立ち合い出産希望の私
営業の仕事をしていた時のことです。嫁さんの出産予定日が近づき、一生のうちでそう何度もあることのない立ち会い出産をしたいと私は考えていました。
なので、直接の上司である営業所の所長にお願いをしました。
私 「すみませんけど、〇日から〇日ぐらいで生まれるようなんで、病院から連絡があったら休ませて頂くことは出来ますか?」
所長 「まあ、状況しだいやな?」
私は、気持ち良く「良いですよ」と言ってくれると思ってたのですが、予想外でした。所長からは、すごくあいまいな返事が返ってきました。
はっきりとした返事が聞きたかった私は「えーと、大丈夫そうですか?」と再度聞きました。すると・・・
「そんな事は自分で考えたら分かるんじゃないかな?」「状況ってもんがあるだろ?」と機嫌の悪そうな表情で言われました。
周囲の負担を考えると・・・
その会社はお客さんを会場に集めてグループで営業する会社でした。私が休むと周りの人達に負担はかかりますが、一人ぐらい休んでもなんとかはなると思います。しかし所長の「状況を考えろ」という言葉がひっかかり悩みました。
そんな悩んでいる私の姿を見た先輩が所長に・・・・
「すみません、僕からもお願いします。熊さんを休ませて下さい」
先輩の言葉に所長は「俺は別に休んだら駄目と言っていない」「別に、休みたかったら休んだらいいんじゃないかな?」「人それぞれの考えってあるしな・・・」と言いました。
とりあえず、休んでもよさそうな許可をもらったと思いました。しかし、なんとなく申し訳ない気持ちになりました。
実は所長は私よりも数カ月前に子供を授かっていました。所長は出産日のことなど、私達にはなにも言わずに仕事にきていたのです。生まれてから私達に報告してきたのでした。
所長はお客様の前で話をするインストラクターで所長の代わりを務める社員は営業所にいなかったのです。もちろん、社長や専務にお願いしたら所長は休めたと思います。しかし、所長はそうしなかったのです。それを知っている私には、申し訳ない気持ちが生まれました。
ちなみに先輩は私よりも年下でした。
しかし、私よりも先に結婚してお子さんもいてました。私は、所長に対して申し訳ない気持ちがあることを先輩に聞いてもらいました。
私 「所長、なんか怒ってるみたいですよね?立ち会いなんてしなくても、生まれるものは生まれるという感じですかね?」
先輩 「いえいえ、絶対に休むべきですよ」
私 「でも、人それぞれの考えがあるって所長言ってたし、僕の考え方ってどうなんですか?」
先輩 「そんな所長の言葉は無視したらいいですよ。生まれそうになったら堂々と『休みます』と言った方がいいですよ。間違っても、『休んでいいですか?』と聞かなくていいですよ。『休みます』でいいですよ。だって、所長ははっきりと休んでいいと口に出したんだから」
私は先輩の気持ちをありがたく頂戴し、出産の立ち会いをすることが出来ました。
娘の生まれる瞬間をこの目ではっきりと見ることが出来たのです。予想以上でした。喜びが予想以上だったのです。想像はしていました。絶対に嬉しいだろうと、しかし、その想像の100倍の嬉しさだったのです。
腹立ちをも吹き飛ばす感動の力
驚きました。これほどまで感動をするとは、まさに想像以上としか言えません。過去の自分を思い起こしたり未来を想像してみたり、なんだか色んなことを考えて病院の外をうろうろ歩いたりもしました。空を見上げて祝福の光を浴びたりもしました。心の中で神様に感謝をしました。
その後、電話で、所長に報告すると「おめでとうございます」と言って祝福してもらえました。私は所長に嫌な表情をされたことや「人それぞれの考えがあるしな」と言われたことなどは反面教師にしようと思いました。
いつか違う立場になって、誰かに立ち会い出産で休みたいと言われたら笑顔で休ませてあげられる自分でいたいと思いました。あの時の所長は仕事仕事仕事でイライラしていたのでしょう。だから嫌な表情をしたのでしょう。しかし、そんなことはどうでも良くなりました。
なぜなら、その時は・・・
全てを許せる無敵の私だったからです。