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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第二章

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第四十三話『似合っ……てるぜ?』

今回は少し痛い描写が御座います。
宜しくお願いします。



 マハーカダンバに登ったのは初めてだ。

 岩から出たその日に引っこ抜いてここへ移植した巨木。
 その巨木は神像と聖泉の力を吸収してグングン成長し、高さ120m超えの神木となった今では、大森林一大きな木として南浅部から大森林と長城を睥睨するかのように聳え立っている。

 その巨大な神木に登った俺は青々と茂る木の葉で身を隠し、葉陰の中で“今回の武器”を弄りながら南の空を見つめていた。

 俺の役目は、レベル300を超えた獲物を“雛鳥”達に与える事。

 獲物の総合力は約1,500万、雛鳥達の十倍から二十倍の総合力。ちょっと強過ぎるな、雛鳥的には。

 眷属進化とコアから創造した“強化アイテム”によるドーピング効果だとヴェーダは言ったが、養殖としては総合力が高過ぎる。どんだけドーピングしたんだか、レベルに見合っていない強さだ。

 特異個体のイセやトモエ等はレベル0の状態で既に総合力1千万を超えているが、ジャキやレインのような一部の上位個体でもレベル0の時は一万前後、レベル30を超える辺りで漸く100万を超える。普通のゴブリンなんてレベル0状態の総合力50前後だぞ?

 まったく、ダンジョンマスターの恐ろしさだな。ダンジョン攻略に精を出す人間の気が知れない。自ら餌を運んでダンジョンを強化してりゃ世話は無い。

 とにかく、瀕死状態の餌以外は雛鳥が腹痛起こす。餌の防御力と雛鳥達の攻撃力に差が有り過ぎて、正に『歯が立たない』状況。瀕死の状態でさえ餌の物理防御を貫くのは困難だ。

 今の俺なら狐でも狸でも瞬殺出来る。ダンジョンに戻って本来の力を発揮されたら少しは手古摺るかも知れんが、今なら何の問題も無い。一対一で苦戦のしようがない。

 だが、俺が殺すのは惜しい。無論、経験値的にだ。

 俺は今でも潜入組が稼いでいる経験値カルマが入ってきている。テイクノ・プリズナで眷属達が稼いだ経験値も全て一割頂いた、そこには蟲達が暗殺した分もしっかり入っている。

 今回神木の下で待機している三人の誰かが狸野郎を仕留めれば、レベルは一気に100を超えて進化も果たせる。その上、メチャが仕留めれば俺にも一割経験値が入る。しかし、俺が仕留めると俺だけにしか経験値は入らず、三人のレベルも上がらない。

 俺は常に経験値が入ってくるので、俺の手に余るという難敵以外は全て眷属達に仕留めさせたい。

 イセやトモエほど『ブッ壊れ個体』ではないが、俺も一応は特異個体だ。1レベル上がれば総合力は跳ね上がるし、レベルを上げなくてもスキルの熟練度を上げれば総合力は順調に上がっていく。

 つまり、今のところではあるが、俺はそれほどレベル上げに拘る必要は無い。

 北伐を狙っている現状としては、少しでも眷属達の総合力を高めておきたい。特にジャキやレインといった上位個体、今は一人しか居ないがメチャのような特殊変異体は積極的に上げていく。

 スコル&ハティは…… 自由にさせていいだろう、ヴェーダも『放っておきなさい』と言っている、アイツらは少しオカシイからな。今もムシャムシャ魔核を食べているはずだ、俺の想像に変化球を加えた成長を遂げるとこと必至。


『ナオキさん、目標が視認出来る距離まで近付きました』

「来たか。それで、やっぱり狸達もコアの『眷属ネット』使ってんのか?」

『ダンジョン外では使っていませんね、南浅部での合流はモタついていましたし、合流後に浅部魔族不在を確認していましたので』

「魔竜が眷属の視覚を共有している可能性は?」

『それは判りません。共有可能なマスターも居ますし、不可能なマスターも居ます。今回、視覚共有の線は薄いかと思われます』

「援軍を送って来ないからか?」

『200年以上穴に籠る魔竜にとって、浅部魔族の消失は自らの安寧をおびやかす異常事態であると思われます。何らかのアクションを起こしても不思議ではありませんが、ダンジョンに動きはありません』

「う~ん、推測か。作戦に変更は無し、だな」
『それで宜しいかと。そろそろ目標が南の水濠を越えます』

「それじゃ、隠れたまま狙撃すっか」
『ナオキさん、ソレは“砲弾”です。爆散しますよ』

「おっと、じゃぁこっちの弾で……」


 直径10cmほどの鉄球を神木銀行に預け、直径1cmで長さが4cmの細い鉄を四つ取り出した。

 ライフルの弾頭部分だけを真似た物だが、先端部分の鉄を粗悪にして強度を下げ少し凹ませてある。ヴェーダによると、こうする事によって弾丸の貫通力と弾速は落ちるが、目標に当たった時の破壊力が上がるそうだ。ホローポイントと呼ばれる弾丸らしい。

 おっと、思ったより接近速度が速いな。
 しっかり狙いを定めて――


『狙いはもっと右です、はい、ワイバーンの翼が四回下がったあとにどうぞ』


 ――カウントダン開始。


「スリ~、トゥ~、ワ~イ、バ~ン」


 俺の周りに浮いた四つの弾丸が消える。

 集会所の少し手前まで接近していたワイバーン、その首元に並んで座る人間と妖狸の両肩と両膝を弾丸が貫き吹き飛ばす。

 人間は自分の四肢が消えた事に気付いていない。

 しかし、人間の後ろに座っていた狸野郎は違う。撃ち抜かれて一瞬呆けたが、前に座る人間の両肩から溢れ出た血液が風に乗って顔に掛かり、それが人間の物だと知って驚愕し、次いで自分の四肢が消えている事に気付いて絶叫を上げ、落下した。

 そこで漸く自分の状態に気付いた人間が失神、同じように落下する。ワイバーンが契約主を助けようと急降下したが間に合わず、人間は地上約110mの高さから墜落して爆ぜた。

 その瞬間にワイバーンの従属契約が消失、超低空から再び空へ舞い上がろうとしていたので、俺が神木から飛び降りてワイバーンの頭を軽く小突き気絶させる。

 狸の墜落現場に目を遣ると、メチャが狸の頭に麻袋を被せ、その背後から“送り襟絞えりじめ”で首を絞めていた。チョーを仕留めたアレだ。麻袋を被せた理由は、俺達の姿を視界に入れさせない為。魔竜が覗いているかも知れんからな。

 ジャキが狸の頭を左手で掴み、レインと共に狸の顔面を殴り回している。魔法を唱えさせない為だろうが、狸はメチャの絞めがキマっており、既に声が出せない。狸の白い和服の様な衣服は血だらけだ。

 何だか、ジャキとメチャがいつもより荒れてるな。レインも荒い、いつもあんな感じなのだろうか、ジャキやメチャ並みに攻撃が激しい。これが女の妖狸だったら、アイツらは手加減したのだろうか? 微妙なところだ。

 四肢を失い絞め技で固められている狸は一方的にやられているが、ダメージはほとんど通っていない。絞めでの窒息は難しい、殴打による殺害も無理だろう。

 現状では失血でのショック死が濃厚だ。
 正直、ここまで硬いとは思わなかったぜ。

 これが、各種耐性や“防御力・攻撃力”という数値のある世界なのだと実感した。
 物理無効の俺が数値としての防御力と相手の攻撃力を認識出来るのは、今のところイセやトモエの攻撃を喰らった時だけだ。

 防御力は体の表面に適用される、無論、髪や眼球も例外じゃない。袋を被った狸の眼球部分にジャキが貫手を放つが、狸にダメージは入らなかった。

 総合力1,500万の狸と100万台のジャキやレインでは、差が有り過ぎる。

 これはイカンね、狸に攻撃の通る個所は……
 口内も見える部分は駄目、食道か肛門か尿道に細い鉄棒でも刺して内臓突き刺し祭りかな……

 ふと、蟲達を思い出した。

 俺の眷属となった蜂や蟻もそうだが、毒を持つ蟲や虫は【穿通せんつう】という先天スキルを持っている。体の一部である針や牙にのみ効果が乗る特殊スキルだ。

 穿通は対象の防御力を無視して針や牙を皮膚に通すスキルだが、耐性は貫けないしレベル差があるとダメージも入らない。しかし、物理耐性や刺突耐性を持たない相手には、確実に針や牙を刺し込める。

 毒耐性を持たない相手にはこれでダメージを与えられるわけだ。

 何故、突然このスキルを思い出したかと言うと、魔族の中にも穿通を先天的に備えて生まれる種族が居るからだ。

 例えば妖蜂族の蟲尻から出される針、妖蟻族の牙にも穿通スキルの効果が乗る。代表的な穿通スキルの使い手と言えばヴァンパイアだ。彼らは穿通スキルを発動させて相手に痛みを与えずに吸血出来る。

 当たり前の事だが、穿通スキルを発動せずに針や牙で攻撃する事も可能だ。穿通で突き刺した後に効果を切ってダメージを与える事も出来るだろう。高レベルの者ならスキルを発動させたまま相手を刺し貫いて殺す事も出来る。

 この場にツバキやササミが居れば、あの狸はコロっと死ぬんじゃないか、そう思ったんだが…… もう少し俺がダメージを与えてみる事にしよう。時間が勿体無いので鉄棒串刺しはお預けだ。


「どこを狙って弱らせようか……」


 テクテク歩いて三人の許へ移動。
 メチャが俺に気付いて焦った顔を見せ、絞めを強めた。ジャキとレインも手数を増やす。叱りに来た訳じゃないんだが。


「ジャキとレインは退け、メチャはそのまま絞めてろ」

「は、はいぃ!!」
「あ、兄貴ぃ~」
「……クッ、無念」

「いやいや、殺し易くするだけだから、落ち込むな」


 肩を落として悔しがるジャキとレインを宥め、二人を一歩後退させた。

 狸野郎に近付いて初めて気付いた事がある。
 なるほど、三人が荒っぽいのはコレの所為か。

“好い香水”付けてんじゃねぇかクソ野郎が……

 俺は左手で狸の頭を掴み、右手で麻袋の右上を少し破ってケモ耳を袋から出し、その右耳に小指を突っ込んで鼓膜を破った。

 やはり鼓膜も防御力が乗ってるな、抵抗があった。鼓膜以外にも骨やら肉やらブチブチ鳴っていたが、死んでないので問題無い。ケモ耳の穴が途中で『くの字』に曲がっているとは思わなかったから強引に行った。眼孔に指を刺し込んで骨に穴を開けてもよかったが、死にそうだからやめといた。

 狸の絶叫が森に木霊す。うるせぇ野郎だ。
 メチャがさらに絞めを強めて狸の声を封じた。ナイス。


「あ、兄貴、何やってんだ?」
「この右耳に小枝でも刺し込んで殺せ」

「え~っと、じゃぁ俺が――」
「……退けジャキ、三男は次兄の後だ」

「メチャが待ってんだ、早くしろ」
「あわわ、わ、私は大丈夫です!!」

「……では俺から」


 どうやらレインが一番手で決まりのようだ。
 地面に突き刺していた鉄の槍を抜き、レインが狸の耳に穂先を入れる。


「……お前の体から漂うハーピーの香りには、悲しみが含まれている。……死ね、チャオッ!!!!」


 レインの鉄槍が狸の頭にズヌリと刺し込まれた。
 狸の頭に被せた麻袋、その鼻の辺りが朱に染まる。

 軽く穂先で円をえがき、狸の脳を破壊して槍を抜くレイン。
 すると、レインの体が突然膨張した。

 レベルアップと進化準備完了の合図だ。
 つまり、クソ狸は死んだ。


『レベル142、二回進化出来ます』
「ほぅ、そりゃ良かった」

「……兄者、進化先は、どうする?」
「好きにしな」

「……分かった。では、リザードガードにする」


 リザードガードは戦士系、リッターリザードの上位種だ。
 レインの体から白い光が放たれ、進化が始まった。

 ゴキゴキと骨を鳴らし、長い尻尾が地面に叩き付けられる。

 やがて光が止み、オレンジ色の鱗に包まれたレインが誕生した。

 デケェ、ジャキを超えたな。身長は308cmもある。

 そして俺達が驚愕する変化がレインに起こった。

 リザードマンはトカゲだ、二足歩行する大トカゲだ。
 だがしかし、今のレインはタダのトカゲ男ではない。


「レイン、お前……」
『これはこれで宜しいかと』
「で、ですねぇ、ジャキより男前です!!」
「ブ、ブヒッ、お、俺は負けてねぇ!!」


「……? 何の話だ?」


「お前、髪がフッサフサだぜ?」


 レインは銀髪ロンゲのイケメンになった。
 顔はトカゲだが、背中に靡くロンゲが爽やかだ。

 頭部の鱗はどうなってんのかなぁ?




有り難う御座いました!!
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