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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第二章

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第四十八話『忘れていたわけじゃないよ?』

宜しくお願いします。





 九千の兵が迫っているとは思えない空気の第一砦大食堂。

 眷属達の気持ちが伝わる仕様の主としては、苦笑せざるを得ない。

 これはアレだ、清水次郎長しみずのじろちょう親分だな。清水一家を従えて博徒間抗争に入る前の若衆を見ている気分だ。皆がワクワクし過ぎ、落ち着け。


「ったく、まぁいい。質問が無ぇなら――」

「……待て兄者、何故、辺境伯は魔核集めを?」
「あぁ、その事か。はい、ヴェーダ先生お願いします」

『辺境伯は唯一所持する攻城用魔導兵器を一門、今回の教国攻めで使用するようです』

「……攻城魔導兵器、その為の燃料に我々の魔核を…… 下衆共が」


 そうだなレイン、人間は下衆だ。
 魔核はこの世界の魔性生物にとって『己』そのもの、時には形見として親族や愛する者達が後生大事に保管する宝、それをくだらねぇオモチャの弾代わりにされちゃぁ、頭にクルってもんだぜ。


「ブヒヒ、こりゃぁ全滅させねぇと気が収まらねぇな」
「……しかし、領軍を全滅させると破壊工作が無駄になる」

「主様、レイン殿の申す事はもっとも。森で領軍を討ち滅ぼせば、人間共の目はこの大森林に向けられますぞ?」

「何言ってんだミギカラ、誰が森で迎え撃つって言った? こっちから長城を越えて近隣の住民ごと皆殺しにするんだよ。目撃者が居なけりゃ誰にやられたか分かんねぇだろ?」

『教国軍の形跡を残しておくとなお良し、ですね』

「そ、それはまた大胆な…… して、長城越えの人数は……」

「お前ら全部だよ」

「マジか兄貴、それだとガンダーラを空っぽにしちまうぜ? 魔竜の息が掛かった中部の連中に占領されるかも知れねぇ。妖蟻と妖蜂を地下から出すのか?」

「いや、俺と進化エルフ十六人衆で護り通す」
「えっ、兄貴来ねぇの?」

「行かねぇ、お前らでボッコボコにして来い。総大将はミギカラ、参謀はヴェーダな」


 本当は俺も行って暴れたいんだが……
 北の動きが分からん以上はどうしようもない。


『ナオキさん、カスガ女王とアカギ帝が異議を唱えております』

「えぇぇぇ……」

『イセかトモエのどちらかを第一砦に送り、妖蜂軍二個大隊と妖蟻軍一個旅団、計22,986名をガンダーラ防衛に投入するそうです。“後ろは任せろ”と、カスガ女王が申しております』

「二万って、多いなオイ。いやいや、そうじゃなくて、イセとトモエは姉貴の傍に居なきゃ駄目だ、それに妖蟻と妖蜂の女達を――」

『王妹か帝妹のどちらかがアリノスコ=ロリに残れば、女王と皇帝を害せる者は居りません。皇城内は眷属のみで固めます、当日はナナミ・ソウツウ=アリヅカ中佐を皇城から退去させますのでご安心を。女王と皇帝は“意思を曲げるつもりは無い”とのこと』

「あぁぁ、クッソ、しょうがねぇな。分かった、防衛な、防衛。それから~、えっと、ナナミ、アイツは眷属化しないのか? 追い出すのは可哀そうだろ、聞いてみてくれ」

『少々お待ち下さい……』


 妖蟻と妖蜂の大群がガンダーラ防衛、しかも大将はイセかトモエ…… 誰が攻め込むんだ? そんな危険地帯……

 って、何か、この場に居る男衆がソワソワし始めたぞ?
 あぁぁ、アレか、イセとトモエに会えるかも知れんからな、アイドルに会えると思って嬉しいのか。

 う~ん、しかしトモエが来た場合は……
 コイツら心臓マヒで死にそうだな、恐怖的な意味で。


『お待たせしました、ナナミ中佐は眷属化に同意、“すぐに参ります!!”だそうです。現在ササミ少佐が色々とアドバイスしております』

「何のアドバイスだよ…… まぁいいや、走竜騎兵の隊長が眷属になってくれるなら心強い、有り難ぇこった」

「なぁ兄貴、どっちの妹殿下が来るんだ?」

「分かんねぇなぁ、イセは大人しからなぁ、でもトモエはシャイだから……」

『王妹が防衛軍の総大将に決まりました』
「あぁ、トモエか、そっか……」

「ウッヒョウ!! 妖蜂の最強かよっ!! ツバキの姐さん達みてぇに別嬪なんだろうなぁ…… ブッヒッヒ」

「……妖蜂の妹殿下か、興味深いな」
「ブヒッ? お前も気になるのか?」
「……当たり前だ、兄者より強い女傑だと聞いている」
「あ、ハイ、ソウデスネ」


 ジャキは俺以上の下半身正直者だな、傍から見るとアホに見える。今後、下半身に正直な振舞いは少しだけ控えよう。頼むぜ魔王、まぁ、無理だろうなぁ。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『中部以降に動きはありません』
「よし、このまま会議を続けよう」


 十分ほど休憩を挟んで会議を再開。

 もうすぐ午後四時を回る、魔竜はまだ動かない。浅部や眷属の異変に気付いているのか、今は何も判らんが、こちらの事情を優先させる。そのまま大人しくしていろ駄竜。

 次の議題は戦術、戦い方を考える。


「今回の戦いに於いて大事な点を上げてみる、何か気付いた事があったら言ってくれ。この場に居ない者達も何か思い付いたらヴェーダに伝えろ」


 今のところ、俺が考え付いた重要な点は四つ。ガンダーラの防衛と北の監視、皆の命優先は当たり前の事なので除外する。


1、俺達の姿を見た人間の殲滅。
2、人間同士の争いに見せる為の偽装。
3、魔導兵器・物資の鹵獲。
4、長城の駐屯兵は無視、ハイジ山脈からテイクノ・プリズナに侵攻、領軍を撃滅。


「俺が考えたのはこの四つだ。他に何か無いか? 思い付く事は何でも言ってくれ。はい、そこの干し芋喰ってるブゥちゃん」

「ブゥちゃんって…… ジャキって呼んでくれよぉ。あのさ、二つ目の偽装、具体的にはどうすんだ?」

「え~っと、そうだな、とりあえず人間と同じように武器を持って戦う。人間同士が争った様に見せるワケだからな、俺やミギカラの【圧壊】で『グシャッ』っとしたり、お前の北都真拳で『ボンッ』は控える。魔法はガンガン使っていい」

「……兄者は武器も扱えるのか?」
「もともと俺は素手の格闘より剣術の方が得意だぞ?」

「そうだぜレイン、兄貴の剣術稽古に付き合ってみりゃ判るよ。兄貴が動いたと思ったら木剣で頭やら手首やら叩かれてっからな、意味解んねぇ」

「け、賢者様の、剣術は、凄いんです!! 特に『突き』は、か、感動モノです!!」

「……興味深いな」

「その話は後でな。武器で戦っただけじゃぁ偽装は出来ない、そこで、潜入組は一旦ガンダーラに戻り、すぐに教国へ行ってメハデヒ王国兵として教国兵と教国人の捕縛、それから装備を鹵獲してもらいたい。教国兵と教国人は殺していい」

『鹵獲した教国兵装備は殺害した教国人に装備させたのち、教国兵の死体と共に戦場へ破棄します』

「ブッヒ~、えげつねぇなぁ。教国には聖女が居るって話だが、出て来ねぇ事を祈るぜ」

「……だが、良い作戦だ。教国には疑念と困惑、王国には敵が教国であると確信を与える事が出来る」


 撹乱は弱小勢力の常套手段、敵に囲まれた俺達は寡兵を謀略で補わなければ体力が尽きる。

 人間相手に汚いだの卑怯だの関係無い、正々堂々戦いを挑んだところで魔族が一目置かれる事も人類の枠に入れられる事も無い。正々堂々戦った魔王達は眷属もろとも滅ぼされている。

 結局、お互いが“エイリアンとの戦い”という構図から抜け出せない。少なくとも魔族側は交渉の余地を残している、それを蹴り続ける人類に容赦など必要無い。

 人類の白痴化を一時的に解除出来たとして、そこに交渉の余地があった場合、その時の魔族が大勢力になっていなければ有利な交渉は難しい。

 しかも、その交渉時までにアホな神々を排除して神託と共に信仰を絶たねば、神の加護と強力な能力を備えたサイコパスは召喚され続け、再び白痴化が始まる。イタチごっこだ。

 はぁぁ、神々をブッ殺せる力が欲しいなぁ……
 即ち、神々を殺せる力を得るまで、人間との戦いは終わらん。まぁ、神々を排除したからと言って、人間の魔族に対する考えが改まる保証は何も無いが。

 おっと、そんな事を考えている場合じゃない。


「他に何か無いか? ……おう、ムラマッサか、何だ?」

「畏れながら、攻城魔導兵器の性能が気になります」
「ハハハ、なるほどな。そりゃ当然だ」


 ドワーフ達はコレが一番気になっているご様子。

 過酷な状態に在った彼らだが、鍛冶師の魂が腐る事はなかったようだ。敵の兵器情報だと言うのに、彼らの表情はクリスマスプレゼントを貰う前の子供と同じだ、『中身は何かなぁ~』って顔している。


「ヴェーダ、皆に解り易く解説してくれ。今回の攻城魔導兵器に近い地球の兵器を例に挙げる形で頼む、映像付きでな」

『辺境伯が所持する攻城魔導兵器と、M1877・152mmカノン砲の射撃映像を眷属達に見せます。それ以外の者にはナオキさんの精気でホログラム化して視認させます、宜しいですか?』

「ああ、構わん」


 ヴェーダが俺達の頭に音声付映像を流し込む。
 ジャキやレイン達は目の前に浮かんだホログラム映像に驚愕している。こっちは音が出ない、残念でした。

 初めにカノン砲の解説。
 構造や材質、射程距離とその威力などをヴェーダが図を用いて優しく説明。そして動画に移り、射撃時の爆音と破壊される石造りの壁が映し出された。

 眷属達が目を見開いて驚いているが、悲観した様子は無い。
 彼らが驚いているのは内容ではななく動画と音だな……

 次に魔導兵器、大きさや形はカノン砲に酷似している。
 違いは…… 火薬が魔核に変わっている点と、砲弾が魔力を帯びている点だな、威力もこちらが上だ。

 だが、俺は特に驚かない。岩仙術の方が威力も射程も上だからな。原子爆弾投下映像並みの衝撃映像だったら腰を抜かす自信がある。原爆に勝てる気がしない。

 さて、ヴェーダの解説も終わった。


「……姐者、魔導兵器の射程をもう一度教えてくれ」
『この攻城魔導兵器の有効射程距離は約12kmです』

「……長いな、中級以上の氷魔法や土・金混合魔法で氷や石を飛ばしても、12kmは無理だろう」

「え? け、賢者様は、素手で私の頭ぐらいの石を、北の街まで、な、投げられるよ? ビューンって」

「兄貴はオカシイんだよメチャ、いいね?」
「え、えぇぇ、オカシくないよ、す、す、素敵だよっ!!」

「……兄者が超長距離投石で領軍を翻弄する手もあるな」

「ハハハ、それも手だが、多くの人間に逃げられちまう。経験値も俺だけにしか入らん、今回は近接武器を使った白兵戦だ。逃げる敵は投石か【飛石】で脚を狙う、トドメはお前らが刺せ」


 応っ!! という威勢の良い眷属達の声、コイツらは遠距離攻撃より近接バトルを望んでいるようだ。HP回復薬を大量に作らないといけないなぁ。


「ひと先ず、人間との戦いに関する考えはこんなもんだ。ワイバーンの利用も考えに入れると、また違った意見も出るだろう。戦いまで一週間、南北の敵に備えて気を引き締めていこう」

『ナオキさん、ナナミ中佐とササミ少佐が到着しました』

「はいはい」


 ササミにはテイクノ・プリズナに行ってから会ってないな。
 帰ったらすぐに会う約束をしてたんだった……

 また泣かれそうだなぁ……





有り難う御座いました!!
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