本家のベルギー、本場のフランス、広めたのはアメリカ?
最近、東京では「ベルギー・フライドポテト」を出すオシャレな店が増えました。
これまでの安っぽく子どもが好むフライドポテトではなく、芋や油、ソースにもこだわったフライドポテトということで、女性にも人気になっています。
「フライドポテト発祥の地・ベルギー」というのを全面に押し出していますが、そういえばフライドポテトは「フレンチフライ」とも言います。なぜフライドポテトは「フランス風」と言われているのか?
それにフライドポテトはハンバーガーと切っても切れない関係で、アメリカンな印象も根強いです。とてもヘルシーとはいえず、ジャンクフードの烙印を押されている。そこの関係性はどうなっているのか?
ということで、今回はフライドポテトの「本家」を巡る歴史です。
1. 世界のフライドポテト
我々が普段目にするフライドポテトは、ファストフード屋やファミレスで提供される「プレーン」な細長いパターンが多いと思います。
あとは、ステーキハウスによくある「扇型」に厚めにカットしたもの、お祭りで売られてる螺旋状にカットしたものもよく見ます。
ポテトを切って揚げる、という簡単な行為ですが、切り方・揚げ方・トッピングによって世界中に多くのバリエーションがあります。
本場のフランスではポテトをいろんなアレンジをして揚げます。
例えば、漫画「美味しんぼ」に登場するので日本でも有名な「ポム・スフレ」。
Photo from "POMMES DE TERRE ROOSTER SOUFFLEES"ALBERT BARTLETT
二度揚げしてポテト中の空気を膨張させて中を空洞にするもの。フランスでは料理に付け合せに使われます。
同じく付け合せに使われるが「ポム・ワッフル」。
Photo from "Cuisson des pommes gaufrettes" A la maison, vous êtes le Chef !.
ワッフル生地のようなメッシュ状にカットしたポテトを揚げたもの。食感が面白そうですね。
洗練されたポテトフライがある一方、「ジャンク道」をまっすぐ歩む体に悪そうなポテトも根強い人気を誇ります。
Photo by Qfl247
アメリカのハンバーガーチェーン、イン・アンド・アウトバーガーで提供されているのが、チーズ・フライドオニオン・特別ソースをのせた「アニマル・フライ」。
コーラがめちゃくちゃ合いそうですね。
Photo by permanently scatterbrained
これはメキシコやアメリカ南部にある「カルネアサダ・フライ」。
フライドポテトの上に、クミンや胡椒を効かせた細切りステーキと、アボガドペーストやサワークリーム、チーズを載せたカロリー爆弾。到底日本人には思いつかない組み合わせです。
ドイツではソーセージにカレー粉をかけた「カレー・ヴルスト」が人気がありますが、カレー・フライも同様に人気があります。フライドポテトにカレー粉をまぶしたもので、日本人にも絶対に人気が出るやつですね。
Photo by Yuri Long
これはフランス系カナダ人(ケベコワ)に人気があるプーティン。
フライドポテトの上にチーズとグレイビーソースをかけたもの。ちゃんと手間をかけた料理っぽく見えるので不思議ですね。
Image from "길거리 음식의 마약으로 불리고 있는 감자 핫도그 !" Info Pipa
ジャンクフード好きが泣いて喜ぶのが、韓国のポテトホットドッグ。
アメリカンドッグの皮がフライドポテトになっている屋台メシで、実際これはかなり旨そうです。日本でもやってるとこないのかな?
あくまで上記は一例で、これ以上に様々なバリエーションがあるのは皆様ご存知の通り。たんにジャガイモを揚げるだけなのに、ここまで幅が広くて、主食、付け合せ、オヤツ、おつまみと何でもいけるのが凄いですね。
ではフライドポテトはいつ発明されたのでしょうか。
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2. 17世紀後半にベルギー人が発明
フライドポテトを「発明」したのが誰かというのは未だに論争になっていますが、定説だと1680年にベルギーのマース地方で作られたのが始まりとされています。
17世紀後半という時代は、スペイン人の手によってヨーロッパにジャガイモが初めて持ち込まれて100年が経ったくらいの年代で、まだまだ珍奇な植物という扱いでまともに人間が食うものと思われていませんでした。
マース地方は湿地帯で小麦があまり採れずに貧しく、人々は主に川で採れる魚を油で揚げて食べていました。ところが1680年は年間を通じて異常な寒さで川が凍りつき、頼みの綱の魚が充分に採れませんでした。そこで人々はやむなく、ジャガイモを魚の形に刻んで揚げて食べました。
当時のベルギーはスペインによる支配を受けていたため、新大陸からの物産をいち早く受け入れる可能性が高かった、というのも有力な見方です。
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3. フランスでは普及に時間がかかった
当時、フランスにもジャガイモは伝わってはいたものの、フランス人は豚の飼料として栽培するのみでした。人々はこの珍奇な植物は人間が食うものではなく、食べると様々な病気を引き起こすと考えていました。1748年にフランスの議会は、「ジャガイモがハンセン病を引き起こす」としてジャガイモ栽培の禁止令を出しています。
このような迷信を取り払い、フランスにジャガイモを普及させることに尽力した人物が、農学者アントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエです。
パルマンティエは七年戦争でプロイセンの捕虜になり、捕虜生活中にジャガイモを初めて食わされたそうです。きっとここでジャガイモの美味しさに気づいたのでしょう。
1763年にパリに戻った後、栄養学的にジャガイモが優れていることを研究によって証明し、パリ大学の病院で栽培を始めました。しかしジャガイモに対する人々の偏見は根強く、たびたび「ジャガイモを育てるな」と苦情が寄せられました。
パルマンティエは「いかにジャガイモが高級で素晴らしいものか」を人々にアピールすることで普及させるというアプローチを取りました。国王夫妻の晩餐会でジャガイモ料理を出したり、ジャガイモの花をプレゼントしたりして「国王が嗜むお高いもの」というイメージをまずは広めました。
そうした上で、ジャガイモの畑を昼間は兵士に護衛させ、夜はわざと引き上げさせた。ジャガイモが高級なものだと思った人々は次々と畑に忍び込んで盗み始め、まんまとパルマンティエの狙い通り、ジャガイモは一般に普及しはじめたのでした。
フランス革命の前後にはすでに大規模に栽培されて一般的に食べられるようになり、この時に「揚げポテト」が生まれ屋台で広く食べられるようになりました。
しかしこれは隣国ベルギーより100年も後のことです。
じゃあ、なぜフライドポテトは「ベルジャンフライ」ではなく、「フレンチフライ」と言われているんでしょうか?
4. フライドポテトはなぜフレンチフライと言うのか?
「フレンチフライ」と呼ぶからと言って、「揚げジャガイモ」を初めて作ったのがフランス人とうことではありません。
当のフランス人はフライドポテトのことを「ポム・フリット(Pommes Frite)」または単に「フリット(Frite)」と言います。
では、誰がフライドポテトをフレンチフライと言い始めたのか。
定説では、「アメリカ人が言い出した」と言われています。
最も有名なものが、トマス・ジェファソンのお話。トマス・ジェファソンは18世紀後半にヨーロッパを旅行中にフライドポテトを食べていたく気に入った。そこでレシピをアメリカに持って帰って、ホワイトハウスのシェフに同じものを作らせた。実際に1802年に「フランス風のポテト」というメニューがホワイトハウスの夕食に登場しています。
フランス国境近くのベルギーの地を訪れたアメリカ兵たちが、現地で食べた揚げ物を「フレンチフライ」と呼んだという別の説もあります。
こういう「未知の食べ物との遭遇」は一箇所で起こってそれが広まるのではなく、同時多発的に起きるものです。なので、多くのアメリカ人がその合理性や食味を凄く気に入って、積極的に取り入れようとしたということなんだと思われます。
1856年に出版されたE.ウォーレンの料理本「Cookery for Maids of All Work」に「フレンチ・フライド・ポテト」という言葉が初めて登場しています。この頃にはフライドポテトを「フランス風に揚げたポテト」というのが一般的になったようです。
当時の料理用語では、「フランス風に」というのは「短冊に切った」という意味を指したようで、「フレンチフライ」とは「短冊に切った揚げ物」程度の意味でした。なので、短冊に切って揚げたものであれば、玉ねぎだろうが鶏肉だろうが、すべてフレンチフライでした。
「フレンチフライ」が「揚げたジャガイモ」の事を指して言うようになったのは、おそらくマクドナルドなどのハンバーガーチェーンが世界中に普及して以降と思われます。
皮肉なことに、フレンチフライのことを「アメリカンフライ」と呼ぶ地域もあります。
多くの地域では「フライドポテト」はアメリカ人の好物・トマトケチャップにつけて食べます。しかし、フランス人にしてみたらトマトケチャップなどというものは「おぞましい味」だそうで、味覚音痴の代表みたいな食べ方を「フレンチ」などと言われるのはたまらぬ、というのがフランス人の言い分のようです。
フランス人はフライドポテトには麦芽酢をかけたり、酸味の効いたマヨネーズをつけて食べるのを好みます。
見方によっては「アメリカンフライ」の方が正しい言い方なのかもしれません。
いずれにせよ、「発明したのはベルギー人、洗練させたのはフランス人、世界中に広めたのはアメリカ人」という認識でおおよそ間違ってないと思われます。
まとめ
フライドポテトは日本では家庭の食卓に上がるようなものではありません。
食卓にフライドポテトを出す行為は、「手抜き」「真心がこもってない」「家族の健康を考えてない」など、ネガティブなイメージがつきまといます。
でも「フライドポテトはケチャップで食べるもの」というイメージで固定されているから「チープなもの」と思っているだけで、フランス人のようにソースを様々に工夫すればちゃんとした逸品になるはず。工夫次第でもっと洗練された家庭の味にできると思います。
参考サイト
" THE HISTORY OF FRENCH FRIES" TODAY I FOUND OUT
"The History Of French Fries" Bright Have Education
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