電ファミニコゲーマーは、これまで「ゲームの企画書」などのインタビューで、ベテランのゲームクリエイター達の、知られざるエピソードの数々を届けてきた。デジタルゲーム市場が産声を上げたばかりの時代を生きた人々の、若き日の「時代の証言」は、まさに黎明期の熱気そのもの。思いもよらない角度から、私たちにゲームの面白さを再び認識させてくれた。
だが、取材を進めながら、ずっと気になっていたこともある。
それは、彼ら“伝説のクリエイター”達が暴れ回っていた頃の年齢に当たるくらいの、「今」を生きる若きクリエイターの姿が、よく見えないことだ。この2017年現在、ゲームで人々をアツくさせる夢を見て、現場で毎日汗を流している若きゲームクリエイター達は、今どこにいて、何を考えているのか――。
この連載「新世代に訊く」は、そんな新時代のゲームクリエイター達の姿を知るべく、実際に足を運んで、彼らに話を聞いてみようという企画である。
さて、そんな本連載の第一回目をお願いしたのは、上記「ゲームの企画書」初回にも登場したゲームフリークだ。今回の取材では、「ポケットモンスター」(以下、「ポケモン」)シリーズの新作『ポケットモンスター サン・ムーン』(以下、『サン・ムーン』)で、30代半ばという若さでメインディレクターを務めた大森滋氏と、最近Steamで販売され話題を呼んだ2Dアクション『GIGA WRECKER』(以下、『ギガレッカー』)でディレクターを務めた尾上将之氏に話を聞いた。
「ゼビウス」がなければ「ポケモン」は生まれなかった!?———遠藤雅伸、田尻智、杉森建がその魅力を鼎談。ゲームの歴史を紐解く連載シリーズ「ゲームの企画書」第一回
「ゲームの企画書」では、『ゼビウス』の攻略情報を書いた同人誌から始まった同社が、その熱気のウチに『ポケモン』を生み出していった歴史にも触れてもらった。それから20年――彼らの「伝説」は下の世代に、どう継承されているのか。ゲームフリークの「今」を、若きクリエイター達に訊いた。
聞き手/稲葉ほたて、斉藤大地、TAITAI
書き手/稲葉ほたて
カメラマン/増田雄介
――まず最初にお伺いしたいのですが……お二人の年齢は何歳ですか?
尾上将之氏(以下、尾上氏):
僕は、29歳です。
大森滋氏(以下、大森氏):
僕、36歳なんですが大丈夫ですかね……(笑)。
――今のゲーム業界では充分すぎるくらい若手です(笑)! ……というのは別に冗談でもなくて、その年齢でこれほどの大型タイトルの重責を負うのは、やはり現代では稀だと思います。ちなみに大森さんは新卒で入社ですか?
大森氏:
2001年に新卒でプランナー【※1】として入社しました。 最初に作ったのは、『ポケットモンスター ルビー・サファイア』【※2】です。
その後、25歳の頃に『ポケットモンスター ダイヤモンド・パール』(以下、『ダイヤモンド・パール』)【※3】でプランニングリーダーを務めました。そして、『ポケットモンスター X・Y』(以下、『X・Y』)【※4】でプランニングディレクターを担当し、次の『ポケットモンスター オメガルビー・アルファサファイア』でディレクター、そして今回の『サン・ムーン』でもディレクターという経歴です。
※1 プランナー
一般的には、企画や計画を立てるポジションの人物を指す言葉。立案者。
※4 『ポケットモンスター X・Y』
2013年に株式会社ポケモンから発売。『ポケットモンスター』シリーズ完全新作の6作目。ハードがニンテンドー3DSになったことで、フィールドやバトルシーン、登場人物、ポケモンなどをポリゴンで表現できるようになった。また今作ではゲーム内で使用する言語を7か国語から選択でき、主人公の肌と瞳と髪の色の組み合わせを3タイプから選べるようになった。
——きっと順当にステップアップされた経歴だと思うのですが、いまのゲーム業界って階層構造が細かくなっていて、部外者には少々わかりづらそうな気もして……(笑)。具体的にされてきた仕事を教えていただけますか。
大森氏:
まず最初はプランナーとして、どうぐ配置やマップ設計の細々とした仕様の作成から始めました。『ダイヤモンド・パール』でのプランニングリーダーは、プランナー全員をまとめて全体設計をする係りです。ゲーム全体を調整する役割なのですが、私の場合は特に「ちかつうろ」や「スーパーコンテスト」などの通信系の企画を手がけました。
その後も、通信系の企画は多く手がけていまして、例えば『ポケットモンスター ハートゴールド・ソウルシルバー』では「ポケスロン」というミニゲームや「ポケウォーカー」【※1】という、歩いた歩数でポケモンを捕まえられる企画をしていたり、『ポケットモンスターブラック・ホワイト』ではすれ違いログとかハイリンク【※2】の実装を手がけてきました。
※2 ハイリンク
『ポケットモンスターブラック・ホワイト』の舞台「イッシュ地方」の中央に「謎の領域」として存在しているエリア。プレイ中手に入る「Cギア」というどうぐを手に入れるとアクセス可能となり、オンライン空間で、自分の周囲に存在するプレイヤーと協力しあったり、特殊な効果を得ることができる。
――最近の『ポケモン』のリアル連動型企画を、かなり手がけられてますね。続いて、尾上さんにも経歴をお伺いしたいです。
尾上氏:
入社して8年目で、『ポケモン』シリーズの開発に携わったのは『ポケットモンスターブラック2・ホワイト2』からです。
ずっとフィールド部分の担当をしていて、フィールドに機能を上乗せして作る「バトル施設」や「ジム」などを作ってきました。
――ただ、尾上さんはゲームフリークの中でも少し変わっていて、『ポケモン』のプロジェクトからその後、メイン業務としては外れていくんですよね。
大森氏:
少し「ギアプロジェクト」の存在について、説明した方がいいかな。
尾上氏:
そうですね。「ギアプロジェクト」は、社員が自由に会社に対して企画を提案出来る制度です。プランナーに限らずプログラマーでもグラフィックデザイナーでも職種を問わず提案することができます。その後、企画が社内で通れば、一定期間でプロトタイプを制作して、それをもとに商品化の判断が行われます。
自分の場合は、『X・Y』のあとに『TEMBO THE BADASS ELEPHANT』(以下、『TEMBO』)という2DスクロールアクションをSteam【※】とPS4とXbox Oneにリリースするプロジェクトに入りました。他の人の企画だったのですが、プログラマーが3人と、他の「ギアプロジェクト」作品より多かったので幅広く実装できました。そして今回は自分たちで企画を出して、『ギガレッカー』で初めてディレクターを担当しました。
※Steam
アメリカのゲームメーカーValveが、2003年にサービス開始した、PCゲーム、PCソフトウェアおよびストリーミングビデオのダウンロード販売とハードウェアの通信販売、デジタル著作権管理、マルチプレイヤーゲームのサポート、ユーザの交流補助を目的としたプラットフォーム。
――大森さんはプランナーとしてステップを踏んでからディレクターになってますが、尾上さんはSteam発売のゲームとはいえ、もういきなりドーンとディレクターになる感じだったわけですね。
尾上氏:
ずっとプログラマーだったので、まさに突然担当することになった感じです(笑)。
『ポケモン』のディレクターは何をするのか?
――今日は、まずは大森さんからどんな仕事をしてきたのかお伺いします。さっきのお話の続きなのですが、今回の『サン・ムーン』でも務めている『ポケモン』の「ディレクター」って、何をされる仕事なのでしょうか?
大森氏:
とにかく全部やる感じです(笑)。ストーリー、バトル、通信……それらで何をするかをひたすら全部決めて、各スタッフにお願いする役割です。
ただ、ウチの特長は「遊び」を非常に重視していることです。プログラマーやグラフィックデザイナーと色々と話すのですが、とにかく「この遊びは面白いから入れよう」の精神を大切にしています。プランナーの人数も多くて、一つ一つのネタについて丁寧に調整していきます。
――今日インタビューに来た理由でもあるのですが、今回の『サン・ムーン』には「若さ」を鮮烈に覚えたんです。特に印象的だったのが、まさに「フィールド」の遊びでした。心霊写真を撮ったりする場面も含めて、明らかに『ポケモン』を“これまでとは一味違う内容”に変えていく意思を感じました。
大森氏:
『サン・ムーン』は『ポケットモンスター 赤・緑』(以下、『赤・緑』)から20周年の節目にあたる作品で、「『ポケモン』をもう一度、最初から作りたい」と思いました。
だから、本当に手持ちは6匹でいいのか? 本当にジムのバトルでいいのか?――そういう基本的な部分から徹底的に考え直しています。
例えば、ジムは「トレーナーvsトレーナー」の戦いになるので、プレイヤーが「ライバル感」は覚えられる。その点は素晴らしいけど、僕は今回「ポケモンを主役にしたゲームに出来ないものか」と考えてみたかったんですね。ここは今作の「作り直し」で重視したアイディアです。
――というか、近作の流れを踏まえると、もの凄い勢いでハンドルを切った、ほとんど設計思想の「転向」レベルの判断があった作品ですよね。
大森氏:
ええ、なにせポケモンがボスになるわけですから、ゲーム全体に大きく影響を与えました。
ディレクターとして、「なぜボスになるんだろう?」とか「ギミックは人工的なものではなくて、自然を相手にすべきだろう」などと突き詰めて考える必要がありました。そして設定の担当スタッフとも、ポケモンの性質をこれまで以上に詰めなければいけなかった。バトルの担当スタッフとも協力して、とにかく全てのシステムを上手くマッチさせることで、やっと新しい仕組みが生まれました。
――サラッと仰ってますが凄い労力だと思います。でも、そもそもなぜこの「転向」が必要だったのかは聞いてみたいですね。
大森氏:
20周年の節目となる作品ですから、長く遊んでくれているユーザーや、新規のユーザー、どんなユーザーも同じ気持ちで楽しめることを目指す。それは今回のゲームを作りながら、ずっと強く思っていたことでした。
今作の発売前に、『ポケモンGO』の登場もあり、『赤・緑』で遊んでくれた子供たちが大人になって、また戻ってくるかもしれないわけです。でも、ジム戦【※】のままでは、新規プレイヤーと経験のあるプレイヤーでは、どうしても「腕」の部分で差が出てしまう。
※ジム戦
『ポケットモンスター』シリーズに登場するいくつかの地方で、トレーナーが挑むもの。各地方には「ジム」と呼ばれる施設があり、それぞれのジムでジムリーダーとのポケモン勝負に勝利すると、その証として「ジムバッジ」を貰うことができる。また、同じ地方のジムバッジを全て集めると、チャンピオンを目指して「ポケモンリーグ」に挑戦することができる。
――「格ゲー」もそうですが、プレイヤースキルを問われるゲームは、どうしても古くから参加している人が強い構造がありますね。昔の『ポケモン』しか知らない人が、すぐに遊べるゲームなのかというと、確かに近作は難しかったところはあると思います。
大森氏:
だから、昔から遊んできた人と新しく遊びに来た人が、同じ難易度で遊べるゲームに『ポケモン』を変えたかったんですね。そこで考えたのが――「試練」【※】でした。これならば、ずっと遊んできた人も初めての人も、新鮮さを覚えてくれるんじゃないか、と。
「『サン・ムーン』のプレッシャーは違った」
――それにしても、かなり大変な決断ですよね。
大森氏:
長いあいだ、僕は『ポケモン』を、自分を育ててくれたゲームに対する「恩返し」のような気持ちで開発してきました。でも、『サン・ムーン』の開発は、これまでとはプレッシャーの大きさがかなり違うものでした。
ただ、やりたいことは明快だったし、押さえるべきところは押さえた。この物語もゲームも大丈夫だろうと、特に強い根拠があったわけではないのですが、信じられていたと思います。
その意味では、「試練」が上手く行っているな……と思えていたのは大きかったです。
――確かに、今回は「試練」が上手くハマっていました。心霊写真やヤングースのようなミニゲームのミッションが少しずつ出てくるのが、良いリズム感になってますよね。
大森氏:
「試練」のジムとは違った遊びやイベント、ボスである「ぬし」ポケモンとの戦いは、ジムトレーナーとジムリーダーへの挑戦が中心であったジム戦とはまったく異なるシステムですが、当時ジム戦で苦戦したプレイヤーの皆さんの「気持ち」を、そのまま再現できていると思います。
尾上氏:
これまではジムの内装ギミックを動かすという仕組みで作ることが多かったので、プログラマーが中心になり作っていましたが、今回の「試練」ではプランナーも実装に参加しやすかったのが印象的でした。
大森氏:
弊社ではイベントのスクリプト制作をプランナーが担当していますので、イベント発生での進行も多い「試練」では、プランナースタッフがアイディアを出した後、そのアイディアを直接活かしやすい環境だったと思います。
――プランナーからプログラマーまで、みんながアイディアを持ち寄りやすい形式だったんですね。そのせいか試練には、凄く「若さ」というか「イマドキ感」を強く感じたんですよ。あと、個人的に思ったのが、最近の洋ゲーって、メインのシステムが規格化されてきた一方で、突然挟まってくるミニゲームが謎に充実していたりするじゃないですか(笑)。ああいうゲームたちとの、同時代性のようなものも感じました。
『赤・緑』の時代になかったネットにどう向き合うか
大森氏:
あと、もう一つゲームデザインで気にかけたのは、ネット上のコミュニケーションですね。噂で広まっていく要素って、すごく大事なのですが、『赤・緑』の頃にはインターネットがなかったんです。
――インターネットをどう捉えるかは、まさに若手クリエイターのテーマだと思います。確かに、『赤・緑』は、ネットがなかった時代に、子供たちが教室の噂で広めていったゲームでした。
大森氏:
ああいう現象は、すごく大切なんですよ。今でも教室での「口コミ」による伝播はあると思うけど、やはりネットの「書き込み」による伝播は大事ですね。だから、ゲームを作っていく段階で、どうすれば発売日の最初の1時間に「これまでとは違う面白さだ!」という書き込みがネットに出てくるのかは考えました。
やはり、最初の印象は凄く重要です。そこで「前と変わってないよね」と言われたくなかったので、変化を印象づけるよう、リーリエが追いかけられるイベントを入れたり、試練を早めに体験させたりして、とにかく口コミを誘いました。
――あの辺は、やはり意図的なんですか。かなりインターネットを意識して、ゲームを設計されているんですね。
大森氏:
難易度の考え方も変えました。
昔は単純に強い敵がいたら、必死にレベル上げをしてクリアして、やっと達成感を得られる……という感じですよね。でも、やっぱり現代では、難易度を上げすぎてしまうと、クリアできなくてやめてしまうという問題があります。
――おそらく今、世界中のクリエイターが直面している、現代のゲーム開発における最大の「困難」の一つですね。それこそ、まさにインターネットで掲示板や攻略サイトが登場したことで、攻略なんて「面倒なだけじゃないの?」と、プレイヤー側の意識が変わってしまったのだと思います。
大森氏:
そこで僕らは、「頑張る場所」を変えました。
今回は、どうぐを事前にかなり配ってしまったんです。もう敵と対決できるどうぐは、全部与えてしまうくらいでいい。そして、「こいつ強いぞ」「クリアできないぞ」となって、ふと回復のポケットを見てみれば、回復できるどうぐもほぼ入ってるようにしています。
これは――インターネットでの検索やコミュニケーションを想定した仕様です。
そのときに、彼らがどうぐ欄を見て「このどうぐを使えば勝てるじゃん!」と自分で発見できれば、「俺、ちょっと頭いいんじゃね?」と思って、周囲に自慢できる。すると、コミュニケーションも生まれますよね。単純なレベル上げではなく、頭を使うことで難易度の部分を解決できるように、ゲームデザインの発想そのものを変更すると、そういう効果が生まれてくるんです。
「検索エンジン」を前提にしたゲーム開発
――ゲームの攻略を「検索」することの是非は、ずっと論点ですよね。年長者のゲーム雑誌で育った世代はネガティブだけど、ぶっちゃけ若い世代は「検索してクリアすること自体が攻略」くらいに思ってる感じがあるわけですよ。
大森氏:
そうだと思いますよ。
例えば、「スイレンの試練」【※】なんて、かなり相手が強いんですよ。そこで検索したときに、攻略サイトに「レベルを上げれば倒せます」と書かれていたら、もう今のユーザーはやる気が出ないと思いますね。
でも、検索した先に「実はこのどうぐを使えば勝てるよ」と書かれてあれば、やる気が出ると思いませんか? そこには「発見」があるじゃないですか。解決のキッカケは全て用意してあって、自分で発見してもいいし、検索して見つけてもいい。僕は検索スキルだって「能力」だと思っていますから、検索エンジンで解き方を見つけた場合でも満足感を得られるようにするのが、現代のゲーム設計のあり方だと思っています。
※スイレンの試練
アーカラ島・せせらぎの丘にて行われる試練。ぬしポケモンのヨワシとバトルすることになるが、名前に似合わず意外と強い。
――今やリアルの知的活動でさえも、「ググる」を選択肢から外して何でも自分の頭で解決しようとする人間って、だいぶ奇特ですからね。というか会社の業務でさえ、そんなことをしてたら「真面目にやれ」と怒られかねない(笑)。ただ、そのときにインターネット環境をこうも自覚的に織り込んだ話は初めて聞いた気がします。もちろん、『マインクラフト』(以下、『マイクラ』)【※1】のレシピ【※2】や『SIREN』の極端に難しい謎解きみたいな先行事例はあると思うのですが……。
※1 マインクラフト
2009年にスウェーデンのMojang社が開発・リリースしたパソコン向けのサンドボックス型ゲーム。ゲーム世界を構成する土や木を素材に、自由な発想で創作することができる。「マイクラ」の愛称で世界中で親しまれている。
※2 レシピ
『マインクラフト』では、木材などの素材を正しい配置で精製することで、別のアイテムも得ることができる。この時に必要な素材の数やその配置のことをレシピと呼ぶ。
大森氏:
確かに、そうした作品はそうですね。『マイクラ』なんて、まさにこの面白さがあると思います。
尾上氏:
最近、『ストレンジ・テレフォン』【※】というゲームが流行ってますよね。
あれも、検索を意識したゲーム性だと思います。電話番号から世界がどんどん生成されて、みんなで電話番号の数字を共有しながらクリアしていくんですが、実際に解けちゃう人が一杯いるんですよ。見ていて新鮮で、ユーザーって凄いな、クリエイターが求める以上のことをするんだな、と感じています。
大森氏:
ちなみに、そういう意味では、僕らは企画名を決めるときにも、一つ一つの単語が検索しやすいワードになるように選択しているんですよ。
――『ポケモン』のようなメジャー作が、そのレベルで検索エンジンに向き合ってるという事実は凄まじいですね。正直なところ、若いゲーマーで「アイツ凄いな」と思われてる人って、その辺の情報収集能力まで含めての評価だと思います。『ポケモン』のユーザー文化は、まさにそういう世界の象徴ですが。
大森氏:
その意味では、僕はインターネットがある時代の、「知識におけるレベルデザイン【※】」は考えています。昔なら難易度曲線があったときに、「頑張ってレベルを上げる」という解決策くらいしかなかったかもしれませんが、今ならそれでは満足できない。そのときに求められるのは、テクニックなのか、それとも知識なのか、あるいは別のものなのか――。
例えば「何かを知っているだけで突破できる」というとき、それをどう捉えるのかは、かなり意識して考えるべき問題だと思いますよ。我々はゲーム開発の場面で、ユーザーの「攻略の仕方」がどんなものになるかを、もっと本気で気にした方がいいんじゃないかと思います。
※レベルデザイン
ゲーム内での空間設計や、敵、障害物、アイテムの設置によって、ゲームの難易度を設計すること。
――今回のインタビューの目標として、実は「若手ゲームクリエイター」ならではの新しい「感性」を見極めるというテーマがあったんです。ただ、ここまでの話で、いきなり半ば達成されちゃった気がします。このインターネットへの拘りは、さすがに上の世代にはないと思います(笑)。
大森氏:
例えば、いまどきゲームの中にボイスチャットを入れなくても良いですよね。その外側にいくらでもツールやアプリがあるわけですから。ゲームだから与えられるコミュニケーションや体験を考えるときにも、同じように考えるだけです。
もちろん、その上でスマホを持っている子供でも、持っていない子供でも、一緒に楽しく遊べるデザインにするんですけどね。それこそ謎解きの導線として、検索エンジンが使えない子供が「お父さんに聞けばわかる」で解決できると思えば、それはアリですよね。
あと、昨今のゲーム開発という視点では、「テンポ」をとても意識しています。例えば、僕はパズルゲームが好きなのですが、今の時代では謎解きを連続させて、飽きずに遊んでもらうのはとても難しい。少しでも「つまらない」となれば別の無料の遊びに移っていくのが今だと思います。
――実際のところ、「テンポ」は現代のコンテンツを支配する最重要ファクターだと思いますね。深夜アニメなんて、この数年で異様に展開のテンポが速くなったじゃないですか。昔のアニメファンが突然見たら驚くようなスピード感になっている作品も、多いと思います。
大森氏:
結局、情報が早い時代なので、常に新鮮な情報を与え続ける設計が必要なのだと思います。
だから、『サン・ムーン』では節目を徹底的に区切りました。『X・Y』までが「長い一つの道」を遊ばせるやり方なら、今回はかなり小分けです。島を分けることで「さあ新しい場所だ。新しいポケモンと出会おう」というリズムを作りました。イベントのタイミングなども、かなりテンポを意識しています。