両親は牧師で厳しく、道徳的だった。子供の頃、学校で生徒が果物や牛乳を売るのを許されないのは不公平だと考え、学校側に働きかけ規則を変えさせた。ブリュッセルのオフィスには、デンマーク副首相時代に労働組合から贈られた、中指を立てた手の像が置いてある。批判する人が常にいることを思い出すためだ。
欧州連合(EU)で競争政策を担うベステアー欧州委員は6月27日、ネット検索市場での独占的地位を乱用したとして米グーグルに約24億ユーロ(約3000億円)の制裁金を科した。EU競争法(独占禁止法)違反の罰金としては過去最高だ。だが金額以上に重要なのは、市場をほぼ独占しているネット企業に欧州委員会がどう対処していくのか大まかな指針を示したことだ。
同社は2002年、後に「グーグルショッピング」に名称を変更した「フルーグル」という価格比較サービスを立ち上げた。08年にサービスの仕組みを変えた。欧州委によると、新サイトでは一般的な検索結果の一番上の目立つ場所にグーグル自身の買い物検索の結果を表示し、競合するサービスへのリンクをユーザーがほぼ訪れない検索結果ページの下の方に置くことで、体系的に自社サービスを優遇したという。
大きな検索エンジンが複数あれば問題ないが、グーグルの市場シェアは欧州諸国で90%を超える。同社が仕組みを変えた時、競合サイトへのアクセスは急減した。他社の競争する機会を奪い、消費者の選択肢を減らしたとベステアー氏は指摘した。
■グーグルの主張にも一理
グーグルは自社の検索サイトはそれほど支配的ではないとして、判定を不服としている。消費者は米アマゾン・ドット・コムや米イーベイなど多くのサイトで商品を探すからだ(欧州委はこれらを検索エンジンとみていない)。グーグルは08年の変更は消費者の利益になったとも主張している。同社顧問弁護士のケント・ウォーカー氏はブログで「人は通常、自分が求めている商品に直接飛ぶリンクを好む」と書いた。この点はグーグルの主張に一理あるように見える。グーグルの検索結果の上に商品と価格がきれいに並んでいれば、消費者が他のサイトへ飛ぶリンクをクリックしたがるわけがない。
EUの最高裁判所に当たる欧州司法裁判所は、グーグルの主張の理非を検討しなければならない。同社は上訴する見込みで、欧州委の主張には弱点がある。一つは、他社の価格比較サイトの扱いのために消費者が損害を受けたと立証する難しさだ。ただ、重要性が高まっているにもかかわらず米独禁法当局が避けてきた問題に欧州委が取り組んだ功績は大きい。つまり規模の大小を問わず、競合する企業が自社のプラットフォーム上で商品やサービスを提供する時、アマゾンや米フェイスブックなどの支配的なネット企業はどんな責任を負うのか、という問題だ。
これまで、特に米国ではこれら「スーパープラットフォーム」はその規模にもかかわらず市場支配力を不当に使っておらず、革新により繁栄しているとみられてきた。だが彼らの存在が大きくなり、この見方は米国でさえ変わり始めた。「ネット市場では様々なネットワーク効果が高い参入障壁を生む」との欧州委の見解を受け入れる独禁法専門家は増えている。それは、グーグルがユーザー離れを恐れることなく検索結果を意図的に(競合する企業に不利になる形で)ゆがめられることを意味すると指摘する米テネシー大学のモーリス・スタック教授は、「彼らに中立性を守らせる必要がある」と言う。