私には少し年の離れた従兄弟のお兄ちゃんがいます。
お兄ちゃんは頭の病気で倒れてから、奇跡的に一命は取り留めましたが、その後の後遺症がひどく、痛みに苦しみながら日々を過ごしていました。
病気になってから、いろんなことがあったようで、時には心無い言葉をかけられたり、悲しい思い、悔しい思いをたくさんしたそうです。
そして、その頃からお兄ちゃんの心はだんだんと壊れていきました。
心が壊れてしまったお兄ちゃんは、家族の元も離れ、祖母の家の近くの長屋でひとり、ひっそり暮らしていました。
後遺症もひどく、毎日頭を石で叩かれているようにひどい頭痛だと言っていました。
それでも家族からは離れ、たったひとりで暮らしていました。
その頃の私は、母と頻繁に祖母の家に行っていたので、その時にお兄ちゃんを呼んでは、母が作った料理を四人で一緒に食べることが楽しみでした。
お兄ちゃんが買い物に行きたいといえば、一緒に散歩しながら近くのコンビニに行ったり。
お兄ちゃんは病気の後遺症で杖がないと歩けません。しかも視力もかなり落ちていて、片耳も全く聞こえません。
なので声がすごく大きいのです。
お店に入るとものすごく大きな声で話すのでみんなに注目されます(笑)
それでも私はお兄ちゃんとの時間が楽しくて、何を囁かれても全然平気でした。
お兄ちゃんは心が壊れてしまっていたので、おかしな行動も多く、時に人を威嚇することもありました。
とても大柄な人で杖も持っていたので、お兄ちゃんが暴れ出すとみんなすごく怖かったと思います。
そんな時は、うちの母がお兄ちゃんを厳しく叱ります。
叱られたお兄ちゃんは不思議と母には向かってくることもなく、自分の家に戻り、おとなしく過ごしていました。
母の怒りが早く冷めたらいいなぁ…と心配していると…。
「ご飯を食べるからお兄ちゃんを呼んできなさい」と。
よかった〜と思いながら、お兄ちゃんを呼びに行くと、お兄ちゃんも嬉しそうに「はいはい」と。
お兄ちゃんはよく言っていました。
「信じられるのは、おばちゃん(私の母)とおばあちゃんと〇〇ちゃん(私)だけ」だと。
その中にお兄ちゃんの家族は入っていません……とても寂しいことです。
辛い出来事の積み重ねでお兄ちゃんは誰のことも信じられなくなっていたようです。
お兄ちゃんの心の状態はとても深刻で、精神病院に度々入院しました。
入院を嫌がってはロビーで大暴れしてしまいます。
身体がとても大きいため、暴れ出すと、手がつけられません。
そんなことはよくありました。
私が母と叔母さん(お兄ちゃんの母親)と病院にお見舞いに行った時のことです。
いつものように大きな声で迎えてくれます(笑)
お兄ちゃんが何かを取りに病室に戻るというので、私はついて行きました。
まず、ナースステーションを抜けて病室の方に向かうのですが、全ての出入り口で鍵をかけられます。
病室に向かう廊下ではたくさんの患者さんに出会いました。
お兄ちゃんは自分も患者なのに、私に「ここにいる患者には気をつけて」と真剣に話します(笑)
病室に入ったら、窓には全て鉄格子がしてありました。全てがとても厳重に…。
とても悲しくなりました。
それからしばらくして、お兄ちゃんの大好きな祖母が亡くなりました。
祖母が亡くなって少し経ったある夜のことです。
お兄ちゃんから一本の電話がありました。
「〇〇ちゃん(私)、仕事終わった?元気にしてる?変わりない?」
「私は変わらず元気よ〜。お兄ちゃん、今度また必ず病院に会いに行くからそれまで待っててね。」
「元気ならよかったぁ…。それならいい。安心した。会えるの楽しみに待ってるね〜。」
それから3日後にお兄ちゃんは亡くなりました。
あれはお別れの電話だったのかなぁ…と思います。
きっと、祖母がお兄ちゃんを迎えに来たのだろう…と思いました。
「もう苦しまなくてもいいよ…」と。
あれからもうだいぶ経ちますが、いまだに色濃く思い出します。
家族のように一緒に過ごしたあの頃のことを。
お兄ちゃん、そこでは楽しく暮らしてる…⁇
すごく会いたいよ…。
最後に…
いろんな辛い出来事の積み重ねから人の心が壊れてしまうのは一瞬です。
でも残念ながら一度壊れてしまった心はなかなか元には戻りません。
母は度々、お兄ちゃんを叱っていましたが、お兄ちゃんには母の愛情がちゃんと伝わっていました。
諦めずに真心を尽くして愛情を送り続けたらいつか必ず想いは届きます。
私は、母やお兄ちゃんからそれを学びました。
私の中では今も昔も、何も変わっていません。
いつでも穏やかで優しいお兄ちゃんのままです(^ ^)