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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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第一話:回復術士は水浴びをする

 氷狼族の村から出た俺たちはラナリッタを目指していた。
 行きと違って帰りは急がないので、無理のないペースで二足歩行の騎乗型爬虫類ラプトルを走らせている。

 ラプトルを走らせながら、魔物が現れないかを神経を張り巡らされていた。
 魔物を倒して経験値を稼ぎたいし、今日の昼食の食材を確保しておきたい。
 魔物を食べるのは、食費を抑えるためではなく、強くなるためだ。
 まだ一角兎ぐらいしか食べていない。こまめに適合因子をもつ魔物を見つけて食べることで適合因子を取り入れ、素質値の底上げをすることが強さへの近道になる以上、さまざまな魔物を食べる必要がある。

 魔物には二種類の魔物が存在する。
 一つは自然発生して自由気ままに動く魔物。ほとんどがこちらに該当する。

 もう一つは魔物の支配者である魔族に使役されている魔物で、組織だった行動ができるし、主の指示がない限り動かない。こちらはほぼ見かけることはない。

 ラプトルを走らせるのは、なかなか爽快だ。
 早いし疲れないのがいい。
 これはいい買い物をした。そんなことを考えていると、森の木々の陰に魔物の姿が見えた。

「見つけた、セツナ、フレイア、あの魔物を狩るぞ」

 その魔物は、異常に後ろ足が長いイノシシで緑の体躯をしている。
 イノシシはどう料理すればうまいか、そんなことを考えながら、俺はラプトルの足を止めた。

 ◇

「ううう、全身泥だらけになっちゃいました」

 自慢の桃色の髪まで泥だらけにしながらフレイアは泣き言をいう。

 不思議な緑色のイノシシの魔物を捕まえようと森を駆け抜けていたが、途中で奴は後ろ脚で盛大に泥をぶちまけてきた。
 俺とセツナは簡単にかわしたのだが、運動神経がイマイチなフレイアはもろに顔面に受けたあげく、さらに転倒。おかげで悲惨なことになっている。

 なんとか緑色のイノシシは倒して捌き、肉を昼食ように包めてはいる。

「ん。フレイアはノロマ。あれを喰らうのは未熟」
「セツナちゃん、ひどい。だって、しょうがないじゃないですか。私は魔術士ですし」

 彼女の言い分はもっともではあるが、対策は必要だろう。

「フレイア、投げられたのが泥だからよかったけど、石なら重傷だったぞ。今回は運が良かった」

 正統派魔術士は前衛に守られながら詠唱し、敵に後方からの大魔術で大打撃を与える。

 とはいえ、少人数のパーティで活動する以上、そんな贅沢は言えない。ある程度の自衛力が必要だ。
 これはフレイアの課題であり、以前から問題視していた。
 もともと、近接戦闘の訓練はしようと計画していたのだ。
 そうだ、いいことを思いついた。

「セツナ、これから毎朝二時間、フレイアのけいこをつけてやれ」
「ケアルガ様、それは命令?」

 若干嫌そうな顔で、セツナが問いかけてくる。

「その通りだ。俺よりセツナのほうが教えるには向いているだろうしね」

 なにせ、俺は近接戦闘の技術はあるが、人から【模倣ヒール】したものだ。
 努力した経験ごと奪ったとはいえ、自らの血肉になっているとはいいがたい。
 その点セツナはレベル上限という壁にさいなまれながら、死ぬ気で努力してきた。彼女のほうが教師として適任だ。

「ん。一人前の戦士にする。セツナは厳しい。死なないように注意して」
「おっ、お手柔らかにお願いします」

 若干ひきつりながらフレイアは頷いた。
 ここで、断らなかったことは褒めてやろう。

「何はともあれ、その泥を落とさないとな。手持ちの水だと少なすぎるし」
「それなら大丈夫。近くに川がある」

 セツナは白い狼耳をぴくぴくと動かしながらつぶやいた。
 彼女の耳は非常に優秀だ。俺たちに聞こえない水音を感じ取ったのだろう。

「なら、そこで水浴びしようか。さっぱりしたいしな」
「賛成です。走ったせいで汗だくで気持ち悪いです」
「セツナはどっちでもいい。ケアルガ様に従う」

 となれば、決まりだ。
 さっそく川に向かうとしよう。

 ◇

 川で泥と汗を流すたびに水浴びを終えたあと、俺はさきほど狩った魔物で料理を始めていた。
 セツナと、フレイアの二人は疲れてぐったりとしている。
 少し、はしゃぎすぎた。
 たまには外でというのも悪くない。

「さて、俺は料理でも作るとするか」

 ここで元気なのは俺だけだ。遊びすぎたせいで遅めの昼食となったが、しっかりとしたものを作ろう。
 二人に楽しませてもらった分、今度は俺が楽しませてやらないといけない。
 性欲を満たせば次は食欲だ。

「イノシシの肉はやっぱり、硬いな」

 刃を入れた感触でわかる。焼いても煮ても食えたものではない。
 だが、俺の【翡翠眼】はこの肉にある防御力の素質値をあげる適合因子を見抜いていた。
 なんとか、食べないともったいない。
 よし、いい調理法がある。

「硬い肉はミンチだな」

 石を使った即席のまな板にイノシシの肉の塊を乗せて、剣で念入りにたたく。
 ミンチになった肉に、山で摘んだ山菜を刻んで混ぜ込み、さらに乾燥したパンを砕いていれて水を合わせてしっかりと練る。十分に練ったあとは、小さな肉団子にしていった。

 俺の村では、働けなくなった老齢の馬を調理するために、この手法がよく使われた。どんな固い肉でも柔らかくなり美味しくいただけるのだ。

 そして鍋に水を張ってたき火で温め、鞄の中からとうもろこしを発酵させて作った赤褐色調味料、コミソを入れる。
 コミソのいい香りがしてきたところで、肉団子を投入。

「うん、これなら獣臭さもマシになるな」

 焼いて食べることも考えたが、イノシシ肉だけあって獣臭さが強かったのだ。
 そこで、コミソ汁の具にすることにしたのだ。コミソは味も香りも強い。これなら匂いを打ち消せる。

「そういえば、セツナが魚を獲っていたな」

 彼女が一か所に集めていた魚を拾い、俺は、内臓を取り除いてぶつ切りにすると鍋に放り込む。
 さらに、森で適当に食べれる山菜を摘んできて洗って放り込む。栄養価があがるし、臭み消しにもなる。
 しばらく煮込んで肉と魚栄養たっぷりの山菜スープのできあがりだ。

「いい匂い、セツナ、お腹が空いた」

 いつの間にか起き上がり服を着ていたセツナが、俺の背後から顔を出して鼻をひくひくさせていた。

「今回のは自信作だぞ。肉と魚の出汁がたっぷりだ」
「美味しそう。はやく食べたい」
「フレイアを起こしてやってくれ」
「それなら大丈夫、ほら」

 フレイアのほうを見ると、ちょうど彼女は起き上がってお腹の音を鳴らした。
 そして、恥ずかしそうに顔を赤くする。

「確かに大丈夫だな。じゃあ、遅めの昼飯にしようか」
「ん。お皿だす」

 セツナが鞄の中から人数分の皿を出し洗ってもってきてくれた。
 俺はたっぷりと肉団子と魚のぶつ切りが入ったスープを注いでいく。
 フレイアも慌てて服を来て身なりを整えこちらにくる。
 さて、楽しい昼飯の時間だ。

 ◇

「このお肉団子、ちょっと臭いですけどふわふわするし、野性的な味がして、なかなかいいです」
「セツナは噛みごたえがあるほうが好き。お魚は最高」

 フレイアが肉団子を上品に食べ、セツナは魚をばりばりと骨ごとかみ砕いている。

 俺も自分の分のスープに手をつけた。
 かなりクセのある味だが、旨み自体は強い。やみつきになるタイプの味だ。

 肉団子は狙い通りふわふわ。魚のほうは獲れたての魚だ。まずいはずがない。

「二人とも、おかわりがあるけどどうする?」
「いただきます……、運動のあとでお腹が空いたので」
「セツナも食べる」

 激しい運動のあとだ。当然腹がへる。
 セツナが魚を獲ってきてくれて助かった。

「ケアルガ様、この料理、美味しいだけじゃなくて不思議。力が湧いてくる」

 少し驚いた。さすがは、鋭敏な感覚を持つ氷狼族。わずかな素質値の上昇に気付いたようだ。

「実は材料に、さっき倒したイノシシの魔物の肉を使ったんだ。魔物の肉は普通に食べると毒だが、俺の村に伝わる秘密の技を使うと、食べられるうえに、少しだけ強くなれる」
「……ケアルガ様、すごい。レベル上限をあげる以外にも強くできるなんて」

 セツナはきらきらとした尊敬のまなざしで俺を見てくる。
 強さに貪欲な氷狼族、その中でも人一倍強さに飢えたセツナだからこその反応だろう。

「ほかにも、いろいろ隠し玉はある。セツナが俺の所有物になったことは絶対に後悔させない」
「もともと、後悔するつもりなんてない。もう、一生分、セツナは助けてもらった。だからあとは、返し続けるだけ」

 殊勝な態度だ。
 これほど素質をもった人材は二度と手に入らないだろう。大事に使ってやろう。

 そのあとは、鍋を空っぽにして出発した。
 少々遠回りしたものの夜になるまえにラナリッタの宿に戻ることができた。
 俺の復讐はまだ終わらない。今は仕込みのときだ。きっちり種は撒いている。
 そろそろ芽が出てくるころか。
 そんなことを考えながら、夜も二人を可愛がり、充実したまま俺は眠りについた。
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