3期目続投の森信親・金融庁長官 photo by gettyimages
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異例の3期続投・森金融庁長官が金融機関に与える「最後の猶予1年」

「捨てられる」銀行は一体どこなのか…

金融庁・森信親長官の3期目続投がほぼ固まった。ここから先の1年は間違いなく、金融業界を揺るがした森改革の真価が問われることになる。本稿では、資産運用改革にフォーカスすることで、これまでの金融機関のあり方だけでなく、カネの流れをも変えてしまう森改革の全体像をとらえてみたい。

リスクの取り方を忘れた金融機関

最近の金融庁内部のホットイシューは、「どうしたら金融機関はリスクと向き合い、自己改革に踏み出せるのか」だ。

日々厳しい競争を強いられている民間事業者だったら、腹を抱えて笑ってしまうような話だ。しかし、リスクの取り方すらもわからなくなってしまっているのが、どうやらいまの金融機関ということらしい。

「リスクと向き合わない」ということは、「交通事故に遭いたくないので外出しない」あるいは「海難事故が恐いので漁師が船に乗らない」のと同じだ。

金融検査マニュアルが廃止された先の世界では、否応なくリスクと向き合うことが求められる。リスクなきところに収益機会はないからだ。黙っていても収益機会が減っていく人口減少時代であることを考えれば、リスクゼロはそのまま、持続可能性もゼロであることを意味する。

いずれにしても、論点は絞られてきている。リスクを的確にコントロールできる金融機関には、「挫折を経験し、どん底からはい上がるために自己変革を余儀なくされたケース」か、「改革の原動力となる『異分子』、すなわち“よそ者、若者、馬鹿者”を排除しない文化が根づいているケース」のいずれかしかないのだ。

 

逃げ道はもうない

資産運用、資産形成についても、リスクを取る考え方が不可欠だ。

筆者が4月に上梓した『捨てられる銀行2 非産運用』(講談社現代新書)では、「人は(必ずしも合理的とは言えない)何もしない、先送るという選択をする」という行動経済学、行動ファイナンス理論について触れた。

そうした「何もしない」「先送りする」といった逃げ道を許さない、リスクと向き合う投資環境を整備しなければ、結局は、資産運用・資産形成をまともにしなかったことのツケが国民に回るのだ。

「夢の年金生活」などという言葉は、もはや現役世代には無縁の話だ。年金以外の老後資金を資産形成で確保しなければ、余裕ある生活どころか、まともな生活を送れるのかどうかすらあやしい。

そのような現実を踏まえて、国民がそれぞれの力で資産を形成するための制度、環境づくりが、着実に進められている。今年1月から加入できる対象範囲が拡大した「iDeCo(イデコ、個人型確定拠出年金)」に加え、来年1月からは投資利益が最長20年非課税となる「積立NISA(少額投資非課税制度)」も始まる。

投資運用の成績を大きく左右する税の軽減メリットを受けられる2つの投資優遇制度が整備されることで、毎月5千円、1万円を積み立てる「コツコツ投資」が次第に広がっていくだろう。これは歓迎すべきことだ。