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第四話:回復術士は新しいおもちゃを見つける
剣聖クレハ・クライレット。
ジオラル王国最強の剣士だ。勇者でないにもかかわらず、レベルは45という人類の頂点。
【剣聖】という超稀少で強力な技能とスキルを持つクラスを保持する。
技能とスキルも恐ろしいが、もっとも脅威なのは、努力と経験によって研鑽された無窮の剣技。
「やはりね。私の剣を受けた剣筋、間違いなくクライレットの剣。私の剣を三度防ぐなんて師範クラスでも不可能よ。あなた、いったい何者かしら?」
首筋の皮一枚、切られた。血が垂れてくる。
クレハの剣を受けきれなかった。
クレハは一呼吸で三つの剣撃を放ったのだ。
俺でなければ死んでいた。【剣聖】の技能を【模倣】し、なおかつ彼女の経験すべてを知っており剣筋を予想できているのにこのざまだ。
クライレットの剣技は実戦に特化し、余分なすべてをそぎ落とした剣技だというのに、どんな剣技よりも華麗だった。
銀色の髪をたなびかせるクレハは、その絶技の相まって存在そのものが美しい剣だ。
俺は後方に跳び、一メートルほど距離をとった。
クレハは距離を詰めてこなかった。
とはいえ、気を抜くことはできない。
彼女なら、この程度の距離一呼吸すら必要としないだろう。
「いきなり、斬りかかってくるとは随分な挨拶じゃないか。斬りつけられる心当たりがないんだが」
剣を構えて、警戒しながら笑いかける。
俺は剣技でクレハに勝てない。
勝てない理由はいくつかある。
まず、レベルの差と【剣聖】スキルによる強化でクレハのほうが身体能力が優れている。
そして、クレハの剣技を再現できると言っても、この剣技は彼女の肉体に合わせて最適化した剣技。いくら、俺が振るうことを前提にチューンしてあっても、本家にはかなわない。
「しらばっくれないで、あなたは王国の兵士を殺した重罪人よ。それに、クライレットの剣の誇りを汚したのだから。死んで当然よ」
「……なんのことだ」
「とぼけないで。私はこの街に来たのは、同門の粛清のため。先日、氷狼族の村が襲れたわ。襲撃者に凄腕のクライレットの剣を使う剣士がいた。氷狼族を守ろうとした王国騎士たちは、その男に壊滅させられた。本当にクライレットの剣士が闇に堕ちたのなら、私でないと止められないし、止めるのは当主たる私の義務よ」
それを聞いて、いろいろと納得した。
ああ、そうか。
クレハがここに来たのは、王国が氷狼族襲撃に失敗したからだったのか。
にしても、王国も氷狼族の村を守るために軍を派遣したとは、なかなか愉快な嘘をつく。
まともな神経では作り話でもこんなことは言えない。
とはいえ、俺もうかつだった。
あれだけ王国の騎士がいれば、俺が使ったのがクライレットの剣技だとわかった奴もいるだろう。
「それで、片っ端から剣士に切りかかって、受けた剣筋で判定か。辻切と同じだな」
「違うわ。歩き方を見れば、クライレットの剣を使うことはわかるもの。街中の人間を観察して、あなただけがクライレットの剣士だった。だから後をつけていたの。あんのじょう、怪しい連中とつるんでいたわ」
本日二度目の驚きだ。
警戒していて、なおかつ俺が気付けなかった。
超一流のアサシンですら気付く自信があるのに、なんて奴だ。
「そして……氷狼族の奴隷を連れていることが何よりの証拠よ!」
びしっと、氷狼族のセツナを指さしてクレハは宣言する。
本人は決まったと思っているのか、どや顔だ。
指をさされたセツナのほうはすごく不機嫌そうな顔だ。
彼女は俺の前にたち、両手を広げて俺をかばう。
「ケアルガ様は、悪い人じゃない。逆。ケアルガ様は人間たちに襲われた氷狼族の村を守ってくれた恩人。セツナは奴隷だけど、村を守ってくれた対価としてケアルガ様の奴隷になった」
セツナはクレハを睨みつけながら状況を説明する。
これはいいアシストだ。俺が説明するよりも信じてもらいやすいだろう。
「嘘よ。だって、氷狼族を守るために王国兵が派遣されたのよ。それが本当なら王国兵とその人が戦うわけがないわ」
「前提が間違っているんだ。王国兵が氷狼族の村を襲った。王国は、兵士たちの訓練と資金の獲得のために、軍の仕事がないときは、亜人の村を襲い、村人を奴隷として売りさばく。俺は、この子のために王国兵と戦ったんだ」
さて、俺の話を信じてくれればいいが……。
「そう、そういうことなのね」
やはり、駄目か。
言葉を聞かなくても剣気が薄れない時点でクレハがどんな判断しているかはわかる。
「氷狼族の村を襲ったあげく、そんないたいけな少女を奴隷として支配して嘘をつかせる。あなたのような外道はここで切り捨てるしかないようね」
まあ、それはそうだろうな。初めから悪人だと思っている俺の言葉や、その奴隷のセツナの言葉と王国の言葉を比べれば後者を信じる。
ジオラル王国は表向きは健全な国だ。
軍が組織立って亜人の村を襲って人身売買なんて信じないだろう。
「……いちおう、恩人のはずなんだけどな。俺は」
思わず愚痴も出ようものだ。
助けたことを後悔し始めた。
「恩人、なんのことかしら」
「いや、なんでもないさ。信じるか信じないかは別にして、俺は本当のことを話した。ここは引いて、真偽を確かめるぐらいはしてほしいんだが。王国の汚い部分は少し突けばいくらでも出てくるぞ」
これが俺の最大の妥協点だ。
剣聖クレハ・クライレット。俺は彼女のことを尊敬している。
その強さと美しさにあこがれている。
だから、あまりひどいことはしたくない。
それに悪人ではないことは理解している。彼女も騙されている被害者だ。
まだ、我慢できる領域だ。ここで引いてくれれば彼女を許そう。
だけど、それでも……。
「その必要はないわ。今、ここで断罪する。あなたから解放されれば、その子も正気に戻るはずよ」
彼女は剣の切っ先を向けた。
ああ、駄目じゃないか。もう、いわれなき暴力を受けてしまっている。加えてそんなふうに、冤罪をかけられたら。
さきほど浅く切られた首がじんじんと痛む。
俺の中のどす黒い欲望が、内面で暴れ始める。
こいつは俺にひどい仕打ちをするだけではなく、善人面しながらセツナを連れ去るつもりだ。
俺は俺から奪う奴を許さない。
やめてくれ、クレハ・クライレット。俺はおまえを……。
ああ、このままじゃ。
「クレハ・クライレット。おまえは俺の敵になるのか」
「そのつもりよ」
彼女が踏み込んでくる。
その瞬間、クレハに向かって人の頭ぐらいありそうな炎の玉が襲い掛かった。
「さっきから、黙って聞いていれば! ケアルガ様は、奇病からみんなを救って、氷狼族を救った英雄なんです! それを罪人扱いなんて許しません」
フレイアだ。彼女が魔法を放った。
普通の騎士なら躱すことも受けることもできずに焼かれただろう。だが、クレハは炎の玉を切り裂き、そのまま加速。
「ひっ」
悲鳴を上げたフレイアの顎を掌底で打ち抜き昏倒させる。
「女子供を斬るのは趣味じゃないの。少し寝ていて。あなたと、氷狼族の女の子はこの男に利用されているだけだから、悪くはしないわ」
頭がくらくらする。
この女。フレイアを。俺の所有物を傷つけたな。
ああ、よく分かった。
俺に斬りかかり、セツナを連れさろうとし、フレイアを傷つけたこいつは……。
ただの復讐の対象者だ。
「あなた、いったい」
俺の中の黒い部分が、久しぶりの獲物を見て歓喜する。
クレハは何かを恐れて一歩後ろに下がる。
「ああ、ずいぶんと我慢したんだけどな。クレハ・クライレット。どうして、おまえはそんなに愚かなんだ。もう、壊すしかないじゃないか」
俺は嗤う。
さて、報いを受けてもらおうか。
相手が復讐の対象者なら、俺は容赦はしない。新しい所有物になってもらおう。
まずは蹂躙しよう。
たしかに俺は剣士として【剣聖】クレハ・クライレットに劣るだろう。
だが、別に俺は剣士でもなんでもない。
いくらでも勝つ方法は存在するのだ。
剣を握りしめながら、どうしたらこの美しさを損なわずに、遊べるか。そんなことを考えていた。
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