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スライムの皮をかぶったドラゴン~最弱のフリして静かに生きたい 作者:三木なずな

第二章 クリスタルタワー

26/26

酔っ払いのおかげ

 クリスタルタワー八階。
 ユイに呼び出された俺は一人でぴょんぴょん上がってきた。

「ユイー、いるかー?」
「ここにいるよ」

 人間化したユイは俺の前にやってきた。
 頭に角、背中に羽、スカートの下には尻尾。
 ドラゴンの特徴をそこかしこに残しつつ、ドレスを纏う姿は綺麗だった。

 15、6歳くらいの美少女って感じで、腰に手をあてて佇む姿も相まって、強気なお嬢様って感じの風貌だ。
 本当(ドラゴン)の姿もかなりの美形だが、こっちはこっちで若い男の人生を大勢狂わせかねないほど美しい。

「遅い、あたしはすぐに来てって言ったよね」

 ……このとげとげしささえなかったらなあ。

「しょうがないだろ、1階から7階まで普通のスライムとして上がってくるしかなかったんだから。ユーリエ置いて来いって言ったのお前だし」
「いつまでも弱いフリをする方が悪いのよ」

 それはそれで一理ある、が今更いわれてもなって感じだ。

「それで、俺を呼んだ理由は?」
「昨日、あたしお兄ちゃんに協力したよね」
「ああ、八階で色々食い止めてくれてありがとう」
「協力した分のお返しを頂戴」
「ふむ」

 相当面倒くさいが、これはユイが正しい。
 俺の正体を隠すための協力をお願いしたんだから、お返しはしなきゃ筋が通らない。

「わかった。何をすればいい、俺が出来る範囲にしろよ」
「ブレスをこの部屋いっぱいにして」
「あれか」

 ブレスというのはドラゴンが吐く攻撃性のない息の事だ。
 ドラゴンは人間の空気でも生きられるが、それよりも魔力を生成したブレスに満たされた空間の方が居心地がいい。
 もちろん戦闘能力もあがる、ブレスが充満した空間は魚にとっての水中と同じ、ドラゴンにとって有利な地形になるのか
 それを作るのは大分魔力を消耗し、結構面倒臭い事なんだが。

「協力の代わりに居住空間の改善か」

 まあ妥当だな。

「この階だけでいいんだよな」
「それでいいよ、あたし他の階行かないし」
「分かった」
「……やった」

 ユイは小さくガッツポーズした。
 そんなにブレスの部屋がほしかったら自分で作ればいいのに。
 ぶっちゃけ無理矢理ドラゴンとして育てられたおれ(スライム)よりも、生まれも育ちもドラゴン(黄金竜)のユイの方が楽で純度の高いものを作れるだろうに。

 まあ、助けてもらったんだ、ちゃんとお返しはしないとな。

 俺は体の中で魔力をブレス変換して、ゆっくりと口から吐き出した。
 ワンフロア丸々満たすまでちょっと時間があるから、精製しつつ違う事を考えた。

 スキルポイント。
 昨日の勇者を倒した後、ゲットしたダンジョンのスキルポイント、アレでまた一つ、ダンジョンのスキルを作れるみたいだ。
 どんなスキルを作るのかを考えた。

 スキルポイントは1だけ、それで作れるものに限界はあるし、効果の大きさも大分制限される。
 でも作ろうと思った。
 今にして思えばディープフォレストは色々ついてたんだろう、このクリスタルタワーも色々つけて、勇者撃退を有利にしなきゃだめだ。

 ポイントを遊ばせておくよりも、使ってつくって、有利に進めてポイントを溜めやすくした方がいい。

 何がいいかな、とあれこれを考えていたが。
 ふと、ブレスがいつまでも満タンにならない事に気づいた。

 大分魔力を使って精製したブレスを吐き出したのに、一向に濃度が上がらないぞ?
 一体どうした――うお!

「むふふふふ……」

 ユイが俺のそばで女の子すわりになって、頬に手を当ててトロンとした目をしている。

「すー、はー……。すー、はー……」

 まるで深呼吸するかのように、おれが吐き出したそばからブレスを吸い込んでいる。

「クンカクンカ」
「ええい! 俺を直に嗅ぐな!」
「もっろ……お兄ちゃんもっろ……」
「もっとじゃなくて、ああもう! そんなに一気に吸い込むから酔ってろれつが回らなくなってるだろ」
「よっれらいもん!」
「いやどう見ても酔ってるだろ」
「よっれらいもん!!!」

 ポカポカポカ。
 ユイは俺の体を叩いた。
 駄々っ子のような叩き方だが……これに騙されてはいけない。

 ビシッ。

 俺の体を貫通して、塔の床にヒビが入ってる。
 酔っ払って加減の聞かないドラゴンの殴り、その辺のモンスターなら今頃ミンチよりもひどいことになってるぞ。

「おいユイ、そんなにすったらいつまで経ってもフロアには――」
「お兄ちゃん!」
「はい!」

 ユイの剣幕におされて、思わず返事をしてしまった。

「そこに正座して!」
「いやスライムは正座できない――」
「正座すりゅ!」
「はい!」

 正座は出来ないが、とりあえず姿勢だけは正してみた。

「お兄ちゃんは、ユイの事をろう思うれふか?」
「どうって? 妹だし――」
「ユイはお兄ちゃんの事大っ嫌い! 朴念仁で、鈍くて、最低のお兄ちゃん!」
「いや別に鈍くはないだろ――」
「口答えしない!」
「……はい」

 これはダメだ、完全に酔っ払いだ。
 酔っ払いに何を言っても無駄だ、適当にこの場はやり過ごそう。

「おにいちゃん!」
「なんだよ」
「膝にのって」
「なんで膝に――」
「乗って!」
「はいはい」

 地べたにすわるユイの膝の上に乗った。
 ユイは俺をぎゅっと抱き締めて、頬ずりしてきた。

「ゴロゴロゴロ……クンカクンカ……いいにおいら……」
「そりゃブレスをはいた直後だからな、濃度100%の原液だ」
「お兄ちゃんのにおいら……」
「ブレスの匂いだよ」
「ゴロゴロゴロ……」

 頬ずりを更にして、ぎゅっと抱きしめてくる。
 スキンシップが激しいな。
 なんというか、猫につかまったマタタビのような気分になったぞ。いやマタタビは気分なんてないだろうけど。

 しかし、いつまでもこれではちょっときついぞ。
 ユイのスキンシップも、普通にやらせてはいるけど通常のスライムなら「グチャッ」ってなるくらいの強さだし。

「なあユイ、そろそろ離して」
「らめえ!」

 ユイは無造作に手を振った。
 高濃度のブレスをすった直後だから、腕を振っただけでフロアが半壊した。
 元から強いのに、ブレスのそれで更に破壊力が上がっている。
 しかも酔っ払い、加減なんてきかない。

「お兄ちゃんは膝に乗るの!」
「わかった! 分かったから手を振るのはよせ」

 ドゴーン! ドゴーン! ドゴーン!!!

 だだっ子の様に暴れるユイ。一撃目以降、攻撃は出したそばから障壁で防いだ。
 攻撃は全部防いだが、衝撃で塔が大きく揺れる。
 障壁がなかったら今の暴走で塔が崩壊してたかも知れないぞ。

 俺が離れるそぶりをやめて、膝の上により深くすわったら暴れるのが収まってきた。

「それれいーの……ごろごろごろ」
「まったく、見た目可愛くてもドラゴンだな」
「うふふ……お兄ちゃんのにおい……すぴぃ……」

 暴れるだけ暴れて、酔っ払いはそのまま寝てしまった。
 まったく、なんだったんだか。
 おれはユイをそっと寝かせて、フロアを修復した後、ブレスを吐いて空間を満たした。

「ありがとうな、ユイ」

 そして昨日のお礼を寝てるユイにいって、ぴょんぴょんと、階段を降りていった。

 酔っ払いのせいで大変な目にあいかけたが、そのおかげでひらめいた。
 スキルポイントの使い方を。

 心の中で反芻する、直前のユイの姿を。
 それをスキルにするように、強くイメージする。

 ――ダンジョンスキル・地形サポートレベル1を生成しました。

――――ダンジョンスキル――――

・引き返し禁止
・地形サポートレベル1 NEW

――――――――――――――――
25000ポイント&月間総合5位になりました、これからも頑張ります。

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