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第九話:回復術士は恋人ごっこを楽しむ
窓の外では俺の故郷にいるはずの知り合いが磔にされて、王国の兵が【癒】の勇者ケアルに向かって、三日後までに姿を現さないと公開処刑にすると言っていた。
馬鹿な奴らだ。
もともと、俺はこの街をさっさと抜け出す心づもりでいた。
最終的に王国を滅ぼすつもりとはいえ、ここにいる兵士たちにわざわざ喧嘩を売るのは時期尚早でもあるし、気乗りがしなかった。
だが、王国の連中は非道にも俺の故郷に襲い掛かった。
これを見過ごすわけにはいかない。
俺は今、怒りと憎しみに燃えている。どうして、あいつらはこんなにひどいことをするのだろうか。
そのせいで王国兵どもは助かるはずの命を無駄に散らそうとしている。
とはいえ、今ここで襲い掛かっても仕方ない。
ことは慎重に運ばないと。復讐にもっとも必要なものは自制心だ。可能な限りリスクをさげて確実に行う。
「クレハ、頼みがあるんだ」
神妙な顔をつくりクレハに問いかける。
「何かしら?」
「あそこにいるのは故郷にいるはずの知り合いだ。俺の村、アルバンが今どうなっているのかを知りたいんだ。なにもしなくていい。ただ真実だけを調べてほしい。そのために一度戻ってくれないか?」
まずは、情報収集が必要だろう。
村がすでに滅びて、村人たちがさまざまな街で俺を呼び出すエサに使われているのは想像でしかない。
確証を掴みたい。
「わかったわ」
「助かるよ。王国の情報を手に入れるのはクレハだけが頼りなんだ」
「任せて。あなたはこの状況をどう見てる?」
クレハはクレハだけが頼りと聞いた瞬間、嬉しそうに微笑んだ。わかりやすい女だ。
彼女は今の状況を問いかけてきたが、おおよそのことはクレハを察しているはずだ。
ただ、きっちりと俺の考えを伝えておいたほうがいいだろう。
俺は、自分が想定していることを伝える。
すでに村は滅ぼされて、村人たちが俺をおびき寄せるための餌に使われているであろうことを説明する。
「……今の状況を見ると、その可能性が高いわね。なんてひどい。人間のすることじゃないわ」
「俺もそう思うよ。あいつらは人間じゃない。ただの獣だ」
血も涙もない非道な連中だ。生きている価値がない。そんな彼らは死んで俺に償い、自らの命を経験値として献上するべきなのだ。
「でも、気になるの」
クレハがいぶかし気な表情を浮かべている。
「何が気になるんだ?」
「【癒】の勇者ケアルの出身というだけの自国の村を滅ぼすのは、かなりの横暴よ。他の村や町からかなりの反発があると思うわ。村から犯罪者が一人出ただけで滅ぼされるなんて、他人事とは思えないもの」
「王女が殺されたんだぞ?」
「それでもよ。人類を守る盾のイメージを王国は大事にしているわ。それに他国ならともかく、自分たちが守る自国の村よ? こんな悪評が出て、最悪他国から非難を受けるようなことをしないわ。一応、村を報復で滅ぼすだけなら理解できないこともないの。【癒】の勇者を呼び出すために、罪のない村人をさらし者にしているような残虐な行為を交えて、その報復を宣伝してまわる、自分から積極的に悪評を広げているようなものよ」
言われてみればそうだ。
自分の評判を様々な街や村で盛大に下げるようなことをするだろうか。
「それをやれるだけの大義名分をでっち上げているのかもしれないな。王女殺しの罪人が生まれた村で足りないなら、罪を付け足せばいい。そのあたりのことを含めて調べてくれないか」
「その可能性は、十分あるわね。そのことも含めて調べてみるわ。だから……」
クレハが上目遣いに俺を見てくる。
どこか媚びたような目だ。
俺は、そんなクレハを抱き寄せて、口づけをかわした。
彼女は、こうされるのを待っていたのだ。
「また会うときのために連絡方法を決めておきましょう。別れてそれっきりなんていやよ」
「そうだな。しばらくはこの宿にいるから俺を訪ねてくれ。もし、ここにとどまることが難しい場合、手紙を送る。その場合は、そうだな。クルタという偽名を使おう。送り先を教えてくれ」
クレハがさらさらと、自分の連絡先を書く。
最悪はそこに待ち合わせ場所と日時を送ろう。
「私、頑張るわ」
「期待してるよ」
そうして、クレハはこの宿から出ていった。
彼女からの情報を待ちつつ、俺は俺で動こう。
宿にはもともとの三人。俺とフレイアとセツナが残された。
容姿はそれぞれ、ケアルガとフレイアに戻して置く。
「ケアルガ様、ずいぶんクレハと仲がいいんですね」
「世界を救うために、彼女の力は必要だ」
フレイアには、世界を救うための旅をしていると言っているので、ここでそれを繰り返す。
クレハのことを本気で好きなったわけじゃない。利用するために恋人ごっこに付き合ってやっている。
もちろん、俺も楽しんでいるが、あくまで利用することを優先している。
「まあ、私はケアルガ様の従者です。ご主人様が何をしようと、勝手ですけどね」
セツナと同じくフレイアまで嫉妬しているのか。
俺は苦笑してしまう。
「ケアルガ様、さっきの話だけどケアルガ様の村の人たち、クレハに調べてもらって、まだ村が無事だったら助けるの?」
「そのつもりはあるけど、努力目標だね。国が本気になったら本当の意味で助けることは難しいよ」
「……氷狼族みたいに、他の国に逃げれたらいいのに」
セツナは優しい。
俺の故郷の心配をしてくれているのだろう。
「人間には住み慣れた村を出ることは難しいからね。ただ、俺は俺の村のみんなの犠牲を無駄にはしないよ。王国にそのつけは払ってもらうつもりだ」
「何をするつもり?」
「俺の勘だと、今回のはいい火種になる。飛び火させればきっとよく燃えると思うんだ」
大義名分がない状態で、俺の村を襲ったのであればそのことを糾弾できるし、なにかをでっち上げているのであれば、それを見破ることでより火種は大きくなる。
もちろん、個人として騒いでも意味がない。だが、しかるべき場所に、しかるべき手段で流せば、それは大きな意味を持つ。
こういうのが好きそうな連中は、一度目の世界で会って記憶している。その伝手を頼ろう。
こうやって、ちまちました復讐をやっていてもらちが明かないのだ。
さっさと次の手段に行きたい。
そのためには、そろそろジオラル王国をがたがたにしていかないといけない。
小さなことからこつこつと地道に足元を崩していくのだ。
「ケアルガ様、すごくいい顔してる」
「わかるか、ちょっと興奮しているんだ」
セツナを抱き寄せる。
昨日からクレハばっかり可愛がってやったから、そろそろセツナも可愛がってやらないと。
「ああ、セツナちゃんばっかりずるいです。私もずっとお預けだったのに」
「フレイアもおいで」
フレイアも寄りかかってくる。
クレハの情報を待ちつつ、俺も早速昼から動く。
だが、その前に俺に従順な可愛いセツナとフレイアを可愛がってやろう。
彼女たちは便利な駒だ。それに……少しだが愛着がわいてきた。
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