社会保障・雇用・労働

ハワイで「べーシック・インカム」の導入が本気で議論されている事情

どうやら、本当に苦しいようです

なぜハワイで?

ハワイの州議会が2017年6月、「べーシック・インカム」を導入すべく作業部会を設立する法案を可決したというニュースをご存じだろうか。いま、このことが全米で話題になっている。

ベーシック・インカムという言葉が近年注目を集めているのはご承知の通り。すべての市民に対して、必要最低限の基本的な生活費を賄えるよう、政府が無条件で所得を給付することを言う。市民が仕事をもっていようが無職だろうが関係なく、一律に現金などを支払うという制度である。

ベーシック・インカムという言葉をよく目にするようになった理由は、著名な起業家などが次々とこのアイデアに賛同しているからだ。例えば、フェイスブックの創始者であるマーク・ザッカーバーグは、母校ハーバード大学で卒業生に向けた2017年のスピーチで「世界的なベーシック・インカム」の導入について言及している。

またテスラ・モーターズのイーロン・マスクも、2017年にドバイで開催された世界的サミットで、「何らかの形の世界的ベーシック・インカムが必要になるだろう」と語ったことでニュースになっている。

その制度が、本当にアメリカで始まるかもしれないというのだ。それも、ハワイで。

 

日本人にとって、ハワイは「常夏の優雅なリゾート地」というイメージが強く、そんなハワイになぜベーシック・インカムが必要なのだ、と訝しむ向きもあるかもしれない。実はハワイ州の経済については、将来の見通しに悲観的な見方が出ており、州議会などでも経済に対する不安が高まっているのだ。

ベーシック・インカムの必要性が検討されるほど、明るい将来見通しが示せないというハワイの実情に迫ってみたい。

生活コストは全米トップ

ハワイで今、最も問題視されているのは、全米トップと言われる生活コストの高さだ。例えば、ワンルームアパートの平均賃料は1800ドル、20万円近くにもなるという。その理由のひとつは、ハワイは土地の限界があるため、というシンプルなもの。どんどん建物を建てればいいというわけにはいかないのだ。

そんな高い生活費のせいもあって、ハワイは全米で最もホームレスの数が多い州とのイメージが通っている。リゾート地とはかけ離れているが、人口140万人のハワイで、ホームレスの数は7200人。比率で見ると、10万人のうち505人がホームレスという計算になるが、ホームレスが多いイメージのあるニューヨーク州では10万人のうち436人がホームレスということ計算になり、ハワイが上を行っている。

ホームレスが増えることで、畢竟、州の財政にも負担が押し寄せている。劣悪な状況での生活によって健康を害し、病院の世話になることも少なくない。大きな病院では年間1000万ドルの医療費がかかっているというが、ホームレスの人たちは医療費を支払うことができないため、結局、病院や州の財政にしわ寄せが来ているという。