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回復術士のやり直し~即死魔法とスキルコピーの超越ヒール~ 作者:月夜 涙(るい)

第一章:少年はすべてを思い出し回復術士になる

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第十話:回復術士はフレア王女に会いに行く

 深夜になり、見張りが俺から意識を外した隙を見計らって、錬金魔術を使い牢から抜けだした。

 地下牢に閉じ込めらてから一か月。
 正気をとりもどしてさらに二週間。
 その間に俺はたくさんの英雄たちを【模倣ヒール】と【略奪ヒール】することで、レベルと技能を手に入れた。そして彼らのステータスでは見えない知識と技術を手に入れた。

 さらに、己の【改良ヒール】により肉体は最適化された上で、素質値の割り振りを変更し十分なステータスを手に入れている。

--------------------------------------------------
種族:人間
名前:ケアル
クラス:回復術士・勇者
レベル:34
ステータス:
 MP:99/99
 物理攻撃:81
 物理防御:54
 魔力攻撃:63
 魔力抵抗:47
 速度:79

レベル上限:∞
素質値:
 MP:80
 物理攻撃:130
 物理防御:83
 魔力攻撃:100
 魔力抵抗:72
 速度:126
 合計素質値:591


技能:
・回復魔法Lv2
・神剣Lv4
・見切りLv4
・錬金魔術Lv4
・縮地Lv3
・明鏡止水Lv2

スキル:
・MP回復率向上Lv2:回復術士スキル、MP回復率に二割の情報補正
・治癒能力向上Lv2:回復術士スキル、回復魔法にプラス補正
・経験値上昇:勇者専用スキル、自身及び、パーティの取得経験値二倍
・レベル上限突破(自):勇者専用スキル、レベル上限の解放
・レベル上限突破(他):勇者専用スキル、魔力を込めた体液を与えることで、低確率で他者のレベル上限+1
--------------------------------------------------

 これが今の俺のステータス。
 平均より高めの物理・魔力防御をもち高速・高火力な前衛向けの割り振り。

 単独行動になるため、一対多数向けに最適化した能力値にしている。可能な限り戦いは避けるが、戦いになった場合は必ず一対多になる。戦いにならないのがベストとはいえ、備えは重要だ。

 さて、時間がない。
 見張りの兵を始末しよう。

 今は見張りが俺に背を向けていた。音を立てずに開錠しているが数分後には気付かれる。

 だから……。
 無音での高速移動。
 技能として体に定着させていないが、俺が【模倣ヒール】した英雄のなかには、偵察スカウトに長けた英雄もいた。その技術を使う。

 無駄なく、滑らかな猫を思わす動きで背後に忍び寄る。
 人間は、技能がなくても純粋な技量のみでこの程度のことはできる。
 兵士に手を触れた。

「【改悪ヒール】」

 物理・魔力防御無視の即死攻撃、【改悪ヒール】。
 壊れた形に回復することで人体を壊す。俺だけに許された力。

 なにもできないまま、見張りの兵士は屍となる。悲鳴すらあげさせない。
 倒れて音がならないように受け止めて、優しく地面におろす。

「死体からは、【略奪ヒール】できないのが恨めしいな」

 一人愚痴る。
 魔力と経験値を奪う【略奪ヒール】は生きているものしか対象にならない。
 安全を考えると、即死させたいが。そうすると魔力の補給ができない。悩ましい。

改悪ヒール】は燃費が悪い。
 MPを20近くもっていく。使えるのはたった四発。考えて使わないといけない。
 いや、『いい方法を思いついた』。あとで試してみよう。

 兵士を一人片付けた俺は、急いで見張りの兵士の詰め所に行くことを決めた。
 見張りは常に二人体制だ。
 一人が檻のあるフロアを見回り、もう一人が常に詰め所にいる。

 外にでている兵士が戻ってこなければ、人を呼んでから見回りに来るだろう。
 脱走したことを知られないためには、始末する必要がある。

 俺は今さっき始末した兵士から剣を奪う。剣がなければ、せっかくの剣聖の技能が生かせない。
 剣を握った瞬間、剣聖の技能が有効化した。
 剣が手になじみ、力が満ちていくのを感じた。
 さて、時間がない。手際よく行こう。

 ◇

 偵察スカウトの技術で無音で詰め所に忍び込む。
 詰め所にいる兵士は、書類仕事をしていた。
 おかげで、外への注意が散漫だ。
 俺から見るとただのカモもいいところ。さきほどと同じように死角から忍び寄るり背後に回る。
 そして……。

「【改悪ヒール】」

 二度目の【改悪ヒール】を使う。
 兵士が崩れ落ちる。
 だが、まだ生きていた。

「ふむ、こっちのほうが便利だな。【略奪ヒール】」

 今度はしっかりと経験値と魔力を奪った。
 今回の【改悪ヒール】は工夫している。
 脊髄を壊すだけにとどめた。つまるところ植物人間にするだけ。これなら、しっかりと【略奪ヒール】できるし安全だ。

 ついでにしっかりと【回復ヒール】で記憶を奪ってあった、警備体制も確認する。

 魔力も戻ったし、準備をはじめる。
 俺は、兵士の服を脱がしそれを身にまとう。

「さて、どれだけ時間が稼げるやら」

 着替えながら頭を回転させる。
 詰め所に交代の兵士が来るまでは脱走がばれないだろう。
 だが、兵士の記憶によると次の二人組が来るまであと一時間ほど。
 さすがに交代の兵士が来たら俺の脱走がばれる。

 だが、それだけあれば俺の計画の達成には十分だ。
 兵士の服を着た俺は悠々と地下牢のあるフロアから脱出した。

 ◇

 地下牢のあるフロアから抜け出た俺が次に目指すのは、騎士たちの宿舎だ。

 ただ、逃げるだけなら必要のない場所だ。
 兵士に偽装してうまくやれば、このまま城を抜けだすのは容易いだろう。
 なにせ、俺は偽装相手である兵士の記憶と知識をきっちりといただいているのだ。
 そうそう、ボロはでない。

 だが、それではだめだ。
 まだ、フレアに復讐をしていない。そのためにはフレアに直接出会える人間を利用する必要がある。
 だからこその寄り道だ。

 目指しているのはただの騎士の宿舎ではない。
 貴族のみで結成されているフレアの近衛騎士の宿舎だ。
 彼女の近衛騎士であれば、彼女と接触できて好都合。俺の計画では近衛騎士たちを利用する。

 剣聖の技能である見切りで人の気配を感知しながら、偵察スカウトの技術で気配をけして深夜の城を用心深く歩く。

 兵士の恰好をしているからと言って、目立つわけにはいかない。なるべく見つからないほうがいい。
 持ち場を離れていることを咎められ、正体がばれるなんて間抜けはごめんだ。

 ◇

 城を出て、敷地ないにある別棟にある騎士の宿舎を目指していると、やけに城内のほうから騒がしい音が聞こえてきた。
 気配を消しながらの移動のため少々時間がかかりすぎてしまったようだ。

「ついに、脱走がばれたか」

 ただごとじゃない気配からそれぐらいはわかる。
 今頃、兵士や騎士たちがすべて叩き起こされて、城内の探索と、街の門へ封鎖と監視員の指示を出し、さらに見張りの兵を派遣していることまでは想定するべきだ。

 きっと、城の連中はこう考えている。
 いかに勇者といえど、レベルが10にも満たず、しかも薬中毒、見つけさえすれば、一般の兵士でも倒せる楽な相手だと。

 その勘違いが俺をいかに有利にするかも気付かずに。
 若干より予想よりも早かったものの、この騒ぎも計画のうちだ。
 さあ、騒げ、騒げ。

 ◇

 俺は兵士に偽装した状態で、高貴な騎士が住まう宿舎に足を踏み入れた瞬間、叫んでいた。

「騎士様がたに伝令を伝えにきました! 地下牢から脱走者が出た! 至急警戒を!」

 騎士たちに伝令を伝えにきたという名目であっさりと騎士の宿舎に入ることができた。兵士の身分証と、この騒ぎが、信ぴょう性をました。

 受付の者が、起床の鐘をかき鳴らして騎士たちを叩き起こす。
 近衛騎士隊長に直接伝えないといけないことがあると説明し堂々と中に入れてもらった。

 騎士たちにも身分がある。平民からのたたき上げと、貴族の騎士では露骨に待遇が違う。

 俺が入った宿舎はフレアの近衛騎士に選ばれるような高貴な血筋の連中が使っているだけあって、金がかかっている。
 その中でも一際いい部屋に奴はいる。
 扉には鍵がかかっていた。

 しかし、そんなものは錬金魔術を使用できる俺にはないも同然だ。
 ゆっくりと扉をあける。

「貴様、いったい!?」

 大男が鎧を着こもうとしているところだった。
 その大男のことはよく覚えている。
 彼は、フレアの近衛騎士隊長。

 地下牢で目覚めて初めてあった男。
 最初から、フレアと会うために利用するのはこの男と決めていた。
 それは、純粋に一番便利な立場にこいつがいるということだけではない。

 俺は執念深いし、約束は守る男なんだ。

「二八発、お前に受けた二十八発を返しに来たんだ」

 にっこりと微笑み。
 未だに、なにも気付かない間抜けに向かって俺は手を伸ばした。


~三十分後、王城の一室にて~

「集まるのが遅いです。それでもあなたがたは、この国の最精鋭、私の近衛騎士なのですか!?」
「「「申し訳ございません」」」

 フレアの近衛騎士たちは、一度目の伝令でたたき起こされ、その後、二人目の伝令によってフレア王女に召集を受けた。

 深夜にも関わらず、近衛騎士は一糸乱れぬ整列をしていた。

「まったく、あの状態でどうやって逃げだたしたというのですか、あの犬は」

 フレアは親指の爪を噛んでいた。自慢の薄桃色の長い髪もめずらしく、枝毛ができている。
 彼女は、【癒】の勇者のどこか得たいしれないところに恐怖を感じていた。
 だから、脱出したという連絡を聞いたときに、いてもたってもいられず、すべての兵士たちを動員して徹底的に探させ、近衛兵も呼び出した。

 彼のステータスも技能もわかっている。恐れる必要はないのは明白。だけど、怖い。そこに理由なんてない。
 それは、彼女の磨き抜かれた危機感知能力による第六感だった。

「フレア王女、恐れながら申し伝えたいことがあります」

 どこか誇らしげに、近衛騎士隊長はフレアに向かって口を開く。

「この状況で、つまらないことだったら怒りますわよ?」

 それは、ただ怒るという意味ではない。
 彼女の権限でしかるべき処罰を下すということだ。

「我らが馳せ参じるのに遅れたのには原因があるのです」
「まさか、言い訳をするつもりですか?」

 嗜虐的な表情をフレアは浮かべる。
 彼女の中では、近衛騎士隊長は使えないという烙印が押されようとしているた。

「いえ、そのようなものではありません。フレア王女もきっとお喜びになる話です」
「言ってみなさい」

 どこか残酷さが混じる笑みをフレアは浮かべる。

「我らの宿舎に二度、伝令があったのです。二度目の伝令は見知った顔でしたが、一度目の伝令は顔を隠す仕草をしておりました。二度の伝令は怪しく思いまして、顔を確かめてみると、なんと、【癒】の勇者本人だったのです。彼を捕えるため、私たちは到着が遅れたのです。まったくバカな男です。我が国最強の騎士団であるフレア王女近衛騎士の宿舎に忍びこむなんて」

 そういうと、近衛騎士の一人が、縄でしばられた男を突き出してきた。
 全身に殴打された痕跡が残り、喉が潰され、話せないようで、ひゅうひゅう変な音を鳴らしている。

「驚きましたわ。本当に驚きました。何を考えて騎士の宿舎になんて行ったのでしょうか?」

 顔は殴られすぎて変形しているが、それでもフレアにはそれがケアルだということがわかった。彼の面影がある。

「おそらく、兵士に紛れ込んで逃げるつもりが警戒網の構築がはやく、城外へ脱出を諦めたのでしょう。そして、空になった宿舎に身を隠す。まさに浅知恵というやつです」
「ふふ、本気でそんなお粗末な作戦が通用すると思ったのでしょうか。まったく、本当に愚かなクズですね」

 フレアは機嫌良さそうに笑う。不安の種が消えてほっとしていたのだ。

「フレア王女、こやつをとらえ、なぜ逃げたのか話を聞き出しました。その中に聞き捨てならないことがあります。私の部下とはいえ、それを聞かせていいのか判断に困る次第でして、人払いをしていただけないでしょうか?」
「勇者絡みの話ですか?」
「はい、私も初めて聞いたときに震えました。ぜひ、フレア王女の耳には入れておきたいかと」

 フレアは考える仕草をする。
 そして、にっこりと微笑んだ。

「いいですわ。人払いをしてもここでは不安ね。勇者関係は最高機密です。私の部屋に来なさい。残りのものは帰っていいわ。そのクズは再び地下牢へ放りこんでおきなさい。私も、あとでこんなバカなことを二度とできないようにたっぷりとしつけてあげないと」

 ボロキレのようになった【癒】の勇者は、必死にあばれ、潰された喉で何かを訴えようとするが、それが勘に触った激怒した騎士たちに、ボコボコにされる。

「それを殴るのは構いませんわ。でも、殺さないようにしてくださいね。まだ、使えますから。ちゃんと加減をしてお仕置きをしておきなさい」

 騎士たちは器用に、致命傷は避けつつ暴行を続けた。
 フレアのおかげで、なんとか【癒】の勇者は殺されずに済んだようだ。
 暴力の嵐が過ぎ去ると、雑な扱いで、地下牢へ運ばれていく。

「では、近衛隊長のみついて来てください。私の部屋はこの城で、もっとも防音が行き届いています。内緒話にはもってこいですわ」

 上機嫌なフレアは護衛を兼ねた侍女を伴い。
 近衛隊長を連れて、自室に戻った。

 ◇

 フレアの自室は、存在する家具や調度品すべてが、おおおそ考えられる最上のものを取り揃えていた。
 それでいて、下品さはなく洗練されている。
 生まれついての王族だからこそ身についたセンスだ。

「近衛騎士隊長、私の部屋に入ることができる。これ以上のご褒美はないのではなくて?」
「はっ、ありがたき幸せです」

 近衛騎士隊長は恭しく礼をする。

「では、話を。あのクズが何を言ったか気になりますの」
「それについてですが……」

 近衛騎士隊長はにやりと笑う。
 それはとても、仕える主に向けるものではない。ひどく邪悪な笑みだった。
 次の瞬間、剣を引き抜き、するどく踏み込くと護衛の侍女二人の首を跳ねた。

 その流麗な動きと疾さは、まさに剣聖のそれだ。

 いかに侍女たちが、フレアを守るためにに鍛え抜かれた実力者であろうとその速度に反応しろというのは酷な話だろう。

 侍女二人を惨殺した近衛隊長は口元を吊り上げて、目をらんらんと輝かせる。
 剣をもっていない左手を思い切り振りかぶりフレアの頬を殴りつけた。

 フレア派手に吹き飛び壁に叩き付けられ、崩れ落ちる。
 フレアに近衛隊長が馬乗りになり、顔面をわしづかみにした。

「【略奪ヒール】」

 全魔力がフレアから引き抜かれる。
 フレアは完全にパニックに陥っていた。
 頬がいたい、目の前の男が怖い、なにがなんだかわからない。

「フレア、【術】の勇者といえども、魔力がなくなった魔術士なんて、ただのひ弱な女だ。抵抗してもいいんだぞ。無駄だろうけどな」
「近衛隊長、いったい、なんのつもりで」
「近衛隊長? ああ、俺のことか」

 近衛隊長はぽかんとした顔になり、そのあと哄笑をあげた。

「なんだ、まだ気づいていなかったのか。【改良ヒール】」

 近衛隊長は、魔術を使う。
 まず、体が一回り小さくなりる。
 そして、顔がみるみる変わっていく。驚いたことにその顔は。

「おまえの大嫌いな、可愛いわんちゃん、ケアルくんが遊びに来たよ。ボクサビシクテ、ゴシュジンサマニ、アウタメニ、ロウヤ、ヌケダシテキタ! なんちゃってね。あはははははは」

 フレアが軽蔑し、犬呼ばわりされ、みじめなぼろ雑巾にされたケアルそのものだった。
 そう、ケアルは【改良ヒール】によって自らの容姿を変えていたのだ。
 さきほど、喉が潰されてぼろ雑巾になっていた男こそが、真の近衛隊長だ。

 フレアはここに来て、はじめて現状を理解する。
 護衛は殺され、よりにもよってこの城でもっとも防音の優れた部屋で自分に恨みをもった男と二人きり。
 しかも魔力は奪われ、初級魔法一つ仕えない。

 フレアの顔が恐怖に歪み、ケアルの笑みに邪気が満ちる。
 今、この部屋で惨劇がはじまろうとしていた。

 
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