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クレームをどんな風に補正する?アメリカ特許の補正制限、新規事項の追加とは

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photo by akrabat

審査官の拒絶理由通知に対して、出願人が反論する際に問題となるが、どのような補正を検討すればよいか、ということです。特許を取得するためには、Office
Actionに拒絶理由の根拠として引用された先行文献とを差別化し、特許性のあるクレームに補正をすることがありますが、引用文献を回避するために、なんでもかんでも補正することが許されるわけではありません。


米国の特許法においても、クレームを補正できる範囲がきっちりと決められています。つまり、実務家としては、クレームを補正するときに、適法な補正であるか否かを注意しなければなりません。また、クレームのサポート要件を満たすために、明細書や図面を補正することもありますが、それについて補正できる範囲が決められています。


補正ができる範囲は、出願当初の明細書や図面等に記載されている、あるいは明らかに示唆されている範囲に限定されます。出願当初の明細書や図面より明らかに示唆されていない事項は、つまり、新規事項(new
issue)の追加であるとして、その補正が却下されてしまいます。たまに、新規事項の追加であっても、審査では見過ごされ、特許として認められてしまうことはありますが、新規事項の追加は特許の無効理由にも挙げられているので、一度訴訟等で争えば、当然、その特許は無効になります。


また、この補正範囲については、日本の特許制度でも、同じような規定がありますが、一般的に、米国の特許制度の方が新規事項であるか否かの判断基準は緩やかであると言われています。例えば、米国特許法の下では、明細書にその記載がなかったとしても、その発明に本来的に備わっていた利点や効果は、新規事項には該当しないと判断するのが一般的で、当然補正により、引用文献との特許性を主張するために用いることができます。

(1)新規事項(new issue)とは

新規事項(new issue)とは、出願当初の明細書や図面に開示されている内容から変更することや、出願当初の明細書や図面に開示されていない内容を新たに追加することを言います。

新規事項を補正可能な範囲として認めない理由としては、新規事項を追加することは、発明の範囲を拡張することにもなるので、その結果、公衆が既に利用可能であるとされていた発明まで、出願後に独占されてしまう恐れがあり、公衆の利益に反するからです。


その補正が新規事項の追加に該当するか否かの判断基準は以下の通りになります

①出願当初の明細書や図面の開示内容を明確にする補正

記載不明瞭とする拒絶理由であったり、Office
Actionで審査官が誤解している、文言の意味について誤認を解消するために、クレームに記載された文言や明細書の記載内容を明確にする補正は、新規事項の追加に該当しません。例えば、次のような補正は新規事項の追加にはなりません。
★その発明に合理的に内在している事項の説明や補足
(Michigan Carton Co, v. Sutherland Paper Co,, 29 F. 2d 179 [6th Cir 1928])

★当業者にとって自明な範囲において、図面や明細書の不備を解消する。
(Quigley V. Zimmerman, 73 F. 2d 499 23 USPQ 310 [CCPA 1934])

★新たな発明、方法、または装置を追加するものではなく、出願当初の開示を明確にし、または完結させる補正
(Triax Co. v. Hartman Metal Fabricators, Inc., 479 F. 2d 951 178 USPQ
142 [2d Cir 1973])

★出願当初の開示に潜在的に含まれていた事項を明らかにする補正
(In re Wright, 343 F. 2d 761, 145 USPQ 182 [CCPA 1965])

米国の特許制度では、新規事項の追加に該当するか否かの判断は、米国以外の国と比較して、あまり厳しくない印象があります。


例えばヨーロッパなどでは、明細書に記載されている文言通りに補正されていなければ、新規事項の追加となってしまいますが、米国では明細書通りの文言を使ってクレームを補正する必要もありません。例えば、明細書にその通りを表す文言がなかったとしても、図面で開示していた内容を根拠に補正をすることもできます。


さらに、米国の特許制度では、出願当初の明細書や図面に記載されていなくても、クレームに記載されている発明に、「本来的に内在していた」または「潜在的に記載されていたことになる」事項までクレームを補正することができます。また、当業者にとって審査官が認めれば、自明な範囲であれば補正が許容され、出願当初に潜在的に含まれているものであれば、明細書に記載されていない“新規な用語”を用いることもできます。


ただし、明細書や図面に開示されていない文言を用いない補正をすることはあまりオススメできることではありません。出願人の主張を認め、新規事項の追加としないとするか、否かは、審査官の裁量によるところが大きいので、「本来的に内在していた」または「潜在的に記載されていたことになる」とする補正は、一種の「賭け」に他なりません。


明細書通りの文言を使わないにしても、図面には開示されている補正を行うことの方がより実用的な補正になります。

②明細書と図面を一致させる補正

明細書の記載している内容と、図面で表されている内容に一致していない矛盾があって、この矛盾を解消するために、どちらか一方に一致させる補正は新規事項の追加に該当しません。

明細書も図面もどちらも出願時に提出された書類なので、その範囲内において補正をするのであるので、新規事項の追加として補正の却下されることは少ないと思います。

③誤記の訂正

出願当初の明細書、図面およびクレームに開示されておらず、示唆もされていない事項を追加する補正、または出願当初の明細書の根本的な不備を補う補正は、新規事項の追加となってしまいます。


そのため、誤記の訂正においても注意が必要です。例えば、明細書の一部において、構成要件の誤記があったとします。審査官が誤記であると認めなければ、その誤記を修正することは新規事項の補正となります。


例えば、電池の発明において、「固体電解質」と「液体電解質」の両方を明細書の至るところに使われていて、一部の箇所に「固体」であるべきところが「液体」と記載されていた誤記があった場合、それを誤記として認めるのか認めないのかは審査官の判断になります。

また、一つの構成要件を一貫して誤記のまま記載していた場合も、その一貫して同じ用語を使ってしまっているので、誤記として認められにくいでしょう。

(2)新規事項に追加が争点になった判例の結論

①新しい構成要件・構造の追加

クレームを補正するときに、新しい構成要件として構造を追加する補正は、出願当初の開示に「必然的に」記載または示唆されていれば、新規事項の追加とはなりません。


言い換えれば、その構造が存在していた可能性や見込みがあるというだけでは、新規事項の追加に該当するとみなされます。クレームに補正するにあたり、追加したい構成要件である構造が、クレームに記載されている発明にとって「必要」かつ「不可欠」であることが出願当初の明細書や図面などから明らかである場合のみ、その構造をクレームに追加する補正が認められます。
Chubb & Son’s Lock & safe Co. v. Omron Tateisi Elec. Co., 196 USPQ 677
(D.D.C. 1956)

②科学理論(メカニズム)の追加

明細書にその発明がどうしてその効果を生むことができるのか、その理由となる科学理論(メカニズム)を明細書に追加する補正は、新規事項の追加にがいとうしません。

そもそも特許を取得したい出願人は本来的に、そのクレームに記載する発明の構造や作用のみを開示すればよいのであり、その発明がなぜそのような効果を得るのか、科学理論まで開示する必要はないとされています。

したがって、出願人は出願後に、その発明の作用原理を理解したときは、その理論を補正により追加することができます。その明細書に記載している効果を得るためには、そのメカニズムが働くためであって、それが新規事項に該当しないことは出願当初の明細書の内容から明らかであり、既に分かっている効果について、その科学理論を追加しても開示範囲・クレームに記載された発明の権利範囲の拡張にはならないからです。
(Michigan Carton Co, v. Sutherland Paper Co,, 29 F. 2d 179 [6th Cir 1928])

③有効性の追加

有用性を追加する補正は、原則として、新規事項の追加になります。

もし、出願人がその有用性を特許性の根拠としたときには、有用性は明細書に記載していなければならないし、権利を本当に取得したいのであれば、初めから明細書に記載しているだろうと判断されるためです。

しかし、一方で、有用性の追加に関しては、技術分野の性質や補正の目的により認められた例もあります。例えば、明細書当初の有用性が広すぎたとき、その広過ぎた有用性を明細書によって示唆されている範囲まで減縮する補正は、新規事項の追加に該当しないとした判例もあります。
Rhone-Poulenc Sa v. Dann, 507 F. 2d 261, 184 USPQ 196 [4th Cir 1974]

なお、新たな有用性を追加したいのであれば、わざわざ新規事項とみなされる可能性のある同じ出願で補正を行うのではなく、一部継続出願(CIP)を提出する際に新たな有効性について明細書に追加するという方法もあります。その時のデメリットとしては、その追加した有効性について、新規性の判断等が遅れることと、一部継続出願を改めて行うことで手続費用が新たに発生することです。

④効果および属性の追加

その発明に本来的に備わっていた利点(Advantage)や属性(Property)を追加する補正は、新規事項の追加には該当しません。
Westmoreland Specialty Co. v. Hogan, 167 F. 2d 327 [3d Cir. 1909]


出願人がクレームに記載された発明の特許性を主張するために、そのような効果や属性を出願当初の明細書に追加することは数々の判例により認められてきました。


非自明性の欠如を理由とする拒絶理由通知を受け取り、これに対して、従来の先行技術と比較して、発明の優れた効果を主張したい場合にも、米国においは明細書に記載されていない利点や属性であっても、そのクレームに記載された発明特有のものであれば、当然、明細書の中に記載されていた内容を根拠に主張することができます。


ただし、利点や属性を主張するために、わざあざ明細書を補正する必要はなく、意見書で主張すればよいだけのことです。記載不備などの拒絶理由通知ではなく、特許性に関する拒絶理由通知に対する応答では、クレーム以外の明細書や図面については、補正を行わないようにするのが慣例です。少しでも新規事項に該当するとなれば、たとえ登録になったとしても結局は無効理由をはらんでしまっていることになるからです。

⑤インコーポレーション・バイ・レファレンス

明細書中で、他の出願の参照による援用、すなわちインコーポレーション・バイ・レファレンスが明記されているとき、合理的な範囲であれば、参照先の出願の内容を補正で追加することができます。
In re Fouche 439 F. 2d 1237, 169 USPQ 429 [CCPA 1971]


他出願の参照による援用とは、他出願の番号の参照をもってその出願の記載内容を組み込む旨の宣言になります。具体的には、「この化合物は同出願人の出願No.XXXの実施例1に記載された方法を用いて調合した化合物である」と記載していれば、その引用した文献の当該調合方法の記載から補正を行うことができます。

また、この援用先の先行文献はアメリカに出願されたものとよらず、外国出願の記載内容も援用していれば、補正で追加することを認めた判例もあります。
In re Hawkins 486 F. 2d 569, 179 USPQ 157 [CCPA 1973]

その判例があって、米国の特許弁護士の中には、優先権主張の基礎となる出願番号を明細書に引用しておくことを強く奨める人もいます。その理由は、日本語で記載された日本出願を基礎に、パリルートでアメリカに出願すれば、その基礎となる日本出願の日本語の明細書の補正に利用できることになり、米国に出願した明細書の中に万が一誤訳があったとしても、PCT同様、誤訳訂正と同じ効果を有するのではないかと期待されています。