挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第二章

50/82

第五十話『君の考えが解らないよ』

宜しくお願いします。





 斉暦元年、八月三十一日、午前零時。
 深夜のメハデヒ王国サモハン砦前。

 俺達は以前と同じようにハイジ山脈から王国内に侵入し、教国から侵入したラヴ達と国境で合流したのち、二つの村を滅ぼしてサモハン砦に辿り着いた。

 ガンダーラ軍の兵力は以下の通り。


 アハトマ・ゴブリン=男483名。
 アハトマ・コボルト=男243名。
 アハトマ・ドワーフ=男37名。
 アハトマ・リザードマン=男174名。

 アハトマ・ハイエルフ=男1、女4名。
 アハトマ・ダークエルフ=男2、女1名。
 アハトマ・ピクシー=女2名。
 アハトマ・ワイバーン=雄34頭、メス40頭。
 メーガナーダ=男7名と雄7匹。

 合計=1,035

 兵隊蜂=3,000匹、軍隊蟻=18,000匹。

 ナーガ族の男性は戦場が水辺ではない為不参加。
 ハーピーとラミアは女性のみの種族である為不参加。
 彼らは妖蜂・妖蟻、エルフ十六人衆、狼達と共にガンダーラ防衛に当たる。

 メーガナーダの7名はホブとハイから進化、ホブの4名はソルジャーに、ハイはソーサラーになった。7匹の狼もハイウルフに進化している。

 上記に加えてスコル&ハティ、ジャキ、レイン、ミギカラ、メチャ、ラヴ、そして俺で全部だ。

 ラヴは進化を果たし、『アハトマ・ローヒニー』となった。これはメチャと同じ変異体だ。容姿はほとんど変わらないが、体内に宿る魔力量が爆発的に増えている。
 レベルは50、総合力は220万、影沼の容量は彼女にも分からないらしい。

 今回の戦いに参加したダークエルフの三名は、潜入組がスーレイヤ王国で保護した戦奴。戦奴と言っても前線で戦う攻撃要員ではなく、男二人は魔晶石への魔力補充要員、女と言うか少女はラヴと同じ影沼を使った輜重兵だ。

 彼らに付けられていた隷属の首輪は複雑なスーレイヤ王国式『魔法埋め込み型』だった為、ラヴとハイエルフ五人衆だけではヴェーダから教わった書き換え法での首輪解除に時間が掛かり過ぎて断念。

 しかし、死属性魔法が掛けられておらず、隷属魔法の制約にも絶対服従の制約しかなく、【逃亡即自害】や【自動応戦】等の面倒な制約が無かった為、ラヴの影沼に三人を入れてガンダーラへ帰還。すぐに俺が眷属化して隷属状態を解除した。

 今回彼ら三人が従軍する事になったのは、彼らの熱烈な志願に俺が負けた為だ。

 眷属進化して総合力が約7万となった3人が雑兵にやられる事はない、しかし、彼らには輜重兵として後方支援に回ってもらった。ダークエルフの影沼が三つも増えた事は、今後の戦略に幅を持たせてくれるだろう。



 今宵は新月。
 空に月は無く、星が宝石のように輝いている。

 その輝きを遮る影は、空高く舞い上がり砦の上空を旋回する74の翼竜。

 翼竜の背中にはハイエルフ五人衆とスカト=ロウ氏族長ハードを筆頭としたゴブリン魔法兵、そしてマッシ=グラ氏族長ワンポ率いるコボルト弓兵が乗っている。

 そして、俺の両肩に座る体長約1mのピクシーが二名。
 背中に生える二対四枚の透明な翅を微かに動かしながら、両脚をブラブラさせてゴリラの頭髪で遊んでいる。

 彼女達は潜入組が行商人を殺して保護した。

 潜入組帰還後、ガンダーラで眷属進化させて二人の隷属を解除。
 そのまま地下で保護する考えだったのだが、俺にくっついて離れない。ダークエルフ達の時とは違った意味で根負けした俺は、言う事をちゃんと聞くという条件で同行を許した。

 眷属進化で強化されたピクシーの二人は『まじっくみさいる』という危険なスキルを獲得したのだが、レベル3である彼女達の最大MP量では二発撃つと魔力枯渇一歩手前になってしまうので、『使用は計画的に』と俺を含めた三人で決めた。


 ガンダーラ軍の武器は鹵獲した長剣や斧、槍や弩・弓を使用。

 各々が得意な武器を所持している。足りない分は俺が作った総鉄製の武器だが、これは奪い合いになった。しかし、強者が勝ち取るのは大森林の常、眷属でもそれは変わらない。

 俺の武器はお手製の打刀、鍛造ではないが片刃武器と刃渡りは慣れ親しんだ殺陣や剣道に合わせて造った。ただ、ゴリラの手では柄が短すぎるので、柄を長くしてみたら『長巻ながまき』のようになってしまった。

 長巻は打刀と薙刀の中間に在るような形状だが、その殺傷力はバツグンだ。
 日本の戦国時代では、取り敢えず足軽に長巻を持たせ『それ持ってブン回せ』と言われていたほどポピュラーな武器だった。

 豊臣秀吉の明征伐で武士の長巻攻撃が大活躍し、明兵が酷く悩まされたと記録に残っている。

 しかし、攻撃範囲が広い為、仲間が傍に居る状態での密集した戦闘には不向きだ。槍や薙刀より刃渡りが長く、周囲の仲間を傷付け易いので、次第に戦場から消えていった。

 今回の戦いは約九倍の兵力に挑む事になる。そんな戦場では長巻の性能を大いに発揮出来るだろう。


『ナオキさん、砦を制圧しました』
「早いな。大将首は誰が取った?」

『第一騎士団団長の首級を挙げたのはドワーフの【ナガミッツ・ヨウケ=キレヨル】、副団長の二名はリザードマンの【アイトク兄弟】が首を刎ねました。各自、ステータスの軍級が上がっております』

「アイトク兄弟? あぁ、トールとヒロッシか。フム、総合力が10万近い団長や副団長相手では、シタカラ達じゃ無理だったようだな」

『ゴブリンやコボルト達は下士官に当たる五人長や十人長、士官相当である騎士の首を挙げております。それ以外の一般兵588名はラヴと五人衆、メーガナーダが殲滅。兵士以外の従軍関係者は全て蟲が仕留めたのち、手の空いた者が斬撃を加えて処理しました』

「よし、次は後始末だな。行くぞメチャ」
「はいっ!!」


 体長が7mを超えたスコルとハティの背に乗った俺とメチャは、静かな戦いが終わった血臭漂う虐殺現場へ向かった。

 それにしても、スコルとハティは大きいなぁ……

 いつの間にか二匹が身に付けたスキル【ヘルヘイム送り】とか、ヘルヘイムシリーズが気になるが、鑑定しても解説が『ヘルヘイムに送ります』や『ヘルヘイムの炎です』など、そのまんま過ぎて解説になっていない。

 ヴェーダは『気にするな』と言うが、さすがに気になってきた。
 どう考えても地獄系ですよね?

 今度絶対教えてもらおう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 虐殺現場は血の海、砦の食堂に在る大きなテーブルには下士官級以上の首が並べられている。首実検だが、既にヴェーダが本人確認しているので、俺は軽く目を向けるだけで首実検を終えた。

 大将と副将の首を挙げた三人に「よくやった」と声を掛け、今回の褒賞とは別に『芋けんぴ』と干し芋・干し柿セットを渡した。士官や下士官の首を挙げた者達にも同様に渡したが、挙げた首級によって褒美の量を調整した。

 褒美を受け取った眷属達は大喜び。貰えなかった者は祝福しつつ褒美のオコボレに与っていたようだ。スナック感覚で楽しく分け合っていた。

 もうこの砦に用は無い。
 物資をダークエルフ達の影沼に放り込んで、ラヴが用意した教国兵の死体をその辺に放れば作戦終了、次の戦地に向かうだけだ。


「ラヴ、砦の出口から適当に放って行け」
「畏まりました」


 ラヴがニコリと笑って一礼し、影沼から次々と教国兵を出してゴブリン達に渡していく。

 だが――

 ――ラヴが影沼から出した教国兵は瀕死状態で生きていた。
 殺して影沼に入れた方が楽だったろうに……


「何でソイツら殺さなかったんだ?」
「え? ヴェーダの指示でしたが……」
『腐敗した死体では偽装になりませんので』

「あっ、あぁ~、そりゃそうだな、危ねぇ、失敗するところだった。助かったぜヴェーダ、有り難う」

『どういたしまして』
「うふふ、仲良しですね。では早速殺して、廃棄致しましょう」


 本当にヴェーダが居てくれて助かる、アートマン様には感謝の申し上げようもない。ヴェーダが居なかったら俺の今生はグダグダ展開待った無しだった。

 俺の反省を余所に、ゴブリンやコボルト達が迅速に瀕死の教国兵を刺し殺していく。やはり、戦場にはフレッシュな死体が一番だ。


「兄貴、物資の調達が終わったぜ」
「……蟲の収容も済んだ」

「よっしゃ、死体を放ったらゴブリンやコボルトの皆はダークエルフ達の影沼に入れ、長城の第一城門まで急行するぞ」

『ジャキ、レイン、ミギカラの三名はスコルに騎乗、ダークエルフの三人はラヴの影沼に入りなさい。メチャとラヴはナオキさんとハティに乗って移動、空挺団は引き続き高空から周囲を警戒しつつ先行、この砦から第一城門の間に在る町と村を滅ぼし、露払いしなさい』

「と、言う事だ」

「兄貴は何もやってねぇなぁ」
「……姐者が居るからな」


 うるさい、俺の仕事は……
 ピ、ピクシーの監視なんだからね!! ばかぁ!!



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 サモハン砦から第一城門までの距離は約120km、進攻ルート上には人口千以下の町が一つと村が三つ在ったが、空挺団の露払いによって壊滅している。

 現在の時刻は午前二時半。
 場所は長城第一城門から15kmほど離れた平原。

 俺達は領軍に追い付き、領軍が野営地とした場所から南東へ1kmほど離れた場所に在る小さな丘の裏側に身を隠した。

 両軍は獣人を各地から吸収し、その規模を拡大させながら進軍してきた。さらに、後方から戦奴が続々と領軍に送られ、現在の領軍は兵数を一万二千に増やしている。

 ラヴやダークエルフ達の影沼から蟲達を放ち、野営地を取り囲むように指示。

 常に領軍を監視していたヴェーダが敵の状況を俺達に告げる。


「夜警の兵が……たったの240、だと?」
『八方に30人ずつ配置しております。全て戦奴です』

「戦奴はどうでもいいが、240は辺境伯が居る軍の夜警として少なくないか?」

『戦奴の後方には契約魔法を施した獣人部隊が肉壁として寝かされていますので、問題無いと考えたようです』

「いやいや、逆だろ、獣人を夜警に当てろよ、夜目が利くだろアイツら」

『獣人は大森林での狩りと教国戦での先陣に当てられます、一応給金を払っているので、ここで体力を消耗させるのは得策ではないと決まりました。タダで入手出来る戦奴は不眠不休で潰されます』

「ブ、ブヒ? 戦奴も教国攻めで先陣切らせろよ、勿体無ぇ……」
「……だが、戦奴240の犠牲があるお陰で、獣人や正規兵達の体力は温存出来る」


 どうなんだろうなぁ、レインの言う事も解るが……
 そもそも夜警の数が少なくて、警備に隙間が出来るだろ。
 しかも不眠不休の戦奴が夜警、役に立つのかって話だ。


『彼らは隷属の首輪で厳格な見張り役と化しています。睡眠を取りたくても取れず、見敵した際には大音声(おんじょう)で危険を知らせます』

「そりゃまた、優秀な警報機だな」


 その警報で素早く行動に移せる兵士が、いったいどれだけ居るのか知らんが。

 さて、何から始めようか……





有り難う御座いました!!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ