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ドルフィンガール! 作者:蒼井マリル

第1章 少女よ、大志を抱け!

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始まりはアイハブコントロール

 すっきりと晴れた青空に、綿菓子のような雲が気持ち良さそうに泳いでいる。世界で初めて飛行機で飛んだライト兄弟も、きっと今日のような快晴の青空を飛んだに違いない。こんな天気の良い日は、幸せな夢を見たあとのように、心と身体が羽のように軽くなっていきそうだ。

 航空自衛隊の飛行場を有する基地の中でも、一番面積が小さいのが静岡県焼津市にある静浜基地だ。パイロットの初期訓練を行う第11飛行教育団が配備され、一見するとのどかな基地であるが、戦前は旧日本海軍藤枝基地として、夜間攻撃を重視した芙蓉ふよう部隊が配備されるなどその歴史は長い。

 静浜基地の駐機場エプロンに置かれているのは、救急車のような赤と白に塗装されたT‐7初等練習機だ。T‐7は航空自衛隊の国産初等練習機で、戦闘機や輸送機に救難ヘリコプターなど、空自パイロットを目指す学生が、まず最初に操縦桿を握る航空機である。一見するとプロペラ機に見えるT‐7だが、ターボプロップを搭載しているので、ジェット機に区別されるのだ。

「受験番号77番、桜木晴花さん」

「はい! よろしくお願いします!」

 図書館の司書のような風貌をした男性に呼ばれ、溌溂はつらつと返事をした若い女性が進み出た。彼女の名前は桜木晴花さくらぎはるか。航空自衛隊のアクロバットチーム・ブルーインパルスに憧れて、航空自衛隊の戦闘機パイロットを目指す、明るく元気いっぱいな女の子である。航空学生になるための、第1次・第2次試験を突破した晴花は、これから第3次試験の操縦適正検査に挑むのだ。

「訓練空域に入ったらまずは僕がお手本を見せるので、そのあと僕の指示に従って操縦してもらいます。墜落なんて滅多にしないから、そう緊張しなくても大丈夫ですよ。もしも脱出する時は、コクピットを自分で開けてから脱出してね。そうしないと頭ぶつけてトマトになっちゃうから」

 と教官はさらりと恐ろしいことを口にした。ホラー映画さながらの、スプラッターシーンを想像した晴花は思わず身震いする。そんな晴花には構わず、すたすたと歩いて行った教官は、梯子を上がって操縦席に乗り込んだ。

 ――ええい! こんなところで怖じ気づいてなるものか! 両手で頬を叩いて気合いを入れ、晴花は後ろのコクピットに乗り込んだ。エンジンスタート、機首のプロペラが勢いよく回転を始めた。滑走路に進入してランディング開始。充分な速度と浮力を得た機体はふわりと浮き上がる。周囲の景色はみるみるうちに遠ざかり、上下左右とも空の青が流れるように広がった。

 水平飛行、上昇、左右の上昇旋回、普通旋回に急旋回、動力降下と降下旋回。まるでダンスを踊っているように、晴花を乗せたT‐7は空を飛んでいく。そして一通りの飛行を終えた教官の声が、ヘルメットに内蔵されたスピーカーから聞こえた。

「それでは飛行訓練を始めます。ユーハブコントロール」

「アイハブコントロール!」

 晴花はたちまち重くなった操縦桿を握り締め、大空に続く道を一歩踏み出した。
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