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第十四話:回復術士は弱肉強食の街にたどり着く
運よく現れた一角兎を倒し、肉をさばき、料理のために火を起こした。
もちろん、今日の夕食にするためだ。
魔物の肉に含まれている瘴気は人体にとって毒であり、魔物を食べるのは禁忌とされている。
だが、瘴気の他にも人をより強くするための因子が含まれている
魔物ごとに因子がことなる。同じ魔物を喰い続けたとしても意味はない。
例えば、この一角兎の因子を取り込めば……。
「ほう、物理攻撃の素質値が2あがりそうだ」
そう、素質値が上昇する。
ステータスはレベルと素質値の掛け算。たった2ではあるがベースとなる素質値があがるのはうれしい。
レベルがあがればあがるほど、素質値の差は大きな違いになる。
俺は捌いた肉を【改良】する。大昔の大英雄が築いた基礎理論をもとに瘴気を取り除いて因子の活性化。
魔物ならなんでも喰らえば強くなるわけではない。適当因子かどうかはその都度確認が必要だ。
おそるべきは、【翡翠眼】なしに瘴気の除去法と因子を発見した、ソージという名の英雄だろう。
他にも彼は数々の論文を残しているという噂があるが数百年前の英雄だ。ほとんど残っていない。
一度目を通してみたいものだ。ソージは剣聖の祖だ。もしかしたら、俺が【回復】した剣聖クレハに恩返しを要求したら秘蔵の資料を見せてもらえるかもしれない。もし、剣聖に再会できたら頼んでみようか。
「さあ、料理に集中しよう」
少し、考えが変な方向に行った。
先のことよりもまずは今日の夕食だ。
一角兎の捌いた肉を切り分け、一番おいしいもも肉を夕食に使うことにした。残りはジャーキーにしてストックにする。
純粋に保存食を増やしたいのと、あとで仲間になったものに食べさせ素質値をあげるためだ。
俺は、今日食べるほうの肉を薄くきり塩を振って炒める。
同時に、保存食として買っておいたパンを半分にきる。
よく焼けた肉をパンの上に載せ、さらに乾燥トマトと温めたチーズをトッピング。
簡単な料理だが、これで完成だ。
一角兎のモモ肉のホットサンド。
他にも、薬草を煮だして即席のお茶を用意した。
野宿にしてはそれなりに楽しめるメニューになっている。
「フレイア、夕食にしようか」
俺が微笑みかけると、俺の調理工程を見ていたフレイアがぽかんとしたをしていた。
「すごいです。ケアルガ様。ものすごく手際が良くてびっくりしました」
「まあ、慣れだね」
「魔物の肉なのに美味しそう」
「実際に美味しいよ。食べればわかるさ」
「でも、毒が」
「俺を信用してくれ。毒は取り除けるんだよ」
俺は、一角兎のモモニクのホットサンドをフレイアに渡す。
今の彼女は王女フレアではない。便利な従者のフレイアだ。彼女のステータスをあげておかなければ困る。
フレイアはおそるおそると言った様子でホットサンドを受け取る。
香ばしい肉の香りに、トマトのさわやかさ、それにとろけたチーズの暴力的な魅力に、フレイアはお腹の音を鳴らしてしまう。
歩き詰めでお腹が空いていたところに、こんな匂いを嗅げば仕方がない。
彼女は顔を赤くしながら、ホットサンドを見つめる。その表情は期待にあふれている。
魔物を食べる恐怖が吹き飛んだようだ。
「あの、ケアルガ様。ナイフとフォークは?」
そういえば、フレイアは元王女様だった。
おそらく、かぶりつくなんて発想すらないのだろう。
「これはこうやって食べるものだ」
説明がめんどくさいので実演する。
俺はホットサンドにかぶりついた。
ジューシーなもも肉の肉汁が溢れる。
くどくなりがちなそれをトマトの酸味が引き締めた。
保存用に固く焼き固めたパンはそれだけでは食べずらいが、ぱさついたパンに肉汁とチーズが絡むことでちょうどいい塩梅になる。
一言でいうと旨い。
「そんな下品に食べるのですね。でも、美味しそう」
そう言うと、どこか遠慮がちに、でもしっかりとフレイアはホットサンドにかぶりつき、もぐもぐと咀嚼し目を輝かせる。
そして……。
「美味しい!」
満面の笑顔でそう言った。
「魔物って美味しいんですね。お腹も痛くならない。これからは積極的に食べるようにしますね!」
フレイアは、小動物のようにホットサンドを少しずつ。
だけどせわしなく食べていく。
「こんな材料で美味しいものが作れるんですね。ケアルガ様ってすごいです」
「まあ、そんなに凝ったものは作らないが、快適に旅をするための最低限はおさえているんだ」
「十分です。本当にすごい。私、ケアルガ様がお料理上手だってことすら忘れてました。従者として駄目ですね。はやく、記憶を取り戻したい」
一瞬、悲しそうな表情を浮かべたフレイアは、気を取りなおして食事を再開する。
本当に美味しそうに食べる。そのことが少しうれしくなった。
食べ終わるころを見計らって俺はアドバイスをすることにした。
「魔物が美味しいっていうのは同意だけど、俺が調理した魔物以外は食べるなよ。瘴気で死ぬから」
瘴気の除去は、そのやり方を知らないと絶対になしえない。
自力での解明は不可能なほど複雑な術式だ。そして、知っていたとしても魔術としての難易度が高すぎる。だからこそ、この方法は広まっていないのだろう。
少なくても、俺は他人が処理した魔物肉は怖くて食えない。
フレイアは、食後のお茶を吹き出す。
放っておけば、自分で魔物を狩って食べそうだから忠告をした。
まあ、これだけ言えば変なことはしないだろう。
◇
夜の森で一夜を明かす。
俺は眠りながら、一部だけ意識を起こして警戒していた。
街で購入した獣よけの香を焚いているとはいえ、夜の森は怖い。獣も魔物もいる。こうして警戒しながら休むというのも、俺が【模倣】した技能に頼らない技術の一つだ。
横目でフレイアを見ると、警戒心のかけらもなく気持ちよさそうに眠っていた。めずらしく体を酷使して疲れたのだろう。
少し、可愛いと思ってしまった。
今日も眠る前にフレイアの体を楽しんでいる。記憶を消されて、俺を愛しい男性だと思っているフレイアは喜んで受け入れた。
「情が移らないようにしないとな」
記憶が消えてフレイアとなり、無邪気に俺を慕うフレアを見ていると、心がざわつく。憎しみが薄れていくんじゃないかと不安になる。
俺は王女フレアを殺さずに、フレイアとして利用することを選択した。
理由はいくらでもある。
まず、【術】の勇者としての戦力が優秀。
勇者の経験値二倍はパーティ内に重ねがけが可能であり、だいたいが利かない強力な能力。
殺すよりも、道具として利用したほうが屈辱的。
そう、俺は自分が最強に至るため、そいて王女フレアへの復讐のためにこうしているだけだ。
だから、利用するし、もし俺の身に危険がせまったら盾にしてやる。
最後の最後まで利用しつくして、ぼろ雑巾にして使い捨てる。
けっして殺すのを躊躇したわけじゃない。
だいたい、まだ一人目だ。俺の復讐は終わっていない。
【剣】と【砲】が残っている。
彼らは、利用できるかもしれないが殺してしまおう。もう、これ以上余計なことに頭を悩まさないために。
◇
翌朝、俺たちは野営を撤去して出発した。
朝食には、昨日余った肉を使ったスープを食べてある。
出発前にステータスを確認した。昨日取り込んだ魔物の因子が体に馴染み、俺とフレイアの物理攻撃の素質値が2上昇している。
それによって俺は、物理攻撃が130から132となり、フレイアは70から72となった。
大した変化がないように見えるが、これから積み重ねれば積み重ねるほど大きな違いになる。
一角兎の因子をこれ以上摂取しても意味がないとはいえ、適応因子を持つ魔物の種類だけ少しずつ強くなっていけるのだから。
翌日は想像以上にはやいペースで進んだ。
フレイアが昨日よりも肉体労働になれたおかげだ。
それにより、高レベル者のステータスどおりの力を発揮でき、日が完全に沈む前にラナリッタの街につくことができた。
ラナリッタには、他の街にあるような身分確認はほとんどなくあっさりと入ることができる。
街に入って歩いていると、俺たちの後ろから馬車がやってきた。とんでもないスピードでぎりぎりを通る。
かなりの危険走行だがラナリッタではこれぐらいは日常茶飯事だ。ふと見ると、馬車の荷台部分は檻になっており、鎖に繋がれた猫耳少女たちが檻を両手でつかみ、鳴いていた。
きっと亜人の村から攫われてきて奴隷として売り飛ばされるのだろう。
さっそく、この街の混沌じみた活気に圧倒されそうになっている。
王国のように碁盤目の整然とした街並みではなく、町民それぞれが自分の都合だけを考えて、乱雑にならぶ建物。客寄せの声と怒号が常に響き、夜なのにいまだ街中が照らされ続ける眠らない街。
ラナリッタには、さまざまな呼び名がある。
数々の犯罪が起こり、非合法の商品が行きかう【暗黒の街】。
法の整備もあいまいで、何もかもが自己責任で常に争いが巻き起こる、それゆえに強いものにとっては楽園となる【弱肉強食の街】。
だがそれゆえに、どの街よりも活発で金が行きかい、毎日富豪が生まれる【黄金の街】。
ここでは命の値段は安い。少し油断すればすべてを奪われる。
奪うほうに回るには強さと頭の良さが必要だ。俺は奪うほうに回ってみせる。
さあ、宿を手配したらさっそく奴隷を買いに行こう。
優秀な盾を手に入れるのだ。
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