若い女性のほうが価値が高い、という思い込み

女性に対して「オバサン」と言うことは、失礼なことだといわれています。では女性から「私オバサンだから」と言われた時、「そんなことないですよ」と答えるのは正しいのでしょうか? 今回の「ワイングラスのむこう側」は、女性からそう言われた林伸次さんが考えた「若い女性の価値」問題です。

自虐的に「オバサン」という女性たち

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

自虐ネタなのだとは思うのですが、よくある会話で、例えば40代くらいの女性3人組がいらっしゃって、「なんかオバサンばっかりですいません」と言われることがあります。もちろん冗談だとは思うし、ご本人たちもそんな「オバサン」だとは思っていないのかもしれません。でも、こちらとしてはどう答えていいのかよくわからないんです。

「いえいえ、みなさんお若いですよ」って言うの、すごく変ですよね。どうして僕の言葉が「変」かと言いますと、僕も彼女たちの価値観にあわせて「バーに来る女性は若い方が良い」というのに同調してしまうからなんです。僕は当然そんなことを思っていないわけで、それで無理して言っているし、どうも変になるんです。

あるいは「今日は若い女性を連れてきたから」なんて言葉を言われることがあります。これも困るんです。別に僕は「バーに若い女性を連れてきて欲しいなあ」と思っているわけではないのですが、向こうは「どう、すごいでしょ。若い女性と来ちゃった!」って感じのドヤ顔なので、僕としても「うわあ、お若いですねえ。20歳! へええ、お母さんおいくつですか? うわ、僕より年下ですね」って感じで合わせなきゃいけないんです。

そして本当に困るのが、その当の本人の若い女性自身も、「自分は若い女性だから、こんなオジサン達の間ではすごく価値がある」って思ってしまって、「今、私たちの間では、こういうのが流行ってて……マスター知ってます?」みたいな感じになってしまうこともあるんです。

僕としては「20歳の女性達の間で流行っていること」なんてもちろん知らないし、同様に「70代の女性達の間で流行っていること」も知らないのですが、何故か「若い女性達の間で流行っていること」って、変に価値があるような雰囲気になってしまうんです。若い女性の方が価値が高いっていつ決まってしまったんでしょうか。

「女子高校生の間で流行っているもの」を取り上げるテレビ

ところで、よく見かけるのが「渋谷の女子高校生の間で流行っているもの」というのをテレビのリポーターが質問する姿です。みんな鞄の中から何かぬいぐるみみたいな物を出して「このキャラクターが~」って見せたり、携帯電話を見せて、「こんなアプリが今流行ってて」って感じで紹介します。

あるいは女子高校生だけの流行り言葉みたいなのもよく紹介されますよね。「え~、もうチョベリバって言わないよ」とか、そういう「古い」「新しい」みたいなことも彼女たちに解説させて、スタジオではオジサンオバサン達が「へええ、そんな言葉知ってましたか?」って感じで盛り上がります。

これ、たぶん、別に渋谷の女子高校生だから「早い」とか「新しい」とか「感度が高い」ってわけじゃないと思うんです。彼女たちもひとつの「種族=トライブ」であって、その種族以外の人間から見ると、よく理解できない言葉や流行があるだけだと思うんです。

そういうの、どこにでもありますよね。「パテカン山です」と言ったら「パテ・ド・カンパーニュが売り切れです」っていうのを、飲食業の人たちならすぐわかるというのと同じだと思うんです。でも、どういうわけだか、「今、女子高校生の間で流行っている言葉や物」って注目されるんです。

そして彼女たちも「自分たちは、あのオジサンやオバサン達と違って、感度が高い、流行をいち早くキャッチしている。それはなぜなら、私たちが若い女性だからだ」って勘違いしてしまうんだと思うんです。

でも、どうですか? 女性高校生が気にしていることって、そんなに感度高いですか? 実際そういうマーケティングをしている人たちに聞いたら、決してそんなことないって答えると思います。でもたぶん、メディアに取り上げられるのを何度も見ると、若い女性の方が感度が高いとか価値が高いって、どこかで刷り込まれてしまうんだと思います。だから20代くらいの女性でも「もう私たちってオバサンだよねえ」みたいなことを平気で言ってしまうんです。

昔は、「一番年をとっている長老」が一番尊敬されたんですよね。理由は彼が一番色んな経験をしてきて、一番ものを知っていたからです。雨が少ないときはどうすれば良いのか、とか、こういう揉め事があればどうすればいいのか、という判断力や知識が豊富だったからだと思います。

でも、いつの間にか年寄りは老害になってしまいました。先日、ウッディ・アレンの最新作『カフェ・ソサエティ』を観たら、すごく良かったんです。とにかく「色んな経験」をしていないと描けないような恋愛の物語でして、その後、調べたら、ウッディ・アレン、今、81歳なんです。

そうかあ、81歳だからあんな世界を描けたんだなあと気がつきました。

別に世代間の争いを作りたいわけじゃないんです。でも若い女性にだけ価値があるような取り上げ方をして、我々若くない男たちに特化した情報がオヤジ週刊誌に書かれているようなものだけでは、それは若い女性ばかりに価値があるように思えますよね。

違う世代ももっと取り上げろとは言いません。でも、とりあえずメディアの人は「若い女性の方が価値が高い」って思わせる表現や企画はやめにしませんか。それってもうダサいと思うんです。

林伸次さんの新刊が発売中です!

ケイクス

この連載について

初回を読む
ワイングラスのむこう側

林伸次

東京・渋谷で16年、カウンターの向こうからバーに集う人たちの姿を見つめてきた、ワインバー「bar bossa(バールボッサ)」の店主・林伸次さん。バーを舞台に交差する人間模様。バーだから漏らしてしまう本音。ずっとカウンターに立ち続けて...もっと読む

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コメント

HS_sasya 林さんの文章、今回もとても素敵ですね。どちらが良いかと決めるのではなく、いろんな価値をご提案のなさるのがお上手で勉強になります。 【 12分前 replyretweetfavorite

mamikoeda そうそう! 『カフェ・ソサエティ』は、わたしも熟している感じがとても好きだった。『ラ・ラ・ランド』にはないものがあの作品にはあった。 21分前 replyretweetfavorite

die_sel_cat これ、「ダサい」って言うかもっと深刻な問題だと思うんよ。 41分前 replyretweetfavorite

feilong 2件のコメント https://t.co/kv1h98w2Aj 約1時間前 replyretweetfavorite