ここ数年、アメリカのグーグルやアップルが、人工知能や自動運転、半導体関連の新技術を持つベンチャー企業を矢継ぎ早に買収している。専門家たちは「近い将来の技術革新を見越した、効率的かつ効果的な投資」と評価する。
一方、日本の大手電機メーカーでは、巨額を投じてアメリカの映画制作会社や原子力関連企業を買収した末、その扱いに苦しみ、最後には放り出すケースが相次いでいる。いったい両者のどこが違うのか。
「第二次世界大戦時のアメリカ軍の動きに注目すると、ヒントが見つかるかもしれません」と話すのは、防衛装備庁技術戦略部の藤田元信氏だ。
新著『技術は戦略をくつがえす』(クロスメディア・パブリッシング)を発表した藤田氏は、「急所、勘どころを見抜く力」に加え、そうした判断を行うために、技術と戦略の関係性を学んでおくことの重要性を説く。
記事タイトルとまったく関係ないようでいて、実は大いに関係してくる話から始めましょう。
2011年3月に発生した東日本大震災では、沿岸部において大きな被害が出ただけでなく、国内外の製造業にも深刻な影響がありました。
経済産業省などの調査によれば、このような現象が生じた背景として、日本の製造業のサプライチェーン(=製品の原材料の段階から消費者に届くまでの一連のつながり)が「ダイヤモンド構造」と呼ばれる脆弱性な構造を持っていたことが指摘されています。
ダイヤモンド構造とは、最終製品の組み立てに必要な部材を、特定の企業のみが担う体制のことです。これに対し、かつての日本の製造業のサプライチェーンは「ピラミッド構造」と呼ばれ、特定の企業への集中的な依存は見られませんでした。
ダイヤモンド構造のサプライチェーンは、俯瞰的に見れば、重複がなく、効率的です。しかし、特定の企業からの部品供給が途絶えると、すべての工程の生産活動に影響がおよんでしまうという意味で、脆弱な構造とも言えます。特定の企業が全体の崩壊をもたらす、産業の“アキレス腱”となっているのです。
同じような現象は、2011年のタイ洪水や、1999年の台湾地震でも見られました。たとえば、タイ洪水では、ハードディスクの部品の製造工場に深刻な被害があり、ハードディスクの生産が滞りました。その結果、パソコンや録画再生機などの納期の遅れや値上がりが起きています。
サプライチェーンは製造業の競争力の源泉であり、リスク低減と競争力の維持・強化の両立は、これからも大きな課題であり続けるでしょう。