目次
- メタルは土着する
- モンゴル民族のメタルが思ったよりモンゴル
- モンゴル的メタルコア
- 期待通りのMV
メタルは土着(どちゃく)する
メタルは土着するのだ。なぜならメタルは宗教的な側面を持つ音楽だからである。メタルにはブラックメタルというサブジャンルがある。ブラックメタルは以下のように
歌詞の内容には、サタニズム及び黒魔術への傾倒といった、反キリストを強く打ち出したり含むバンドが多く引用:wikipedia
反キリスト的な歌詞が特徴的だ。これに対抗する形で起こってくるのが、アンブラックメタル(あるいはクリスチャン・ブラックメタル)という動き。
キリストを賛美するブラックメタル
という矛盾した存在だ。メタルは宗教的な争いが表面化したジャンルなのである。
これなんてロゴがおどろおどろしいのに、曲名はThine Hour Hast Come(汝の時は来たらむ)と聖書的だ。なんてたって古語だしな。歌詞はサタンがいずれ地獄に落ちて苦しみ続けるだろう、と暗にブラックメタルムーブメントを批判するような内容で、興味深い。
ペイガンメタル
上記のようにメタルは宗教をスタイルとすることもある(全部ではない)。そうしたメタルの中にペイガンメタルというサブジャンルが成立した。
ペイガンメタル(Pagan Metal)は、ヘヴィメタルのサブジャンルのひとつで、土着の宗教や文化を尊重する
従属的に"反キリスト教"、"反グローバリズム主義"的要素を持ち、またティン・ホイッスルなどの民族楽器の多用や、英語ではなく地元の言語を歌詞やバンド名に使用するなどの傾向も見られる。引用:wikipedia
音楽ってややこしいね!つまり「キリストなんかクソくらえ、うちの神さんが最強メタル」だ。これは結果的にメタルを多様にした。
どうだこのやっちまった感。アラビアンなイントロからわかるように、中東はイスラエルのメタルバンドだ。ヴォーカルはキリストを模した格好をしていて、エロい女がスゲー出てくる。あまりこれについて語ると無用なトラブルに巻き込まれそうなので、そろそろ本題に入りたい。
モンゴル民族のメタルが思ったよりモンゴル
モンゴルのメタルが今回のテーマだ。順番に見ていこう。
九宝(ナイン・トレジャーズ)
期待を裏切らないモンゴル感。平原に馬、そしてシンフォニックなメロディー(馬頭琴)。狩猟民族っぽい雄叫びにモンゴル語。
曲名が孫子
上述の宗教思想の件もわかってもらえたかと思います。サビでそんしーそんしーって言ってるのが絶妙。最初に出てくるロゴはモンゴルの伝統的な文字だそうな。2:40~からのユニゾンは圧巻。
彼らはメンバー全員が内モンゴル自治区出身のバンド。つまり本拠地は中国。どことなく中国の影響が強めな気がする。でも歌詞は孫子以外モンゴル語。つまりハイブリットなんです。
モンゴル的メタルコア
モンゴル民族はメタルコアもかなりモンゴルだ。
エゴ・フォール
グロウル(いわゆるデスボイス)で始めればいい所を、なぜかモンゴルの西部オイラト諸族に伝わる伝統的な歌唱法、ホーミーで始めている。なにそれ。
単体だとこう。
そしてこの曲の見どころはホーミーだけではない、間奏で気がついたらモンゴルに誘われている。そしてそのあとの落差よ。これメタルコア部分の音がガチ過ぎてモンゴル部分が際立ちまくってる。曲の緩急にモンゴルが巻き込まれてる。
ちなみにホーミーがバックと合わさるとこんな感じ。おそらくデスボイスの一種と捉えているのだろう。演奏のクオリティーが高いのが特徴だ。いろんな音が出てきて、それが上手くまとまってる。
またもや内モンゴル自治区
実は彼らも中国は内モンゴル自治区出身のバンド。さて、これをどう読むか。
期待通りのMV
もっとモンゴルなMVを見てみよう
Tennger Cavalry(テンゲル・キャバリエ)
音がモンゴルなのはもうおわかりでしょう。謎の楽器の音が聞こえるし、間奏ではホーミーだ。それに加えてMVがモンゴルすぎる。荒野で戦ってる。いやなんかお金かかってないこれ!?主人公っぽい奴あっさり死ぬのもやばい。
そして下に表示されてる歌詞。どうやら彼らは宇宙の覇者になろうとしているらしい。すっげー中華思想!ここまで見てきてふと思ったが、中国とモンゴルは支配・被支配を繰り返してきた。両国の思想は切っても切れないくらい密接に関係している?
メタリカをカバー
メタラーなら全員知っているであろうこの曲を、彼らがカバーしている。
地域色強め。馬頭琴から凄い音が出てる。なぜ歌がホーミーなのか。サービス精神旺盛すぎないか。こんなマスパペ知らない。そんでその帽子はなんだ。
中国のバンド
彼らはバンドリーダーの祖先がモンゴル民族な北京のバンド。今の本拠地はNY。またもや中国のバンドだ。つまり今の映像は
モンゴルのフォークメタルの形を取った中国のバンド(今はNY)によるメタリカのカバー
になる。なんという情報量。
考察
モンゴル的でありながらモンゴル出身のペイガンメタルのバンドはほとんど情報に挙がってこない。なぜか。
1.モンゴルの環境
モンゴルでは音楽が盛んではない。あるいは国外へあまり発信しない(呼ばれないから)、という可能性が考えられるだろう。しかし・・・
普通にいる。モンゴルの首都、ウランバートル出身のバンドだ。クオリティーも高い。音楽が盛んでないとはとても言えない。
2.強まるモンゴル民族のアイデンティティー
というわけで俺の考えた答えはこれだ。内モンゴル自治区といえど、80%以上は漢民族だ。モンゴル民族はマイノリティーということになる。だからこそ、自分たちのモンゴル民族としてのアイデンティティーが強烈に意識されたのではないか。
Stingの Englishman in New Yorkのように、外のアイデンティティーに触れて初めて我々はバックグラウンドについて考える。自分の国でやったらただの右翼だし。
漢民族の中にいたからこそ、彼らは強烈にモンゴル民族だったのである。
彼らも内モンゴル自治区のバンドだ。アイデンティティの掲揚はメタルに留まらない。音楽の多様性の楽しさを教えてくれる良曲だ。
辺境とされる地域の音楽について、これからも追っていきたいと思う。それでは。