2017年7月3日05時00分
東京都議選は自民党の歴史的な大敗に終わった。
小池百合子都知事への期待が大きな風を巻き起こしたことは間違いない。ただ自民党の敗北はそれだけでは説明できない。安倍政権のおごりと慢心に「NO」を告げる、有権者の審判と見るほかない。
「安倍1強」のゆがみを示す出来事は枚挙にいとまがない。
■数の力で議論封殺
森友学園や加計学園の問題では、首相自身や妻昭恵氏、側近の萩生田光一官房副長官らの関与が問われているのに、説明責任から逃げ続けた。そればかりか、野党が憲法53条に基づいて要求した、臨時国会の召集にも応じようとしない。
国民の賛否が割れる「共謀罪」法を、委員会審議を打ち切る異例のやり方で強行成立させた。民主主義の根幹である国会での議論を、数の力で封殺する国会軽視にほかならない。
閣僚や党幹部らの暴言・失言も引きも切らない。最たるものが、稲田防衛相が都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣としてもお願いしたい」と支持を呼びかけたことだ。
稲田氏は以前から閣僚としての資質が疑われる言動を重ねてきたが、首相は政治的主張が近い、いわば「身内」の稲田氏をかばい続ける。
次々にあらわになる「1強」のひずみに、報道各社の世論調査で内閣支持率が急落すると、首相は記者会見などで「反省」を口にした。しかしその後も、指摘された問題について正面から答えようとはしない。
首相と民意のズレを象徴したのは、都議選最終日のJR秋葉原駅前での首相の演説だ。
聴衆から首相への「辞めろ」コールがわき上がると、首相は「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と声を張り上げた。首相にすれば、ごく一部の批判派による妨害だと考えたのだろう。だが都議選の結果は、首相の政権運営に対する「NO」の声は、決して一部にとどまらない現実を物語る。
■臨時国会を召集せよ
安倍政権の議論軽視、国会軽視の姿勢は今に始まったものではない。
2012年の政権復帰以来、選挙では「経済最優先」を掲げながら、選挙が終わると特定秘密保護法や安全保障関連法など、憲法上大きな問題をはらむ法律を成立させてきた。
多くの国民や野党が懸念の声をあげ、問題点を指摘しても、時間をかけて理解を求めようとはせず、一定の審議時間が積み上がったからと数の力で押し切ってきた。
国会は主権者である国民を代表している。野党の背後には多くの国民がいる。首相は、その民主主義の要諦(ようてい)を忘れてしまってはいないか。
これまで衆参両院の選挙に勝ち続けてきたことが、首相の力の源になってきた。地方選とはいえ、首都である都議選での大敗は、今後の首相の政権運営に影を落とすのは間違いない。
来年9月の党総裁選、同年12月に任期満了を迎える衆院議員の選挙、さらには首相が旗を振る憲法改正への影響は避けられないだろう。
首相がとるべき道ははっきりしている。憲法に基づき野党が求めている臨時国会をすみやかに召集し、様々な疑問について誠実に説明を尽くすことだ。
政権は国民から一時的に委ねられたものであり、首相の私有物ではない。その当たり前のことが理解できないなら、首相を続ける資格はない。
■小池都政も問われる
都政運営の基盤を盤石にした小池知事も力量が問われる。
「ふるい都議会を、あたらしく」という宣伝文句で改革姿勢を打ち出し、現状に不満をもつ人々の票を、自らが率いる地域政党「都民ファーストの会」に導いた手腕は見事だった。
だが、自民党都連を「敵」に見立て、政治的なエネルギーを高めていく手法はここまでだ。「挑戦者」として振る舞える期間は名実ともに終わった。首都を預かるトップとして、山積する課題を着実に解決していかなければならない。
例えば、2025年をピークに東京も人口減に転じる見通しだ。「老いる巨大都市」にどう備えるのか。築地市場の移転にしても、五輪の準備にしても、問題を提起はしたが、具体的な成果は乏しく、前途は決して生やさしいものではない。
都議選告示後の都民を対象にした朝日新聞の世論調査では、知事を支持する理由として「改革の姿勢や手法」と答えた人が支持層の44%を占め、「政策」はわずか4%だった。実績を積んで、「政策」を挙げる人を増やしていかなければ、いずれ行き詰まるのは明らかだ。
この数年、都知事は短期で交代し、都政は揺れ続けてきた。小池氏は東京の未来図をどう描き、説明責任を果たしながら、それを実現させるのか。1千万都民の目が注がれている。
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