歴史とか好きだったから、嫌韓流を本屋でパラ見して、そうなのか知らなかったなあ、と見事に染まった。ツインタワーはアメリカ政府の陰謀で倒れたのだ、という説は、私の知的好奇心を大いに満たした。SAPIOや諸君や小林よしのりを熱心に読んでいた。高校生の私には難しい背伸びだった。痛いニュースを見まくっていた。嫌韓ブログとつながっていた。
発足したばかりの「市民の会」は、本当に市民の会だと思っていた。特権を冷静に議論するんだと思ってた。
大学に入って、最初の頃はネトウヨ発言を続けていたけれど、それは冷たい目線を浴びた。でもそれは私には私の正しさの証明に見えた。ネットの呪縛を解いたのはネットで、本の呪縛を解いたのは本だった。論理的に歴史修正主義のおかしさを反駁するサイト。少数民族の来歴を説明する記事。
あのとき、高校生の頃、私がネトウヨ発言をしたら、呆れたり、それは差別だよとたしなめてくれたり、冷静に、あるいは熱く反論してくれた同級生たちには、世間知があった。私は知識量で彼らに勝っていると思っていたし、今も専門分野では彼らよりぜんぜん知識はあると思うんだけど、どっちが賢いかって言われたら圧倒的に彼らだと思う。
私はそれを、年のせいとは思わない。若さゆえの過ちにしてしまうのは容易いけれど、私の周りの若い人たちは、私がそういう思想にかぶれている間も、それとは距離を取っていた。
人は誰しも、心の中に素朴な信念体系を持っている。それは人によっては、「みんながひとつの理想に従って動くべきだ」という全体主義的な体系かもしれないし、「自由意志が何よりも大事だ」という自由主義的な体系かもしれない。それに理想の社会像・理想の国家像が加わる。この信念体系は、どんな「前提」を信じるかによって結果として表出される思想の姿を大きく変える。福祉国家理念を受け入れた全体主義者は頑固な左翼になるかもしれないし、自由意志で来たんだから同化しろよと移民に迫る自由主義的な右翼が生まれるかもしれない。
この信念体系がどのようなものかによって、極端な思想に染まるか否か、そして離脱できるか否かは決まってくるのかもしれない、と思う。私は今も、自分が現実主義者ではなく理想主義者であるという自覚がある。現実の社会の姿よりも、「あるべき社会の姿」が優先される。その「あるべき姿」が戦前のような国家神道の単一民族国家であったから私は熱心な排外主義者になったのだし、その思想から脱した今、私は熱心なリベラル派になっている。根幹のところでは、何も変わっていない。
私のように極端な隣国ヘイトに染まらなかった友人がいた。私がそのような狂った道に進んでいくのを呆れたように眺めていた。けれど彼は時折、東アジアの他国への、素朴な差別意識をぽろりと口にする。おそらく大方の日本人がそう思っているであろうような。いくつかのあけすけなメディアで語られているような。
現実主義者は、極端な思想にかぶれずに済む。けれどその順応している現実は、ときに猛烈な腐臭を放っている。現実は、マイノリティの学校に旭日旗を持って押し寄せてゴキブリと呼ぶ行為に眉を顰めるが、異民族のマナーの悪さや政治的混乱をジョークの種にして笑い、慰安婦問題での責任を軽んじる。
私はだから、現実主義者に対してアンビバレントな思いを抱いている。彼らは私が大虐殺を否定したとき、現実的な世間知をもってそれに抗った。けれども彼らは現実的な世間知で、ささやかな偏見や差別を受け入れてしまっている。私のような頭でっかちな人間からすると、羨ましく、もどかしい。
時代の雰囲気というものは確かにある。あの時代、ネットのマジョリティは明らかに右派だった。ネトウヨがヘゲモニーを握っていた(だから私は、最近のネットを見て、ネットにはこんなに左派がいたのか、と驚いている。はてなで細々と生き延びているだけの存在だと思っていた)。だからネットが好きな人は、どうしてもそういうものに毒される可能性が高くなる。けれどきっとそこに必然性はなかった。最初に何に触れたかによって、私がどんな思想にかぶれるかは変わっていたのだろうと思う。人生というのはそういうものだ。誕生したばかりの火山島に偶然流れ着いた動植物が特異な生態系を作るように、偶発的な出会いが方向性を決定づけていく。
増田の言う年甲斐もなくヘイトしているおじさんの心の島には、最悪のタイミングで外来種が入り込んでしまったんだろう。
みんな、子供の心の生態系は脆いものだとよく知っているけど、自分のそれには脆弱性があるだなんて、きっと欠片も思っていない。
私は平成2年生まれで、日常的にまとめサイトを見るようになったのは高校生の頃。 そのころハム速はまだVIPのクソスレや釣りスレを纏めてた牧歌的なサイトだったけど、痛いニュースと...
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