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第二話:ティロの可能性
魔物を生み出した部屋から、居間に移動し一息ついていた。
居間にいるのは、俺のほかにはマルコとアウラとルーエ。
クイナとロロノには重要な任務を与えていた。
ひどい目にあった。
新たな魔物を生み出した。
時空を追いすがる猟犬ティンダロス。
ティンダロスは鋭角を入り口とし、異空間を行き来する能力をもつ。
しかも、出るときは半径20km以内の鋭角であればどこにでも瞬間移動できる。汎用性が高く強力な能力だ。
意外と鋭角というのは周囲にあふれている。たとえば、地面の転がっている小石ですら鋭角をもっている。
つまりところ、意識的に円形の室内など、ティンダロスの性質を知って、相手が対策していない限り、奇襲が可能だ。
その奇襲性に磨きをかけているのが、一度視認した相手は、地上のどこにいても感知できるという探知能力。
たとえば、交渉などで呼び出した敵対魔王をティンダロスに見せておくだけで、後日簡単に暗殺が可能だ。
「空間操作系の魔物とは思えないほど、素で強いしな」
しかも、ステータスが高い。
通常、異空間系の魔物はステータスが一回りか二回り、同ランクの魔物に比べて低下する。
だが、Aランクメダル三枚によって生まれた規格外の魔物ということもあり、ステータスはロロノやアウラと比べてもそん色がないほどのステータスになったのだろう。
加えて、【刻】を操る力も合わさって、一対一ではほぼ無敵だろう。
そこまではいいのだ。戦力としては文句のつけようがない、問題は……。
「おとーさん! ティロちゃんに服を着せてきたの」
「苦労した、ティロは服を着るのを嫌がる」
クイナとロロノがティンダロスを連れて戻ってきた。
ティンダロスはどこか不機嫌そうだ。
この子は良くも悪くも、中身が犬なのだ。
そのため、羞恥心などといったものが存在しない。それなのに、なぜか【人化】スキルを持っていて、犬耳の幼女に変身するのだ。
さきほどは、さっそく【人化】して、俺を押し倒してぺろぺろと顔をなめてきた。
全裸の幼女にそんなことをされたものだから、見た目は完全に犯罪だ。
おかげで、マルコに勘違いされて、ペドケルなんて失礼な呼び方をされてしまった。
「がるるるぅ」
その、ティロが俺に駆け寄ってきてすりすりとほおずりをする。俺を見た瞬間、不機嫌さがどこかに行ってしまったらしい。
大変かわいらしいのだが、かわいらしいだけに困ってしまう。
「ティロ、無理に【人化】をし続ける必要はないんだぞ」
クイナにならって、ティンダロスではなくティロと呼ぶ。
愛称で呼ぶぐらいでは、名づけにはならない。こちらのほうが呼びやすくていい。ティロという呼び方を気に入っていた。
「がるぅ♪」
この子は知性は高く、俺の言葉は理解しているはずだが犬の姿には戻らない。
きっと、なにか意図があって【人化】を続けているのだろう。
まあいい、好きにさせておこう。
まずは、マルコにいろいろと話を聞かないと、マルコならこの子が【人化】を使える理由がわかるかもしれない。
なにせ、【獣】の持ち主なのだから。
そのマルコはさきほどから俺の眼の前で紅茶を飲んでいる。さっそく微笑みかけてくれ、そして……。
「ペドケルは、小さい子にもてるね」
誤解が解けているはずなのに、失礼なあだ名で呼んできた。
「だから、不可抗力だと説明しただろ!?」
「冗談だよ。それで、【獣】と【刻】、それに【創造】が変化した【亜空】を使ったのにも関わらず、その子が【人化】できる理由を知りたいんだったね。それは、その子がティンダロスだからだよ」
ティンダロスであることなんてわかっている。
それと【人化】がつながらない。だが、マルコのことだ。ちゃんと答えがあるはずだ。
「もう少し、かみ砕いて教えてくれ」
「その子の原典は、私も知っている。【創造主】の図書館にある禁書で読んだことがあるんだ。原典は、ティンダロスの猟犬。亜空間を渡れて、時間を操れる犬なんて、それしかいないよ。君はその可能性をつかみ取った」
それには俺も同意だ。
無数の可能性で、その姿が見えたから手を伸ばした。
「だけどね、その子はティンダロスの猟犬じゃないんだ。Aランクメダル三枚を使ったSランクの超越種。ティンダロスの猟犬を超えて、その上の存在に届いている。つまりは、ティンダロスそのもの」
「そういうことか」
ようやく納得がいった。
その見た目と、【獣】のメダルを使ったから、勝手にティンダロスの猟犬と決めつけていた。
「時空を追いすがるティンダロスの猟犬っていうのは、ティンダロスという悪夢そのものの魔都、そう取り込んだものに認識させる超次元の悪意と超越的な力の塊。ティンダロスの猟犬なんて、ティンダロスに数多ある脅威でしかないんだ。この子はティンダロスの猟犬ではなく、ティンダロスそのもの……とは言っても、魔物である限り限度はあるから、再現に限度はあるけどね」
俺はティンダロスの猟犬を呼ぶつもりで、ティンダロスそのものを呼んでしまったようだ。
「つまり、その子は犬の形をとっているだけにすぎないよ。姿形なんて意味がない。ティンダロス猟犬ですら、伝説どおりなら犬に似た冒涜的なナニカで、不浄の塊だからね。まあ、なんだ。何にでもなれる、その子が人の形をとるのは、君の無意識な願望だよ。だから、私はさっきから、ペドケルとプロケルのことをからかっているわけだ」
「……そう言われると辛いな」
俺の心の奥底で、人を望んだのだろう。
でないと、ティロが人の形をとることはなかった。
だが、それはけっして俺がロリコンやペドコンだから、幼女にしたわけじゃない。
あくまで、絆を育むためなのだ。
「やーい、ペドケル。……ただ、ちょっと気になるかな。この子の【人化】は、いくらペドケルが望んだからといって弱すぎる。本来、このランクの魔物だと、もっと強いスキルになっているはず。こういう場合は、たいていレベルがあがると進化するスキルになってる。もしかしたら、レベルをあげると、この子は人じゃなくて、もっとすごいものになれるかもね。あるいは、姿だけでなく、人としての武器を手に入れるかも」
そういわれて、ティロのほうを見る。
するとティロは、不思議そうに首を傾げた。
そして、大きなあくびをして、大型犬の姿に戻って寝始める。
なんというか、すごくマイペースな子だ。その物騒な正体は想像もつかない。
もう一つ、気になったことがある。大型犬に戻ったというのに、服が破れていない。それどころか、犬ボディにフィットしている。
「ロロノ、この子の服はすごいな」
幼女形態から犬に変わると、服も自動的に形を変えているようだ
「ん。がんばった。クイナの服を参考にして作ってある。魔力で編んだ服、持ち主の状態によって形を変える。時間がなかったから即興のもの、性能は悪い。今晩がんばってちゃんとしたものを作る。この子が武器は扱えない。その分いい防具をプレゼントしたい」
「助かるよ」
「この子は、私の妹でもある。これぐらいは当然」
そういいつつ、ロロノはティロの頭を撫でた。完全にペット感覚だ。
ロロノは面倒見がいい。
ロロノの服のおかげで、全裸の幼女に押し倒されることはなくなって一安心だ。
「ロロノ、アウラ。ありがとう。おまえたちは持ち場に戻ってくれ。それから、クイナとルーエは俺と一緒に【紅蓮窟】に来てくれ。クイナは引率、ルーエは一緒に戦うことが多くなるティロの戦い方を知っておいたほうがいいだろう。これから、しばらくはティロのレベル上げを協力してもらう」
「やー♪ わかったの!」
「パトロン、僕も協力するよ。この子が育ってくれないと、いつまでたっても楽にならないからね」
二人とも、かなり乗り気なようだ。
ロロノとアウラは部屋を出ていき、クイナとルーエが武器を取り出す。
「さて、私も帰るとするよ。プロケルをからかって満足したしね」
「わざわざ来てもらったのに、悪いな」
「気にしないで。プロケルの邪魔をする気はないし。その子、大事にしてあげなよ。きっと、すっごく役に立つ魔物だから」
「わかっているさ。アヴァロンに不足していたものをこの子が補ってくれる」
ルーエ頼みだった、異空間での戦闘。
さらに、【刻】の魔王のスパイであるカラスの魔物に依存していた【転移】を使えるようになるのも大きい。
さらに、狙った相手が、どこにいようと感知できる最強の追尾能力。
どれもが、俺の欲しかったものだ。
しっかりと、ティロを作ったことでDPで買えるようになった魔物もチェックしている。
……Bランクだが、非常に強力かつ便利な魔物だ。今日の夜にでも、【渦】を買うこと検討している。また、アヴァロンは確実に強くなる。
「プロケルは、ちゃんとわかっているみたいだね。それじゃ、がんばれ」
「がんばるさ。俺には時間がないからな」
新人魔王が守られる一年。
その時間は呆けていれば一瞬で終わるだろう。
マルコを見送り、大きく深呼吸。
そして、口を開く。
「クイナ、ルーエ、ティロ、行こうか。ティロ、おまえの力を見せてもらう」
「ぐるぅ!」
ティロもやる気を出したようだ。
俺は小さく微笑み、【紅蓮窟】への転移陣に向かって歩き始めた。
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