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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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第三話:回復術士は予想外の再会をする

 今日は貧民区を歩いていた。
 昨日の酒場で出会った男のことを思い出す。
 なかなか、壮絶な死に方だった。
 俺の袖には暗器の毒を塗った針が仕込んであり、軽く一突きするだけで致命傷になる。

 実戦で使う前に試せてよかった。
 効果が現れるのはおおよそ四十分ほど、死ぬまでに一時間といったところだ。
 騒ぎを起こさず始末するのはちょうどいい。

「あまり、ここには近づきたくない」

 セツナが若干嫌そうな顔をしていた。
 まあ、自分が奴隷として売られた店の近くだ。いい気はしないだろう。

「我慢してくれ。たぶん、ここに近づくのは今日で最後だろうしね」

 今回の交渉を終えたら、ラナリッタを出るつもりだ。
 ジオラル王国から大量の兵士が派遣されている以上、この街は危険だ。

「それにしても、今日はやけに街が騒がしいですね」
「王国から大量の兵士がやってきて常駐させろって騒いでいるからな。そりゃ、脛に傷が多い奴も多いし。気にはなるだろう」

 すでに、兵士たちは辿り着いていた。
 ラナリッタは、善人も悪人もすべて受け入れて発展する街だ。
 あまり王国兵は歓迎されない。

 俺はポケットに入っている王国兵の紀章を握りしめる。
 昨日、俺のセツナに手を出した愚か者から奪ったものだ。

 これがあれば、王国兵になりすまして情報を得ることができる。
 彼らがなんのためにここに来たのかぐらいは出発するまえに知っておきたい。

「そういえば、今朝の朝ごはんを買いに出たときに噂で聞きました。王国兵と一緒に剣聖さんがこの街に来ているみたいなんです」
「なに?」

 俺は思わず聞き返した。
 今度の世界で俺が最初に【回復ヒール】した相手だ。
 そして、まともに正面から戦って負ける可能性ある相手でもある。
 技能は【模倣ヒール】できてもスキルは【模倣ヒール】できない。レベルもまだ追いつけていない。
 真正面から戦えば勝ち目は薄い。

「一度会ってみたいですね。すごい美人らしいですよ」
「街の連中がいつも以上に騒ぐと思ったら、剣聖も来ていたのか」

 剣聖は個人として、ジオラル王国最強の戦力だ。
 とうぜん、滅多なことでは剣聖を引っ張りだしてこない。
 彼女が表にでるようなことな時点でかなり大事だ。
 ……もう、完全に城に残した偽者がばれたと思った方が良さそうだ。

「そろそろ、いつものお店ですね」

 いつもの店というのは、商人とポーションの取引をする喫茶店のことだ。
 もう、五分もしないうちに到着するだろう。

「まったく、嫌なことは重なるものだ」

 さきほどから、剣聖から【模倣ヒール】した見切りと、無数の経験が警鐘を鳴らしている。
 このタイミングでか。

「フレイア、忘れ物を取りにいこう」

 店の周辺に巧妙に隠しているつもりだが、いくつもの気配がある。
 俺でなければ気付けなかった。それほどの手練れだ。

 人数は二十人程度。
 氷狼族を襲ってきた連中を相手にしたときより、人数だけを考えると楽だが、今回は状況が悪い。
 フレイアという、魔術士をかばいながらこの雑多で隠れる場所が多い場所で暗殺者を相手にする。
 セツナと二人がかりでもフレイアを守れるか怪しい。

「忘れ物ですか?」
「どうやら、肝心のポーションを忘れてきたみたいだ。急いで取りに帰ろう」

 潜んでいる連中に気付いたことを気付かれてはいかない。はやく大通りに出て、そこまでいけば一気に逃げる。

「ケアルガ様でも、そんなことがあるんですね」
「まあ、俺も人間だからな」
「ん。はやくいく」

 どうやらセツナも気付いたみたいだ。氷狼族は鼻と耳がいい。潜んだ敵を見つけるのも得意だろう。フレイアの手を引いて急かせる。

 元の道にもどる俺たちを追ってくる気配はない。
 本当に忘れものを取りに行ったと思っていてくれればいいが。

「来てる。ケアルガ様!」

 セツナが叫ぶ、言われるまでもない。
 俺は剣を抜いて背後からとびかかってきた襲撃者の短剣をはじく。

 さらにバランスを崩した敵の首の動脈を切り裂いた。
 血が噴き出る。

 さらに、そいつとは別反対側の死角からもう一人襲いかかってくる。俺は敵に左手を向ける。
 死角だろうと、剣聖の【見切り】はその動きを感知できる。
 左手の裾から仕込み針が飛ばした。それが敵の胸板に刺さる。男が崩れ落ちた。

 右に仕込んだ遅効性のものではなく、左は即効性の神経毒。

「まったく、強盗に会うなんてついていないな」

 あっという間に二人倒されたというのに、敵に動揺はない。
 静かに気配をけした集団に囲まれている。
 一触即発。場が静けさを増す。

 どう、打開するか。
 そんなことを考えていると、正面から堂々と二人の男が現れた。
 ポーションを取引している商人と、その護衛だ。

「これは、ケアルガ様。いつまでたっても商談に現れないので心配しましたよ」
「俺はおまえに名前を名乗ってないはずだが、……クインタ」

 危険な取引だと認識していてお互いに名前を名乗っていなかった。

 それなのに、この男がケアルガと俺を呼んだのはおまえのことはすべて知っている。逃げても無駄だという商人からの脅しだ。

 だから、俺もそれをまねる。
 少しでも相手が恐れをいだくように、商人の名前を呼んだ。
 それも、奴が表向き名乗っている名前ではなく。
 奴の本名をだ。
【翡翠眼】ならそれを見破れる。

「……あなたのバックに何かがいますね」
「さて、どうかな」

 ここで勝手に敵が俺を恐れてくれれば、動きやすくなる。
 意味ありげな笑いを俺は浮かべた。

「商人、茶番はやめようか。俺を襲わせた理由はなんだ」
「薬の製法を話してほしいのです。秘密裡に薬を売っていたのですが、なかなか、数を売るとどうしてもどこからか、秘密は漏れるもので。もっと商売の規模を広げたいという共同出資者が現れまして。あなたの作る量では足りなくなってしまいました」
「ああ、なんだ。おまえが無能で下手をうって、殺されているのか。大方、その共同出資者という奴がおまえよりも立場も財力も上なんだろう? 今回の襲撃に使った人員もそいつにおんぶに抱っこか。情けない奴だな」

 商人の作り笑いに一瞬ヒビが入る。
 商人が秘密を漏らして窮地に陥るのは想定の一つにはあった。
 こんな儲け話、他人が知れば絶対に飛びついてくる。

 儲け続けるためには秘密の順守が絶対条件、それをこの商人が失敗した。
 それだけの話だ。

「……違いますよ。もっと、儲けを大きくするための戦略です」
「まあ、いいが。それで今死んでいる二人を含めて二二人もプロを雇ったわけか。俺を捕えて薬の秘密を話させるためにごくろうなことだ。でっ、俺はこのままあとに二〇人死体を作ればいいのか。いや、おまえと護衛を入れて二十二人。面倒だが仕方ないな」

 剣を抜き見にして構える。
 商人が冷や汗を流し始めた。

「ははは、随分とお強いのですね。ですが、足手まとい二人も抱えていては、どうしようもないでしょう」

 まあ、そうだな。
 俺一人なら返り討ちにすることは容易いだろう。 
 だが、今はフレアがいる。それにセツナもこの人数相手ならまだきつい。
 守りながら、戦うのは不可能。
 だが、それがなんだと言うのだ。

「何を勘違いしている。こいつらは俺の道具だ。俺の足を引っ張るなら切り捨てる。俺は、この二人を見殺しにして、おまえを含めて皆殺しにする。二人は俺の足かせにはならんよ」
「つっ、強がりを」
「強がりだと思うか?」

 俺の目を見た商人は一歩後ずさる。
 本気だと気付いてくれただろう。

 フレイアもセツナも、便利で替えが利きにくい優秀な俺の所有物おもちゃだ。
 愛着もあるし、守りたい。とはいえ、俺の命以上に優先するものではない。

 とくにフレイアは俺を守って死んでもらう予定だ。それが早まろうがたいした問題ではない。
 どや顔で、二人を俺の弱みだと思っている商人が滑稽だ。

 商人は言葉を失っている。
 交渉のきっかけを失ったようだ。一歩間違えば自分が死ぬという状況にやっと気づいてくれた。

「……もっとも、こんなくだらないことでお気に入りが壊れるのは避けたい。いいだろう、薬の作り方ぐらいは教えてやる。こういう譲歩はどうだ。金貨五百枚。それで製法を売ってやる。目の前で薬を調合する。材料も教えてやる。だが、使った魔法は教えようがない。完成品と材料がわかっていれば、プロの調合士なら再現できるだろう?」

 まあ、実際はわかったところでどうしようもないが。

「……それでいいでしょう。この場で作ることが条件だ」

 乗ってくれた。
 いや、乗らざるを得なかった。商人は気付いたのだ。これ以上、俺が妥協しないことに。もし、これ以上の欲を出せば死ぬと。

「まずは、クコの葉、ヒイラギタケ、チイタラの実」

 ポーションの材料たちを鞄から取り出す。近場でとれる薬草や木の実、キノコなど目新しいものはとくにない。

 そして、やつの目の前で有効成分の抽出を行う。
 商人は、使った材料の残りを渡すように指示してきたので、使い終わった材料を一つ一つ渡す。

 最後に水筒から”特別な水”を入れ魔術で合成する。
 特別な水だけは水筒ごと渡す寸前に、こっそり魔術でただの水に変える。魔術の専門家でない限り、俺が隠すつもりで使った魔術を見破ることは不可能。

 水筒を渡した際、商人はその異常に気付けなかった。
 バカな奴だ。
 その水筒の中身、俺の体で出来た抗体こそがもっとも重要な成分だというのに。これで絶対に薬を再現できない。

「これで完成だ。作り方は全部見せた。使った材料もくれてやった。これで満足だろう」
「待て、その薬が本物か確認してからですよ」

 どうやら、軽症の奇病感染者がいたようだ。
 そいつに飲ませて効果を確認した。

「ふはははは、やった、やったぞ。あとはこの薬を調合士に渡して、材料と今の工程を全部教えれば再現できる。何が、この国では手に入らない特別な素材を使うですか。大ウソじゃないですか」

 彼は笑う。
 笑い続ける。

「ああ、好きに儲けてくれ。そのまえに支払いをしろ。あんたも商人だろう。取引で嘘をつくな」
「ふん、こんなはした金くれてやる。なにせ、これから大量の金が手に入るんだからな!!」

 商人は金貨の詰まった袋を投げつけてくる。
 そして、高笑いしながら去っていった。
 周囲の暗殺者たちの気配も消えていく。

「ケアルガ様、申し訳ございません。私のせいで、薬の秘密を売ることになってしまって」
「セツナも悔しい。何もできなかった。セツナはまだまだ弱い」

 二人が落ち込んでいる。
 驚いたな。俺が見捨てると言ったことに対しての怒りはない。それは演技ではなく、心の底からそれが当然だと思っている。
 むしろ、足を引っ張ったことを後悔しているようだ。
 それでこそ、俺の所有物として正しい態度。これからも可愛がってやろう。
 俺は彼女たちに笑いかける。

「大丈夫だよ。もともと言っていただろう。薬で儲けるのはこれが最後だって。俺は損なんかしてないさ。むしろ最後に金貨五百枚を得られて、かなり得した」

 そう、もとからこれが最後の取引のつもりだった。
 用意したポーションは三十個。
 いつもなら一つ金貨十枚で三百枚の収入のはずだ。
 それがなんと金貨五百枚になった。
 今回の取引で金貨二百枚多く得をした。

「……でも悔しい。あいつはケアルガ様にひどいことして儲けるなんて」
「それはないよ。あいつは大損確定だ。まず、薬の再現ができない」

 肝心の俺の血で作った抗体。それを最後にすり替えた。
 第一……。

「俺はセツナの頼みで、水源を癒して逆に奇病を治すように仕組んだからな。かわいそうに、奇病そのものがあと十日もすればきれいに収まるよ。今でもだいぶ減ってきた。奇跡的に薬が再現できたところで、薬は売れないさ。あいつは金貨五百枚まる損だ」

 あの商人は最後の最後の欲をかいて失敗した。大人しく今回もポーションを買っていれば、奇病が収まるまでに売りさばいて大儲けできたのに。

 それに、薬が作れなければ奴のいう共同出資者とやらに悲惨な目に合わされるだろう。

 顔が真っ青になっている姿が目に浮かぶ。
 俺は、俺から奪おうとするものを許さない。
 だから、あいつには破滅してもらった。

「さすがは、ケアルガ様です。すっきりしました! さっそくこの街を出ちゃいましょう」
「んっ、これ以上、もめるのはたくさん。セツナも賛成」

 最後にすかっとしたし、もうこの街に用はない。
 そう考えた瞬間だった。
 全身に鳥肌が立つ。
 なんだ、この刺すような圧倒的な剣気は。
 恐怖に突き動かされるように剣を振るう。
 剣と剣がぶつかり合う。

「さすがね、これを受けるなんて」
「あなたは」

 銀色の髪をした美しい少女、まるで妖精のように可憐で、どこまでも鋭い一本の剣のような少女。
 俺よりもなお早い剣を振った少女の正体は……。

「あなたの剣、間違いなくクライレットの剣。話に聞いたけど、まさか本当に使い手がいたとはね。さて、どこでその剣を覚えたか教えてもらうわ」

 剣聖クレハ・クライレット。
 地上最強の剣士。現時点で俺が一対一では勝てない数少ない相手の一人だった。
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