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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第二章:回復術士は嘲笑う

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プロローグ:回復術士は恨まれる

 氷狼族の村をジオラル王国の手から救った俺たちは、宴に招かれ、酒や料理をたっぷり楽しみ一夜が明けた。
 旅支度を終わらせて借りていた部屋をでる。

「フレイア、まだ酒が残っているのか?」
「ううう、想像以上に強いお酒で」

 機能性重視の旅装束に身を包んだ十代半ばの美少女がよろよろともたれかかってくる。
 彼女は、フレイアだ。

 元は王女フレアだが、今は記憶を失い俺の従者フレイアとなっている。
 やぼったい服装なのに、女性的な魅力が溢れている。ふわふわの美しい桃色の髪も彼女に良く似合っていた。

「氷狼族の酒は戦士の酒。女、子供が飲むにはきつい酒」

 淡々とした声がフレイアの反対側から響いた。

「女、子供のセツナは平気そうだけど、けっこう飲んでいたよな」
「ん。セツナは戦士だから。それにもう子供じゃない」

 どこかほこらしそうにセツナは真っ白い狼の耳をぴくぴくさせる。

 彼女はセツナ。
 氷狼族の戦士だ。白い狼の耳に尻尾。白い肌。なにもかも白い十代前半の美少女。
 彼女は人間に攫われ奴隷として売られ、俺が買い取った。
 そして、彼女の復讐を手伝い、氷狼族を救う代わりに、彼女の真の名を明かすという契約をした。

 真の名とは人間以外すべての生き物の魂に刻まれた名で、その名を使った契約魔術を使うことで対象を意のままに操れる。真の名を相手に知らせるのは亜人にとって、己のすべてをささげるのに等しいのだ。

 今、セツナは魂の一欠けらまで俺のものになっている。

「ケアルガ様、そんなに見つめないで。てれる」

 セツナが顔を伏せる。
 その唇が気になった。
 今朝も、レベル上限解放のためにその唇で……。

「ああ、気を付けるよ」

 小さな少女なのにセツナには妙な色気がある。
 今晩も楽しみだ。
 それはそれとして、フレイアをなんとかしないと。
 一応は、俺の従者だ。

「フレイア、こっちに来い」
「はい、ケアルガ様」

 フレイアを抱き寄せ、ポーション瓶を口に含んで口づけをする。フレイアが喉をならしてポーションを飲み込んだのを確認してから【回復ヒール】をした。
 魔法ではなくポーションを口移しで飲ませて癒した建前のためにそうした。
 本当に酔い覚ましに効果があるポーションを作るのは面倒だ。

 俺は、剣術を極めた錬金術師という演技をしている。回復術士であることは、フレイアやセツナにすら隠しているのだ。

 かつてセツナに見せた鑑定紙は偽装しており、クラスと回復術士関連のスキルは見せていない。
 いずれ、城に残した【癒】の勇者ケアルが偽者であることはばれるのだ。回復術士であることは誰にも知られるわけにはいかない。

「ありがとうございます。だいぶ楽になりました。さすがはケアルガ様のお薬ですね」

 顔を赤くしたフレイアが、熱い息を漏らす。
 フレイアは俺の便利な道具だ。いざというときに性能を発揮してもらわないと困る。

「フレイア、セツナ、ラプトルにのれ。ラナリッタに戻ろう」
「はい、戻りましょう。そろそろ三回目の商人さんとの交渉ですし」
「ん。ケアルガ様の命令に従う」

 どこか、セツナは悲し気に氷狼族の村を振り返り、首を振ってから前を向いた。
 彼女はすでに俺のものになり、仲間たちと別れるという覚悟を決めたのだ。

 しばらくは奇病で金が稼げる。
 十日もするころには、水源を癒した影響がでて、奇病は沈静化するが、それまでの間で十分金を稼げる。
 そろそろ、この商売も潮時だったちょうどいい。俺の安全のためにも、これ以上の奇病の流行は避けたかった。

 十分に金を稼ぐまではラナリッタで過ごし、それから別の街に移動しよう。
 そんなことを考えながら、俺はラプトルを走らせ始めた。

~ジオラル王国の王城にて~

「これは、まさか、本当に」
「なら、この城を出た近衛騎士隊長の正体は?」

 一人の男が地下牢に繋がれていた。
 まるで拷問のような虐待を受け続け、全身に暴力の跡がうかがえる。

 男の他には、地下牢には似つかわしくない顔ぶれがいた。軍の高官や、高位の貴族たち、そしてジオラル国王。
 それほどまでに、発覚した事実が与えた衝撃は大きかったのだ。

 鎖に繋がれている男は【癒】の勇者ケアル。麻薬漬けにして便利な道具として利用されていた彼は、ある日正気を取り戻し、看守を殺して逃げだした。

 ケアル自身はすぐに捕まったものの、彼を捕えようと城内が慌ただしくなった隙をついて、王女フレアの近衛騎士隊長は錯乱し、王女フレア及び、その護衛を殺害したうえ、王女の部屋に火をつけて逃走した。

 近衛騎士隊長の犯した罪は、本人どころか一族郎党皆殺しにしても、償い切れない。
 本人は行方不明だが、その血縁者はすべて処刑され晒し者になっている。

 そして、すべての発端となった【癒】の勇者は、捕えられたのち、【回復ヒール】をしぶるようになった。さらには兵士にとって仲間を殺した罪人で、国民すべてから愛されていた王女フレアの死の元凶であることから、人間扱いされず、恨みを一身に受けて虐待され続けた。

 だが、とあることで状況が一変する。
【癒】の勇者ケアルはどれだけ薬漬けにして、どれだけ痛みを与えても、かたくなに【回復ヒール】をしない。
 つい、殺してしまうところまで痛めつけてしまい、エリクサーを使用して治療したところ、薬が抜け、壊れていた喉が治り、自分こそが近衛騎士隊長であり、【癒】の勇者ケアルに姿を変えられたと叫びだしたのだ。

 当初は誰もが戯言だと思った。
 だが、何をやっても黙らず、鬼気迫る様子を見て、近衛騎士隊長をよく知るものに話をさせ、鑑定紙まで使わせた。
 紛れもなく、【癒】の勇者に見えたこの男が、近衛騎士隊長本人だった。
 そう、ついに真実が明かされたのだ。

「ならば、あの惨劇の夜。城を出た近衛騎士隊長の正体はもしや……」

 愛する娘を失って傷心していたジオラル王が、うめくようにして声をもらす。
 そして、【癒】の勇者ケアル……いや、近衛騎士隊長は憎悪に瞳を燃やしながら口を開いた。

「そいつこそが【癒】の勇者ケアルです。許さない、絶対に許さない。殺してやる。ぜったいに殺してやる」

 近衛騎士隊長は、拳を強く握りしめる。爪が肉を突き破るほどに。

 自らを地獄に叩き落し、血縁者をすべて殺し、なによりも憧れ、恋した麗しの王女フレアを殺した。

 いったい、自分がなにをしたというのだ。
 この国のために、あいつの力を有効活用するという王女フレアの願いのために働いていただけだというのに。

 それなのにあの狂人は自分のすべてを奪った。
 こんなこと許されるはずがない!!

「そうか、そうだったのか。フレアを殺したのは、【癒】の勇者であったか……。近衛騎士隊長、わしはお主には謝らん。当然であろう? お主が不覚をとり、【癒】の勇者ごときに倒され、入れ替わる隙を作った。このようなことになったのは、すべてお主の無能が原因だ。真実がわかってなお、わしはお主を殺したいと思っている。お主の無能が、わしの可愛いフレアを殺した」

 王の言葉は辛辣だった。
 だが、正論でもある。
 レベルが低く、ステータス、スキルともに戦闘向けではない【癒】の勇者ごときに負けるなんてことは、誉れある近衛騎士としては無能の烙印を押されて当然の失態だ。
 近衛騎士隊長は言い返せずに押し黙る。
 押し黙りながらも、必死に状況を打破するために頭を回転させていた。このままでは待つのは死。
 王がそんな彼を見下ろして口を開く。

「じゃが、フレアはおぬしを信頼しておったし、高い評価をしていたことも事実。なにより、誰よりも【癒】の勇者を憎んでおる。おぬしに名誉挽回、そして復讐を果たすチャンスを与えよう。本物の【癒】の勇者ケアルを捕えよ。けっして殺してはならん。ただの死など生ぬるい。そのための権限を与える」

 近衛騎士隊長は鎖に繋がれたまま、その場で膝をつき、頭を下げる。

「はっ、陛下。我が力のすべてをかけて、必ずや」

 彼は、顔を伏せて笑っていた。
 憎くて、憎くて、憎くて、どうしようもない、あの男に復讐できる。そうしないと自分は狂ってしまう。
 あいつをこの手で痛めつけなければおかしくなる。この役目は誰にも渡さない。

 それに、あえて口に出さなかったが一つの可能性に思い当たっていた。

 それは、王女フレアが生きているのではないかという事実。どうも、やつが部屋に火をつけたことに疑問が残る。
 あれは何かを隠すために行ったことだ。

 王女フレアのことを近衛騎士隊長は愛していた。恐れ多くて口には出せないが、いだいていた感情は恋であり、肉欲。
 どれだけ思おうと手が届かなかった存在。だが、もしも死んだと思われた王女フレアが偽者で、本物が奴の傀儡になっているのなら、奪ってしまえる。

 それは、彼にとってどうしようもないほど魅力的なことに感じた。
 ほしい、ほしくてたまらない。王女フレアの微笑みが、あの体が、あの声が、すべて自分のものになる。

 復讐と欲望。
 その二つに染まった男が動き出す。
 そのことにまだ、【癒】の勇者ケアル……いや、ケアルガは気付いてなかった。
今日から二章!
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