「遺族」か「加害者親族」か…義兄が母姉おい殺害
30歳男性の苦悩
自分は犯罪被害者の遺族か、それとも加害者の親族か--。2010年3月に発生した宮崎市家族3人殺害事件で、母(当時50歳)と姉(同24歳)、生後5カ月のおいを殺された男性(30)が毎日新聞の取材に応じた。肉親の命を奪ったのは姉の夫だった。被害者遺族として苦境に陥りながら、周囲から「加害者の義弟」として扱われる理不尽。男性は8日、福岡市内で開かれる犯罪被害者遺族の集いで胸の内を明かす。
3人を殺害したのは奥本章寛死刑囚(29)。7年前、家庭への不満から姉のくみ子さんとおいの雄登ちゃん、同居していた母の貴子さんをあやめた。事件当時、男性は23歳。福岡で1人暮らしをしていた。父母は離婚していたため、男性は肉親を一度に失った。生きる気力がうせ、自暴自棄になった。事件の1年後、公務員を辞めて無職に。貯金も底をつき、消費者金融で借金もした。生活の困窮以上に苦しんだのが周囲の視線だった。
「お前、加害者の弟だろ?」「(姉を殺したのが)夫だったら、どうしようもないよね」。知り合いから心ない言葉を浴びたことも何度もあった。3人の葬儀では母方の親族に「あなたが(奥本死刑囚と)親戚関係を切ってくれないと、うちの家族の縁談に差し障りが出る」と言われた。「何で俺がそんなことを言われるのか。俺が迷惑をかけたか」。怒りがこみ上げたが、言い返すことはできなかった。
加害者の親族ゆえの複雑さもあった。男性は奥本死刑囚と同い年。拘置所で面会を重ねるうちに、情が湧き、弁護士の求めに応じ、死刑回避に動いたこともある。だが、人ごとのように事件を話す姿を見て「反省していない」と確信するようになった。
事件2カ月前の正月。男性は母親を福岡に呼び寄せ、一緒に暮らす約束をしていた。同居する家を見つけた直後の惨劇で、夢はかなわなかった。「事件がなければ公務員として働きながらお母さんと暮らしていたはず」。男性は役所に姻族関係終了届を出すつもりでいる。【川名壮志】