国際都市〈ミリオポリス〉を舞台に機械化された少女たちの闘いを描いた<冲方丁、最後のライトノベル>。角川スニーカー文庫『オイレンシュピーゲル』シリーズ(全4冊)、富士見ファンタジア文庫『スプライトシュピーゲル』シリーズ(全4冊)、そして両シリーズが合流する角川スニーカー文庫『テスタメントシュピーゲル』シリーズ(全5冊)と続いた大河小説がついに完結となります。
総ページ数はなんと5,502ページ! 冲方さんが10年がかりで書き上げた「シュピーゲル」シリーズの完結を記念して、シリーズの熱烈ファンである文芸評論家・吉田伸子さんによる激熱インタビューをお届けいたします。
だが、遂に、遂に、2017年7月、『オイレンシュピーゲル 壱』から数えること十年! ここに「シュピーゲル」シリーズの完結を迎えたのである。個人的には、シュピーゲル記念日として祝日にして欲しいくらいである。
たくさんの傷を持つことで、成長していく少女たち
冲方:あれ(『マルドゥック・スクランブル』)は出版社から、映画「レオン」に出てくるマチルダを主人公にしたような話が欲しい、というオーダーで書いたものでした。僕も最初は主人公を女の子にするというのは抵抗があったんです。女の子のことはよく分からないし、どう描いたらいいのかも分からない。ただ、自分にとって未知のものを描くというのは決して悪いことではないし、むしろやらなければいけないことでしたので、ちょっとチャレンジしよう、と。「オイレンシュピーゲル」の短編のオーダーは、『マルドゥック・スクランブル』がSF大賞をいただいた後に受けたものでしたので、僕の中では(女の子を主人公にしたのは)チャレンジの延長ということでもありました。少女像というものを考えると、社会的な外圧によって押し付けられたものと、少女の内面から出てくるもの――いや、いや、私たちはこうですよ、という本音――のせめぎ合いが、色々な物語に散見されたんです。だから、それをカテゴライズして包括的にできるような少女像を描けないかな、と。当初は、3人くらい出せば(少女像を)大体は網羅できると思ったんですけど、バリエーションを変えることを繰り返していくうちに――別のバリエーションも生まれてきますので――、どんどん増えていってしまう。とりあえず、オイレンサイド3人とスプライトサイド3人の6人に、プラス2人――ちょっと輪から外れてしまった螢と皇――の8人で、僕の中で、以後人物造形をして行く上での少女キャラクターの原型を作ろう、という意図はありました。
冲方: 彼女たちにあらかじめ沢山の傷をあたえているのは、そこに成長のきっかけがあるからなんです。トラウマや弱い心、自分自身で社会に絶望してしまう心というのは、成長の裏の面であって、その裏をひっくり返すことさえできれば、そこから芽生えていく心がある。そのことは、僕の中での少年、少女たちのテーマでもあります。
極上の成長&冒険小説は、感動の着地点へ
冲方:誰から聞いたのかは忘れてしまったのですが、何が大切か、大切じゃないか、ということを分からない状態が一番怖い、と。こんな酷いことがどうして起こってしまったのか、それをちゃんと子どもに教えさえすれば、(子どもは)現実に負けないんだ、と。逆に言えば、大人が怖がっていると、子どもが育たないということなんじゃないかと思うんです。ライトノベルを書いてきましたので、大人数を描くスキルはあったのですが、その大人数全員に成長する物語を付加する、というのは自分でもやりすぎだと思いました(笑)。
冲方:十代の心って、どんなに大人になっても残るものだと思うんですよね。ライトノベルがここまでジャンルとして生き残った理由も、読者の中に、或いは書き手の中にも、ティーンエイジャー時代が刻まれているからだと思います。だからこそ、(登場人物たちの)彼らはきっといい大人になってくれるだろう、という予感が一番のハッピーエンドなのでは、と思いました。いくつになっても、乗り越えるといいことあるんだよ、というのは、書いていても気分がいいですし、読まれている方にも、自分の中の人生経験や物語があると思うのですが、それを綺麗に昇華していくきっかけになれるとしたら、エンターテイナーとしては一番の幸せだと。
冲方:(完結を)待っていてくださった方々に、ありがとう、です。待っていてくださったからこそ、書き終えることができました。なので、シリーズ未読の方には、「完結してます!」と自信を持ってお届けできます。『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいに、原作よりドラマが進んでしまいました、とかそういうことはありません(笑)。ちゃんと、感動の着地点にまでお連れします。
『テスタメントシュピーゲル3 下』
定価 950円(本体880円+税)
発売日:2017年07月01日
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『オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White』
定価 596円(本体552円+税)
発売日:2007年01月31日
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『スプライトシュピーゲルI Butterfly&Dragonfly&Ho』
定価 605円(本体560円+税)
発売日:2007年01月31日
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