組織の強みは唯一、
知を発見できるかで決まる

——チームラボ代表・猪子寿之

世の中を驚かせるアートを生み出し続ける“ウルトラテクロノジスト集団”チームラボは、その創作活動の基本に「集団的創造」を掲げている。なぜ彼らは、チームでの作品づくりにこだわり続けるのか。そこには、現代の知のあり方に対する深い洞察が隠されていた。猪子寿之氏へのインタビュー後編。(構成/加藤年男、写真/鈴木愛子)

編集部(以下色文字):前回、手を動かす中で知を発見する重要性についてお話されましたが、同じプロセスで同じようにモノをつくっていても、知を発見できる人とできない人がいるのではありませんか?

猪子寿之(いのこ・としゆき)
チームラボ代表
1977年、徳島県生まれ。2001年、東京大学計数工学科卒業時にチームラボ設立。チームラボは、さまざまな分野のスペシャリストから構成されているウルトラテクノロジスト集団。アート、サイエンス、テクノロジー、クリエイティビティの境界を超えて、集団的創造をコンセプトに活動している。
https://www.teamlab.art/jp/

猪子寿之(以下略):ほとんどできないかもしれない。そうだとしても、集団なり組織にとって、知の発見こそが最も重要だと思うのです。汎用的な知は、確実に、集団の創造性や生産性を上げます。たとえわずかだったとしても、レバレッジが効くんです。そして、そうした知が積み上がっていけば、確実な資産となります。だからこそ、そこに時間を使うべきだとも思う。

 それなのに、たとえば世の社長の多くは新卒の最終面接なんかをしているでしょ。プログラムが書けるかどうかなど、ファクトの部分は誰が判断しても変わりません。では、何を判断するのでしょうか。ファクトで表せないような、人間性のようなものを判断すると言いますが、人間ごときが10分や15分程度話したところで、相手の人格なんかわかるわけがありません。

 それは不確定、つまり、わかっているということを確定できないからこそ、わかっているつもりになっているだけです。もちろん、これはダメだとわかる部分もあるかもしれませんよ。でも、それは案外、仕事である程度結果を出している人であれば同じ評価になるものです。

 相手を見る目にものすごく長けている人が面接すれば、その精度は上がるかもしれない。でも、上がるといってもわずかでしょう。人事評価などに力を入れることも同じです。人間が人間をどう評価するなんて、流行り廃りによってコロコロと変わっています。それは明らかな不確定要素だということです。誰も判断も証明もできない不確定要素にエネルギーを使うのは、意味がありません。

 その一方で、知の発見は確定要素です。他の人がそれを使って優れたモノをつくれたり、生産性が上がったりすれば、汎用的な知を発見できたかどうかを判断できるからです。だからこそ、知を発見することに最も力を注ぐべきです。そうして人より多くの知を発見できたら、それを組織で共有する。それこそが知的労働であり、それのみが中長期的な組織の差異を生むのだと思います。

 たくさんの人が集まって、同じ時間を共有して仕事をするのは、非効率のようにも思えますが。

 やるしかありません。なぜなら、それがクリエイションだから。効率を超越してそうせざるを得ないんです。みんなが集まらなくてもいい、もっと効率的な方法があるのかもしれないけど、いまのところ、それは見つけられていないと思います。

 在宅勤務やテレワークという働き方も広まっているけど、それは創造という行為には向いていないと思う。何かを創造するためには、専門性の違う者が集まりながらも、それぞれの役割を不明確にしたまま境界を持たずに、一緒に手を動かさないといけないのです。そのうえでは、境界を意識しない体制でつくる必要がある。自分の仕事の範囲を明確化するような働き方は、むしろ境界をつくってしまうことになるし、そもそも、遠隔ではすでにコモディティ化された知のやり取りしかできないんです。

 モノをつくるという行為を通して知の発見をして、それを共有することで、集団による創造力を上げる。究極的には、組織の強みはそれのみで決まると僕は思っています。なぜかというと、現代はサービスそのもの、プロダクトそのものが差異を生む時代だからです。

 昔は、プロダクトやサービスの価値はそれほど高くありませんでした。正確には、その価値がそれほど高くなくても勝負できた。たとえばモノを売るのであれば、全国に営業所を持てるかどうかや、小売店の棚を確保しているかなどのように、それ以外の価値がとても重要だとされましたよね。それは言い換えれば、プロダクトやサービスの質が悪くても組織は強くなれたということです。

 でもいまは、プロダクトやサービスそのものの価値が上がっています。特に、ここ20年の変化を見れば、いま世界で伸びている新興企業はすべて、プロダクトやサービスの力によって差を生み出しています。アップルも、グーグルも、インスタグラムも、そうした変化の中で生まれてきました。ユニクロもそうかもしれません。情報化社会では、プロダクトやサービスそれ自体ではない周辺にある価値は、どんどん低下しています。

 プロダクトやサービスの価値が上がっている理由は何でしょうか?

 情報化されたことと、資本が流動化かつ効率化したことが大きいでしょうね。それによって二つの大きな流れが生まれ、それぞれが強く影響し合っています。

 一つ目の流れは、資本主義がより合理化されました。50年前と比べたら想像を絶するほど簡単にお金を集められるようになった。戦後の日本企業を考えると、資本を提供するのは親族や身近にいる人がほとんどでしたが、いまはそうではありませんよね。

 二つ目の流れは、一つ目の流れを受けて、資本そのものの必要性が徐々に低下していることです。資本がコモディティ化したとも言えます。たとえば産業革命時代は、資本がコモディティ化されていませんでした。そのため大資本家が絶対的な力を持ち、その周辺にある労働者の価値はかなり低かったと言えます。その時代は、労働がコモディティ化されていたんです。

 そして、この二つの流れが循環しています。資本主義がいっそう合理化されてパワフルになることによって、資本の価値がどんどん低下していきました。その結果として、資本主義はどんどん弱まっています。情報化が進み、資本が流動化し、効率化し、さらにグローバル化したために、プロダクトやサービスだけが価値を持つようになったのだと思います。

 長期的に考えると、それ自体はとてもよいことだと言えます。でも、一つ目の流れだけを短期的な視点で捉えることで、資本主義が世界を覆っているかのような錯覚が生まれています。大量のお金を集められる人や企業が価値を持っているかのように思われている。超短絡的に言うと、行き過ぎた資本主義に、行き過ぎた民主主義とインターネットが加わったことで、何とも言い難い社会が生まれたと言えます。

 そのわかりやすい例といえるのが、AKB48です。個人的にAKB48は嫌いではありませんが、あの現象は、資本主義と民主主義が行き過ぎてしまったいまの状況を象徴していると思います。音楽の売上げだけで考えれば、日本で最高のミュージシャンはAKB48ということになります。でも、AKB48の音楽が売れるのは、総選挙の投票券や握手券を得るためでもあり、そこではお金に余裕のある人が音楽をまとめ買いしている。つまり、大衆のお金の総額によって価値が設定される、大衆資本主義みたいなものが発動されています。

 50年前と比べると、すべての文化がそうなりつつあります。大衆に金銭的に支持されることに最適化しつつあるんです。多かれ少なかれ、たとえば世界の映画産業なんかもそうなっています。

 そうした流れから独立して生き残っているのが、アートなのかもしれません。資本主義と民主主義が掛け合わさり、文化もそれが行き過ぎた状態になりつつあるなかで、大衆にどれだけ好まれようと、それだけでは価値が決まらないアートだけが、ギリギリのところでそうなっていないコンテンツだと言える可能性はあります。

 アートの価値はどのように決まるのでしょうか?

 それはとても簡単で、人類全体の美の価値観をどれだけ変えたかどうか、です。それは、「かっこよさ」の基準を変えることとも言えるし、世界の見え方を変えることとも言い換えられる。ただし、それが証明されるのは数十年後です。

 数十年後にしか評価されないアートは、そもそも資本取引の対象にならないのではないでしょうか?

 だからこそ、インテリが「これが数十年後の美の姿だ」と先物取引をやっています。実際はまったく価値を持たないかもしれないものについて、自分の美意識を信じながら、人類の動向を予測しながら、あるいは、自分の理想的な社会像に必要な美が勝利するために。

 数十年後、世界がどうなったのかを知り、そのきにはじめて自分の判断が正しかったことが証明されます。そのぶん大きなリスクを取ることになるので、現代アートは未来を予測する非常に知的な遊びになっています。もしくは、理想的な社会像への戦い、なのかもしれません。

 チームラボも知的な遊びに参加しているプレイヤーですか?

 僕たちは評価する側ではなく、美の基準を変えようとしているつくり手なので違います。チームラボの評価が明らかになるのも、少なくとも20年、30年後になると思います。美の基準を変えられれば社会は少し変わっているだろうし、そうでなければ、チームラボが歴史に残らないだけです。

 

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