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エピローグ:回復術士はセツナを手に入れる
戦いが終わった。
氷狼族の村を襲い、氷狼族を奴隷としてラナリッタに売ることで金を得て、さらには経験値をあげて兵士たちを強化するというジオラル王国の野望はくじいた。
そのあとは、別行動をしていたフレイアを呼び戻し、セツナと三人で氷狼族の村に招かれた。
俺とフレイアは人間にもかかわらず英雄扱いで手厚い歓迎を受ける。
氷狼族たちは感謝の言葉を伝えて、食べ物や宝石などを押し付けてくる。
少々意外ではあった。感謝するが、人間は嫌いだぐらいは言われると思っていた。
一通りの歓迎が終わり、人だかりの中から一人の男が前へでてくる。
「セツナ、よくぞ帰ってきた。それも【剣】の勇者を連れて。俺はおまえのことを誇りに思うぞ」
どうやら、彼がセツナの父親らしい。
「父上、セツナは……」
「おまえが連れ去られたと聞いたときは心底驚いた。見回りぐらいは大丈夫と思っていたが……やはり、おまえには戦士は無理だ。もう戦うな。夫を迎えて子をなし家を守れ」
セツナの父親は彼女をぎゅっと抱きしめる。
その言葉は、セツナが聞きたかったものではない。
第一、彼女は俺の物だ。
たとえ、彼女の父親だろうがセツナの未来を勝手に決めていいわけがない。
「無理ではないさ。才能がある。彼女が望むなら、誰よりも強くなれる。俺が保証する」
だから、親子の会話に割り込んだ。
セツナは俺の顔を見る。
せっかく再開できた親子の仲を引き裂くのは、少々気が引けるが、セツナは必要な人材だ。
「父上、セツナはこの人と共に行く。氷狼族の村を出て、いろんなところを旅して強くなる。だから、今日でお別れ」
セツナは、まっすぐに父親を見て宣言した。
それは子供のわがままとは違う。
一人の大人として独り立ちする覚悟が見えた。
不思議なのは、契約があるから仕方なくではなく、セツナは心の底から俺と共にありたいと考えているように見えることだ。
「……そうか、セツナがその道を選んだなら止めない。【剣】の勇者様、本当にセツナには才能があるんですか? 勇者の旅だ。危険なはず。セツナについていけるだけの強さと資格があると信じていいですか?」
親が子を心配するのは当然だが、心配する点が見合う強さがあるか。
氷狼族独自の考え方だろう。
「もちろんだ。俺といれば誰よりも強くなる。それは間違いない」
彼女に足りないのはレベルだけ。
そのレベル上限の壁は、彼女が未来を掴んだ瞬間取り払われた。
「なら、父親としては言うことはありません。どうか、セツナをお願いします。……これを」
セツナの父親は、蒼い宝石がついた首飾りを俺に渡してきた。
強い魔力を感じる。これは、魔道具。それも上位の。
金貨数百枚の価値があるだろう。
「これは、なんですか?」
「うちの家宝です。セツナが嫁に行ったときに、婿になった男に渡すつもりでした。あなたにこれをたくします」
もらえるというなら言葉に甘えよう。
魔力を上昇させる効果がある。あって困るものではない。
それから、彼女の父親はセツナの好物や嫌いなもの、苦手とすることや、強がって不調を隠すときの仕草などを事細かく話してきた。
きっちりと彼女の父親なんだと認識する。
彼女は愛されている。この村にいれば、父の庇護のもと、いずれは夫を迎えて平穏な生活をおくれただろう。
だが、彼女は復讐をすると選んだ瞬間、俺と共に血に濡れた道を歩くことになっている。
それは彼女にとって不幸かもしれない。
そのあと、彼と別れ氷狼族の村長の家に招かれた。
◇
「このたびは、この村を、仲間を救っていただきありがとうございました」
客間に通してもらうと、すぐに村長らしく初老の氷狼族の男性が頭をさげた。彼がこの村の村長だ。
「感謝なら、ここにいるセツナに。俺は彼女の願いでここに来た」
「そうですか。それでも、感謝をします。そして、セツナ、よくやった」
セツナはぺこりと頭をさげる。
さて、忠告とアドバイスをしよう。
ジオラル王国は、かなりプライドを重視する。亜人の村を襲って返り討ちにされて終わるなんてことはありえないのだ。
このまま、何もしなければ氷狼族は滅びる。
どう切り出そうかと考えていると、村長が口を開いた。
「【剣】の勇者様。我らはこの村を捨て、山を越えたさらに先にある、エルフや火狐族たちを中心とした国に向かいます。そこなら我らを受け入れてくれるでしょう」
「賢明な判断だ。この村にいる限り、また襲われるのは時間の問題だろう」
「ええ、氷狼族は誇り高い一族、自らの力のみで生き残ってきました。だが、それも潮時です。このままでは、我らは根絶やしにされるでしょう」
アドバイスの必要もなく、きっちりと現状把握ができていたようだ。
氷狼族は危機意識をもった種族らしい。
「そこでですが、【剣】の勇者様も同行してくださりませんか? その剣の腕があれば我らの旅は安泰です。それに、セツナもなついているようですし。彼女を妻に娶って平穏な暮らしというのもいいでしょう。もちろん、我らにできる最上の待遇を」
俺は静かに首をふる。
視線を感じて、セツナのほうを向くと、セツナは顔をそらした。若干顔が赤い。
「その話は辞退する。俺には、俺の目的があり旅をしている」
第一、彼女はすでに俺の所有物だ。
彼女は俺を繋ぐ鎖にはなりえない。
「そうですか。わかりました。出発は明後日とします。今日は宴をしますので、是非楽しんでください。精一杯、この村の英雄をもてなさせていただきます」
「ああ、楽しみにしている」
それで話は終わり。
あとは適当な雑談をして切り上げた。
◇
宴は夜遅くまで続いた。
氷狼族の作る酒は、辛く強い酒で喉をつよく焼く。くせは強いがなかなかうまい。
無警戒に呑んだフレイアは酔いつぶれて、貸してもらった部屋で眠っている。
そして、俺は宴を抜け出し夜の森に来ていた。
夜の森でセツナに木に両手をつかせ、突き出させた尻を後ろから……。
◇
「……今日は激しかった」
「戦いのあとは興奮するからな」
セツナが、顔を赤くして着衣を直している。
セツナのレベル上限はまだまだ低い。レベルの上限解放は、きっちりとやらないと駄目だ。
今日やらなかったからと言って、明日に今日の分ができるわけでもない。
「セツナも興奮した。すごく」
幼い少女の淫靡な姿とはどうして、こうそそるのだろう。
衝動を抑えきれずに口づけし、セツナを貪る。
「どうだ、自分の手を汚して憎い相手を殺した感想は」
セツナは目を閉じ、拳を握りしめ、それから口を開いた。
「気持ちよかった。頭も体も燃えるほど熱くて、爪を振り下ろすとき、ちかちかして、泣き叫ぶ相手をみると、よけいに燃えて、動かなくなったとき、どうしようもなく笑いたくなって……、ただ、夢中で、殺して、殺して、気が付いたら、急に嘘みたいに自分が冷たくなって、真っ白になって、涙が流れた」
セツナは自分の体を抱きしめた。
それはまるで何かに怯えているようでもあった。
「ほう、後悔しているか」
「してない。ずっと、こうしたかった。こうしてないと気がくるってた。セツナたちの苦しみの百分の一でも思い知らせてやれた」
その言葉とは裏腹に、セツナの顔は青ざめている。
「なら、何を怖がる。何を怯える」
「わからない、だけど、ただ一つ、わかったのが、まだ足りないってことだけ。まだ、セツナの復讐は終わってない。だから、真っ白になったあと、また逃げる背中を追った。それでも、まだ足りない」
セツナは笑う。
まだ、足りないと。
そうだろう。復讐とはそういうものだ。
セツナは、たしかに憎い相手をたくさん殺した。だが、セツナが失ったものは何も返ってきていないから満たされない。
満たされないから、復讐は終わらない。
「なら、思う存分復讐を続けるといいさ。おまえたちを弄んだジオラル王国との連中とは、まだいくらでも戦える。俺と一緒にいる限りな」
「ん。楽しみにしてる」
俺はセツナの白い狼耳ごと頭を撫でる。
彼女が俺に体重を預けてきた。
「約束、氷狼族のみんなを助けて、セツナに復讐をさせてくれた。だから、セツナの全部をあげる」
俺はにっこりと笑う。
セツナは今から真の名をあかす。
人間以外のすべての生き物にある、魂に刻まれた真の名。
それを知れば、俺はセツナのすべてを意のままに操れる。
本当の意味でセツナは俺の所有物になる。
「ケアルガ様、セツナの、セツナの真の名は……」
セツナの真の名が脳裏に刻まれる。
俺はその名を使って契約魔術を発動する。
セツナと俺がつながった。
これでセツナは俺のものだ。
「ありがとう。セツナ、死ぬまで可愛がってやる」
「ん。そうして、その覚悟はあるし。たぶん、セツナにとって幸せだから」
一生、奴隷として仕えることが決まったのにセツナは笑った。
変わったやつだ。
まあ、いい。
こいつは使える。使いつぶさないように大事に可愛がってやろう。
俺はセツナの頭を撫で、レベル上限解放のためではなく、純粋に欲望のためにその場でセツナの体を貪り、セツナは嬌声をあげてそれを受け止めた。
◇
ことが終えたあと、セツナに大切なことを伝えるために森の奥にある鍾乳洞に来ていた。
そこは、街の地下水脈に通じる場所だ。
そして、今回の奇病の発生源でもある。
「セツナ、おまえと一緒に奴隷になった氷狼族の二人は、奇病の苦しみに耐えきれずに死んだといったな」
「うん、そう。奴隷にされたお店で奇病にかかった」
「つまりは、直接的には奇病に殺されたわけだ」
セツナはいぶかし気に、首をかしげる。
俺が何を言いたいかわからないみたいだ。
「実は、俺は奇病の正体が水源に混入した魔物の毒であることは知っていたんだ。そして、氷狼族の村の近くで同じ毒を持つ魔物を見た。それでピンときたんだ。これは人為的に仕組まれたものだってことがな」
魔術で毒の発生源であるこの鍾乳洞の場所を突き止めた。
ここは、氷狼族の村とラナリッタの中間点にある。
さらに、毒の発生源の魔物は氷狼族の村に近くに生息する魔物。
ここまでくれば誰だってわかる。
俺は鍾乳洞の水底に沈んでいたそれを引きずりだす。
猿と蟹が混ざったような魔物が半死半生の状態で鎖につながれ重りで沈められていた。
さらには、傷口を金具で固定して絶え間なく体液が流れるようにして。
「奇病は、氷狼族が起こしたものだ。動機は復讐だろうな。セツナたちや、今回見せしめに使われた氷狼族の五人が攫われた時期、それと奇病の蔓延時期は一致するんだ。憎い人間を一人でも多く殺すために、よく知恵を絞ったものだ」
俺は笑う。
ジオラル王国も無慈悲なことをするが、ある意味氷狼族はそれ以上だ。
殺した数なら、圧倒的に勝る。
街一つ、潰すつもりで仕掛けていた。
「……そんな、セツナたちの、病気の原因は、氷狼族?」
「そうだな。まあ、元は言えば攫った奴のせいなんだけど、直接的な原因は氷狼族のほうだな。さて、セツナ。おまえに問おう」
このことは、別にセツナに教える必要なんてなかった。
ただ、他人の復讐を眺めるためという俺の趣味だ。
「俺は、この毒性をさらに高めることができる。そうした場合、おまえの大嫌いな人間はもっとたくさん死ぬだろう。逆に、この魔物の毒を弄って薬が流れるようにしてやれる。病に苦しむ人々が解放されるだろう。なんなら、これをやらかした奴を突き止めてもいい。おまえの友達を殺した氷狼族を殺せるチャンスだ。選ばせてやろう。本当の意味で、セツナが俺のものになった記念だ」
さあ、どう選択する。
なにを選んでもセツナは傷つく。
だからこそ、俺は問いかけるのだ。
「ケアルガ様、みんなを癒して。お薬が出るようにしてほしい」
セツナの答えは一番意外なものだった。
憎い人間を救うものだから。
「いいのか、それで」
「いい、人間が苦しむのはいい。でも、セツナたちみたいに、関係ない人が苦しむのは辛い。それに……」
セツナはためをつくり、残酷な笑みを作った。
「どうせ、やるならこの爪で直接がいい。こんなのじゃつまらない」
俺は思わず拍手する。
最高の答えだ。
幼い少女を、過酷な環境がこれほどまでに歪めた。
今の今まで、俺はセツナのことを思ったより、まともだと思っていたが、とんだ思い違いのようだ。
十分壊れている。あるいは俺以上に。
「ああ、じゃあ、そうしよう。セツナ、これからも頼むぞ」
「ん。ケアルガ様、これからよろしく」
俺の復讐の旅はまだ始まったばかり。
王女フレアは、記憶を失いフレイアとして俺に愛をささやき、尽くして、自分の国に牙をむき。罪を重ねる。
いずれ、すべてを思い出したときどんな反応をするだろう。
氷狼族のセツナは、俺の共犯者兼理解者として支えてくれる。一生俺から逃れられない。俺の可愛い所有物。
ただ、苦しく孤独な戦いが、気付けばこんなにも楽しくなってきた。
さて、次は何をしよう。
気が付けば俺は声を上げて笑っていた。
楽しい旅は、まだまだ続いていくのだ。
一章、完結のエピローグ。ここが一つの区切りです。ここまでで評価をもらえるとすごく嬉しいです!
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