2017-07-07

IoT黎明期のLPWA事業と法

(法を守らない事業者が居るんじゃないかという話です)

最近よく新聞テレビでも取り沙汰されるようになったIoTという言葉2020年には何億ものモノやセンサー

ネットワークに繋がり、生活をより便利にしてくれるであろう技術と謳われています

  

IoT事業にしようと各社が立ち上がっており、大手携帯電話キャリアからメーカーまで、様々な製品がひっきりなしに誕生しています

これぞIoT黎明期と思わせるような新興っぷり。IoTの先駆けと言えば、やはり象印のみまもりポットでしょうか。

よくCMで耳にした「ポットを押したら電波がぴぴぴ♪」というやつですね。

  

  

前置きでした。

さて、このIoT通信技術として注目されているのが、LPWA(Low Power Wide Area)とよばれる通信技術です。

IoT向けに特化した通信技術で、データ通信量は稼げないかわりに、少ない消費電力で遠くまで電波カバーエリアを伸ばしたものになります

具体的な規格名を出すと、LoRaWAN / NB-IoT / Sigfox / Wi-SUNで、LoRaWANとSigfoxの電波到達範囲は、市街地で約3km、郊外で約8km。

物によっては見通し距離で約100km通信可能製品存在します。

  

ここ最近日本にもLPWAの波が押し寄せ、LoRaWANをはじめとする沢山のLPWAモジュールサービス化に向けて提供され始めてきています

LPWAは主にスター型(ゲートウェイと呼ばれる基地局に、多数の子機がぶら下がる方式)トポロジで利用される為、サービス提供においても

事業者基地局を持ち、ユーザに対して子機を購入してもらい、事業者基地局を通して通信させる、いわば携帯電話のような

サービスモデルが非常に多い状況です。

  

日本国内において、電波を利用して通信事業を行うためには2つの法を遵守しなければなりません。1つは電波法と、もう1つは電気通信事業法です。

どちらも総務省管轄法規制で、日本通信事業者はどちらかに必ず縛られます

ここからは少し専門的な話になります

  

  

  

1■電波法観点で見たLPWA事業

日本国内における電波の利用方法は、電波法によりかなり厳しく規制されています。LPWAの中でも特にLoRaWANとSigfoxに焦点を当てて言えば、

920MHz帯の電波を利用して通信しなければならないというルールがあります

920MHz帯の電波は、無線LANと同じく誰でも免許フリーで利用できるアンライセンスバンド(ISMバンド)に定められており、運用ルール

「920MHz帯テレメータ用、テレコントロール及びデータ伝送用無線設備」とされています

  

特定小電力無線局と簡易無線局

920MHz帯で許可されている無線局は、空中線電力(電波出力)が20mW以下の特定小電力無線局と250mW以下の簡易無線局です。簡易無線局登録制となっており、

デジタル簡易無線と同じような運用体制を取ります。ここで注意すべき点があり、簡易無線局は自営のみの利用に限定されているため、

他人へ貸し出すことが禁止されています電波を長距離飛ばせる簡易無線局ですが、現在電波法では不特定多数利用者を想定している

LoRaWANやSigfoxで、電気通信事業用途として基地局に利用することができません。

これは日本Sigfoxパートナーである京セラコミュニケーションシステム(KCCS)も、総務省に対して簡易無線局電気通信事業用途として利用

できるよう法整理を呼びかけています(参考:http://www.soumu.go.jp/main_content/000450876.pdf

  

まとめます

特定小電力無線局

 出力:20mW以下

 無線局免許状不要

 無線従事者不要

 無線局登録不要

 ビジネスモデル自由

  

・簡易無線局

 出力:250mW以下

 無線局免許状不要

 無線従事者不要

 無線局登録必要

 ビジネスモデル:自営のみ←

  

となるので、現状の電波法において、事業者不特定多数提供できる基地局電波出力は必ず20mW以下の製品しか利用できません。

  

  

  

2■電気通信事業法観点で見たLPWA事業

この法は、通信事業者としての規模の大小により、適切に監理ができる有資格者を配置する内容や、総務省に対する電気通信事故

報告などについて細かく整理された法律です。(かなり噛み砕きました)

ここで論じたい点は上にも書いたとおり、規模の大小・サービス提供形態によっては届け出電気通信事業者(以下、届け出)

もしくは登録電気通信事業者(以下、登録)に分類され、登録になると適切に有資格者の配置が必要になり、電気通信事業者としての責任が重くなるという点です。

簡単にまとめますと、

  

基地局を、第三者(例えばお客様)に利用させている。自分のために使うのではない。(電気通信役務に該当する)

基地局を、サービスとして提供している。(電気通信事業に該当する)

基地局は、事業者任意場所公園から企業オフィスから電柱まで)に設置する。(事業法適用除外に該当しない)

・そのサービスで、利益※1を上げている。(電気通信事業を営むことに該当する)

電気通信回線を設置し、端末系伝送路設備※2の設置の区域が一の市町村区域を超える。(電波の到達範囲が広い為、一の市町村を超えます

※1利益:ここでいう利益とは、金銭的な収益はもちろんですが、金銭を得ないが自分(自社)に有利に働く内容であれば、利益を得ていると見なされます

例えば、基地局位置第三者宣伝して貰う事もそうですし、2者間でゲートウェイ相互利用(使わせ合う)も利益にあたります

※2端末系伝送路設備電気通信事業法で見た、基地局区分

より詳しい電気通信事業参入マニュアルは、総務省提供しています(参照:http://www.soumu.go.jp/main_content/000477428.pdf

  

この5つの条件を揃えたサービス提供する事業者は、登録電気通信事業者になる必要があります

登録に課される条件の中でなかなか厳しいのは、有資格者電気通信主任技術者)の配置です。

サービスを展開する全ての都道府県事業所を置き、そこに資格者を配置しなければなりません。

  

NTTKDDI、各地方ケーブルテレビ局は自前の伝送路(光ファイバ電話線等)を持っている為、登録として事業を行っています

登録電気通信事業者リストは、総務省が公開しています。(参考:http://www.soumu.go.jp/main_content/000007780.xls

  

このLPWA事業における電気通信事業法落とし穴は、誰でも(個人でも)すぐに始められる手軽さがありながら、通信事業本業である事業者と同じ括りで厳しい縛りがある点です。

LPWAに参入してきている事業者は、もともとアプリケーションサービスIoT向け格安SIMカード提供していた事業者ばかりです。

ただし、Sigfoxに於いてはKCCSが既に登録となり、全国での提供を辞さない本気の構えです。

  

こんな事を書くと「電気通信事業法はクソだ」とか「総務省ダメだ」とか、「別にバレなきゃおk」という事を言う方が一定数いますが、

電波法において技適通っていない携帯電話使ってる奴絶対許さん勢 vs 知らんがな勢の争いとある意味同じです。

電波法的には、アンライセンスバンドということで "免許不要!" と強調したくなるのは十分理解できますが、それはあくまでも電波法に係る話であって

電気通信事業法までもが免除されるという話では決してありません。法は法として守るために存在し、罰則規定もちゃんとあります。(罰金または懲役

個人的感想では少し厳しすぎないかと思うところはありますが、KCCSもそれを呑んで事業をするということで、守っている真面目な事業者も居るわけです。

  

  

最後になりますが、LoRaWANをやっている某事業者はいかがですか。

  

  

追記

頂いたコメントへの返信や、任意の追記のメモです。

追記:登録電気通信事業者リストを追記しました(2017/07/07 14:40)

追記:免許不要に関する過大解釈について追記しました(2017/07/07 14:57)

追記:電気通信事業参入マニュアルを追記しました(2017/07/07 16:02)

追記:電気通信事業法による利益解釈について追記しました(2017/07/07 18:37)

  

コメントhttp://b.hatena.ne.jp/entry/341443907/comment/toruuetani

返信:電気通信事業法において、提供する親機(基地局)は簡易無線局特定小電力無線局かは、実は関係ありません。

電気通信事業法ではどちらであっても、提供するものは端末系伝送路設備とされますので、5つの条件を満たすと登録として事業する必要があります。(2017/07/07 15:19)

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