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第四十話『カスガ・ドライブ』
宜しくお願いします。
ハーピー達との会談も終わり、その後は歓迎の宴と露天風呂を皆で楽しんだ。気付けばすっかり日も暮れて、月がひょっこり顔を見せている。
風呂上がりに眷属化を済ませたピッピ達は、またまたアートマン様に賜った贈答用アムリタと様々な贈答品が入った革袋を首から下げ、にぱぁっと笑って北浅部へ帰った。
夜の空を飛ぶ『ビ・アンカ』、二百匹の兵隊蜂を護衛に付けた。放っておけるはずがない。
ピッピには俺が認めたクイーンへの親書を渡してある。
親書の内容は挨拶から始まって最後の口説き文句に至るまで多岐にわたるが、重要な点は『ハーピーは全員ガンダーラに来い』という部分だ。
出来れば明日の朝までにガンダーラ入りしてもらいたい。
中部や深部へ“仕事”に行っているハーピー達には、避難指示を書いた小さな手紙を『伝書蜂』に運んでもらう。
仕事へ向かった彼女達の居場所は新眷属となったピッピ達の記憶からヴェーダが確認済みだ、ヴェーダが指揮する五匹一組の伝書蜂が下手を打つ事も無いだろう。
手紙を受け取ったハーピー達が明日の朝までに避難出来なかった場合は、それぞれ都合の良い時間帯に避難してもらう事になるが、避難の際は伝書蜂が彼女達を護衛しながらガンダーラまで直接誘導する。
手紙を渡せなかった時は、彼女達の仕事が終わるまで伝書蜂が傍で待機、仕事の完了と共に避難してもらう。“仕事相手”の総合力や耐性次第では伝書蜂による暗殺も視野に入れてある。出来れば全員殺して頂きたい。
ヴェーダの予測では、何の問題も無く全員が避難出来るとのこと。
ハーピーは数少ない飛行型魔族、彼女達を追える“仕事相手”は地竜の眷属のみ、その地竜の許へ行ったハーピーは既に帰還済みだ。仕事相手と数十秒離れる事が出来れば、彼女達が空へ逃れる事は容易だろう。
ガンダーラ入りしたハーピーは第一砦から妖蟻帝国に向かってもらう。
アカギにはヴェーダを通してその旨を伝えており、『任せなさい』と心強い言葉を貰っている。
今回俺が“膿出し”用に考えた作戦は『浅部魔族総避難』だ。
浅部の魔族を妖蟻帝国に避難させる。
これは妖蜂も例外ではない。眷属化で多少動けるようになったカスガを大きな荷台に乗せ、それを俺が担いで妖蜂の城まで繋げた帝国の地下道を通って避難させる。
西浅部の魔族達は妖蜂の一個連隊3,281名が今夜中にガンダーラへ運ぶ。現在こちらへ向かっているリザードマンの氏族長やラミア・ナーガ族の者達も運んでもらう。
メハデヒ王国が混乱している間に俺は北伐を行おうと考えたが、膿の元凶が“次のハーピー”を求める為に動くと見て、膿に感染したアホがガンダーラにやって来るのを待つ事にした。
待ち構えるのは俺とメチャ、そしてジャキの三人。
他の眷属達は別行動、女性は一部を除いて地下に避難。
ヴェーダが指揮する狼軍団は東西に分かれて浅部に侵入する冒険者の殺害。男性のみで構成されたミギカラ率いるゴブリン・コボルト軍団とドワーフは南浅部に侵入した冒険者の殺害。
スコル&ハティ、ラヴと進化エルフ五人衆、そしてメーガナーダ&七匹の狼はメハデヒ王国の東に在る『スーレイヤ王国』の北西部に潜入して偽装・破壊工作。ついでにスーレイヤ兵士の装備品鹵獲任務に就いてもらう。
メハデヒ王国騎士の武器防具を装備したラヴと五人衆が、スーレイヤ兵を優先的に殺害しながら北西部一帯を転戦。移動先に死属性魔法で縛られていない奴隷魔族が居れば解放。
死属性魔法で縛られていた者には蜂と蟻の護衛を付け、各種医療品と食料を渡して近日中の救助を約束し、希望を持たせておく。
魔族奴隷が居た町や村は滅ぼせとラヴに言っておいた。
死属性魔法で縛られている魔族が居る町や村は、彼らだけが生き残りでは犯人扱いされてしまうので、メハデヒ王国の装備を見せ付けながら人口の九割を始末しておく事にする。
アハトマ・ハイエルフの五人衆が居れば、小さな村なら最初の魔法一斉攻撃で滅ぶだろう。ラヴの影沼で村ごと一呑みにするのもいい、影沼でガンダーラに持ち帰った村人は眷属達に褒美として与えよう。
メーガナーダは七匹の狼を伴って権力者や高ランク冒険者等の暗殺。スコル&ハティはラヴ達エルフの輸送と『討ち漏らし仕留め係』を頼んだ。
スーレイヤ潜入組にはヴェーダと蟲達のアシストも付く、彼らの強さなら俺が居なくても最高の仕事をしてくれると信じている。
俺の野暮用が済むまで、メハデヒ王国は東西の強国とゆっくり楽しんで頂きたい。
「さて、カスガを迎えに行こうかねぇ」
『王妹が“早くしろ殺すぞ”だそうです』
「お、おう。行くぞメチャ」
「は~い!!」
行きはカゴに乗って空をひとっ飛びだ。
今回の空輸係はイスズの第一小隊です。
では、参ろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
はい、到着しました。
速攻で玉座の間に向かいます。
妖蜂の城内では、私は顔パスで御座います。
玉座の間に着くと、綺麗な二人の衛兵さんが扉を開けてくれます。お礼のチューをします。続きは今度な!!
扉の向こうには、四十路の小麦肌美少女が二人。そして、三十路の小麦肌美少女が四人居りました。おかしな日本語ですが、熟女の少女なのです。他にも、二十歳以下の小麦肌侍女軍団も居りますな、眼福ですね。
一番セクシーな蟲腹をチラリと見せ付ける美少女が、私に微笑みかけます。お前ちょと隣の部屋来いよマジで。
「スマンなナオキ、わざわざ来てもらって。メチャも御苦労」
「構わんよ。君の為ならいつでも、どこからでも駆け付けるさ」
「あわわ、女王陛下に於かれましては、ご機嫌麗しゅう……」
「フッ、同じ様な事をアカギやイセにも言っているのだろう、ナオキ? どうだメチャ? 此奴は妖蟻の女も口説き回っておろう?」
「えっと、あのぉ~……」
「いいや、こんな恥ずかしいセリフは、君にしか言った事ないな。そう、君だけにしか言いたくないセリフだ」
「よく言う。アカギに聞いてみるぞ?」
「よせよ、彼女が君に嫉妬する。“朕より愛の言葉が一つ多い”ってな」
「フフッ、そうか。次は二つにしろ」
「まったく、困った“女の子”だ、君は」
「ウフフッ」
「ハッハッハ」
「チッ」
「ぶほぉぁっ!!!!」
「け、賢者様ぁ~!!」
カスガと三日ぶりのイチャイチャを数十秒楽しんでいると、凄まじい衝撃波が左の頬に直撃。
俺は空中で127回転しながら壁に激突、上半身が壁に突き刺さった。
ヤレヤレ、可愛い蜜蜂の舌打ちは相変わらずの威力だぜ。
死ぬかと思った。
え~っと、今回は耐力が八割持って行かれたか。
メチャ~、早く抜いてくれ~。腕に力が入らんのです!!
「はぁ、まったくお前は…… もう少し素直にならぬかトモエ」
「私は素直だ」
「すぐにバレる嘘を吐くな。お前はナオキが入室してから一度も目を合わせていないではないか」
「フンッ、野人と目を合わせるなど、何の罰だ?」
「ほぉ、ならば…… 今夜の伽は私とナオキだけで楽しもう。野人と体を重ねるなど、お前にとっては拷問に近いだろうからな」
「クッ……」
「フフ~ン」
「うんしょ、うんしょ、抜けないなぁ~」
「おやおや、メチャが一人で大変そうだな、なぁトモエ」
「ん? あっ、お、おい貴様っ!! 私が下郎を抜いてやろう」
「あわわ、トモエ殿下っ…… でもあの、下郎は酷いと……」
「退け」
「は、はいぃ!!」
「まったく、軟弱なっ。まったく、駄目男めっ。まったく、私が居なければ何も出来ん野猿めが、こんな、こんな…… 逞しい下半身のくせに…… まったく、ギュッと抱き締めて引っ張らないと、抜けないなコレは、まったく、ギュッ。えへへ」
「世話の焼ける妹だ。メチャの仕事を奪ってしまったな、赦せ」
「あわわ、とんでも御座いません!!」
あぁぁ、掴まれてる、掴んじゃ駄目なトコ掴まれてる。
ヌいて欲しいのはソコじゃない、俺の体だトモちゃん!!
引っ張るのはソコじゃないし引っ込めなくていい!! それを繰り返す必要はまったく無い!! って、何やってんの?
うぉぉおおい!!
早い早い、何してんの? 待て待て待て――
――あ、駄目だコレ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『見事な手際でしたね』
「あぁ、プロだぜあれ」
「す、凄かったですぅ~」
「フンッ、軟弱者め、すぐにヌけおって……」
「口元を拭けトモエ、みっともない」
現在、カスガを運ぶ為の準備中。
近衛四将が手配したベッド型の荷台が玉座の間に運び込まれ、侍女達が荷台の上にフカフカの布を敷き詰めたり、大きな枕を置いたりしている。
俺達はそれを見守りながら雑談を交わしていた。
そろそろ荷台メイキングが終わる。俺の出番だ。
「準備はいいかな? ハニー」
「ああ、問題無い。フフッ」
「ゃ、野人、気を付けて、運べ、ょ」
「ん? あぁ、もちろん、大事に運ぶさ」
「ぅん、なら、ぃぃ……」
「可愛い方ですねぇ~」
『第一級危険人物ですが』
そう、トモエは俺とまともに会話が出来ない。
日中は絶対に俺と目を合わせようとしない。
夜のひと時でも一瞬しか目を合わせてくれない。
ものっ凄いシャイガールである。
あの手紙は彼女の照れ隠し、こっちが素だ。非常に可愛い。
そして愛情が深い、深すぎる。底が見えない。
今もこうして姉の体を心配しつつ、その体に触れる俺に対して軽い威圧を放って来る。マジで心臓が止まるんでヤメテください。苦しいんです、息が上がるんです、勘弁してください。
あ、少しだけ願いが通じた。って言うか、ヴェーダが注意してくれたっぽい。
唇を尖らせてツンと横を向いたトモちゃん、可愛いですね。
今のうちにカスガの蟲腹と膝裏に両腕を差し込んで、荷台に移そう。
眷属進化と定期的な『精』の注入により、カスガとアカギの蟲腹は日を追うごとに小さくなっている。
長さ20mを超えていた蟲腹が、今では5m以下、直径は1mまで縮んだ。
毎朝の出産、いや産卵も以前と変わりなく、むしろ快適に行えているらしい。
そんな蟲腹になったカスガだが、それでも彼女は玉座から離れる事は無かった。それは別に『女王の意地』だとか『矜持』などの理由からではなく、ただ単に蟲腹の中に居る“子”を気にしての事だ。
女王種の腹は非常にデリケート、小さな衝撃でも大事に至る場合が有る。
今回は事前にヴェーダが彼女の体を徹底的に診断・分析し、アハトマ妖蜂種の蟲腹強度を調べ上げた。
その結果、移動に問題無しと判断してそれをカスガに告げると、彼女はニッコリ笑って「早くナオキを呼んでくれ」と、ヴェーダに言ったそうだ。
女王であるカスガを大森林の空に晒して空輸するわけにはいかない。
そこで、俺と妖蟻族が造った地下道の出番となった。
カスガが俺の首に両腕を回し、それを確認してからゆっくりと持ち上げた。
大きな蟲腹の先が重さで下に垂れた、だが、トモエが素早くそれを支える。幼い王太女以外で女王に触れる事が許される妖蜂族はトモエのみ、侍女や四将が固唾を飲んで見守る中、俺とトモエは歩幅を揃えてカスガを荷台のベッドへ移した。
玉座の間に『ホッ』という溜息の合唱が響く。
その後、カスガに拍手と祝いの言葉が飛んだ。
「まさか、王位に就いたまま分封する前にこの場を離れる事になるとはな…… しかも、分封で転居する時でさえ座ったままの、一生腰を上げる事はないと思っていた玉座からも離れてしまった」
「後悔、してるのかい?」
「フフフッ、何を馬鹿な。お前との初デートはどこにしようかと、乙女心が躍っているのだよ。ウフフ~ン」
「ハハッ、そりゃ良かった」
「わ、私も、ぃく……」
カスガの妹であるトモエや四将は笑顔で姉を祝い、カスガの娘である侍女達は泣いて母を祝った。
玉座から離れる事になった理由が少しばかり華やかさに欠けるが、彼女達の笑顔と美しい涙を見る事が出来たので、問題無い。
さて、地下のドライブに行きますか。
「行くぜ、カスガ」
「うむ、時間を掛けて、ゆっくり行こう」
ご希望通り、地下道の低速ドライブだ。
今度パーキングエリアも造らねば。
有り難う御座いました!!
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