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第十五話:回復術士は街を救う?
ラナリッタにたどり着いた俺とフレイアは宿を探す。
ラナリッタには来訪者が多い。
冒険者や犯罪者、貧しい村からやってきた出稼ぎの人間。
さらにはここでしか買えない奴隷を始めとした黒い品物を目当てに来た商人や好事家。
そう言った多数の来訪者を受け入れられるだけの宿泊施設が存在する。
それこそ、貧困者向けのものから富裕層向けまでいろいろと。
財布の中身を考えると安い宿に泊まりたいが、それは避けるべきだろう。
この街で、安宿に泊まるのは夜の森よりも怖い。どうぞ身ぐるみを剥いでくださいと言っているようなものだ。
宿泊客も怖いし、店主自らなんてこともありえる。
俺とフレイアは、この街の中流区画にいく。
この街はおおよそ三つに分けられていた。
貧困者、荒くれ者、犯罪者が住んでいる治安が悪く非合法なものが溢れた貧民区画。衛生的にもよろしくない。
ある程度の稼ぎがある者たちが住む、中流区画。ここは最低限の安全と清潔さは確保できている。
そして、貴族や金持ちが集まる富裕区画。多額の寄付によって、街並みは美しく治安も守られている。
所持金と安全面から中流区画のそれなりに高い宿を選ぶことにした。
「ケアルガ様。柔らかいお布団が楽しみですね。寝袋だと寝つきが悪くて」
「たしかに寝袋は疲れがとれない」
フレイアの言葉に苦笑する。疲れのせいであれだけぐっすり眠っていたのに寝つきが悪いなんて。
とはいえ、王女様はまだ旅に慣れていない。今日はたっぷりのお湯で体を拭いて柔らかい布団で眠っていただこう。
◇
その夜は、きちんといい宿がとれたおかげで疲れが抜けていた。
料金もそれなりに必要だったが、安全には代えられない。
俺とフレイアは薬を売るために貧民区画を目指していた。
それなりに奴隷は高いので、薬を売って金を作らないと奴隷を買うことはできないのだ。
昨夜まではどんなポーションを作るべきか悩んでいた。
ここに来るまで、薬効が高い野草やキノコを片っ端から採集はしているが、売れない薬を作っても仕方ないのでポーションにはしていない。
だが、今は何を作るべきか結論が出ていた。間違いなく大儲けできるだろう。
昨日の宿のことを思い出す。
中流区画でも、上のランクの店を選んだ甲斐があり夕食付きで味も悪くなかった。
ただ、一点致命的な欠点があった。
「ケアルガ様、水を飲むなって言っていましたがどうしてですか? 美味しいお酒を注文していただいてうれしかったのですが、路銀が心配です」
ちょうどフレイアが、その致命的な欠点について問いかけてきた。いいタイミングだ。答えてあげよう。
「俺の眼は特別で、悪いものが見える。水に毒が入っていたんだ。気になって調べたけど、この街の水源自体が汚染されている。上流のほうでかなりの数、毒を持った魔物の死体が沈んでるはずだ。何かあったね。毒は薄まっているけど、ある程度体に溜まると発病するかな」
水の味に違和感があった俺は、【翡翠眼】で出されたものをすべてチェックした。
はじめは、店主が睡眠薬を混ぜて、夜に熟睡した客の身ぐるみを剥ぐ、この街では定番の歓迎を仕掛けられたと思ったのだが、その毒は魔物のものであり、即効性がないものだった。
だから、フレイアには水を飲まないことを命じて、ワインを注文して飲ませた。その後、井戸の水を調べて原因を推察したわけだ。
「うっ、水が汚染されているって、水を飲まなくて昨日の料理全部危ないじゃないですか。大丈夫なんですか?」
「料理のほうはね。熱に弱い毒で火を通せば大丈夫。まあ、すごく薄まっているから、かなりの量を摂取しない限り問題ないよ。水源の汚染も魔物の死体が新しく供給されないなら、一月もすれば収まるだろうし」
まあ、放っておいて構わないだろう。
この毒による病も致死性ではないし、長期の後遺症に悩まされるものでもない。
「ふう、安心しました。この街にいる間は火を通してない水は絶対飲めませんね」
「まあ、発症しても大したことはないさ、せいぜい高熱で二か月ほど寝込み、全身に刺すような痛みが走り続けてのたうち回る程度だよ」
「いや、ものすごく大したことがありますよね!?」
フレイアが大騒ぎしている。
魔物の毒でたったそれだけなら、かなり優しい部類なのに大げさだな。
よくよく外を見ると軽度の発症者が多く見られる。
一週間後には、重病者が大量発生するだろう。おそらく、数百人、いや千人単位で。
「この街、やけに調子が悪そうな人たちが、多いですけど。まさか」
「ああ、かなり毒にやられて初期症状が出ている人が多いね。水源がやられているんだから、こうなるのは当然だ」
「すごくまずいじゃないですか!?」
これなら楽に儲けられそうだ。
実に運がいい。
そういえば、一度目の世界では、ラナリッタで疫病が流行ったと聞いたことがある。これがそれだろう。
「ケアルガ様、なにか、すごく悪いことを考えている顔をしています」
「悪いことは考えていないさ。このタイミングでここに来られたからみんなを救える。そのことを喜んでいたんだ」
そこまで言うと、フレイアは俺の意図に感づいたようだ。
「もしかして、ケアルガ様の作るポーションで治せるんですか」
「うん、なんとかできると思うよ」
俺は水筒の中の水をあおる。
それは、宿を出る前に店主に用意してもらったものだ。
ごくごくと勢いよく喉に流し込む。
「って、ケアルガ様、何、水を飲んでいるんですか!?」
「俺はいいよ。自分で治せるし、そもそもこの病を治すための材料が必要だからね」
「材料?」
「俺の血だよ。毒を飲んで抗体を作る。その抗体入りの血をベースにポーションを作るんだ。これが一番手っ取り早い方法だ」
【翡翠眼】、錬金魔術、【回復】。
この三つを併せ持って初めてできる荒業。
街を襲っている奇病は、原因不明で、治療法が見つかっておらず、感染者が非常に多い。
そのことは昨日の夜に、宿の酒場で聞き込みをして確認していた。
治療薬が売れないはずはない。
体に意識を向ける、免疫力の強化。
次々に体に抗体ができていく。【改良】でそれを促進。
錬金魔術で、抗体の抽出。手持ちの薬草からも有効成分の抽出。そして合成。そうしてできた液体を水を飲み干して空っぽになった水筒にいれる。
さて、これでポーションが完成だ。
途中で、小さな器を三十ほど購入し、成人男性の適量を注いでいく。
「すごいです。ケアルガ様、原因不明の病を治せば、この街の英雄になれますね!」
「英雄になんてなるつもりはないよ。俺は薬の製作者と名乗りでるつもりはない。俺にできる限りの量の薬は使うけどね」
「そんな、名乗り出れば、みんなに称賛されて、富も名誉も得られるのに……ケアルガ様は謙虚ですね。素晴らしい人格者です!」
俺は苦笑をする。めんどくさいので否定はしないが、フレイアは大きな勘違いをしている。
俺は100%自分のことしか考えていない。
街に蔓延した原因不明かつ、治療法の確立されていない奇病の特効薬なんて利権の塊だ。独占販売できれば、すさまじいまでの金になる。
それは危険と同義。金と権力を持っている連中は、さらなる富と権力のために、全力をもって製作者を捕え、薬を独占しようとするだろう。
金のない連中も危険だ。自分の命、あるいは大切な人の命のために、殺してでも薬を奪おうとするだろう。
いくら命があっても足りはしない。
表通りで、奇病の特効薬ができたよ。買った買ったなんて言えば、一日もしないうちに破滅する。
便利な力は常に諸刃の剣だ。そのことは一度目の世界で嫌になるほど思い知らされた。
命を扱う商売は命がけ。売り方には細心の注意が必要だ。
俺は楽に、安全に、なおかつ大儲けする方法をちゃんと考えついていた。
さて、貧民区に急ごう。
さっさと大金を手にして奴隷を買わないといけないのだから。
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