子持ち銀河のブラックホールは消化不良
【2017年7月6日 RAS】
りょうけん座の渦巻銀河「M51」は大小2つの銀河がつながっていて、「子持ち銀河」という愛称で有名な天体だ。この2つの銀河は数億年前につながり始め、数十億年後に合体し1つになると考えられている。
小さい方の銀河「NGC 5195」が大きい方の「NGC 5194」に突入すると、NGC 5195の中心にある太陽の1900万倍の質量を持つ超大質量ブラックホールへと物質が落ち込んで、周囲に降着円盤が形成される。円盤は、これ以上物質が降着できなくなるまで、つまりブラックホールが効率的に物質を消化できなくなるまで成長を続け、その後は物質が周りの恒星間空間へと吹き飛ばされる。
英・ジョドレルバンク天体物理学センターのHayden Rampadarathさんたちの研究チームは、e-MERLIN電波干渉計による高解像度観測と超大型電波干渉計(VLA)、X線観測衛星「チャンドラ」、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)のデータから、NGC 5195の中心領域における物質の吹き飛ばしがどのように発生し広がるのかを明らかにした。
(左)子持ち銀河NGC 5194(下)とNGC 5195、(右)VLAがとらえた電波、チャンドラがとらえたX線、HSTがとらえたHα線を合成したNGC 5195の擬似カラー画像。X線(緑)とHα線(青)ではアーク、電波(赤)では中心の超大質量ブラックホールからのアウトフローが見える(提供:(左)Jon Christensen、(右)NRAO / AUI / NSF / NASA / CXC / ESA / STScI / U. Manchester / e-MERLIN / Rampadarath et al.)
NGC 5195の中心部への物質降着プロセスが衰えると、莫大な力と圧力による衝撃波が発生し、物質が恒星間空間へと押し出される。すると、光速に近い速度にまで加速された電子が星間物質の磁場と作用して電波を放射する。衝撃波はさらに広がり、加熱されて高温になった星間物質からはX線が放射される。また、周囲の中性水素から電子が剥ぎ取られ、電離水素ガスが生じる。衝撃波が膨らんでできた「泡」は、チャンドラとHSTがとらえたアーク(弧状の構造)を作り出す。画像にとらえられているのは、こうした過程で作られたエネルギーや構造だ。
「VLAが取得した電波波長の画像とチャンドラによるX線観測データ、HSTが検出した水素からの放射を比べると、とらえられた特徴に関係性があるだけでなく、電波を放射するガスの流れが、実はチャンドラとHSTがとらえた構造の前駆体であることがわかります。NGC 5195のアークの年齢は100万~200万歳です。つまり、私たちの祖先が火をおこすことを学んでいた頃、最初の痕跡がブラックホールから押し出されていたわけです。今、私たちがその現象を様々な手段で観測できるのは、実に驚くべきことです」(Rampadarathさん)。
〈参照〉
- RAS News&Press:Shocking case of indigestion in supermassive black hole
〈関連リンク〉
- Chandra X-ray Observatory
- HubbleSite
- VLA
- e-MERLIN radio array
- アストロアーツ:メシエ天体ガイド
- アストロアーツ 投稿画像ギャラリー:M51
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