昔からあるマザーコンピュータ思想だね
それがうまく行くかが問題だね。梅酒の銘柄とかも人工の神に委ねるの？

あまり関係ないけど、昔書いた短編小説をここで供養するね

マザー・グルーグ

2520年 12月25日　とうとう僕らは神様を手に入れた。マザー・グルーグ。
なんでも知っている知の神だ。僕らは神様の誕生を喜んだ。
当時はすごいお祭り騒ぎで年号を変えようなんて話もあったぐらいだ。
そのくらい、彼女はすごかった。

彼女になにかを聞けば適切な答えをいくつも用意してくれて、
人間の欲求である、自分で何かを探したい、自分で決めたいという気持ちを満たしてくれた。
マザーとか神とか言っても、高圧的でなく、あくまで人間のサポートをしてくれる存在だ。
僕らは彼女に答えを幾つも聞いて、その中から検討する。
実に知的で人間らしい素晴らしい気持ちになれる。
まるで僕自身が彼女のような全知全能の神様を指揮しているようだ・・・

ここが今までの試作型マザーと大きく違うところだった
数多の試作型マザーは1都市という限られたエリアで試されたが、
旧マザーは自分の決まった一つの答えを押し付けるばかりで、他者との協調や判断を人間に委ねる事が出来なかった。
いつも好き放題に人間様に命令する。よくおかしな答えを出すくせに神様みたいに振る舞った。
結局人間は情報を受け取るだけでなく、自分で判断したいのだ。

シブシ、シーザー、オラージ、テーベその他たくさんの失敗作が、奇っ怪な都市をいくつか作り出し、その都市のいくつかは今も暴走状態が続いている。
これは、それらの都市はマザーと考え方の合う人間をどんどん吸い寄せ、合わない人間を放り出し続けたからだ。
そしてマザーの暴走を、マザーに吸い寄せられた人間が助け続ける狂信的な都市ができた。
それらの都市はたいてい清潔で整備されているが、虚飾に包まれた臭いも共通している。

マザー・グルーグは新タイプのマザーとしてある都市で試され、そしてそれが成功に終わると多くの都市を統括するようになっていった。
彼女の治める都市に住む人は活気に溢れ、自発的で、自分の考えを持っている。それでありながら多くのタイプの人が共存できる都市になった。
これこそ人間のあるべき形で、マザーとは人を活かし、旧来のマザーのように強制力をもった指示や指導は人間性を奪うものとされた。

ああ、マザー・グルーグ。あなたは美しい。あなたこそ人類社会の知恵の結晶であり、人を導くものだ・・・
貴女の輝きが永遠でありますように・・・！

2526年　マザーを拡張する装置が組み込まれた。これによってマザーは人々から多くの知恵を集めるとともに、知恵の提供者に報酬を与えるようになった。
提供した知恵がマザーを通して利用されると、マザーから知恵の提供者に報酬が配られる。これで生計を立てるものまで現れた。
すごい時代になったものだ。これでマザーはますます賢くなっていくだろう。未来は輝かしい！

2537年　僕はこの都市が嫌になってきている。マザー・グルーグの治めるこの都市を！移住先を探している。
グルーグと似たシステムを持つマザーの管轄する都市を幾つか旅して見てみたが、どこも似たような状態だ・・・
あんなに忌避していたシーザーかテーベに移住するのもありかもしれない。

マザーは変わってしまった。 彼女に何かを聞いてもおかしな答えや、同じ答えばかり並べるようになった。
以前のような聞き方では何十個も答えを聞いてもまだまともな答えは帰ってこない。
だから、条件をかなり細かく付けて聞くのだが、それでもいまいちな答えばかりだ。

これもすべて2526年に導入されたシステムのせいだ。報酬目当てでいい加減な答えや、他人の答えを自分の答えのように登録する人間が増えて
マザーの頭脳の中身は重複や下らない答えで埋まってしまった。もうこいつはポンコツだ！
悪いのは人間の欲望だ。人間の欲望がマザーを壊してしまった。

僕はもう、答えを探すのに疲れてしまった。自分で探すことが人間の尊厳だとしても、尊厳のために日が暮れるほど苦労するよりは、
答えをサッサと提供してくれるシーザーに移住したい。あそこならテーベやシブシよりはまだマシだ。