アドリブ・シネマレビュー

過去の映画を気の向くままにアドリブレビュー

「ホットロード」風に香るタクティクス

能年玲奈が和希を演ると聞いて、はなから期待していませんでした。

今か、今、実写で映画化するのか、何故だ?そうとしか思わないませんでした、今更ホットロードを映画化する必要があるのか、って。
今時の若者に何か訴求するものがあるのかな、とも。


ホットロードは時代を切り取ったコミックです。あの時の、あの世代にしかわからない、そう思ったんです。


そっとしといてほしいコミックでした…

ホットロード

三木孝浩 監督 / 2014年 作品

原作は沁みる作品です。
ただし、「当時は」という言葉が頭に付きます。だって、今、暴走族とか知らないですよね。

まぁ、酷いと云えば酷い、荒んでいたと云えば荒んでいた時代です。そんな時の、もう昔話です。



母子家庭の和希という女の子が、ふとした事で「ナイツ」という暴走族の特攻やってる春山と知り合い、そして付き合います。


ありがちな言葉で言うと、ほろ苦い青春ラブストーリーです。


春山と母親、その狭間で揺れる少女の心。そして若さ故荒ぶる気持ちと、和希を思う拙い愛に揺れる春山。そんな二人の幼く切ないラブストーリーなんです。



当時、いわゆるヤンキーモノと呼ばれる物語はたくさんありました。時代的なものがあるんでしょう、そんな時代でしたから。
だけど、「ホットロード」は他とは違いました。 なぜでしょう。


別冊マーガレットに連載された少女マンガだ、ということは大きかったと思います。
男視点で男同士の喧嘩を描く、そんなヤンキーモノばかりだったんですが「ホットロード」は違いました。
ラブストーリーです。
典型的な少女マンガ誌のラブストーリーの構成がベースです。


そこにはこれまたセオリー通りの、内面をイメージで描く手法が用いられます。
ここでいう「内面をイメージ」っていうのは俳句や和歌みたいな事で、キャラの心情を少ない文字でイメージさせていく感じですかね。
余白です。


絵も全体的に白っぽくて余白が特徴的なんですが、表現にもやはり余白がある。
つまり読み手の感情で汲み取れる幅が残されているんです。
ハマりますね、これやられると。
だって自分と重ねる事が容易にできてしまうんですから。



そして、キャラの設定。
春山も和希も家庭が複雑です。表情では知らんふりですが、内面はもうボロボロです。
二人出会う事で補完しおうとする、だけど幼さ故互いにジレンマを感じ、ジレンマを感じながらも成長していく。
思春期の若い心をつかみます、これ。そして大人の心も掴んでしまう。
だって、みんな通った道なんですよ、青春のジレンマ、ね。


あと、コミック全体がいい意味でリアルっぽくないんです。
学校名とか、脇役の名前とか、なんかリアルとファンタジーの間ぐらいのほわっとした雰囲気なんです。
もちろん主要な地名とかは出てきますけど、これも少女マンガ的手法と云えばそうなんでしょう。


しかし、「ホットロード」には、逆にストーリーのイメージを形作る名詞も出てくるんです。

「ヨンフォア」「タクティクス」です。

「ヨンフォア」というのはバイクです。CB400F。 歴代の「ナイツ」のリーダーが乗り継ぐバイク。 このヨンフォアで物語がぐっと締まります。
そして、「タクティクス」。
資生堂の当時の男性用化粧品シリーズです。
なぜかこの辺りで、タクティクス=ヤンキーという構図ができてしまいました。
ただ、そういう構図があったので作中で出したのか、「ホットロード」に書かれたからそうなったのかはぼくは知りません。



シネマレビューなのに、コミックの「ホットロード」を熱く語り続けてしまいました。

とは云えまだまだ、コミックの名シーン、名セリフとか、語りたい事がいっぱいありますが…



さてでは、映画はどうだったのか。


想像を超えました。
いらない事は一切してない感じです。原作をそのテーマ通り実写化した印象です。
良かったです。


原作の紡木たくが監修したそうです。


能年の和希も違和感もなく見事な演技だったと思います。 春山役の三代目のなんとかいう人、良かったです、春山でした。


映画「ホットロード」
思いの外良い作品に仕上がっていました。





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