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【言わねばならないこと】

(94)「共謀罪」対象 市民なりうる 刑事法学者・高山佳奈子さん

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 「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ改正組織犯罪処罰法の国会審議で、政府は「テロ対策」というまやかしの説明と、「一般人には適用されない」という条文に書いていないことを主張し続けた。野党の質問にまともに答えず、プライバシー権に関する国連特別報告者から寄せられた懸念も無視した。参院での議論を打ち切った「中間報告」は必要性や緊急性がなく、採決強行は手続き的にも違法だ。法の内容の正当性を国民に主張できないということを自ら認めたに等しい。

 国際的には、罰則を厳しくしたり、監視の目を広げたりすることではテロを防げないということが共通認識になりつつある。必要なのは、対立構造の改善に向けた努力だ。

 国連特別報告者は「共謀罪」法について、条約が求めている範囲より処罰対象が広く、プライバシー権を不必要に侵害するのに、防ぐための歯止めがないことを問題視した。ドイツや英国などにはプライバシー権を守るための独立機関があるが、日本には強い権限を持つ機関がない。

 処罰に必要な要件である「準備行為」は、心の中の目的を調べなければ認定できない。金田勝年法相の「花見ならビール、犯行現場の下見なら地図や双眼鏡を持っている」という国会答弁は、法を理解した上での説明ではなかった。

 現行法でもテロに対処できるのに、政府は「できない」と強調した。市民をだまして法律を成立させるやり方は、民主主義の観点から許されない。審議を通じて法案の危険な本質や問題点が市民に届かなかった。他人事(ひとごと)ではないこと、場合によっては市民も対象になりうることをこれからも訴えていく。

<たかやま・かなこ> 1968年生まれ。京都大大学院教授。国際刑法学会理事。「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」の呼び掛け人。

 

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