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セミナー講師から見た
良い運営・改善すべき運営とは

判断基準は、講師にとって良いかどうかではなく、あくまで「受講生」と「聴講者」というお客様にとって良いかどうか、である。

 実は、Facebookで「ある会社の~~養成講座がヤバかった体験記」という記事を発端に、私も「講師としてひどい目にあった(過去形)」という追っかけ記事を書こうとした。それじゃ、ということで現状を確認してみたら、なんと「現在形」でもひどいことになっていることが発覚して一悶着あったので、そのまま記事にした(現在は削除)。

 それは、まぁいいとして(良くないけど)、最初の記事のコメントのやりとりの中で、あの小川卓さんが「講師側から見た良い運営と改善して欲しい運営をブログに書こうかな」というとても大人な配慮をされたので「読みたい」と書き込んだら、Web担の安田編集長が「飯室さんもぜひ書いてくださいよw」と、いつもの無茶振りをしてきた。いつものことなので、軽く受け流そうと思ったが、この業界全体のレベルが上がっていくことで、受講生・聴講者にとってプラスになるならばいいことかも、と小川さんに賛同して、書いてみることにした。小川さんとは、後で仲良く相互リンクしましょう、というお話になった。

 今回は、ここ数年で引き受けた合計で30件以上の大規模なカンファレンスでの講演も小規模のナントカ養成講座も、あわせて「講師側から見た良い運営と改善して欲しい運営」を書いてみようと思う。今回は、決して誰かを糾弾することが目的ではないので、実名は出さないことにする。

 最初に断っておくが、私の「講師側から見た良い運営と改善して欲しい運営」の判断基準は、講師にとって良いかどうかではなく、あくまで「受講生」と「聴講者」というお客様にとって良いかどうか、である。

 実は、私自身のブログ(B2Bハック.コム)には、すでにブログ開始当初から、以下のような講演を引き受ける上での注意事項を記載している。

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講演は時間が合えばなるべく引き受けるようにしています。オープンなイベントでの講演も、企業内でのクローズドなトレーニングもお引き受けしております。

ただ、話して欲しいタイトルや内容をリクエストいただくことが多いのですが、まずはこの講演で何を達成したいのか、目的を伺うようにしています。講演だけを商品として単品売りするようなことはしていません、あくまで「ご依頼主の成功をコミットする」ための手段の一つとしての「講演」でしかありません。

1)開催目的
何を達成したいのか? ゴールと現状、抱えている課題、これまでの戦略や施策

2)受講者、聴講者
誰に聴かせたいのか? 彼らにどうなってほしいのか、どうして欲しいのか

3)時期、期間
「来週の金曜日の3時から90分お願いできますか?」というピンチヒッターは勘弁してください

4)メッセージ
伝えたいメッセージ

5)伝える手段、方法論
講演のご依頼だったとしても、目的などを伺った上で一番最適な方法で実施します。

6)フィードバック
一方的に講演だけしておしまいにはしません、当初の目的達成こそゴールです。

講演料の目安

2時間 40万円から

1時間 20万円から

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上記の1)~6)ができていれば、受講生や聴講者にとってのメリットは計り知れないはずだ。

 ご存知のように、私は何処かの会社の社員でもなくなったし、決まった物品やサービスを売るわけではなかったので、「講演をすることが宣伝になるから」という理由で、自ら講演をすることをかって出ることはなく、あくまで受け身な仕事として講演を引き受けてきたに過ぎない。

 もちろん、お金をもらう以上は、主催者の開催目的の達成を支援するために最大限のことはするが、まずはこの開催目的だけでも「講師側から見た良い運営と改善して欲しい運営」が見えてくる。

開催目的

良い運営)

 開催目的が明確で、担当者が具体的に説明できること。例えば「大阪地区では、このイベントを開催したことがなく、これまで東京にまでわざわざ聞きに来ていただくばかりだったが、初めて大阪で開催することで、大阪のマーケターにも広くこのイベントの存在と価値を認知してもらいたいことと、セミナーのスポンサーに良質のリードを届けたい」と最初から頼みもしないのに説明されると、私が何をすべきか、どうすれば貢献できそうか、が瞬時にわかる。そうなると、こちらもターゲット受講生や聴講者に対して、最も価値のあるコンテンツを届けることに集中できるというものだ。

 最近では「弊社の取引先が、まだマーケティングを導入できていないために、厳しい環境の中で業績不振で苦しんでいる。私は、マーケティングこそ経営の最高機能だと信じているから、この想いを経営者達に伝えて、マーケティングで経営を変えることによって、さらなる成長をして欲しいと思っています。なんとか力を貸してもらえないか?」と明確なメッセージを受け取り、講演だけではなく、具体的にどうやって取引先の経営者に伝えていくかというマーケティングそのものまで一緒にやることになった。ここまで一緒にできると、聴講者達に何をどうやって伝えていくかを細かくデザインすることが可能になり、当日の1時間の講演時間だけに縛られず、様々なチャネルを使って発信していくことが可能になった。もし単に「マーケティングで経営を変える」というタイトルで何か適当に喋ってくれ、と言われたのであれば、キッパリ断りしたところだ。

 こうした講義や講演もコミュニケーションなのだ。コミュニケーションとは、自分が伝えたいことを、言いたいことを、喋りたいことを好きなだけ喋ることではなく、相手が聞きたいこと、知りたいこと、相手にとって価値があること、相手の何かに貢献できることを、伝えようとすることなのだ。つまり自分が何を話したかは関係なく、相手がどう聞いて受け止めて認識したかがすべてなのだ。そこをきちんと理解している運営者は、自分たちが言いたいことを代弁してくれるように講師に頼むことなく、まずは誰が聴講者か、どんな聴講者なのかというインサイトを懇切丁寧に説明してくれる。

改善して欲しい運営)

 開催目的が曖昧で、はっきりと説明できない運営。例えば「飯室さんには、BtoB企業のためのインターネットマーケティングについて話して欲しいのです。」と話して欲しいタイトルが先に決まっていて、とにかく話して欲しいの一点張りで、明確なゴールが説明できない運営担当者がいる。兎にも角にも、手段であるHOWが先行して、何がゴールなのかというWHYを見失っているか、手段と目的が入れ替わるという本末転倒な場合が多い(7~8割はそんな感じ)。おそらくセミナーのスポンサーに「飯室さんを引っ張りだします」とすでに約束をしたのか、社内での事前打ち合わせでお題と演者を先に決めてしまったので、それを依頼することがゴールになってしまっている運営、に当たることはよくある。もう一つのパターンは「飯室さんが話したいことはなんでも結構です、テーマは限定しませんから、主催者のことなんか気にせずに好きなこと好きなだけ喋ってください。」と、えらく気前のいい大盤振る舞いのようだが、もはや、何のためにセミナーか、と聞くのさえもはばかられるほど、何でもいいです、というスタンス。つまり、客寄せパンダとして「元GEのグローバルデジタルマーケティングリーダーが講演をする」というだけが、先方の要求事項である場合もあった。

 もちろん、私にお金を払う主催者として、私を客寄せパンダとして扱うことには疑問は持たないけれど、ゴールが明確でないまま、言われた通りに話すだけでは、「本当に聞く人のニーズに応える」ことはできないことになり、それでは受講生にも聴講者にも満足はいただけない。集客の数だけはこなせても、せっかく聞きに来てくれた人に喜んで帰ってもらえないではないか。まるで相手のニーズなんかに関係なく「製品を売る」だけの営業のようである。今や「モノを売る」時代から「コトを売る」時代とも言われるのに、押し売りのように「バズったテーマ」や「話題のネタ」をセミナーで提供しさえすれば集客できる、と思い込んでいる運営担当者は、開催目的を明確にすべきだ。来てくださったお客様の課題を解決するような話題や、何かのヒントになるようなネタが一つでもあれば、それは口コミで広がるし、友人や知人に推薦してもらえるはずだし、次もまた来てくれるはずだ。そうであってほしい。

この開催目的が共有できて初めて「どんな内容を話そうか」という打ち合わせに入るのだが、

良い運営)

受講する生徒及びセミナー聴講者のインサイトをしっかりと持っており、彼らが抱えているであろう課題、直面している悩みなどを熟知している運営担当者がいることが成功のカギとなる。実際に「デジタルマーケティングが、バズワードとして先行しすぎて、現場のマーケターたちにとっては、デジタルマーケティングを導入することがゴールのようなプレッシャーの中で苦しんでいる。大切なのは、デジタルマーケティングとは何かという知識ではなく、デジタルの人が役割を果たすために知っておかなければいけない、デジタル以外のことを語っていただけないでしょうか」というしっかりとした依頼が来たこともある。この場合は、担当の方と2時間近くも誰に何を伝えるべきかをディスカッションをしましたし、その議事録もしっかりと送られて来て、ブレのない準備ができたものだった。ここまでメッセージが明確であれば、聞きに来る聴講者にとっても間違うことも、期待はずれになることも、騙されることもなく、実際にこの時のアンケート結果は極めて高い評価をいただけていた。

 

 もう一つ、複数の講師が登壇するようなトレーニングコースでは、専門性の高いエキスパートが惜しみなく経験も知識も披露してくれるのだが、バラバラに言いたいことを言い放ってしまっては、全体のオーケストレーションができないのだが、これをやってのけてくれた某養成講座はお見事だった。全部で4回に分けてあり、各回に1時間登壇する講師が2人と、4時間担当するメイン講師一人の組み合わせだった。最初に講師同士の打ち合わせがあって、お互いに何を担当するのかを紹介しあい、全体のテーマを統括するメイン講師が、ダブりの無いように事細かに調整をしてくださった。各講師に何が期待されているかが明確になり、全体が繋がって一つのストーリーになることで、受講生達にとっても、わかりやすい講座だったはずだ。

改善して欲しい運営)

 これは、まだ他ではこのタイトルでの開催がなく、とても意欲的で、時代が求めるニーズを先取りしたような内容の講座だったので、興味を持って引き受けた時の話だ。全部8回のその講座は、それぞれが異なる講師で、しかもその筋では一線級の素晴らしい方々ばかりで、頼まれた私も、話を聞きたいと思ったくらいだったのだ。が、開催日の連絡があっても、一向に打ち合わせの連絡がなく、こちらが心配になって連絡したほどだ。また、8人の講師が似たような話をしても受講生に申し訳ないので、事前に8人の講師の間でのトピックのすり合わせが絶対に必要にもかかわらず、とうとうなしのつぶて。ただ、他の7名の講師を見ればそうそうたる方達なので、きっと私のような素人は事前の調整とかしてもらえないのだろうな、くらいに思っていた。

当日、25名ほどの受講生を前に、

「私は今日はこういう話をしようと思うのだが、これでみなさんの期待に応えているだろうか?」と聞いてみると、なんと受講生からは、

「それと同じ質問を、これまでの4名の講師の方も最初に質問されましたよ。」とすごい返事が返ってきた。さらに続けて、

「その4人の方々の話は、ほとんど似たようなトピックでしたから、きっと講師の皆さんの間では、話す内容のすり合わせとかされていないんでしょうね。」と言われたのだ。これには驚いた、私だけが主催者からほったらかしにされていたわけではなかったのだ。

 この時は、緊急対策として、私は用意していったスライドを使う前に、まずは受講生全員から、何を聞きたいのか、何が期待なのかを聞き出してはホワイトボードに書き出して、全員が満足できるように、トピックを再編成するの40分ほど時間を使ったのだ。おかげで午後9時終了が10時近くまで伸びてしまったが、後から「他のメンバーとも話しましたが、飯室さんの内容こそ ”聞きたかったこと!” が共通意見であり、個人的にも、組織としても非常に考えさせられる内容でした。」というフィードバックをいただけた。

 会場の対応(大規模カンファレンスではなく、少人数のセミナー・トレーニングの場合)

良い運営)

 講師との事前打ち合わせの中で、ディスカッションが必要だ、との指摘に対して、会場の机の設営、1グループを何人にすべきか、全員が見やすいスクリーン配置、マイクの数まで、私が言い出さなくてもテキパキと決めて仕切ってくれた運営がとても頼もしく助かったものだ。

 

 また、当日使用する会場の機材・照明などにも専門の担当者がいることで、事前確認もスムーズ、講演中も細かな配慮が行き届き、受講生達にとって見やすく、聴きやすい環境を提供できた。

 

 さらに、受講生の名札を大きく見やすい文字で印刷してくれたので、各人を名前で呼ぶことができるのも細かい配慮で助かった。

改善して欲しい運営)

 講義の中でディスカッションが必要だとお願いして机の配置なども細かく指示したにもかかわらず、商業主義の極みで申し込みのあった受講生全員を受け入れて定員を軽くオーバー、しかも使用する会場の予約がダブルブッキングで使えず、元々の定員でも狭い別会場に無理やり押し込み、6時間という長丁場の授業を敢行させた。アンケート結果には、講義の内容ではなく「スクリーンを見上げて首が痛くなった」「狭くてディスカションどころではなかった」などのフィードバックがあり、受講生のことよりも、儲けを優先するのは、そろそろやめにして欲しい。

 自社内の会議室を使うことでコストを下げようとしているのはわかるが、参加人数と講義の進め方と会場のスペースを考慮に入れて、自社の都合だけでなく、受講生にとって最も良い体験ができることを最優先すべきだ。お客様を最優先とすることを忘れてはならない。

開催後のフィードバックについて

良い運営)

 フィードバックについてはダントツに優れているのは、まずは講演前に参加者のプロフィールをシェアしてくれて、どの業界、どの業種、どの職種、どの職位が多いかなどがわかるおかげで、すでにスライドが出来上がってしまっている当日でも、講演のトーンや言葉使いや、専門用語をできるだけ使わないようにするなどの細かい配慮が可能になるので、とても助かっている。

 

 さらに、講演後に時間をおかずにアンケート結果をきちんと分析してシェアしてくれることだ。特に最近は、他の講師がいた場合には、反響や評価、満足度などをすべてオープンに比較できるようなデータも一緒に届けてくれるので、自分のやり方を真摯に反省し、改善することができるのはとてもありがたい。

改善して欲しい運営)

 困るのは、忘れた頃にフィードバックが届くことだ。自分でも思い出しにくく、改善するにも苦労する。それ以上に、アンケートのつくりが適当で、肝心なことを聞いていなかったり、また集計も分析もしないまま、手書きのアンケートのコピーをPDFにして送付してくるだけで、仕事が終わったと思っている運営は改善してほしい。おそらく商業主義が先行しすぎて、一人の担当者が多くの講座を持っているために、アンケートをきちんと目を通して分析して反省して次回のために生かすというサイクルを回せていないのだろう。おそらく本人の改善努力だけではなく、その上司も含めた会社の体質として、安くして集客を増やし、利益が低いぶんだけ講座の数をこなして、という商業主義に走っている状況を経営者が直視して、「お金を払っている受講生が満足し、その会社に対するエンゲージメントが高まって、同僚や知人へ紹介したくなる」ようなサイクルを回す戦略が取れない回切り、そういう会社はどんどん客が離れていって、ブランドは地に堕ちるだけなのだ。

まとめ

良い運営とは、お客様の利益を、つまり受講生がもつゴールを達成するのを支援することを最優先として、講師と役割分担しながら、最適の対応をデザインして、実行できる担当者であり、企業であることだ。これは個人の能力に依存しては持続性がないので、会社の体質として、文化として顧客第一主義が浸透していることが成功の鍵だ。

 

改善して欲しい運営とは、運営そのものというよりも、「良い運営の逆」、すなわち商業主義に走るあまり、講師のことはもとより、お金を払ってくれているお客様である受講生のことさえもないがしろにして自転車創業している組織であり、企業体だ。これは経営者が、リーダーシップを発揮して、企業文化を変える覚悟がない限りは、いずれ会社の評判が地に落ちて、誰にも見向きもされなくなり、消えて無くなることだろう。

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