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第十話:回復術士は血と涙を流す
セツナとフレイアをたっぷり可愛がったあとは、単独行動をしていた。
以前、セツナに手を出そうとして酒屋でもめて毒殺した王国兵の姿に【改良】し、村にいた知り合いが見世物にされている姿を見に行った。
あえてこの姿になったうえでフードを目深にかぶる。
しっかりと王国兵から奪った身分証を持っていた。いざというときのための保険だ。
たどり着いたのは街の一角だ。村人は木の柱に括り付けられており、周りにいる兵士たちが見張っていた。暴行のあとが色濃く残っており村人は気を失っている。
なかなか、むごいことをするものだ。
気を失っているので本人から話を聞くこともできない。もっとも起きていても兵士たちに見張られていたら厳しい。
さて、どうやって情報を集めるべきか。
俺は毒殺したムルタを【回復】したときの記憶を探りつつちょうどいいカモが見張りの兵士にいないかを確認する。
よし、いた。
そのカモにだけ見えるようにタイミングと角度を調整して、素顔を見せる。
かかった。兵士の一人が声をかけてくる。
「おい、ムルタじゃないか。そこで何をしてるんだ!」
友人のような気軽さで、そいつは声をかけてきた。
……あれは飲み友達だ。
しかもかなり親しい。だから、やつに目をつけた。
「モルレット。久しぶりだ」
そう微笑み返して近づいて、彼の耳元でささやく。
「噂で聞いてるかもしらねえが、氷狼族の村で化け物剣士にあって逃げちまった。敵前逃亡で見つかると死罪だ。今日の夜酒場で、そのあたりのことを話さねえか」
そう言うと、見張りをしていた兵士、モルレットは神妙な顔で頷いた。
こいつは、少なくともムルタの記憶では問答無用で規則だからと友を売り渡すやつじゃない。
だから、安心して声をかけられる。
俺の変装しているムルタ本人が現れることもない。なにせ、死んでいるのだから。
その死体は、この街の死体置き場に捨てた。ここでは身元不明人が溢れている。死体の遺棄がおそろしく楽だ。一体二体増えようが誰も気にも留めない。
「……そういうことか。わかった。俺の行きつけの小さな店があるんだ。そこでなら込み入った話もできる。俺も戻れるように知恵を貸す」
「わるいな、モルレット」
向こうも小さな声で密談を了承する。
さて、二人きりになれば、王国兵から情報を聞き出せる。
これほど、たやすくカモが見つかるなんて。きっとこれは俺の日ごろの行いがいいせいだ。
神に感謝だ。
ありがとう、モルレット。おまえから必要な情報を全部引き出してやろう。
◇
俺は、モルレットから案内された店に一足先に到着していたが、すぐに店には入らなかった。
周囲を警戒しつつ、探る。
そして、店の死角から監視する。
モルレットが店に入るのを見届け、なおかつ怪しい連中が周囲にいないかを確認してから店に入った。
ムルタの記憶では信用できるやつだが、人の記憶なんてあんがい当てにならない。
もしかしたらやつが兵を引き連れてやってきて、敵前逃亡した裏切り者を捕えようとしても考えていても不思議ではない。
まずは、その気配がない。
それにモルレットが店に入るときに自分が尾行されていないか気を使っていた。
信用してもいいだろう。
「悪かったなモルレット。遅くなって」
「大丈夫だ。俺も今来たところだ」
笑顔で俺は挨拶をする。それにモルレットが応えた。
モルレットが、おすすめのメニューがあると次々に店員に注文し、酒が運ばれてくる。
酒は、地酒だ。麦でできた酒でなかなかうまい。料理は素朴ながらも値段は安く栄養たっぷりでボリュームがある。やつが行きつけだと言うのも理解できる。
「この煮込み旨いな。さすがはおまえの行きつけの店だ」
「だろ? ムルタも気に入ると思った。まずは食え、それから話を聞こう」
案外、こいつはいい奴だ。
積極的に始末はしないでおこう。
俺たちは、適当に馬鹿話をして酒と料理を食べ、場が温まってきた。もちろん、ムルタではないと思わせるようなへまはしない。話題は慎重に選ぶ。
俺は定期的に【回復】でアルコールを抜いている。酔っている振りをしているが思考を鈍らせるわけにはいかない。
そして、いよいよ本題に入る。
「ムルタ、氷狼族の村では大変だったらしいな」
「とんでもない化け物剣士が現れたんだ。そいつ一人で、ほとんど皆殺しにされた。思い出しただけで寒気がするよ」
「そいつは、どんな剣を使った」
「クライレットの流派だ。なんどか武術会で見たことがある。間違いない」
隠しても無駄なので正直に話す。
向こうもそれは知っているのだろう。難しい顔をしていた。
「なんで、ムルタは逃げたんだ」
「俺も剣の腕には自信があるが……あれに挑んだら確実に死んでた。たまたま奴の剣が浅かったおかげで命を拾って、怖くなって逃げだしちまった」
ムルタの記憶でもそうなっている。
首を狙った剣がほんのわずか動脈に届かなかった。
命は助かった者の、その時点で実力差を思い知りムルタは逃げ出した。
かしこい選択ではある。
だが、逃げたあとでとった行動がかしこくなかった。セツナに手を出そうとしなければ長生きできたのに……。
「まあ、なんにしろおまえが無事で安心したよ。あの戦いでずいぶん戦友を無くしちまったからな。仕事はあるのか?」
「ラナリッタで冒険者まがいなことをやってるよ。なあ、王国に戻れると思うか?」
「……無理だとおもうな。俺だから見逃してるやってるけど、敵前逃亡は死罪だからなぁ。しばらく俺たちはこの街にいるし、別の街に行った方がいいだろうな。おまえを知っている奴に合わないほうがいい」
「そうか・・・・・」
「落ち込むなよ。今日は俺がおごってやる。金、困ってるだろ。今日ぐらい楽しい酒にしようぜ」
モルレットは酒のお代わりを店員に頼み、俺の前にどんっとおいて笑いかける。
「ありがとう。そういや、お前が見張りやっていた男、あれはなんだ」
「ああ、あいつは王女を殺して逃げた【癒】の勇者の村にいたやつだ」
そこは知っている。問題はその先だ。
これを聞き出すためにこんな芝居をやっている。
「【癒」の勇者と同じ村出身ってだけで、村を襲ったのか」
「まあな、いや、久しぶりに愉しい狩りだったぜ。亜人もいいけどやっぱり人間だな。弱くて楽だし、亜人どもより金や物をもっていて、略奪も実入りがいい。犯すにしても亜人は亜人でいいが、人間の女が一番しっくりくるぜ」
笑顔が引きつりそうになる。
いい奴だと思ってたやつがこれか。
王国の兵士は本当に腐っているらしい。
まあ、予想通りだ。
「でも、いいのか相手は人間だぞ。その、良心は痛まないのか?」
「お前こそ何言ってるんだ。さんざん亜人どもを殺して、奪って、犯してきたじゃないか。相手が人間だからって何が変わるんだ」
作り笑いをしつつ。
内心ではかなり驚いていた。
亜人達を好き勝手できるのは、自分と同族ではないという認識があるからだと思っていたが、人間相手でもいっさいの躊躇がないとは。
そして、それが兵士たちにとっての常識になっている。
恐ろしい。
そこまで略奪に慣れ切ってしまっているのか。
「とはいってもなあ。人間で自国の民なら俺は戸惑うな。一応俺たちは王国の兵士で守る立場にあるじゃねえか。第一、さすがに他の村の連中が黙っていないと思うぞ。いくら【癒】の勇者の村が相手だってやりすぎだ」
「それはないな。うちの隊長が邪教の村だって言い張った聖伐ってやつだ。邪教って便利だよな。とりあえず、邪教って言ってりゃ何やってもいいから。本当にうちの隊長は頭がいいぜ」
邪教?
そんなでっち上げをしたのか?
なんて杜撰な言いがかりを。そのつけはどこかで払ってもらう。
「……はは、俺もあやかりたいな」
「そういや、隊長だけどさ。一番いい女を独り占めにしやがったんだ。人妻だけど、すっげえ美人でさ。なんでも、【癒】の勇者の知り合いだから、俺が直々に罪を思い知らせるって言ってさ」
その瞬間、俺は笑顔を崩さないように必死だった。
その人は……、両親を亡くして孤独になった俺をずっと支えてくれた人だ。
「傑作だったぜ、そいつの夫の前で思う存分もてあそんでやるとひいひいあえぎながら泣いて、途中で舌を噛んで死にやがった。隊長はそれでも犯し続けたからな。それを見せられる男の顔、すごかったぜ。ああ笑えてきたぜ」
貴様ら、それでも人間のつもりか。
……そうか、殺したのか。あの人を。
あの人は、たぶん、俺の最後の良心だった。あの人のおかげで人間に絶望しないすんでいた。
この世界で唯一の味方だった。打算もなく無償の愛をくれた人。初恋の人だった。
最後の最後に残った血と涙が流れでていく。
鬼になろう。
殺そう。
殺すだけでは飽き足らない。
あの人が感じた以上の絶望と苦痛を与えてからだ。
そうでないとあの人が浮かばれない。
犯される恐怖を知らないから、平然とそんなことをできるんだ。一度屈強な兵士たちに体を蹂躙される恐怖を味わってもらおう。
「なあ、頼みがあるんだ。俺は確かに敵から逃亡したけど、情報はもっている。それを直接……」
そうして俺は酔った男の思考を誘導していく。
酔わせて酔わせて、判断力を無くさせて都合のいいことを吹き込んでいく。
すべては、本気の復讐を果たすために。
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