限定復刊で大きな反響を呼んでいた泡坂妻夫「湖底のまつり」が完全復刊し、全国の書店で買えるようになると同時に大きな反響を呼んでいるようだ。
美しくなったカバーと共に、帯には読み手の好奇心をそそる文字がいっぱいだ。今日はそんな「湖底のまつり」を読んでみようと思う。
目次
奇術師・泡坂妻夫
1976年に「DL2号機事件」で幻影城新人賞に佳作入選し、46歳で作家としてデビューした遅咲きの小説家である。遅いデビューでありながら体力のいる創作活動を多くこなし、数多くの小説を書き上げている。また様々なトリック・文体を使いこなしミステリーに限らず多くのジャンルを手掛けた。1978年には「乱れからくり」で第31回日本推理作家協会賞
1988年には「折鶴」で泉鏡花文学賞
1990年には「蔭桔梗」で第103回直木賞を受賞している。
さらに本物の奇術師としても著名であり、創作奇術に貢献した人に贈られる「石田天海賞」を作家デビュー前の1968年に受賞している。このことからも常日頃から「トリック」に親しんでいたことが窺われる。「生者と死者」に見られるような読者を楽しませることを意識した小説は奇術師としての経験、観客を驚き楽しませるというところからきているのかもしれない。
また実家は東京神田で「松葉屋」の屋号を持つ「紋章上絵師」である。
そんな関係で「家紋の話」などのエッセイを執筆していたりもする。まさにエキセントリックな小説家である。
「湖底のまつり」を読む
「なるべく予備知識を持たずに読まれることをお勧めします」と帯にもあるので、詳しくは語るまい。が、一つだけ言いたい。
「東京創元社はセールスが上手いな!」
と。もはやこれに尽きるのではないだろうか?
この本を手に取り、読み終わった後に脳裏に浮かんだのは中町信の「模倣の殺意」だ。これは決して中身やトリックが似ていると言っているのではない。セールスの仕方が似ているのだ。
「模倣の殺意」もおそらくかなりの部数を販売したはずである。そしてこちらもネームバリュー的にも同等かそれ以上の部数を見込めるのではないだろうか?表紙カバーも今風に洗練しつつシンプルな物になっている。
読み終わった後の感想も「模倣の殺意」と同じく「入門書」という感じだ。
本が売れない売れないと嘆かれる昨今、生き残るには小説も進化していかないといけないわけで、やはり年代を経てしまったものはトリック的に劣ってしまう可能性があるのは仕方のないことだろう。
だが、1章で大よそのストーリーとトリックに見当がついて2章でほぼ確定的となってしまうのはさすがに早すぎる。
しかしながら「湖底のまつり」にはそれを補ってあまりある華麗な筆致と描写がある。
登場人物の心情描写も随所に埋め込まれた伏線とその回収も素晴らしい。
個人的には結末も好きなタイプのものだ。思わずニヤリとしてしまった。
オススメ度
オススメ度★★★☆☆面白さ★★★☆☆
美しい筆致と伏線の回収は見事の一言。しかしながら著者の小説には他にも「しあわせの書」や「乱れからくり」があるのでこれをベストと呼ぶわけにはいかない。が、面白いことは面白い。これ系のトリックの入門書には持って来いかもしれない。
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