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待て勇者、お前それジャングルでも同じ事言えんの? ~勇者に腹パン、聖女に頭突き、美少女騎士に回し蹴り~ 作者:吾勝さん

第二章

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第三十七話『アホの子はちょっと……』

宜しくお願いします。





 駐屯地に皆で集まり、いつものように楽しく昼食を摂った後、俺達はヴェーダの報告を聞いた。


 シャズリナ・ポン・フリドメン死す。

 教国との国境付近に築かれた『辺境伯領サモハン砦』の一室、回復魔法を唱える神官や解毒薬を飲ませる薬師がベッドの上で苦しむ辺境伯三女の周囲を囲み、砦を任された北方第一騎士団員がその様子を見守る中、メタリハ・エオルカイ教国の陰謀と悪行、そして恨みを伝えきった『北の戦乙女』は苦悶の表情を浮かべたまま息を引き取った。

 これを聞いたドワーフやエルフ達が歓声を上げる。
 北の戦乙女は彼らに相当嫌われていたようだ。

 最北の街『テイクノ・プリズナ』の異変は、日の出と共に南方から訪れた商人達によって知られる事となり、『北の街壊滅』という緊急事態は瞬く間に近隣の町や村へ伝わった。

 商人が異変に気付いた同時刻、サモハン砦付近を巡回していた騎馬隊が全裸で彷徨う女を下心丸出しで保護、それが辺境伯三女シャズリナだと判明すると、急いで砦へ戻りシャズリナに治療を開始。これが午前六時の出来事。

 辺境伯マーチン・ポン・フリドメンが居を構える辺境伯領最大の都市『ラスティンピス』は、『テイクノ・プリズナ』から南東へ約120kmの位置に在る。

 北の異常事態が早馬によって辺境伯に報告されたのは午前八時過ぎ、辺境伯は伝令兵の首を長剣で刎ね「虚偽を見抜けぬ伝令は……不要だ」と、夫人や家臣団にキメ顔を向け、いつものように朝食を摂った。

 それを聞いたジャキやミギカラが爆笑する。
 さすがにこれは俺も苦笑せざるを得ない、アホの考えは常軌を逸する、戦略が練り辛い。

 朝食後に再び伝令兵が辺境伯と謁見。今度はサモハン砦からの報告、国境に在る砦からの報告に辺境伯も気を引き締めた。

 ――が、伝令兵の報告を聞き終えた辺境伯は、「虫刺されで瀕死になる娘など育てた覚えは……無い」と、伝令兵の首を自慢の長剣で刎ね飛ばし、夫人と家臣団にその豪胆さを見せ付けた。

 蜂を通して辺境伯を見ていたヴェーダは、『面白かった』と言っていた。

 もうすぐ、十三時を回る。
 最初の伝令が辺境伯に報告を上げてから五時間、既に6名の伝令兵が首を刎ねられている。

 次に砦から来る伝令は『シャズリナ死亡』を伝える兵だ、間違い無く首が飛ぶだろう。

 辺境伯が北の状況を把握するのは、サモハン砦の第一騎士団団長辺りが辺境伯へ顔を見せた時だろうか、さすがに騎士団長の首は…… いや、判らんな。


 サモハン砦は厳戒態勢で防御を固め、警戒を強めている。

 北の街テイクノ・プリズナは近隣の騎士団がそれぞれ騎馬隊を派遣して調査中。街の住民は混乱しているが、俺やスコル達が殺した獣人の死体と冒険者の死体が転がる以外死体は存在しないので、殺人に対する混乱よりも住民や騎士団が消えた事による混乱が大きい。

 街は騎馬隊が封鎖、一般人の出入りを禁止した。

 街の外に住居を構えていた獣人達の生き残りが俺達の事を騎馬隊に伝えているようだが、獣人達はスコルとハティの事を『白と黒の人狼』だと虚偽報告、魔族の関与を訴えた為、騎馬隊に『嘘を吐くな』と一蹴されたようだ。

 体長6mの狼化した人狼など居るワケがない。
 尻尾の長さ2m分を引いても4m、立ち上がれば5mだ、人化時はどんだけデカイんだという話になる。

 騎馬隊は獣人を無視して人間からの聞き込みに力を入れ、俺達の思惑通り『賊は教国の魔獣使い』、『魔獣使いの配下は黒装束を着た集団』などの答えに辿り着いてくれた。

 さらに、サモハン砦で死んだ戦乙女様が騎馬隊の出した答えに信憑性を与えてくれるだろう。国境付近の住民達も駄目押しの目撃証言を騎馬隊にプレゼントするはずだ。

 純白と漆黒の巨大な狼など、この世界にはスコルとハティしか居ない。白と黒の大狼に乗り国境を越えてやって来た者達と、同じく白と黒の大狼を従えて街を襲った賊が同じ存在だと結論に至るのは時間の問題だ。

 ヴェーダの報告では、既にその結論に至った騎士や商人も居るらしい。騎士は判らんが、商人は尾ヒレを付けて面白可笑しく教国の陰謀をメハデヒ王国内に広めてくれるだろう。盛った話で客を楽しませるのは、好い商人の条件だからな。


 ヴェーダの報告も終え、今度は質問タイム。

 大森林の魔族は、人間についての知識が浅く薄い。
 特に浅部の最弱魔族は知りようが無い、彼らは人間に見つかれば狩られるのみ、たとえ捕縛されて街へ連れて行かれたとしても、最後はスモーキーの様な結果となる。情報を仲間に伝える手段が無い。

 俺が南浅部を纏める前は他種族との親密な関係も築かず、妖蜂などから情報を教えて貰うといった事もしていなかった。

 ミギカラやホンマーニの様に高齢な氏族長などは、先代から伝え聞いた“人間の噂”として、人間が魔族に対して行った事や扱う武器・魔法など、大森林で人間が使った限定的かつ断片的な知識しか無い。

 妖蟻と妖蜂は魔力を持った『蟲』と普通の『虫』のどちらも使役出来るので、ヴェーダほどではないが情報収集能力に長けている。今現在も、メハデヒ王国の各地にアカギとカスガが放った蟻と蜂が、地と空から密かに人間を観察しているだろう。

 北浅部のハーピーも空から見た人間の街や建造物など、これも限定的だが浅部の最弱達より知識は有ると思われる。

 ハーピーは完全な女性集団で、子を生す為に人間の男性を攫う。

 浅部に入った冒険者の男を狙う事が多いが、稀に長城を越えて街道を歩く人間の男を攫う事もある。その攫った男達から人間の事を学んでいるかも知れないのだが…… ヴェーダ曰く『期待するな』との事。アホの子が多いのだろうか?


 浅部で人間の情報を得られる、もしくは大森林まで情報を伝える事が出来る魔族は以上の三種だけ。大イモムシのナイトクロウラーが羽化すれば妖精となって空を飛べるが、彼らが大森林から出る事は無い。今のところ北浅部から出る事も無い。

 よって、それ以外の浅部魔族はヴェーダによる人間の詳しい情報を『面白い』と感じているようだ。

 眷属達はヴェーダの教育を、それこそ“一日中”受けているので、妖蟻と妖蜂を除く他の浅部魔族より知識は有る。妖蟻と妖蜂がまだ知らない知識なども、古参の眷属は学んでいる。

 眷属達の知識欲は旺盛、アハトマ種に進化して知力が倍以上になった所為もあるだろう。普通のゴブリン達がここまで賢かったら、あの繁殖力と合わせて考えれば最弱の汚名を頂戴するとは思えない。ジャキガールズの能天気さを見ると、それを実感する。


 そんな眷属達がヴェーダに質問を投げかける。
 彼らの疑問は『人間の強者』や『人間を護る神』に集中していた。

 特に『メハデヒの王』や『教国の神』に興味を示した。
 ガンダーラと『国境』を接するメハデヒ王国と、獣人を獣扱いする宗教に関して興味を持つのは自然だろう。俺も興味が有る。


 質問と答えは以下に纏める。


 Q:メハデヒ王は強いの? 主様は勝てる?
 A:弱いです。秒殺です。

 Q:メハデヒ王国には強者が沢山居るの?
 A:居ますが、ジャキで大半を対処出来ます。

 Q:人間を護る神も沢山居るの?
 A:居ますが、力を取り戻した状態のアートマンに比べればゴミ同然。

 Q:何で人間を護る神々は魔族を護らないの?
 A:神々が“遊んでいる”からです。

 Q:遊びって何?
 A:盤上の“駒”を使った戦略遊戯。盤は大地、駒は知的生命体。

 Q:そ、それはヒドイ、僕達も駒?
 A:この世界における神々の認識ではそうです。

 Q:エオルカイ教が獣人を排斥しているのは……

 A:人間は政治的要素を含んで自重していますが、『愛神エオルカイ』は獣人の滅亡を望んでいます。神託によって度々それを伝えているようです。獣人の国でも同じく、獣人以外の滅亡を望む神託を『獣神ヤカカシュ』等に賜っています。

 Q:妖蜂族に加護を与えた女神オッパイエは……
 A:無論、“プレイヤー”としての考えで加護を与えました。

 Q:ブヒッ、戦神ムンジャジ様もか姐さん!?
 A:例外はアートマンのような異世界の神だけです、ブタ。

 Q:尊妻様、我々は神々に操られているのでしょうか?

 A:いいえ、加護と神託を得て行動を起こすのは地上に住まう者達の意思に任せるというのが『遊戯上のルール』です。
 現に、魔族は加護や信託を得たからと言って人間を襲いませんでした。過去の神託を実行しない妖蟻や浅部魔族から加護が消え、神託の如何に関わらず人間と戦う意思を持つ妖蜂やジャキに加護が残ったのは『設定』です。

 Q:それでは、一応我々もオッパイエ神やムンジャジ神に護られているのでしょうか?

 A:否、女神達にその意思は有りません。既に魔族の敗北を予想し、異世界から招いた駒に力を与える事に全力を注いでいます。じきに貴方達の加護も消え、アートマンの加護のみとなります。この世界の神々は全知ではありませんので、魔族の躍進など夢想だにしていないでしょう。

 A:遊戯の事は人間達も知っているの?

 Q:この遊戯では駒にその事を告げる義務が有ります。神託によって告げられた遊戯の事を広めるのは人間の自由、人民に告知している国も在れば、皇族や王族のみ知る国も在ります。

 Q:それは何故ですか?

 A:狂信者の暴走や宗教団体の力を抑える為でしょう。神託を掲げて隣国に戦争を仕掛けるなど事例が多いですから。神託によって遊戯の説明がなされるのは一度きり、初めに神託を得た者の考え次第で情報の秘匿も公開も思いのまま。

 Q:では、遊戯の事を知らない人間が多いのですか?

 A:いいえ、旅人や行商人などによって、情報を公開している国から秘匿された国々へ遊戯の事は伝えられ、噂話やお伽話として全人類に知れ渡っています。遊戯の事を信じる度合いが各国の違いでしょうか。遊戯神託を否定しつつ他種族を狩る、これが今の主流ですね。

 Q:魔族も遊戯説明の神託を得ていたのですか?

 A:得ています。ですが、貴方達の先祖はその神託を『悲しいモノ』だとして、子孫に伝える事はありませんでした。消極的平和を望んだようです。人類に囚われた魔族には、遊戯の事を知る者も存在しますが、それを仲間に伝えるすべを持ちません。妖蟻や妖蜂は『お伽話・人間の戯言』として扱っています。

 Q:ブッヒ~、その遊戯から降りる事は?
 A:出来ません、それがこの世界です。

 Q:遊戯に勝った神はどうなるの?
 A:この世界の最高神になります。

 Q:ん? じゃぁ、我々が勝ったら……
 A:無論、アートマンがこの世界を統べます。


 うおおおおおおおおおお!!!!!


 やや呆然としてヴェーダの答えを聞いていた俺や眷属達は、ヴェーダが最後に放った言葉に雄叫びを上げた。

 神々に人類が操られている状態だったなら、ブレはせずとも複雑な気持ちになっただろう、しかし、神託という神々の『要望』に応えるのは地上に生きる者達の自由意思、人間は魔族を殺し獣人を排斥するという選択を採り、獣人は魔族を殺し人間を排斥する道を選んだ。

 遠慮は要らねぇ、って事だ。

 また、神託によって魔族に道を示すのも神々の自由意思、この世界の神々は自分の駒以外を滅ぼそうとし、魔族を護るべき神々は魔族を捨てた。

 その捨てられた魔族に光を与えて下さったのは異世界の神、アートマン様だ。

 是非、この世界の最高神になって頂きたい。

 ヴェーダも水臭ぇなぁ、初めから俺に教えてくれれば良かったのに。


『天の時、地の利、魔族の輪を得ましたので、そろそろ頃合いかと』


 あぁ、なるほど。
 岩から出てすぐにこんな重要な話を聞いたんじゃぁ、準備も整わないまま焦って行動を起こしていたかも知れんな、有り難う。

 そんな慎重なヴェーダが『頃合い』と判断した……
 つまり、俺の準備が整ってきたワケか。

 だが、飽くまで『頃合い』だ、ベストではない。
 事前に俺へ情報を与え、万全の準備を整えさせる気だろう。

 まったく、良い相棒だ。


『ナオキさん、“魔族の輪”を強固にするお客様がいらっしゃいました』

「は? リザードマンとラミア・ナーガは、あと三日は掛かるだろ?」

『いいえ、ハーピーです』
「おぅふ、そっちかよ」


 接触はまだ先になると思っていたが、向こうから来たか。

 う~ん、何の用か判らんな、同盟の打診なら歓迎なんだが……





有り難う御座いました!!
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