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第十二話:回復術士は仲間を探して次の街へ
復讐を終えたあとは、城を脱出する方法を考えていた。
部屋には鍵をかけているが、仮にも王女の部屋だ。いつ、誰が来てもおかしくない。
大きなお荷物があることが脱出のハードルを上げている。
一人なら、簡単に抜け出せるが二人となると工夫がいる。
「まあ、そのまえに当座の資金をもらっておこう」
俺は侍女の死体から財布を抜き取る。
さらに部屋を漁って換金しやすい宝石類をたっぷりと手に入れた。
実は、近衛騎士隊長の財布もいただいていた。
さすがは、王女の近くにいるものたちだ、金貨を平然ともち歩いている。
しばらく金には困らないだろう。
【回復】の力を使って稼ぐのは容易いが、派手に稼ぐと目立ってしまうというジレンマがある。
せめて、この街を離れるまでは騒ぎになるようなことは避けたい。
俺は近衛騎士隊長の鎧を着こむ。
近衛騎士隊長の姿なら、正面から逃げることができるだろう。
ああ、近衛騎士隊長もバカなことをしたものだ。
彼が、王女の部屋に行ったことは彼の部下たちが証言する。
この騒ぎの罪はすべて、彼が背負う。
俺は城を出た後に姿を変えるため、まず捕まらない。
王家は間違いなく、彼の血縁をすべて皆殺しにするだろう。
「さてと、この女をどうにかしないとな」
近衛騎士隊長とはいえ、全裸の女を背負っているところを見られたらさすがに怪しまれる。
全裸で気を失っているフレアに、鎧の下に着こんでいたインナーを着せた。フレアの服はこの部屋にはない。きっと、衣装用の部屋があるのだろう。侍女の服は血まみれでこうするしかなかった。
顔を【回復】しているので、フレアとは誰も気づかないはずだ。もし咎められたら、とある貴族の令嬢が酔いつぶれて家に送るところだとでも言おうか。
出発の準備も整ったし、俺は【改良】を唱えて、近衛騎士隊長に変装する。
さらに、燃えるものをあつめて最適な場所に配置した。
そしてたっぷりと照明用の油をかけて火をつける。
小さな炎が生まれ、煙があがる。
一時間後には火事になるように調整した。城から出るころには盛大に燃え上がっているだろう。
これは陽動作戦と、証拠隠滅というやつだ。魔術による調査というのは、案外バカにならない。
この部屋に残った痕跡から真実が明かされたり、俺たちを追尾される可能性がある。
それにしても、王女を惨殺してから部屋に火をつけるという、とんでもない大罪を犯してしまった。捕まればいったいどれだけの罰を受けるのだろうか。
まあ、いいや。
どうせ、罪を被るのは近衛騎士隊長だし。
なにか、見落としている気がする。
なにはともあれ、急ごう。
火が燃え上がるまで時間がない。
俺は、フレアをお姫様だっこして部屋を出た。部屋を出る瞬間は気を使う。さすがにここを見られればどうしようもない。
城を出る途中に、案の定引き留められたが、事前に用意した言い訳であっさりとかわすことができた。
女を連れ込んでお楽しみだったと、下種な勘繰りをされてしまったが問題はない。
城を出て街に出た俺は街の中を流れる川に向かい、騎士鎧を流す。
剣だけはもらっておく。ただ、俺が使うには大きすぎ重く取り回しが難しい。
せっかくなので錬金魔術で俺好みに形を弄った。
ふと、城のほうをみる。
火がぼうぼうと燃えていた。
ああ、きれいだ。我ながらいい仕事をした。
夜に街の外にでるのは危険だ。
とりあえず宿に泊まろう。
さて、俺はどんな顔に【改良】しようか。
そうだな、俺の内面を反映して、人の好さそうな好青年風にしておこう。
うん、それがいい。そっちのほうが便利そうだ。
水面を見ると、俺のイメージどおりのいかにも善人そうな顔の少年が写っていた。
その後は俺はフレアを抱えて、中級程度の宿に泊まった。やっぱり、財布を抜いてきてよかった。
彼らの金は有効活用しよう。
◇
宿で一晩を明かす。
そんな中、今後のことを考えていた。
俺が今後どうするかだ。
目的は主に三つ。
一つ目は、復讐の続きだ。剣と砲の勇者に可愛がってもらった礼をしないといけない。
あの二人は、フレアに恋い焦がれていた。そして彼女の好感度を稼ぐために、彼女の嫌いな俺をたいそうひどい目に合わせてくれた。その礼はきっちりとしないといけない。
二つ目は、魔王に会いたい。
別に彼女に恨みがあるわけじゃない。ただ彼女の最後の言葉が気になった。何を守ろうとしていたのかを知りたい。
ついでに、人間と魔族の戦争を終わらせるのもまた一興。
三つ目は、極限まで強くなりたい。
正直、今の状況はかなり悪い。苦難に立ち向かえる強さがほしい。
昨晩、突如自分がしでかしたとんでもない失態に気付いた。
俺の姿に【改良】した近衛騎士隊長を殺し忘れた。普通の手段では絶対に治せないように喉は潰して、ペンも持てない体にしたが、何分、鑑定紙でステータスを見られてしまうと、彼こそが近衛騎士隊長だということがばれる。
そうなれば、俺が姿を変える能力をもっていることに気付かれ、昨晩女性を抱えて外に出た近衛隊長が俺だとばれる。
さらに、その女性がフレアだったということまでつながりかねない。
もっとも、あの状態の近衛騎士隊長に鑑定紙を使うことは考えにくい。
するにしても、【回復】をまったく使わなくなり、困りあてて原因解明のために……という流れになるから時間的な猶予はある。
あるいは、エリクサーを使で治療された近衛騎士隊長が必死に自分はケアルでないと訴えればあるいは……。
「今から、城に忍び込むのも辛いしな」
王女が殺されて、放火された今、かつてないほどの厳重な警備がされている。
あまり、無用なリスクは背負うべきではないだろう。
一番安全なのは、とっとと他国に逃げること。今日丸一日、フレアが生まれ変わるための作業をして明日には出発だ。
行くとすれば、東の国を目指すべきだ。あそこは自由都市をうたっていて人の出入りが多く、管理が緩い。
となりで、女性がもそもそと動く。フレアだ。昨日はフレアと同じベッドで眠っていた。
ようやくお目覚めか、記憶の消去はうまくいったかな。
フレアが目を覚まし、きょろきょろと周りを見渡す。
「あれ、ここはどこですか? 私はいったい、何を」
そして、きょとんとした顔になった。
しばらく考え込み、頭を抱える。
「何も、思い出せない、そもそも、私は、誰?」
不安そうに、必死になって考え込む。
無駄なことをする。
どうせ何も思い出せない。
もう、記憶は消されているのだから。
いや、若干違うな。記憶の扉を開くカギをなくしているというのが正しい。
いかに俺の魔術でも、記憶を消し去ることはできないので、思い出せなくしている。
そのうち、引き返せないところまでいったら思い出させてやるのもいいかもしれない。
たとえば、俺に惚れて悪と信じた自国を滅ぼしたあとなんてシチュエーションも楽しそうだ。
妄想はおいておき、さっこく仕込みをしないと。
「ようやく、目を覚ましたのか。安心したよ」
俺は、フレアの体を抱きしめる。
まるで、恋人にするように。
「あっ、あなたはいったい誰ですか?」
「俺のことを思い出せないのか!?」
あえて、驚いたような反応をしてみる。
「ええ、そのわかりません、自分のことすら」
フレアを抱擁から解放して、肩をがっしりと掴む。
「そんな!? なぜそんなことに!? おまえの名前はフレイア。おまえは俺の従者だ。あんなにも愛し合った仲だというのに。すべてを忘れたと言うのか……」
目をまっすぐに見つめる。
催眠魔術を使いながら。
俺の体内に残留していた麻薬成分を錬金魔術で抽出し気化させる。
魔術と薬の二重奏。
記憶がなく、ブランク状態の人間にはよく利く。
俺の中にある知識を有効活用すると、これぐらいはできるのだ。
フレイアというのはフレアの新しい名前だ。見た目が違うと言っても名前を変えたほうが安全だ。元の名前に近づけたのは無意識化の違和感を減らすため。
「私と、あなたが、愛し合って」
「そうだ。おまえは俺のことを深く愛してくれていた。三日前から、おまえは高熱で気を失っていったんだ。せっかく、目を覚ましてくれたのに、記憶を失ってしまうなんて!? かわいそうなフレイア」
雑な設定と芝居だが、今のフレア相手ならそれで十分だ。
その証拠に、とろんとした目で、俺の吹き込んだ適当なことをどんどん信じていく。
俺は、面白おかしく設定を入れていく。
フレア改め、フレイアという女性は俺に仕えることに至上の喜びを感じ、俺のためなら喜んで命を差し出し、どんなひどい命令でも喜んで従う従順な雌豚だと。
「私は、フレイア、あなたの下僕で、雌豚」
理性の失った目で、それを復唱するフレア。いや、フレイア。
「体を重ねたら、思い出すかもしれない。フレイア、いつものようにおねだりするんだ。ほら……」
そうして、ありもしないいつも。ありもしない性癖を吹き込み、弄んだ。
ことの最中、催眠状態での快楽で完全に刷り込みが終わる。
すべてが終わったあと、ベッドで横になる。
フレイアが手を繋いでくる。ああ、本当にご主人様と思い込んだみたいだ。
ベッドでまどろみながら、フレイアがまるで俺を愛おしそうに見て、口を開いた。
「ふふ、まだ記憶は戻りませんが、あなたが大切な人だということはわかります。大事なことをまだ聞いていませんでした。あなたのお名前は?」
少し悩む。
そう言えばまだ決めてなかった。
せっかく、見た目を変えたのだ。なら、名前も変えないと。
そうだ、強そうな名前がいい。
「俺は、ケアルガだ。もう、忘れるなよ」
生まれ変わった俺はケアルガ、ケアルよりも強そうだ。
◇
フレアを可愛い奴隷のフレイアにするのに一日使い、翌日は街で旅支度を整えていた。
王女様は、健気に荷物持ちをしてくださっている。それも満面の笑顔で。なかなか、楽しめる光景だ。
次の街に行けばまず奴隷を買おう。
前衛が最低一人ほしい。
素質値の割り振り変更は自分にしか使えない。魔術士のフレアは肉の壁としては性能が低いので、絶対に前衛がいる。
亜人の奴隷がいい。亜人は、とある仕組みで絶対に裏切らない。人間は信用できない。いつ裏切るかわかったものではない。洗脳をするのは復讐の対象とだけ決めている、善人な俺には亜人の奴隷以外に選択肢がない。
そして買うなら女がいい。レベル上限を上げる際にそっちのほうが便利だ。男でもできなくはないが気分がよろしくない。
そんなことを考えていると、掲示板が目に入った。
「あははははははははは!」
思わず爆笑してしまう。
なにせ、そこにあったのは俺の予想通り、近衛騎士隊長の似顔絵。彼が大罪人として高い懸賞金がかけられている。
よく見ると、町中に近衛騎士隊長の似顔絵が貼られていた。
まったく、見当違いの奴を探していやがる。
これなら、あっさりと逃げられそうだ。
さあ、この国の連中が間抜けを晒しているうちに、仲間を探しに次の街へ行こう。
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