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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第二章

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第四十一話『お前、沙悟浄のポジな』

宜しくお願いします。





 妖蜂の王城『クララ・ガ・タッタ』は、クララ山脈の麓に在る洞窟を基にして造られた半天然の城だ。

 洞窟の入り口には四重の城壁と堀が設置され、山脈を背にしたその周囲三方を一辺約900mの防御壁と空堀で囲み、その中に一般市民が住む街が在る。

 防御壁の一辺には三つの側防塔、二角に張り出し櫓が造られている。

 城郭都市なのだが、王城の異様さを見ると小首を傾げざるを得ない。

 山脈と一体化した王城『クララ・ガ・タッタ』は、北東の防御壁としての機能も有するが、基が山脈である為その形は異様だ。

 洞窟の入り口付近から上に向かって直径60mほどの白い『蜂の巣』が葡萄ぶどうの如く山脈に“生えて”いる。蜂の巣は下から上に向かってその数を減らしていく。

 一番高い場所に在る蜂の巣は、単純に洞窟の入り口から高さを測ってみると約3,600mの位置に在った。まぁ、カスガの部屋なんですが。

 蜂の巣は山脈内に造られた迷路で繋がっている。

 迷路の距離も複雑さも乾いた笑いが出てしまうが、妖蜂族は飛んで移動するので距離は気にならず、場所も蟲系魔族特有の不思議感覚で把握出来るそうだ。

 妖蟻帝国の地下道はさらにデカイ迷路だが、妖蜂と同じ理由で妖蟻族が地下道で迷う事は無い。

 妖蜂の先王や三大公は山脈から離れ、地上に在る小山や丘に城を築いて転居する。だが、彼女達の城と街も普通ではない。当たり前のように『葡萄型蜂の巣』を城壁が囲んでいる。

 先王や三大公も避難を開始しているが……

 俺はカスガを送り届けたら先王を迎えに行かねばならない。先王から御指名が入ったので仕方がない。あの人は蟲腹に子も居ないので、巨大な駕籠で運ばれるハズなのだが、『婿殿を呼べ』と言って聞かないらしい。

 親子そろって甘えん坊だが、嫌いじゃない。
 いや、今はそれどころじゃない。


 俺はカスガの荷台ベッドを両手で頭上に持ち上げ、山脈内の迷路を下に向かってテクテク歩き続けた。荷台ベッドにはカスガの他にトモエが乗って騒いでいたが、姉妹で楽しそうだったので問題無い。

 カスガが寝そべる荷台ベッドには車輪が四つ付いている。
 しかし、この長大な迷路は段差が多く勾配のキツイ個所も少なくない。その為、カスガを乗せた荷台ベッドを押して運ぶ事は出来ない。

 夜明けまで9時間以上有るのでそこまで急ぐ必要はなかったのだが、先王陛下が「迎えに来て~」と言ってきた為、少しだけ急ぐ事にした。

 地下道に入れば綺麗に整備された平坦な道が続く、あとは妖蟻族のスキルで荷台ベッドを地面ごと移動させれば250kmの距離もあっという間だ。

 そんな事を考えながら、三時間ほど掛けて王城の地下まで辿り着いた。

 既に王族と一般市民はカスガの指示で地下道を通って避難を完了している。
 東浅部の山脈沿いに住むコボルト達も同様に、カスガの勅令として避難を伝えてあるが、コボルト達は地下道を通らず妖蜂の二個中隊による空輸でガンダーラから地下へ行く事になている。

 地下道内入り口に造られた妖蟻兵の詰所には、大勢の妖蟻兵が女王カスガの護衛として控えていた。

 護衛部隊を率いるのは俺を侮蔑していた竜騎士のナナミ中佐。
 彼女は毎回、俺を見ると目を泳がせて変な笑顔を作る。

 初対面でのアレな態度を気にしているようだ。
 士官で眷属化を済ませていないのは彼女だけである、嫌なら仕方がないが。

 荷台ベッドを慎重に地面へ降ろし、ナナミに「御苦労」と声を掛けた。
 カスガとトモエもナナミに礼を述べる。

 ナナミは変な笑顔のまま敬礼、そそくさと部下に指示を出してカスガを送る準備に取り掛かった。


 この場に居る妖蟻族も妖蜂族も、俺とは全員顔見知りだが、妖蜂と妖蟻の両族は初対面だ。

 しかも、妖蜂には女王とその護衛、さらに近衛四将という普段は妖蜂族でもお目に掛かれない超大物がズラリと並んでいる。その為、妖蟻兵達は先ほどからチラチラとこちらに視線を飛ばしてくる。

 その視線は主にトモエに向けられたものだ。
 イセに匹敵する強者トモエの存在は、妖蟻兵にとっても畏怖や憧れの対象なのだろう。彼女達の表情は人気アイドルを見るそれと化している。

 特に、トモエの190cmという長身とカスガに勝るとも劣らぬ美貌、さらに、左右の腰に差した神剣ジャマダハルから発せられる神気が畏怖心を煽っているようだ。

 右に差したジャマダハルは荷台に寝そべるカスガの邪魔にならないようにトモエが預かっているだけだが、それを知らない妖蟻兵にはシャレにならない威圧感だろう。

 実際はこんなに可愛いのになぁ。
 そう思ってトモエの顔を見たら目が合った、が、目が合ったのは気の所為だったのかと思ってしまうほどの速度で目を逸らされた。ハッハッハ、いささかツンが過ぎますぞ?


「女王陛下、準備が整いました。出発したく存じます、宜しいでしょうか?」


 ナナミが腰を曲げて目を伏せながらカスガに出発の是非を問う。
 カスガは俺や妖蜂の臣下達を見渡し、「構わんよ」とナナミに告げた。

 ここからは妖蟻族のスキルで荷台ベッドがスムーズに運ばれる。言わば“観光バス”での地下遺跡ツアーだ。

 本来なら俺の役目も終わり、しかしカスガはそれを許さない。


「ナオキ、近ぅ」
「はいはい」

「人化せぬか馬鹿者」
「はいはい」

「うむ、れへ」
「はいはい」


 カスガのベッドに乗せられ、彼女の隣で寝る事になった。

 蟲腹の半径分カスガの位置が俺より高い、と言う事はなく、厚く敷き詰められた妖糸布が蟲腹を包み込むように沈んでいるので、彼女と俺の寝る高さはあまり変わらない。

 ただ、彼女の体形上、ベッドの端に俺が寄る必要がある。
 俺の体がベッドからハミ出す事はないが、カスガはそれを心配して俺を自分の体へ引き寄せた。まぁ、『腕枕しろ』という無言の合図だ。

 そして、俺の腹にドスンと何かが落ちてきた。
 もうお分かりですね、はい、トモエさんのお尻です。

 お前は私の椅子だと言わんばかりに、当然の流れで極自然にお座りになられました。しかもこちらを向いて座っておられます。私の股の間に御自分の蟲腹を挟めておられる御様子、完璧なポジショニングです。

 それを見たカスガが「フフッ」と笑う。
 トモエが「フンッ」と照れて俺の胸に両手を置いた。微妙に腰を前後するのはヤメテ頂きたい。

 メチャがバッテン化しているので、ナナミに出発を促す。


「か、畏まりました。では、出発!!」


 ここから妖蟻帝国の中心地まで250km。
 移動スピードは控えめの時速50km前後。

 五時間はイチャイチャ出来るな。メチャは寝ていなさい。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「はぁぁぁ、疲れたぁ……」

『お疲れ様でした』
「お、お疲れ様で御座いますぅ~」
「ブヒヒ、お疲れ~」


 カスガを無事『アリノスコ=ロリ』まで送り届け、アカギとイセの歓待を受けた俺は妖蟻皇族と妖蜂王族に囲まれて軽い夜食を摂り、軽い談笑をしたあと皆に礼と詫びを告げ、急ぎ『クララ・ガ・タッタ』へ戻った。

 王城からイオリ小隊が吊るす駕籠に乗って先王の許へ飛び、一時間ほど『精』を絞り取られてから先王を担ぎ、二個小隊が蔓で吊るす巨大な駕籠に乗り込んで王城へ戻り、再び地下道を通って先王を妖蟻帝国まで送り届けた。

 今回の観光バスは時速120kmの高速バスだったので、夜明け前に帝国へ到着出来た。俺とメチャは三時間ほど『アリノスコ=ロリ』の客室で仮眠をとり、先ほどガンダーラに帰還。

 時刻は午前九時を少し回ったところ、メチャが淹れた熱い麦茶を集会所で飲み干し、やっと一息ついた。


「ハーピー達は全員間に合ったみたいだな」
『西浅部の魔族も避難を終えました』

「潜入部隊は?」

『前回と同じ要領でクララ山脈から潜入、最初の村を滅ぼし、行商人が捕らえていた“ピクシー”を二体保護、村に居たハーピーを一人保護しました。死属性魔法の被害者は居りません』

「ピクシー…… ナイトクロウラーが羽化したヤツか」
『そうです。大森林の生まれではありません』

「なるほど。ハーピーは…… 無事か?」

『外傷は有りませんが、精神が衰弱しています。強制的に犯罪奴隷の人間と交配させ、卵を産ませていたようです』

「あぁぁ…… そのハーピーを捕らえていたクソはどうした?」

『ハティの胃の中に』
「汚ぇモン喰うなって言っとけ」


 出来れば俺がクソ野郎の頭を握り潰してやりたかった。
 ジャキも舌打ちをして不満顔だ。


「ったくよぉ、俺も潜入部隊に入れて欲しかったぜぇ、次は頼むぜ兄貴」

「お前の容姿とデカ過ぎる体じゃ潜入部隊は無理だ。堂々と真正面から行かせてやるよ、一番槍だ」

「ブッヒッヒ~、聞いたかよメチャ、一番槍だってよ」
「ぐぬぬ、け、賢者様に、恥をかかせないでねっ!!」
『一番に折れる槍でしょうが、頑張りなさい』

「えぇぇ……」

「ハハハ、そんなに虐めるなヴェーダ。さて、何か聞きたい事は有るか? 西浅部の大将」


「……無い」

「レ、レインさん!! な、なんですかその態度はっ!! 賢者様に失礼ですよ!!」

「……弟が兄に対する態度は、こんなもんだ」

「ぐぬぬぅ」
「ブヒッ、気にすんなメチャ、レインの言う通りだぜ」


 俺の横で槍を持って佇む青い鱗で覆われた蜥蜴人間、リザードマン。
 名は『レイン・ブラド=ナニイロダ』、五分前に俺の舎弟となった西浅部の小エリアボス、ブラド=ナニイロダ氏族の族長だ。

 俺達がガンダーラに戻って集会所へ行くと、ボロボロになったジャキとレインを発見。ジャキは倒れ、レインは片膝を突いていた。

 どうやら二人は『南都四兄弟の次兄は誰だ勝負』をしていたらしく、僅差でレインが勝ったらしい。とりあえず回復薬とアハトミンCを飲ませて治療した。

 そもそもレインは俺と勝負しに来たはずだったのだが、今回の北伐前哨戦や浅部魔族の避難、ガンダーラの発展などを見たレインは考えを改め、俺の舎弟として一緒に戦いたいと思ったそうだ。

 氏族のプライドを捨ててまで舎弟になる覚悟を決めたレイン、コイツの中で何かが変わったのだろうが、今のところその『何か』は不明だ。

 ジャキが俺との勝負に敗れその下に付いたと聞いていたレインは、面識のあるジャキに俺との面通しを頼む事にた。そして、ガンダーラで待機していたジャキを見付けると声を掛け、自分の考えをジャキに告げた。

 すると、アホなジャキは「じゃぁお前三男坊な」とレインに告げ、いきなり兄貴ヅラを発揮して『女の扱い方と俺』なる持論を展開、レインをガッカリさせる。

 レインは「こんなアホが兄貴なのは嫌だ」と悩み、ジャキに勝負を持ちかけてみると、ジャキが「稽古付けてやるかぁ~」と再び兄貴ヅラを発揮して勝負を了承。ジャキが弟にシバかれた理由の一端を垣間見たような気がしたのは、俺だけではないはずだ。

 そして、二人の勝負が始まった。

 ヴェーダ曰く、二人の総合力は拮抗しているらしい。実力的には互角、しかし相性がすこぶる悪いとのこと。

 ジャキは打撃無効、そしてレインは斬撃・刺突無効。
 ジャキの得意攻撃は打撃、レインの得意攻撃は槍による刺突。

 これを聞いただけでも泥仕合が予想出来る。

 同じ耐性持ち同士の泥仕合ではなく、弱点を突く者同士の泥仕合、しかも実力は拮抗、俺がその場に居たら腹を抱えて笑ったと思う。

 結果は武器を所持していた差だろうか、なんとかレインが勝利を収めた。

 ジャキは5分ほど泣いていたが、干し芋を与えると元気になった。勝負の結果を気にしていたとは思えない。

 これで、レインが次兄となったわけだが、俺は長兄になった覚えが無い。コイツらの中ではそう言う事になっているようなので、好きなようにさせておく。

 って言うか、四兄弟ならあと一人増えるんだよな、脳筋はもう要らないかな。

 それと、レインも眷属化は見送るそうだ。
 北都四兄弟の次兄に挑むらしい。頑張れ。
 北都の長兄は誰が相手するのかな?

 俺はそんな事よりモジモジしているメチャを観察する方を頑張りたい。


「尊妻様ぁ、あの、ミギカラ族長達は、その、大丈夫でしょうかぁ?」

『問題ありません。先ほど長城の第二城門から南浅入りした冒険者4パーティー22名を鏖殺しました』

「ホッ、無事なら、良かったですぅ~」
「ほぅ、頑張っているなミギカラ。ヴェーダ、第一城門は開いたか?」

『開いていますが、冒険者は入っていません。第三城門から南浅入りした3パーティー16名はコボルトと狼達が殲滅、第四城門は跳ね橋を上げ門を閉じたままです』

「第一城門からは暫らく冒険者は来そうにないな」
「ブヒ? あぁ~、近くの街が壊滅したからか、ハハッ」

「第四城門の跳ね橋が上がったままって事は、ラヴ達の工作が上手くいったかな?」

『スーレイヤ王国側から長城の第四関所に魔法の雨を降らせましたので』

「ハハハ、関所をか…… なるほど、そりゃぁ城門を開けるワケにはいかんな」


 人間側の対処は大丈夫みたいだな。
 これで北に集中出来る。


『ナオキさん、地竜のダンジョンから…… 人間が現れました』


 対処出来てねぇじゃねぇか。




有り難う御座いました!!
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