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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第二章

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第五十二話『キンポー平原の戦い:其ノ一』

宜しくお願いします。




 現在の時刻は午前三時二十八分、全員の配置が完了して五分経過した。

 戦闘開始まであと二分、ヴェーダが皆にアハトミンCを飲むように指示する。

 俺とメチャはスコルとハティに飲ませてから、自分用のアハトミンCを飲んだ。

 中央から攻める俺達の部隊にはダークエルフの少女も居る。
 彼女の名前は『アイニィ・エテモフ』。
 ラヴと同様に『姓』は無く、名と氏族名のみだが、エルフやダークエルフはそれが普通だ。

 アイニィの影沼には二人のピクシーが潜んでいる。彼女達もアハトミンCを飲んで準備完了。

 北のレイン部隊と南のミギカラ部隊、上空の空挺団も準備が整った。

 騎士団が居ない野営地西側の三か所から突撃する俺達と、東南北の三方から攻める蟲の群れ。

 蟲を使って先に東側を襲わせ、注意を東に向けたあとで攻め込む事も考えたが、その間に南北の騎士団が中央の守りを固めると面倒なので、守りを固められるにしても上空からの攻撃を含めた九ヵ所が混乱した状況の方が好都合だと判断。

 当初の作戦通り、九方一斉攻撃からの奇襲を仕掛ける。
 その際、夜警の戦奴達には大いに叫んでもらう事にした。

 夜警を無視して獣人部隊に奇襲を掛けても、その異変に気付いた戦奴が必ず叫ぶ。

 戦奴三十人の首を一瞬で刎ね飛ばす方法が無い限り、戦闘開始の前後で必ず叫び声を上げられるわけだ。

 ちなみに、【圧壊】は放射スキルなので敵の位置によって効果発現に時間差が出る。つまり、俺に近いヤツから倒れていく事になる。

 夜警30人の位置と【圧壊】の効果範囲や放射速度からヴェーダが算出した時間差は二秒以下らしいが、一秒有れば警報の声を上げる事は出来るだろう。

 以上を踏まえて考慮すると、九ヵ所の敵から同時に絶叫のゴングを鳴らしてもらって混乱させた方がマシだ。敵が全方位に注意を向けなければならない状況を作る。

 辺境伯がどのような指示を出すか分からんが、奇襲直後の敵兵達は混乱するだろう。


 メチャの後ろで緊張しているアイニィを手招きして傍へ呼び、彼女の影沼から50個ほど小石を出すように頼む。

 アイニィが頷き、星明かりで出来た俺の影を波立たせて影沼を生み出し、そこから小石を足元に放出する。

 ラヴとダークエルフ達の影沼には、岩を砕いて作った大小の【飛石】用石弾と、鉄製のライフル弾を400発ずつ入れてもらった。

 この世界には人類が造った銃火器が存在している。魔導兵器に比べれば威力が数段落ちる火薬を使った銃火器だが、弾丸の形状や素材は様々、この戦いで鉄製のライフル弾を使用しても未知なる武器だとは思われない。

 しかし、世界に存在する火薬の量は少ない上、魔導兵器ほどではないが銃火器も稀少品、教国が保持している火薬や銃火器の数量も少ない。

 その為、今回の作戦で使用するライフル弾は五百発以下に制限して、威力も控えめにする。と言っても、小石で事足りる場合はライフル弾を使用する予定は無い。

 足下の小石を全て宙に浮かせ、100m先の戦奴達に狙いを定める。

 新月の平原は暗闇に包まれ、人間達から俺達の姿は見えていない。黒い体毛で覆われた俺や、灰色の肌を持つゴブリン、体毛が薄茶色から濃い灰色に変わったコボルト達は特に見つかり難い。

 一番目立つのはオレンジ色の鱗を持つレインだが、彼やジャキ、赤銅色の肌を持つミギカラの居る南北の部隊は、身を地に伏せて戦奴に近付き、戦奴数名が持つ松明の灯りに照らされない範囲ギリギリの地点で待機している。

 蜂達は羽音を消し、蟻と一緒に地面を這って戦奴達を囲んだ。

 ワイバーン達がゆっくりと降下を始め、その背に乗るエルフ五人衆やハード達が魔法の詠唱に入り、ワンポ率いる弓兵が弓に矢を番える。

 闇に潜んで時を待つ俺達の脳内に、ヴェーダの声が響いた。


『作戦開始』


 俺の左右に浮かべていた50個の小石が消え、100m先に居る戦奴達の体を即死しないように貫く。

 射線上に居た14名の戦奴が絶叫を放ちながら倒れ、彼らの体を貫通した小石が更に8名の戦奴を貫き重傷を負わせた。

 残りの戦奴は8名。傷は与えたものの、肉壁に守られて狙い通りの重傷を負わせる事は出来なかった。回転を加えたライフル弾なら、狙い通りに貫通してくれたかも知れない。

 スコルとハティが突撃して残りの戦奴をその太い前脚で薙ぎ払った。即死が4人、内臓破裂や粉砕骨折により重体となった者が4人。

 夜警の居る八ヵ所から同時に絶叫が上がり、空から急襲された野営地中央付近から驚愕の声と怒号が飛び交う。まだ魔族の襲撃だとは気付かれていないが、時間の問題だろう。

 野営地中央付近に並ぶ軍馬は周囲の騒ぎに動じず、静かに佇んでいる。

 従属魔法で縛られてある領軍の軍馬は魔獣ではなく普通の獣、前世で知るサラブレッドより大きい。

 この馬達が逃げ惑い暴れ回って混乱を大きくする事を期待したいが、如何せん契約獣である為に逃げ回る事なく大人しい。

 戦闘開始と同時に軍馬を蟲で仕留めて機動力を奪うべきだが、訓練された良質な軍馬を手に入れたいので、なるべく死なせないように指示を出してある。



 スコルとハティの突撃は止まらず、獣人部隊の居る場所まで侵入。二匹同時に大口を開け【ヘルヘイムの業火】を放つ。有効射程距離20mの火炎ブレスが、慌てふためく獣人達を襲った。

 俺は両肩にメチャとアイニィを担ぎ上げて虐殺現場へ向かい、二人を下ろして作戦通りに行動させる。

 メチャはアイニィの護衛と【威圧】。アイニィはヴェーダが指定する瀕死と重体の敵を魔法で殺し、重傷の敵は影沼で沈めてピクシー達が中で殺す。レインとミギカラの部隊にも同様の処置をとらせている。


「二人とも、開始しろ」
「りょ、了解しましたっ!!」
「畏まりました」


 地面で蠢く戦奴達の影が揺れ、身動きのとれない彼らを闇が沈めていく。
 アイニィは土魔法で作った【土槍どそう】を沈みゆく戦奴達に次々と撃ち込んだ。

 アイニィが土槍で仕留めなかった重傷の敵は、影沼内に潜むピクシー達が手際良く始末する。この方法でアイニィとピクシー達のレベルを上げていく。

 影沼内で待機する者達が重傷者を仕留め、それと同時に影沼内で瀕死状態の教国兵を殺し、死んだ教国兵数名と仕留め終わった王国兵を地上へ放出する。

 レインとミギカラの部隊に居るダークエルフ達も同様の処置を取っているが、彼らの影沼内に入っている者達は、部隊内でレベルの低い者達が選ばれている。

 低レベルの者は影沼の中でレベルを上げ、地上に居る部隊員の最低レベルを超えたら交替、それを繰り返しながら全体のレベルを底上げしていく作戦だ。

 これから乱戦になると予想されるが、基本的にダークエルフ達は自分の影沼に身を潜めてもらい、ヴェーダの指示で自身の出入りや物資の放出・収納をしてもらう。

 ダークエルフの彼らだけを安全な場所で楽にレベル上げさせる事は不公平かも知れないが、これに対して不満は出なかった。輜重兵である彼らを絶対に失ってはならないと皆が理解していたからだ。

 総合力100万を超えている俺やジャキ達は、今回の戦いで積極的にレベルを上げる必要は無い。

 無論、敵兵を殺して経験値を得ても構わないが、ジャキやレイン達ならゴブリン達が手古摺る騎士を相手にしても【威圧】等で軽く無力化出来るので、無力化した騎士はジャキ達以外の眷属が仕留めるのが理想的だ。


「理想的だが、そう上手くはいかんか」

『騎士の数が多すぎますね、総合力1,400から13万までと能力は様々ですが、九千人の騎士を十名以下で殺さずに無力化するとなると……』

「まぁ、『おこぼれ』が出るだろうな」
『蟲で牽制は出来ますが、騎士団の魔法騎士によって多くが殺されるでしょう』

「牽制は要らん。正規騎士団との戦いになったら蟲は後退、倒れた敵兵の中に息の有る者が居たら始末させろ」

『了解しました。空挺団のコボルト部隊は矢が尽きますので、予定通りこちらに合流させて矢を補充させます』

「いや、合流はしなくていい。アイニィ、ここに残りの矢と替えの弓を出してくれ。ヴェーダは降下地点をワイバーンに知らせて誘導しろ。スコルとハティのお陰で戦線が押し込まれている、もうここに敵は来んよ」

『では、そのように』
「畏まりました」

「俺は少し前に出て軽く【圧壊】を放って来る、メチャはアイニィの隣で【威圧】を高めておけ」

「け、賢者様お一人では、あの……」

「大丈夫だ、スコルとハティの後ろから支援するだけだからな。アイニィが物資を出し終わって影沼に潜むのを確認したら、すぐに追って来てくれ」

「は、はいぃっ!! すぐに、すぐに行きますぅっ!!」


 俺を心配するメチャの肩をポンッと叩き、アイニィから小石を200個ほど貰ってスコル達の後を追った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 俺達が進む西側中央ルートの獣人達は既に全滅している。

 スコルとハティが放った地獄の炎は獣人の体と草花を燃やし、深夜の平原に造られた地獄への道を赤々と照らしていた。

 露払いされた炎の道、魔狼の魔力が宿る地獄の炎を吸収しながら前進する。

 脳内に映し出された九つの映像には、ヴェーダが選出した各所の戦闘状況と辺境伯の動きが映し出されている。

 レイン部隊とミギカラ部隊は順調にこちらへ向かっているようだ。まだこちらに死傷者は出ていない。蟲達は後退して闇に潜み、地に這う瀕死の獲物を探している。

 辺境伯を監視していた蟲達は結界を張られた時に結界外へ弾き出されているので、現在は結界の外から辺境伯のテントを監視しているのだが、辺境伯はまだテントから出て来ていない。

 辺境伯は娘が虫刺されで死んだと思っているので、虫除け対策は万全だ。十人長以上の地位にある騎士には、虫除けの護符を装備させる徹底ぶり。無論、辺境伯自身も虫除けグッズで固めている。

 こちらのカードを二~三枚無効にされた。
 アホの警戒心を侮ってはイケナイ。

 戦闘開始後、辺境伯のテントに三名の騎士団長が出入りしたのは確認している。
 現在、テントの中には辺境伯の他に侍女一人と護衛が四人居るはずだ。

 そのテント内に居る侍女が『異次元袋』という【影沼】に近い性能を持つダンジョン産レア魔道具を所持しているのだが、その中に攻城魔導兵器が格納されている。

 つまり、結界で守られつつテント内に隠れている辺境伯の手元に危険物が有るわけだ。ジーザス。

 危険物を所持したアホの行動が確認出来ない状況、勘弁して欲しい。悪夢と言える。


 これはちょっと状況を整理する必要があるな。


有り難う御座いました!!
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