿を変え、逆に自分の姿を近衛騎士隊長のものとした。
そんな奴が姿を変えないはずがない。
わざわざ、剣聖相手に姿を晒したということは意図的に存在を示したということ。
「なるほどな、やつは村人たちを助けるつもりか。そのために……よし、すべての街にばらまいたやつの村の連中を一か所に集めろ」
お望み通り、ここに連中を集めてやろう。
人数が増えれば増えるほど、村人を救うのは難しくなる。王国兵が大量にいる上、剣聖様までいる。助けられるものか。足手まといは増やしてやらねえとな。
「そして、もう一人、情報提供者が現れました。敵前逃亡したわが軍の兵士ですが……なんでも、氷狼族の村の襲撃を妨害したのは剣士だけではなく、魔術士がいたとのことです。その魔術士はどう考えても、とある貴人だったと言っています。その貴人を街で見かけて居場所を掴んでいる。その情報を伝える代わりに敵前逃亡については見逃してほしいと」
その言葉を聞いた。近衛騎士隊長は笑った。
待ちわびた情報だ。
王国兵を使わず、私財を使い王女を探していた。ケアルと同じく姿を変えて生きていることを前提に。
氷狼族の村を襲った際に、現れた魔術士の情報は入っていた。
他のものにはわからないだろうが、魔術の着弾地に残った跡を見て独特のくせがあり、王女フレアの放った魔術だとあたりをつけていた。
だからこそ、この街に必ず【癒】の勇者ケアルはいると確信できたのだ。
憎い敵を殺す、あこがれの女を手に入れる。
そのために喉から手が出るほど欲しい情報がやってきた。
本当に、情報が手に入るなら敵前逃亡でもなんでも許してやる。
「いいだろう。そいつはここにいるのか」
「いえ、こちらを信用できないので最大で五名までで指定の場所に来いと。それ以上の人数で来た場合、姿を消すと言っています」
「それぐらいの用心はするか。その指定の場所とやらを教えろ」
そうして、彼は二つの指示を出す。
一つは、各地に散った村人たちを一か所に集めること。
二つ目は腕利きの四人を選りすぐること。
すべてがうまく動き始めた。そう確信し、彼はとびっきりのワインを一気飲みして高笑いをした。
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