(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年6月30日付)

ベネズエラ大統領「最高裁にヘリから手りゅう弾」 負傷者なし

ベネズエラの首都カラカスで記者会見するニコラス・マドゥロ大統領(2017年6月22日撮影、資料写真)。(c)AFP/FEDERICO PARRA〔AFPBB News

 ベネズエラは通常の順番を覆している。この国の歴史は、まず茶番として、そして次に悲劇として展開しているのだ。危機に苦しむ同国から伝わってきた信じがたいような最新ニュースは、ぎりぎりB級映画に値するようなストーリー展開だ。

 6月27日、ならず者の警察司令官がヘリコプターをハイジャックし、反乱を宣言し、最高裁判所に手りゅう弾を落とし、内務省のビルに銃弾を撃ち込み、姿を消した。負傷者は出なかった。

 襲撃犯のオスカル・ペレスは、B級映画で主役を演じたこともあった。2015年公開のアクション映画「猶予された死」だ。本人のインスタグラムのアカウントに襲撃前に投稿された動画には、政府の転覆を呼びかける様子が映っていた(鏡を使って肩越しに銃を撃つシーンや、マシンガンを持ってスキューバダイビングするシーンも公開されている)。

 ニコラス・マドゥロ大統領はこの飛行を政府の不安定化を狙った「テロ攻撃」と呼び、国営テレビで「あの航空機を乗っ取った人間はクーデターに着手し、武器を持った。これは、私がこれまで警告してきた類いのエスカレーションだ」と述べた。

 しかし、社会主義のメリットをうたいながら、2016年のベネズエラ生活環境調査(ENCOVI)によれば全世帯の82%が貧困生活を送っているこの国では、一連の出来事に対する大統領の説明を信じる人は少ない。

 疑念の源泉の1つは、新しいロシア製対空防衛システムが導入されたにもかかわらず、ベネズエラ空軍が出動しなかったことだ。防衛専門家のロシオ・サンミゲル氏は「過去12年間で兵器システムにつぎ込まれた途方もない金額を考えると、これは不可解だ」と言う。

 ベネズエラでは3カ月続く反政府デモでほぼ80人の死者が出ており、多くの人はそれに続く今回の事件は、人々の関心をそらすための手際の悪いショーだったのではないかと疑っている。この日の事件に先駆け、野党勢力が多数派を占める議会――マドゥロ氏の政府に支配されていない唯一の国家機関――が国家警備隊によって制圧されていた。