2017-07-04
■年をとると時間経過が早くなる現象と幻想としての愛とカネ 
※注意 これは朝起きて脳活動がブートストラップ状態にあるときの随筆であり、論文ではない。
年をとると時間経過が恐ろしく早い、ということに年を取ってから気づいてしまった。
だいたい、20歳のときの一年を100の体感時間だとすると、40歳のときの1年は30くらいの体感時間になる。これはあくまで僕の感想なのでなにか客観的な裏付けがあるわけではないことを先に言っておく。
たとえば10個下の友人がいるとすると、彼女(または彼)の体感時間は60くらいであり、僕はさらにその半分の30なわけだから、同じような話をしていてもあっという間に時が過ぎる。
「君、いくつになったんだっけ」
と聞いた時
「やだなあ、もう30ですよ」
と返されるとビクッとする。たしか彼女と知り合ったのは10年前だった。
男でもそうだ。若手だと思っていたやつがいつのまにかオッサンになっている。
僕のスマホに「石川少年」と登録しているやつが、もう30になっていた。彼と知り合ったのは8年前だから、たしかにそんなもんなのだが。
同じ時を過ごしているのに、流れている時間感覚は違う。
まるでウラシマ効果のようでもあるし、コマネズミとゾウの違いのようでもある。
相対性理論では時間は相対的な移動速度によって相対的に変化するものとされているが、老化は考慮されていないだろう。
この、「時間感覚の圧縮」はしかし奇妙な性質を持っている。
たとえば「1時間の長さ」は、20歳でも40歳でもほとんど変わらない。
もしこれが著しく違うとすれば、生活するのは困難になるはずだ。
「1分の長さ」「1秒の長さ」も同じだ。これがぜんぜん違うとすると20代で免許を取った僕はとっくに車を運転できなくなっているはずだ。
そして「1日の長さ」もだいたい同じようなものである。
しかし「一ヶ月の長さ」や「一年の長さ」、「十年の長さ」は年をとるとうんと短くなる。まさに相対的に変化するのだ。
これに合理的な説明をつけることはできるだろうか。
AIを作る側からしても、人間の心や意識に起きる変化は重要なヒントになる可能性がある。だからAIを開発するのは面白いのだ。
ひとつの仮説は、まず意識とは何かということから始まる。慶應義塾大学の前野先生によれば、意識とは、並列的な神経系の入力を直列化するものである。
意識に関係する神経系は海馬周辺にあると考えられていて、海馬は同時に短期記憶を長期記憶へ保存するゲートウェイになっている。
僕は前野先生に「意識とは情報の圧縮機構ではないか」という疑問をぶつけてみた。前野先生は「そうかもしれない」と答えた。
人間は常に五感から、時にはもっと多くの感覚系から無数の情報を受取る。そのうちのどれを解釈すべきで、どれを解釈すべきでないか取捨選択し、脳の記憶容量をできるだけ節約して使おうというのが意識の持つ役割ではないか。
そのために最も効率的なのは記号化だ。言語化と呼んでも良い。
「昨日の朝なに食べた?」ということを、くるみパンの触感やクルミの香りや味、といったリアルな情報を保存しようとすると容量はすぐにいっぱいになってしまう。だから「くるみパンを食べた」という記号に変換して覚えてしまえば、わずか9文字の情報に集約されてしまう。
さらにいえば、くるみパンの食感などは既に何度かくるみパンを食べたことがあれば脳の別の部位に過去の記憶があるだろうから、そこにリンクを飛ばせばいい。それでさらに圧縮できる。
要するに、年齢を経ると、記憶の圧縮率が良くなるのだ。新規の事件が起こらないので、過去の記憶について若い頃に比べると圧縮率が高く記録されることになる。したがって、その日、その瞬間の時間間隔は変わらないが、過去の時間経過については年齢が高いほうが圧縮率が高いということだ。圧縮されたものなので思い出そうとすれば少し時間をかけて展開できる。だから年齢の高い人は大昔のことよりも少し前の出来事を思い出すのに時間がかかる。
ここまで書いたことはあくまでも不透明な脳の意識、記憶といった機能がどうして時間経過とともに変化するのかという事実から想像した仮説に過ぎないが、年をとると時間経過を早く感じる理由としてはそれほど悪くないのではないかと思っている。
一方で、人間は過去に経験した全てのことを覚えていて、思い出せないだけだという説がある。だいたい正しい気がするが、実際にはどうなのだろうか。確かに、普段は忘れていてなかなか思い出せない過去の記憶があるきっかけで蘇ることはある。でも絶対に思い出せないこともある気がする。
ただ、過去の客観的な事実をいくつか示されると、その時点で自分の記憶を再構成して、「思い出したことにする」ということはできるかもしれない。
おじいちゃんとかが、明らかにムチャクチャなことを言ってるのはそういう記憶の作用だと思えば腹も立たない。
記憶が追記式圧縮装置だと考えると、子供の頃の思い出が鮮烈なのは当然だ。経験したことがないことは情報量が多めに記録されるし、追記されるときに頻繁に引用されるからその部分の記憶は強化されるからだ。
人間の知能は、おそらく正しくなくて一貫性がない。そのあたりは深層ニューラルネットワークに似ている。AIとの違いは、人間の知能は正しくなくて一貫性がないのだが、自分の思考は一貫性があって正しいのだと思い込もうとする機能がある。
サピエンス全史で、ホモ・サピエンスが他の動物と違っていたのは「思い込む」能力だったと言及されているが、自分が正しくて一貫性があるのだと思い込もうとする能力、いわゆる正常化バイアス的な機能は頑張ればAIにも搭載できるかもしれない。
たとえば、貨幣を渡されたとき、人間は特に教えられなくても貨幣に価値があることを理解することができる。大人が実際に貨幣によって価値を交換する場面を何度も目にするからだ。
猫は貨幣を使う場面を見せても貨幣そのものに価値があると考えることができない。
だから動物が人から盗むのは常に食べ物そのものであって貨幣ではない。
貨幣は、「それに価値がある」と全員が思い込むことによって成立している概念で、現在の貨幣そのものに昔の金貨のような絶対的な価値はほとんどない。
おそらく恋愛も同じようなもので、「自分は彼女を好きだ」と思い込むことによって生まれるひとつの幻想であると考えられる。
生物学的に惹かれる、という感情と、「好きだ」と思い込むことの間には開きがある。
これは年齢を経るほど顕著で、特に女性は男性よりも早く現実的な落とし所を探すようになり、男性は女性にやや遅れてやはり恋愛という幻想を消化し、現実的な世界へと収束していく。
ここでは「幻想」を、一般的な日本語とは異なり、貨幣と同等に「実体価値は定かではなく、物理的実体があるとは限らないが、存在するという共通認識のあるもの」と定義する。
結婚、または同棲している男女は、互いを愛しているという共通の幻想を共有する。これを「幻想」と呼ぶと怒る人がいるかもしれないが、前述の定義に照らせば、愛の実態価値は定量的に示すことができないので幻想と呼んでも差し支えないだろう。
この幻想があるからこそ、パートナーのどちらかが他の男女と親密にすることは幻想との矛盾となって怒りを買うことになる。
仮に、AIとの間になんらかの幻想を共有することができれば、AIと人間が愛し合うことも可能だろう。ただしここまで高度なAIが生まれるとして、幻想を共有したり、「自分を正しいと思い込む」正常化バイアスを与えたりすると、なにかとんでもないことが起きそうな気がするのでできるだけ避けたい気はする。
逆に「自分は正しいと思い込む」機能さえ与えなければ、人類はAIをてなづけることが出来るかもしれない。人間レベルの知能を目指すのではなく、猟犬レベルの知能で留めることも考えられる。
今のところ、深層学習において学習は続ければ続けるほど性能が上がることが知られている。この段階では深層学習は劣化しない。
しかし長く生きた人間の思考能力は衰える。これは有機的な限界なのか、それともそもそもそれは知能にとって必要なことなのか。
たとえば22歳までが脳活動のピークと言われているが、22歳までの勢いで40歳まで成長した脳があるとして、それは好ましい知能になり得るのか。それとも構造的に劣化が免れないのか。
記憶の圧縮という側面だけみれば、圧縮されることは悪いことではないと思う。実際、優れた科学者は死ぬまで優れているということも少なくない。脳が本当に生物学的に劣化したり、ニューラルネットワークが必然的に劣化するものであれば、老齢の賢者は存在できないはずだ。
もちろん長く生きるうちに病気をしたりして脳機能が衰えることは当然あるだろう。それは今のAIも、部品の出来が悪ければそれほど高温にならなくても壊れてしまうのと同じと考えれる。
そう考えると今や人間の脳機能を再現するのに必要なパーツは揃いつつある。足りないものを数えたほうがいいくらいだ。画像や文字、それらの組み合わせを自在に操るTensor2Tensorとかを見ると、人間の脳機能を模したニューラルネットワークがいかに汎用的か分かる。そして実際、人間の脳も同じように汎用的なのだろう。
はてさて知能の宇宙というのは果てしないようでいて実はシンプルなのかもしれない。
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